株主総会の当日運営アップデート - 近時の裁判例等を踏まえた実務アドバイス

コーポレート・M&A

目次

  1. はじめに
  2. 従業員株主によるヤラセ質問の可否 - 東京地裁平成28年12月15日判決
  3. 非株主である代理人弁護士の入場拒絶の可否 - 札幌高裁令和元年7月12日判決
  4. 質疑打ち切りのタイミング

はじめに

 4月に入り、株主総会へ向けた準備を進めている会社が多いと思います。本稿では、①従業員株主によるヤラセ質問の可否について判断した東京地裁平成28年12月15日判決と、②非株主である代理人弁護士の入場拒絶の可否について判断した札幌高裁令和元年7月12日判決を取り上げ、これらを踏まえ、実務上アップデートすべき点についてご説明します。

 また、株主総会の当日運営において、多くの株主総会担当者が最も神経を使うポイントの1つが、いつ質疑を打ち切って採決に入るかという点だと思います。この点についても、従来の裁判例とコロナ禍における株主総会の動向を踏まえて説明します。

従業員株主によるヤラセ質問の可否 - 東京地裁平成28年12月15日判決

 過去、総会屋対策として、総会屋の質問時間を削るなどの目的で従業員株主にあらかじめ質問を割り振っておき、総会本番でヤラセ質問をさせるといったことが行われていました。また、逆に、株主総会の活性化などの前向きな目的でも、従業員株主による仕込みの質問がなされることもあったようです。これは、たとえば、1人目の質問者を仕込みの質問者とすることで、後に続く一般株主が質問しやすい雰囲気を作ることや、質疑が株主総会の目的事項から脱線した場合に軌道修正をすることなどを目的としていたようです。

 このようなヤラセ質問の可否について判断がなされた事案が、東京地裁平成28年12月15日判決・資料版商事法務397号66頁、金判1517号38頁です。本件では、株主Xが、会社Y(株式会社フジ・メディア・ホールディングス)が子会社の従業員に質問をさせることで、一般株主の質問時間を剥奪したうえで、一方的に質疑を打ち切ることによって、一般株主の質問権ひいては株主権を侵害した等として、株主総会決議の取消し等を求めた事案です。

 Y社は、「リハーサルにおいて質問をする株主役を務めた従業員株主に対し、本件株主総会においても質問をするよう依頼したことはあるが、これは、より多くの株主が発言し易い雰囲気を醸成することを企図したためである。」などと主張しましたが、判旨は、「一般に、上場会社の株主総会において、会社が従業員である株主に対し、会社自ら準備した質問をするよう促し、実際にも従業員株主が自らの意思とは無関係に当該質問をして会社がこれに応答した場合には、当該質疑応答に相応の時間を費やすことになり、その分、一般株主の質疑応答に充てられる時間が減少し、質問又は意見を述べることを求めていた一般株主がそれを行うことができなくなるおそれがあるというべきであって、このような事態が生じることは、従業員株主もまた株主であることを考慮しても、多数の一般株主を有する上場会社における適切な株主総会の議事運営とは言い難いものというべきである。」としました。

 結論としては、質疑応答時間1時間16分のうち53分が一般株主の質疑応答に充てられたこと、質問者16名中8名が一般株主であったこと、従業員株主のした質問が、一般株主が決議事項または報告事項に関する質問をする誘引となっているとの側面をもおよそ否定することはできないこと等から、「一般株主の質問権又は株主権を不当に制限したものとまで断ずることはできない。」として決議の取消しは認められませんでした。しかし、一般論として、上場会社におけるヤラセ質問を否定した点は重要であり、この判断は、控訴審判決である東京高裁平成29年7月12日判決・金判1524号8頁でも維持されています。

 本判決も控訴審判決も、従業員株主による質問が、一般株主が決議事項または報告事項に関する質問をする誘引となっている側面も否定することはできないとの評価もしているものの、上記のとおり、一般論として、上場会社におけるヤラセ質問について「適切な株主総会の議事運営とは言い難い」と評価している点は見逃せません。たとえ前向きな目的のためのものであったとしても、ヤラセ質問は厳に慎む必要があるといえます。

 コロナ禍の中では株主総会の時間短縮が図られており、無理に質問をしてもらう必要は多くないと思いますが、質問がない場合には、議長が「せっかくの機会ですから、ご質問はございませんでしょうか」などと一般株主の質問を促したり、質疑が脱線しているような場合には、「ご質問の内容が本総会の目的事項から外れたものが続いておりますので、次の株主様は、本総会の目的事項に関連するご質問をお願いいたします」などと発言することで軌道修正を図るといったことなどが考えられます。

非株主である代理人弁護士の入場拒絶の可否 - 札幌高裁令和元年7月12日判決

 多くの会社で、定款において「株主は当会社の議決権を有する出席株主1名を代理人として議決権を行使することができる。」などと定められ、株主の代理人となれるのは株主のみであるとされています。このような定款の定めについては、判例上、「株主総会が、株主以外の第三者によって攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨にでたものと認められ、合理的な理由による相当程度の制限ということができる」として有効であるとされています(最高裁昭和43年11月1日判決・民集22巻12号2402頁)。

 しかしながら、このような定款の定めがある場合でも、代理人が非株主である弁護士である場合に、株主総会への入場を拒絶できるかについては、下級審レベルで判断が分かれていました。

 具体的には、名古屋地裁平成28年9月30日判決・金判1509号38頁、東京高裁平成22年11月24日判決・資料版商事322号180頁、宮崎地裁平成14年4月25日判決・金判1159号43頁、東京地裁昭和57年1月26日判決・金判650号33頁など多くの裁判例は入場を拒絶できるとしていましたが、神戸地裁尼崎支部平成12年3月28日判決・金判1090号24頁は入場を認める必要があるとしていました。

 この点について判断した事案が札幌高裁令和元年7月12日判決・金判1598号30頁です。本件における会社Yも、上記のような定款の定めがあった会社ですが、株主Xの代理人であり、Y社の株主ではなかったA弁護士がY社の株主総会に出席しようとしたところ、Y社は、その出席を認めなかったため、Xは、Y社の株主総会決議の取消し等を求めて提訴したという事案です。

 判旨は、「議決権行使の重要性に鑑みると、本件のように代理人が弁護士である等株主以外の第三者により攪乱されるおそれが全くないような場合であって、株主総会入場の際にそれが容易に判断できるときであれば、株式会社の負担も大きくなく、株主ではない代理人による議決権行使を許さない理由はない。」として、Y社がA弁護士の入場を認めなかったことは、決議方法の法令違反に当たるとしました。

 本判決は、高裁レベルで初めて入場を認める必要があると判断した事例として注目されていますが、一般論として、代理人が弁護士である場合には、株主総会が「攪乱されるおそれが全くない」と述べているように読め、その考え方には素朴な感覚として疑問があります。通常、弁護士であれば、上記のような定款の存在を認識している可能性が高く、むしろ入場を拒絶されることをわかっていながら、受付事務を攪乱しようとしている可能性も否定できません。

 また、本件は、Y社の代表者が元々、A弁護士と面識があり、また、Y社がA弁護士の入場を拒んだ際に、委任状の印影のみを問題とし、A弁護士が非株主であることを問題にしなかったという事案です。本判決は、このような事案の特殊性を前提とした事例判断であるとの評価もありえます(金判1598号30頁のコメント参照)。

 以上からすると、本判決は、非株主である代理人弁護士の入場を認めなければならないとした直近の高裁レベルの判決ではあるものの、個人的には、現時点において、それほど重要視する必要はないと考えています。

 2020年版株主総会白書(商事法務2256号113頁)によれば、非株主である代理人弁護士の入場を認めることがあるとした会社は6.3%にすぎず、大多数の会社は、非株主である代理人弁護士の入場を認めない取扱いとしています。2020年版株主総会白書は、2019年10月1日から2020年9月30日に開催された定時株主総会を集計したものであり、本判決が公刊物に掲載されたのは2020年9月1日号(金判1598号)であるため、この集計結果は本判決を踏まえたものでない可能性が高いですが、従来の取扱い、方針を変更する必要はなく、基本的には、入場を認めない取扱いでよいのではないかと考えています。

質疑打ち切りのタイミング

 株主からのすべての質問に対して回答できるのであれば問題ありませんが、そうではない場合、株主総会の当日運営において最も神経を使うポイントの1つが、いつ質疑を打ち切って採決に入るかという点だと思います。

 この点に関して、裁判例は、「議長は、平均的な株主が客観的にみて会議の目的事項を理解し、合理的に判断することができる状況にあると判断したときは、まだ質問等を求める者がいても、そこで質疑を打ち切って議事進行を図ることができるものと解される」(名古屋地裁平成5年9月30日判決・資料版商事116号187頁)としており、他の裁判例も同様のことを述べています(札幌地裁平成5年2月22日判決・資料版商事109号56頁など)。

 問題は、そのような状況になったと判断するための基準ないし考慮要素です。
 この点について、質疑打ち切りを適法とした3つの裁判例は、以下のような点を考慮しています。

  • 名古屋地裁平成5年9月30日判決
     約50分にわたってなされた討議内容
  • 札幌地裁平成5年2月22日判決
     約20分にわたる一括説明をしたこと、44分の質疑時間、延べ12名の質問者数、質問の多くが目的事項に関連しないものや報告事項の合理的な理解のために必要な範囲を超えるものが含まれていたこと等
  • 東京地裁平成28年12月15日判決(上記2で言及)
     ヤラセ質問をした株主を除く一般株主による質疑時間が約53分であったこと、一般株主の質問内容が報告事項または決議事項と関連性を有するとはいえない事項に関するものが続くようになっていたこと、最後の質問者が指名される直前に挙手していた株主は5名程度であったこと等

 これらを踏まえると、「平均的な株主が客観的にみて会議の目的事項を理解し、合理的に判断することができる状況にあると判断」するうえでは、以下のような点を総合考慮することになります。

  1. 質疑時間
  2. 質問数ないし質問者数
  3. 質問内容が目的事項と関連しないものが増えてきたり、続いたりしてきたか
  4. 残りの質問者数が当初より相当数減少したか

 この点に関しては、一般に、株主総会の開催時間が2時間を超えると長時間総会とされることを念頭に(商事法務2256号27頁)、「実質的な質問者が10名弱、質問時間が1時間弱の質疑を十分とすることも、総会運営実務からは妥当な水準であろう」(松井智予「判批」(ジュリスト1518号107頁))といった見解も示され、基本的には、おおむねこの程度の質疑を行えば、適法に質疑を打ち切れる可能性が高いといえるでしょう。

 もっとも、これは、コロナ禍前の通常の株主総会を前提にしていると考えられます。コロナ禍における株主総会は、大幅な時間短縮が図られており、たとえば、2019年版株主総会白書(商事法務2216号21頁)によると、2018年7月1日~2019年6月30日までの株主総会の平均時間が57分であったのが、2020年版株主総会白書によれば、2020年4月1日~同年9月30日までの株主総会の月別平均時間は26分から38分と大幅に短縮されています(商事法務2256号25頁)。また、2時間以上の長時間総会も、たとえば、2019年6月総会で80社あったものが、2020年6月総会では5社と激減しています(商事法務2256号25頁)。質問をした株主数についても、質問等なしの会社が前年の20.7%から38.7%に、質問者数が2名以下の会社が前年の45.7%から70.3%に大幅に増加しています(商事法務2216号130頁、商事法務2256号147頁)。

 以上のような状況を踏まえると、質問者が10名弱、質問時間が1時間弱という数値基準については、コロナ禍における株主総会に関しては、半分から3分の1程度と考えることもできるようにも思います。もっとも、コロナ禍における株主総会においても株主とのコミュニケーションの重要性は変わりません。インターネット等を通じた事前質問を促し、一括回答をしたり、ウェブ上で回答を行うなどの工夫を合わせて行うことが望ましいと思います。

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