営業現場で使える!英文契約書のポイント

第19回 貿易取引で売主が支払督促を行う場合の英文メール・督促状(Demand Letter)の書き方と法的手続

取引・契約・債権回収
宮田 正樹 一般社団法人GBL研究所 理事

シリーズ一覧全22件

  1. 第1回 英文契約書の基礎知識
  2. 第2回 英文契約書のサンプル・テンプレート:英語で構成する際の用語集
  3. 第3回 国際売買取引のきっかけとなる英文メールの作法
  4. 第4回 取引条件を提示するときの伝え方
  5. 第5回 見積もりの依頼と申し込みの承諾
  6. 第6回 契約締結における留意点
  7. 第7回 売約書(Sales Note)と買約書(Purchase Note)の一般条項(その1)
  8. 第8回 売約書(Sales Note)と買約書(Purchase Note)の一般条項(その2)
  9. 第9回 英文契約書送付時のメールや取り交わしの送付状の例文・ドラフト送付の文章
  10. 第10回 契約締結時に問題となる、印紙税と書式の争い
  11. 第11回 契約条項の変更交渉と変更契約書の締結
  12. 第12回 電子データでの契約締結
  13. 第13回 貿易決済の種類と条項
  14. 第14回 荷為替手形決済の仕組みと為替手形の形式
  15. 第15回 信用状付荷為替決済(L/C決済)の為替手形と開設依頼書
  16. 第16回 信用状(L/C)の開設通知と訂正依頼
  17. 第17回 信用状(L/C)の受領後の船積実務
  18. 第18回 船積みの督促と船荷証券(B/L)未着の場合の対応
  19. 第19回 貿易取引で売主が支払督促を行う場合の英文メール・督促状(Demand Letter)の書き方と法的手続
  20. 第20回 信用状付荷為替決済(L/C決済)のディスクレ
  21. 第21回 英文契約書における商品クレームの通知と応対
  22. 第22回 商品クレームの解決手段として用いる英文の和解契約書例
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目次

  1. 売主が買主に対して支払督促を行う必要がある場合
  2. メールによる支払遅延の事実の通知と督促
    1. 支払遅延の通知
    2. 支払いの督促
    3. 既に支払われていた場合(督促と行き違った場合)に備える文章
  3. 書面により支払等を迫る場合の督促状(Demand Letter)
    1. 督促状第1弾:First Demand Letter
    2. 督促状第2弾:Final Demand
    3. 督促状代替案 1:減額して支払う代案を提示する場合
    4. 督促状代替案 2:分割払いを提案する場合
  4. Demand Letterにある裁判や仲裁などの「法的手続」
    1. 裁判所の判決を執行できるか
    2. 仲裁を選択する場合は相手方がニューヨーク条約に加盟しているか

 前回(「第18回 船積みの督促と船荷証券(B/L)未着の場合の対応」)は船積みの督促のお話でしたが、今回は支払いの督促です。

売主が買主に対して支払督促を行う必要がある場合

 売買契約における重大要素は、物(売買の対象物)の引渡しと代金の支払いです。
 売主・買主両者にとって最も安全で衡平な方法は、引渡しと支払いを同時に履行するという「キャッシュ・オン・デリバリー(cash on delivery)」です。しかし、貿易取引の場合(特に海を隔てて行われる場合)にはなかなかそのような手段もとりがたく、「第13回 貿易決済の種類と条項」「第14回 荷為替手形決済の仕組みと為替手形の形式」「第15回 信用状付荷為替決済(L/C決済)の為替手形と開設依頼書」で説明したように「荷為替」という手段が発達してきました。貿易取引の最も安全で確実な方法として、L/C決済が今なお使われているわけです。

 L/C決済であっても、別稿で述べる「ディスクレ」により支払い(為替手形の買取)が拒絶される事態が生じることはあります。しかしL/C決済であるかぎり、基本的には売主が買主に対して支払いを督促する必要はありません。

 ということで、売主が買主に対して支払督促を行う必要が生じるのは、商品の引渡しが先履行となり、支払いが後履行となるいわゆる「掛け売り」の場合や、決済手段として受け取った小切手や手形が決済されなかった場合になります。

メールによる支払遅延の事実の通知と督促

 請求書(invoice)を発行し、期日に決済がない場合には、電話やFAX、メール、郵便などでもって支払いを督促することになります。筆者が若い頃にはテレックス(当時)を頻繁に打電したものですが 1、現代ではまずメールにより支払遅延の事実の通知と督促を行うのが通常です。いくつか参考となる文例を挙げておきます。

支払遅延の通知

  • 請求書番号ABC12768/19に対する54,800米ドルのお支払いが期限を15日過ぎておりますので、ご連絡申し上げます。
    (We would like to draw your attention to the fact that your payment of US$54,800 for our invoice No.ABC12768/19 is fifteen (15) days past due.)
    または、
    (This is to remind you that our invoice No.ABC12768/19 of August, 10, 2019 for US$54,800 is more than fifteen (15) days overdue.)
    より簡潔には、
    (We wish to call your attention to the fact that your payment against our invoice No. ABC12768/19, of which copy is attached hereto, is overdue.)

  • 記録(帳簿)によると、請求書番号ABC12768/19に対する貴社のお支払いは本日現在、いまだ未決済となっております。
    (Our record [book] shows that your payment against our invoice No. ABC12768/19 is still outstanding as of today.)

支払いの督促

  • 貴社の記録をご確認の上、早急にお支払い手続きをお取りいただければ幸いです。
    (We would appreciate it if you could check your records and arrange for prompt payment.)

  • できるだけ早く54,800米ドルをご送金くださいますようお願い申し上げます。
    (We would be grateful if you could remit us US$54,800 at your earliest convenience.)

  • 下記の銀行口座に至急、電信為替でご送金くださいますようお願い申し上げます。
    (We would appreciate your prompt remittance by telegraphic transfer to the following bank account.)

既に支払われていた場合(督促と行き違った場合)に備える文章

  • この催促がお支払いと行き違いとなった場合には、ご容赦ください。
    (If this reminder has crossed your payment, please accept our apologies and disregard this message.)

書面により支払等を迫る場合の督促状(Demand Letter)

 支払いその他相手方に債務の履行を迫る場合、英語による書面としては「Demand Letter」と呼ばれるものが一般的です。

 最終的には、訴訟に訴えたり、債権回収業者(collecting agent)に取立を依頼することになります。取引の継続を断念する覚悟がないかぎり、いきなり強硬手段に訴えるのではなく、督促状第1弾で様子を見て、第2弾、第3弾あたりで最後通牒(Final DemandあるいはFinal Notice)を突きつけるというようなステップを踏むのが一般的でしょう。

 下記に手紙ベースでの支払督促の場合のDemand Letterの見本を呈示しますが、督促状を書くうえでの留意点として、次のような指摘があることをご紹介しておきます。

  1. 冷静に事実を記載すること
    何に対する支払いが滞っているのかを明確にし、いつどのように支払うかを記述する。
  2. 熱くなるな!(穏やかな口調で述べること)
    過激な言動は相手方を頑なにするだけでなく、訴訟を起こす場合にも裁判官に対する心証形成に寄与しない。
  3. より強い手段の呈示
    法的手段を講じることも辞さないことを書き込む。
    “if you do not agree to the demands of this letter, I [we] will take action against you in the relevant court.”
    (貴社が本状の督促に同意しない場合、私(当社)は、関連する裁判所において貴社に対して訴訟を提起する。)

督促状第1弾:First Demand Letter

[Address of Debtor]
[Name of Debtor]

August 1, 2019

Re: Letter of Demand for unpaid Invoice


Dear Mr.XXXXXXXX

Invoice Date: July 5, 2019
Invoice No: ABC20359/19
Invoice Amount: US$128,000.−

As you are aware the above invoice remains unpaid by you.
Please acknowledge receipt of this letter within five (5) business days.
Also please make your payment by telegraphic transfer to our bank account no later than July 30, 2019.
If you fail to respond, we will be compelled to pursue legal action.

Thank you in advance for your prompt attention to this matter.
We look forward to hearing from you. If you have any questions, please do not hesitate to contact to the undersigned at (xxx)−(xxx)(xxxx).

Sincerely,

ABC Corporation
Credit Dept.
Masaki Miyata
〔訳文〕
ご承知のことと存じますが、上記請求書に対し貴社からお支払いを頂いておりません。
5営業日以内に本書の受領をご確認ください。
また、2019年7月30日までに、当社の銀行口座に電信送金でお支払いください。
貴社がこれを履行されない場合には、当社としては法的手段を講じざるを得ません。
本書に対し早急に対応くださることを、あらかじめ御礼申し上げます。
ご回答をお待ちいたします。
もし、ご質問の点がございましたら、電話番号(xxx)−(xxx)(xxxx) にて、下記の者までご遠慮なくお問い合わせください。

督促状第2弾:Final Demand

[Name of Debtor]
[Address of Debtor]

September 1, 2019

Re: Outstanding Debt of US$128,000.−


FINAL DEMAND


Dear Mr.XXXXXXXX

We regret to note that despite our previous letters and e-mail the above balance, which is the full amount of our invoice No. ABC20359/19 dated July 5 , 2019, is still outstanding.
We demand full payment of the outstanding amount within ten (10) days from the date of this letter.

〔後述の代替案を加える場合には、こちらに書き加えます〕

If this matter is not resolved by the time specified above, we reserve the right to commence legal proceedings to recover the debt without further notice to you and this letter may be tendered in court as evidence of your failure to pay. Legal action may result in you having to pay legal costs, interest and could impact on your credit history.
You are fully responsible for your failure and its consequences.

Yours faithfully,

ABC Corporation
Credit Dept.
Masaki Miyata
〔訳文〕
当社よりお手紙や電子メールで督促したにもかかわらず、上記金額、すなわち2019年7月5日付請求書番号ABC20359/19の総額がいまだ未払いであることを知り、誠に残念です。
当社は、本書の日付から10日以内に未払い額の全額をお支払い頂くべく要求します。

〔後述の代替案を加える場合には、こちらに書き加えます〕

本件が、上記の期日までに解決されない場合には、当社は、貴社にさらなる催告をすることなく、当該債権回収のために法的手続を行使する所存であり、その際には、本書は貴社の支払義務違反の証拠として裁判所に提出するものといたします。
法的手続により、貴社は訴訟費用や金利を支払わなければならなくなる可能性があり、信用履歴を毀損する結果をもたらすでしょう。
貴社は、不払いおよびその結果に対して全責任を負担しなければなりません。

督促状代替案 1:減額して支払う代案を提示する場合

Alternatively, and without prejudice to our rights for full recovery of the debt, we are prepared to:

Accept the amount of US$115,000 as full and final settlement of the debt if paid within five (5) days from the date of this letter.


〔訳文〕
その代わりとして、そして債務全額の支払いを請求する当社の権利に何らの影響を与えることなく、次の(代案の)用意があります:

本書の日付から5日以内に支払うのであれば、本件債務全額の最終的な支払いとして、115,000米ドルで受諾すること。

督促状代替案 2:分割払いを提案する場合

Alternatively, and without prejudice to our rights for full recovery of the debt, we are prepared to:

Accept installments of US$10,000 per week until the debt is fully paid, the first installment to be paid on September 9, 2019 and thereafter on the first working day of every week until the debt is fully paid.


〔訳文〕
その代わりとして、そして債務全額の支払いを請求する当社の権利に何らの影響を与えることなく、次の(代案の)用意があります:

第1回目の支払日を2019年9月9日とし、以後毎週初め(第一営業日)に10,000米ドルを支払い、本件債務全額を完済するまで分割払いすることを受け入れる。

Demand Letterにある裁判や仲裁などの「法的手続」

 Demand Letterでは「法的手続」をとると脅しをかけていますが、実は債務者が海外に居る場合には、これがなかなか大変なのです。手続費用(特に弁護士費用)の問題や、そもそも相手方に支払能力あるいは強制執行に値する財産があるかの問題は別として、次のことを検討しなければなりません。

裁判所の判決を執行できるか

 まず支払請求訴訟を起こすことを考えましょう。その場合、相手国で起こすか、日本で起こすかの問題があります。売買契約書で準拠法と共に裁判管轄地が定められていると、原則として当該裁判管轄地で裁判を起こすことになります 2

 しかし、契約に定められている場合であれ、任意で指定する場合であれ、債務者の所在する国以外の裁判地で訴訟を起こす際には、勝訴判決を得たとしても、それが債務者の国において執行できるかどうかの問題があります。外国判決の執行が認められなければ、勝訴した意味がないですよね。また、当該国での執行を行う場合には、あらためて当該国の裁判所で承認・執行を認めてもらう必要があり、その際に本訴と同じくらいの手続が必要となることもあります。事前にそのあたりのことを調べたうえで、訴訟を提起するか否かを判断する必要があります。

 したがって、当該国での執行のみを考える場合には、その国で訴訟を起こすことを選択すべきだということになります。

仲裁を選択する場合は相手方がニューヨーク条約に加盟しているか

 国際契約においては紛争解決手段として裁判ではなく「仲裁」(Arbitration)が選択されることが多いですが、その理由の1つとして「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(「Convention on the Recognition and Enforcement of Foreign Arbitral Awards」。いわゆる「ニューヨーク条約」)の存在があります 3。外国において仲裁判断を執行する場合には、相手方やその財産の所在する国がこの条約に加盟していると執行が容易なのです。

 現在日本をはじめ150か国以上(2019年2月時点)が締結国となっているニューヨーク条約においては、締結国の判断により相互主義をとることが可能だとされています(同条約1条3項)。たとえば、ある国(A)でなされた仲裁判断について、相手国(B)が承認し執行する義務を負うとします。その場合にかぎり、相手国(B)でなされた仲裁判断をある国(A)が承認し執行する義務を負うという主義が相互主義です。
 したがって、承認・執行に先立ち、以下の事項を確認する必要があります。

  • 承認・執行を求める相手方やその財産の所在する国が相互主義をとっているか
  • 当該国が相互主義をとっている場合には、仲裁判断を行った国の仲裁判断をその国で承認・執行することが認められているか 等

 また、ニューヨーク条約では、仲裁判断の承認や執行の手続について締結国がそれぞれ定めることができます(同条約3条)。承認・執行を求める国においてそういった規定が存在する場合には、それに従って手続が進められます。
逆に規定が存在しない場合には、国際商事仲裁における仲裁判断の承認・執行について、国内仲裁判断の承認・執行で課される手続よりも、実質的に厳重な条件等を課してはなりません(同条約3条)。よって、承認・執行を求める国における国内仲裁判断の手続に従って執行されることになるでしょう。

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くわしくはこちら

  1. 詳細は「第16回 信用状(L/C)の開設通知と訂正依頼」「第18回 船積みの督促と船荷証券(B/L)未着の場合の対応」を参照ください。 ↩︎

  2. 売買契約書の条項については「第8回 売約書(Sales Note)と買約書(Purchase Note)の一般条項(その2)」も参照ください。 ↩︎

  3. 以下、本項の内容の出典は、弁護士法人淀屋橋・山上合同「Q&A 企業活動に関する法務 国際法務等Q6」(2019年10月7日最終閲覧)。 ↩︎

シリーズ一覧全22件

  1. 第1回 英文契約書の基礎知識
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  10. 第10回 契約締結時に問題となる、印紙税と書式の争い
  11. 第11回 契約条項の変更交渉と変更契約書の締結
  12. 第12回 電子データでの契約締結
  13. 第13回 貿易決済の種類と条項
  14. 第14回 荷為替手形決済の仕組みと為替手形の形式
  15. 第15回 信用状付荷為替決済(L/C決済)の為替手形と開設依頼書
  16. 第16回 信用状(L/C)の開設通知と訂正依頼
  17. 第17回 信用状(L/C)の受領後の船積実務
  18. 第18回 船積みの督促と船荷証券(B/L)未着の場合の対応
  19. 第19回 貿易取引で売主が支払督促を行う場合の英文メール・督促状(Demand Letter)の書き方と法的手続
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