営業現場で使える!英文契約書のポイント

第20回 信用状付荷為替決済(L/C決済)のディスクレ

取引・契約・債権回収
宮田 正樹 一般社団法人GBL研究所 理事

シリーズ一覧全22件

  1. 第1回 英文契約書の基礎知識
  2. 第2回 英文契約書のサンプル・テンプレート:英語で構成する際の用語集
  3. 第3回 国際売買取引のきっかけとなる英文メールの作法
  4. 第4回 取引条件を提示するときの伝え方
  5. 第5回 見積もりの依頼と申し込みの承諾
  6. 第6回 契約締結における留意点
  7. 第7回 売約書(Sales Note)と買約書(Purchase Note)の一般条項(その1)
  8. 第8回 売約書(Sales Note)と買約書(Purchase Note)の一般条項(その2)
  9. 第9回 英文契約書送付時のメールや取り交わしの送付状の例文・ドラフト送付の文章
  10. 第10回 契約締結時に問題となる、印紙税と書式の争い
  11. 第11回 契約条項の変更交渉と変更契約書の締結
  12. 第12回 電子データでの契約締結
  13. 第13回 貿易決済の種類と条項
  14. 第14回 荷為替手形決済の仕組みと為替手形の形式
  15. 第15回 信用状付荷為替決済(L/C決済)の為替手形と開設依頼書
  16. 第16回 信用状(L/C)の開設通知と訂正依頼
  17. 第17回 信用状(L/C)の受領後の船積実務
  18. 第18回 船積みの督促と船荷証券(B/L)未着の場合の対応
  19. 第19回 貿易取引で売主が支払督促を行う場合の英文メール・督促状(Demand Letter)の書き方と法的手続
  20. 第20回 信用状付荷為替決済(L/C決済)のディスクレ
  21. 第21回 英文契約書における商品クレームの通知と応対
  22. 第22回 商品クレームの解決手段として用いる英文の和解契約書例
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目次

  1. 信用状条件の未充足とディスクレ
  2. 主たるディスクレの種類
    1. Inconsistency in Documents
    2. Incorrect Data
    3. Late Shipment
    4. Late Presentation
    5. Letter of Credit Expired
    6. Absence of Documents
    7. Carrier Not Defined on the Bill of Lading
    8. Incorrect Description of Goods
    9. Incorrect Endorsement / Absence of Endorsement
    10. Partial Shipment or Transshipment Effected Despite L/C Terms
    11. Short Shipment
    12. Overdrawing
  3. ディスクレへの対応
    1. L/Cの訂正(Amend)の依頼
    2. L/CのAmendが間に合わない場合
    3. 輸入者に対するディスクレ発生の通知

 前回(「第19回 貿易取引で売主が支払督促を行う場合の英文メール・督促状(Demand Letter)の書き方と法的手続」)は、メールによる支払遅延の事実の通知と督促や、支払いその他相手方に債務の履行を迫る場合の督促状(Demand Letter)の文例と法的手続についてご紹介しました。今回は、信用状付荷為替決済(L/C決済)であっても支払い(為替手形の買取)が拒絶される可能性がある「ディスクレ」について取りあげます。

信用状条件の未充足とディスクレ

 L/Cが開設されてしまえば、決済については安心かといえば必ずしもそうではありません(L/Cの開設と規定については「第15回 信用状付荷為替決済(L/C決済)の為替手形と開設依頼書」を参照ください)。
 L/Cで規定されている船積期限(Latest Date for Shipment)に船積みできなかったり、L/Cの有効期限(Expiry Date)内に銀行にネゴ(買取依頼)に持ち込むことができなかったりすると、輸出者は信用状条件の未充足として輸出者の取引銀行に買取り(支払い)を拒否されてしまいます。

 信用状条件の未充足(または不一致)のことを「ディスクレ」(ディスクレパンシー(discrepancy)の略)といいます。ディスクレの要因は、船積遅れや期限後の買取依頼のような実体的なものだけでなく、書類に記載された文字や数字などの違いといったものまで含まれます。
 呈示されたネゴ書類にディスクレがある場合、信用状発行銀行の支払確約は無効となります。L/Cに基づく発行銀行、指定銀行、買取銀行の支払義務は、あくまでも「呈示が充足している(Complying Presentation)」場合の銀行の義務なのです(信用状統一規則(UCP600)15条)1

主たるディスクレの種類

 ディスクレとして代表的なものは、以下のような場合です。

Inconsistency in Documents

 書類間での記述の不一致がある場合です。
 (例)パッキングリストに表示されているコンテナー番号がB/L上のコンテナー番号と異なる場合

Incorrect Data

 L/Cで要求されている条件を満たしていない場合です。
 (例)海上保険の付保率(カバレッジ)2 がL/Cで要求されている率と異なる場合

Late Shipment

 L/Cで定められているLatest Date for Shipmentよりも、B/L Dateの遅い船に積んだ場合です。

Late Presentation

 UCP600では、信用状の有効期限について「信用状は、呈示のための有効期限を記載しなければならない」と定めています。一方、呈示期限については、UCP600第14条C項にて船積み後21日以内かつL/Cの有効期限内」と定められています 3
 そこで、B/L Dateから21日を経過後にネゴ書類を銀行に呈示した場合は、ディスクレとなります。なお、呈示期間は、開設銀行が同意すれば、21日よりも長くできますが、書類の提示がL/Cの有効期限を超えることは認められません。

Letter of Credit Expired

 L/Cの有効期限経過後のネゴの場合です。

Absence of Documents

 書類が不足している場合です。
(例)L/CではB/L原本をフルセット(3枚)要求しているのに、1枚しか原本が呈示されていない場合

Carrier Not Defined on the Bill of Lading

 B/L上に本船名が不在の場合です。詳しくは、UCP 600 第20条を参照のこと。

Incorrect Description of Goods

 L/C上で規定されている貨物名(商品名)と船積書類に記載されている名称(綴りを含む)が異なる場合です。

Incorrect Endorsement / Absence of Endorsement

 B/Lや保険証書など、輸出者が裏書きすべき書面に裏書きをしていない場合です 4

Partial Shipment or Transshipment Effected Despite L/C Terms

 分割船積や積替は、荷物の損傷を招きやすいので、L/Cにおいて禁止されていることが多く 5、これに反して分割船積や積替を行った場合です。

Short Shipment

 約定数量を下回った場合です。「数量過不足容認条件(More or Less Terms)」については、「第17回 信用状(L/C)の受領後の船積実務」2−2を参照のこと。

Overdrawing

 L/C金額を超過するネゴ金額となった場合です。

ディスクレへの対応

L/Cの訂正(Amend)の依頼

 受け取ったL/Cの内容がそもそも間違っている場合(会社名や商品名の綴り、金額、船積期日や呈示期日・有効期限など)には、ただちに買主(輸入者)にL/Cの記載内容の訂正を依頼する必要があります。
 納期がLatest Date for Shipmentに間に合いそうになくなった場合など、後発事象が生じた場合で、まだ相手方にL/Cを訂正してもらえる時間的余裕があると判断される場合には頭を下げてAmendを依頼します。Amendの文例は「第16回 信用状(L/C)の開設通知と訂正依頼」を参照ください。

L/CのAmendが間に合わない場合

 実務的にはディスクレの内容および買取依頼人(輸出者)の信用度に応じて、次の3つの取扱方法があります 6

(1)ケーブルネゴ扱い

 ケーブルネゴ扱い(Cable Negotiation、Cable Inquiry)では、ディスクレの内容を列挙し、SWIFT 7 等の電信により買取銀行を通じて発行銀行(開設銀行)に買取の可否を照会します。
 発行銀行の応諾回答に基づき銀行買取が行われますが、この方法は照会の案件のみに有効です。したがって、同じL/Cで引き続き船積み・決済をする場合には、L/CのAmendをしてもらった方がよいでしょう。
 なお、発行銀行に書類が到着した後に、新たなディスクレが発見された場合、発行銀行が発行依頼人にディスクレ受入れの可否を問い合わせることが認められているため、支払いを受けられない、遅延するなどの可能性があります。

(2)L/Gネゴ扱い

 L/Gネゴ扱い(L/G Negotiation)は、買取銀行に対して輸出者の損害賠償念書(「万一信用状発行銀行が買取を拒絶した場合には、貴行が当社にお支払いになったネゴ金額は返還いたしますから、ディスクレ付きですが、買取りお願いします」という念書。一般的にはLetter of Guarantee: L/G、またはLetter of Indemnity: L/Iといいます)を差し入れし、買取りをしてもらう方法で、主にディスクレ内容が軽微な場合に用いられます。買取銀行がL/Gネゴ扱いを受け入れるか否かは、輸出者の信用力次第です。なぜなら買取銀行としては、発行銀行が買取りを拒絶した場合には、輸出者から買取金額全額を返還してもらうことになるからです。
 L/Gネゴ扱いは、買取銀行と輸出者との間の「特約」としての効果に過ぎず、発行銀行には支払いの義務はありません。すなわち、発行銀行が書類を点検後、ディスクレを理由に支払いを拒絶することはあり得るのです。

(3)アプルーバル扱い

 アプルーバル扱い(Approval扱い、取立扱い)では、ディスクレ付き書類の支払呈示に対しては、発行銀行の支払確約は無効となります。そこで、輸出地の銀行は買取りをせず、発行銀行がディスクレを承認した後に支払う条件で船積書類を発行銀行宛てに送付します(いわゆる取立扱いの手形代金回収)。なお、アプルーバル扱いが準拠する国際ルールは、ICC取立統一規則(URC522)となります。

輸入者に対するディスクレ発生の通知

 ディスクレが起きていても、輸入者(L/C開設者)にアクセプトしてもらえれば、ケーブルネゴも容易になります。また、L/Gネゴした場合にも、発行銀行が当該ネゴ書類の買取りを拒絶することないよう口添えしてもらえます。 輸入者に対する通知文には、ディスクレの内容と生じた理由を分かりやすく書き込みます。

〔通知例文〕
Dear Mr. Smith

Regrettably, we have to inform you about the discrepancy occurred to the documents related to Invoice NO. ABC-123. We have already sent this by AAA(please refer to AAA SHIPPING NO.1234567)on May 14th.

  1. Discrepancy for B/L Vessel name
    As for the “Vessel name” indicated in this B/L, you will see as “OSAKA MARU V.1233”, but this should be “OSAKA MARU V.1234” as shown in our Invoice and Packing list. We are currently asking to our forwarder to revise B/L for this part. We will send this as soon as it is revised, so please replace the B/L with this new one. (We are expecting to receive this revised B/L on May 17th)

  2. Discrepancy for Sailing date
    Also, we have expected this ship to depart on May 9th, but due to the strike in Hong Kong, the actual shipment date shifted to May 12th.

    Possibly, our bank will point out this difference so please be noted and accept this discrepancy as well.

    We appreciate your kind cooperation.

〔訳文〕
スミス様

申し訳ありませんが、インボイスNO. ABC-123の件でディスクレが生じたことをご連絡しなければなりません。このインボイスはすでに5月14日にAAAよりそちらへお送りしています(AAA NO.1234567をご参照ください)。

  1. B/L記載の本船名のディスクレ
    B/L記載の本船名は “大阪丸 V.1233”となっておりますが、インボイスやパッキングリストにありますとおり、正しくは “大阪丸 V.1234” です。現在、当社の運送業者にB/Lの改訂を依頼しています。B/Lの修正が完了次第、そちらへお送りしますので差し替えていただきたいです(改訂されたB/Lは5月17日に受領する予定です)。

  2. 出港日のディスクレ
    本船は5月9日に出港を予定していましたが、香港でのストライキにより実際の出港は5月12日にずれこみました。

    おそらく買取銀行からディスクレの連絡が届くことになるため、このディスクレにつきましてもご留意いただき、受け入れてくださるようお願い申し上げます。

    以上ご協力のほど何卒お願い申し上げます。

(※)ディスクレによりL/C決済が行われなくなったとしても、相手方に品物が引き渡されている場合には、支払請求債権自体は喪失しているわけではないので、通常の支払督促・請求手続を行うことになります。

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くわしくはこちら

  1. 出典:日本貿易振興機構(JETRO)「貿易・投資相談Q&A 信用状条件との不一致がある船積書類の銀行買取の可否:日本」(2017年9月公開、2019年10月7日最終閲覧) ↩︎

  2. 海上保険については、「第13回 貿易決済の種類と条項」2-4(4)を参照ください。 ↩︎

  3. 出典:日本貿易振興機構(JETRO)「貿易・投資相談Q&A L/Cの有効期限と呈示期限:日本」(2017年9月公開、2019年10月7日最終閲覧) ↩︎

  4. 裏書きの詳細は「第13回 貿易決済の種類と条項」「第15回 信用状付荷為替決済(L/C決済)の為替手形と開設依頼書」「第17回 信用状(L/C)の受領後の船積実務」を参照ください。 ↩︎

  5. 分割船積や積替の詳細は、「第15回 信用状付荷為替決済(L/C決済)の為替手形と開設依頼書」を参照ください。 ↩︎

  6. 以下、本項の内容の出典は、日本貿易振興機構(JETRO)「貿易・投資相談Q&A 信用状条件との不一致がある船積書類の銀行買取の可否:日本」(2017年9月公開、2019年10月7日最終閲覧)。 ↩︎

  7. SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)とは、参加銀行間の国際金融取引に関するメッセージをコンピュータと通信回線を利用して伝送するネットワークシステムのこと(出典:(一社)全国銀行協会「全銀協の活動を知りたい方 SWIFT(スイフト)」(2019年10月7日最終閲覧))。「国際銀行間通信協会」のことを指す場合もある。 ↩︎

シリーズ一覧全22件

  1. 第1回 英文契約書の基礎知識
  2. 第2回 英文契約書のサンプル・テンプレート:英語で構成する際の用語集
  3. 第3回 国際売買取引のきっかけとなる英文メールの作法
  4. 第4回 取引条件を提示するときの伝え方
  5. 第5回 見積もりの依頼と申し込みの承諾
  6. 第6回 契約締結における留意点
  7. 第7回 売約書(Sales Note)と買約書(Purchase Note)の一般条項(その1)
  8. 第8回 売約書(Sales Note)と買約書(Purchase Note)の一般条項(その2)
  9. 第9回 英文契約書送付時のメールや取り交わしの送付状の例文・ドラフト送付の文章
  10. 第10回 契約締結時に問題となる、印紙税と書式の争い
  11. 第11回 契約条項の変更交渉と変更契約書の締結
  12. 第12回 電子データでの契約締結
  13. 第13回 貿易決済の種類と条項
  14. 第14回 荷為替手形決済の仕組みと為替手形の形式
  15. 第15回 信用状付荷為替決済(L/C決済)の為替手形と開設依頼書
  16. 第16回 信用状(L/C)の開設通知と訂正依頼
  17. 第17回 信用状(L/C)の受領後の船積実務
  18. 第18回 船積みの督促と船荷証券(B/L)未着の場合の対応
  19. 第19回 貿易取引で売主が支払督促を行う場合の英文メール・督促状(Demand Letter)の書き方と法的手続
  20. 第20回 信用状付荷為替決済(L/C決済)のディスクレ
  21. 第21回 英文契約書における商品クレームの通知と応対
  22. 第22回 商品クレームの解決手段として用いる英文の和解契約書例
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