越境ECの法規制は?アメリカ・EUの消費者保護法リスクを中心に
取引・契約・債権回収
越境ECとは、一般的に、インターネットを通して商品・サービスを海外に販売することをいいます。海外に実店舗を構えるよりも、リスクやコストを抑えることができるため、近時は、越境ECを行う企業が増えています。
越境ECを行う際には、販売国における規制を遵守する必要があります。商品やサービスの内容によって、種々の規制がありますが、消費者を対象とした越境ECでよく問題になるのは、利用規約・ウェブサイト表示・キャンペーンなどに関わる消費者保護法です。海外の消費者や当局との間で、消費者保護法の観点から問題が生じないように、事前に効率的に調査・対応を行うことが必要です。
消費者保護のために求められる内容は、国や地域(州)によってさまざまです。現地の法令を調査する際には、どのような点で規制が異なり得るのかという点、また、規制を遵守できなかった場合のリスクや、そのリスクが顕在化する可能性を意識することが重要です。
本稿では、日本の事業者が海外の消費者に対して商品・サービスを販売する越境ECを想定し、アメリカとEUを例として、消費者保護法制に関して特に注意すべきリスクを解説します。
越境ECの主な販売方法
越境ECの販売方法は、大きく分けて以下のパターンがあります。
ECプラットフォームを利用する場合(①-b)は、ECプラットフォームがガイドラインを作成し、サイト表示などについても一定のテンプレートを用意していることもあります。
②の販売店を利用する場合は、消費者との間で直接の契約関係が生じるのは販売店であり、自社と消費者との間に直接の契約関係はありません。この場合には、自社と販売店との間でどのように責任を分担するかが問題になります。なお、この場合でも、製造物責任など、消費者に対して直接責任を負う場面が完全に排除されるわけではありません。
どのような手法によるかは、国によって傾向が異なります。たとえば中国では、商品の売買であれば、企業が自社ECサイトで販売することは少なく、ECプラットフォームを利用することが一般的なようです。
本稿では、主に①-aを念頭に置いて解説します。
越境ECに関する法規制
越境ECを行う際に遵守が求められる規制は、商品・サービスの内容や、販売先の国・地域によってさまざまですが、一般的には以下の点が問題になります。
- 消費者保護法
- 個人情報保護規制
- 知的財産権(商標権等)法制
- 輸出・輸入規制
- 各種業法規制(許認可、認証等)
- 税金(関税等)
輸出・輸入規制、各種業法規制、税金については、提供する商品・サービスの内容や国・地域によって、規制内容は大きく異なるため、対象となる国・地域ごとに規制を調査し、対応することが必要です。
他方、消費者保護法や個人情報保護規制は、消費者を対象にした越境ECであれば常に問題になるものです。規制が厳しい国・地域の基準に合わせて対応することで、他の国・地域の規制も満たすという方法もあり得ます。
本稿で取り上げる消費者保護法が問題になるのは、利用規約、広告や申込画面などのウェブサイト上での表示、景品提供などのキャンペーンといった場面があげられます。
利用規約
裁判管轄・準拠法
越境ECの利用規約では、消費者との間で争いが生じた場合に備えて、裁判管轄(法廷地)に関する条項を定めることがあります。越境ECを行う日本の事業者としては、海外に現地子会社等がない限り、日本の裁判所を管轄裁判所として定めることが考えられます。
しかし、海外の消費者が居住地の裁判所に訴えた場合、消費者保護の観点から、当該居住地の法令により、このような事前の裁判管轄合意が無効とされる場合があります 1。
準拠法についても同様です。日本法を準拠法とする旨の条項を利用規約に定めていても、消費者の居住地の法令により、事前の準拠法の合意が無効とされる場合があります。
このように、裁判管轄や準拠法について利用規約に条項を設けたとしても、常に有効に働くわけではありません。もっとも、このような条項により、消費者による訴訟提起等を牽制するという事実上の効果はあり得ます。また、これらの条項は利用規約においてよく見られる一般的なものであり、定めることによってレピュテーションリスクが生じるとまでは言い難いと思われます。したがって、常に有効に働くわけではないことを認識したうえでこれらの条項を設けることは、実務上あり得ると思われます。
返品
商品の売買の場合には、消費者都合での返品を認めるかが問題になります。日本の特定商取引法では、消費者は、商品の引渡しを受けた日から起算して8日が経過するまでは、申込みの撤回・契約解除をすることができます(15条の3第1項本文)。ただし、事業者は、消費者都合での申込みの撤回・契約解除を認めるかどうか、認める場合はその条件等に関する特約(いわゆる返品特約)を定めることができ、広告において適切に表示した場合には、当該特約が優先することになります(同項ただし書)。
海外の法令でも、消費者都合での返品を一切不可とすることを許容するものがあります。
アメリカの場合、連邦法レベルでは、消費者都合での返品を認めるよう義務付ける規制は存在しません。したがって、州法で規定されていない限り、事業者の判断で消費者都合での返品を認めないとすることも可能です。
これに対してEUでは、消費者権利指令により、商品の引渡しまたは役務提供契約の締結から14日間は、一定の例外を除いて、理由を問わず消費者が契約を撤回する権利が認められており、消費者は撤回権行使により返金を受けることができます(9条、13条1項)。また、事業者が消費者に対して撤回権に関する情報を提供しなかった場合は、撤回することが可能な期間は12か月に延長されます(10条1項)。
EU加盟国では、消費者権利指令の内容が国内法化されているため、EUの消費者に対して商品を販売する場合には、返品ポリシーを他の国・地域とは別に用意する必要が出てくる可能性があります。
免責
利用規約においては、事業者の損害賠償責任を免責する条項を設けるのが一般的ですが、条項の効力は、国や地域によりさまざまです。準拠法を日本法とする場合には、条項の効力が厳しく判断される可能性があるので、注意が必要です。
日本では、消費者契約法8条によって、一定の免責条項が無効とされます。具体的には、事業者に故意または重過失がある場合には、損害賠償責任の一部免除であっても、8条1項2号または4号に該当し無効となります。また、事業者の軽過失(重過失を除く過失を意味します。以下同じ)に基づく損害賠償責任の全部を免除する条項は、8条1項1号または3号に該当し無効となります。事業者の軽過失の損害賠償責任の一部を免除する(上限を設けるなど)条項は、8条には該当しませんが、具体的な事情により10条に該当する可能性はあります(生命・身体に関する損害の賠償責任の一部を免除する場合など)。
海外の法令でも、事業者の免責条項が制限される可能性がありますが、日本のように、軽過失に基づく損害賠償責任の全部を免除する条項を一律に無効とするものは珍しいとされています 2。
たとえば、アメリカの統一商事法典(UCC)では、非良心的な契約条項はその効力が否定されるところ(2-302条1項)、消費者用物品に関し、人身侵害に対する結果的損害賠償を制限することは非良心的なものと推定されます(2-719条3項)。
また、ドイツ民法では、約款使用者の過失等によって生命、身体、健康を侵害したことにより生じた損害の賠償責任を排除・制限する条項や、約款使用者の重過失等により生じた損害の賠償責任を排除・制限する条項は、無効となります(309条7号(a)・(b))。
ウェブサイト上での表示
表示すべき事項
日本の特定商取引法では、広告において契約に関する情報や事業者の基本情報等を表示することが義務付けられています(11条)。国内ECサイトでは、この広告における表示義務を満たすために、「特定商取引法に基づく表記」といったウェブページを設け、フッターなど消費者が容易に認識することができるような場所にリンクを設定することが多いです。また、最終確認画面(原則、消費者が画面内に設けられている申込みボタン等をクリックすることにより契約の申込みが完了する画面)においても、契約に関する情報を表示することが必要です(12条の6第1項)。
越境ECでは、国内ECサイトの「特定商取引法に基づく表記」のような特定のウェブページが作成されることは多くありませんが、海外の法令でも、契約に関する情報や事業者の基本情報等については、事前に消費者に対して表示することが求められる場合があります。
たとえば、EUの消費者権利指令では、契約締結前に、契約に関する情報や事業者の基本情報等について、明確かつわかりやすく消費者に対して提供することが求められています(6条1項)。
アメリカでは、少なくとも連邦法レベルでは、EUのような一般的な情報提供義務が定められているわけではありません。もっとも、後述するとおり、消費者の誤認を防ぐためには、契約に関する情報や事業者の基本情報等はウェブサイトにわかりやすく表示する必要があります。また、商品の種類や販売方法等によっては、特定の事項の明示が求められる場合もあります。
禁止される表示
ECサイトにおいて禁止される表示として、典型的には、消費者を誤認させるような表示があげられます。日本では、景品表示法により、優良誤認表示、有利誤認表示が禁止されているほか(5条1号・2号)、指定告示によって原産国に関する不当表示、おとり広告、ステルス・マーケティングなどが禁止されています(5条3号)。また、特定商取引法では、虚偽・誇大広告や、情報送信が契約の申込みとなることを誤認させる表示、最終確認画面における表示事項について誤認させる表示が禁止されています(12条、12条の6第2項)。
海外の法令でも、消費者を誤認させるような表示が禁止されるのが一般的です。違反があった場合にはどのようなリスクがあり得るのか、越境ECを行う日本の事業者においてそのリスクが顕在化する可能性はどの程度あるのかを意識して調査・対応することが重要です。
(1)規制内容
たとえばアメリカでは、連邦取引委員会法(Federal Trade Commission Act : FTC法)により、不公正または欺瞞的な行為または慣行(unfair or deceptive acts or practices)が禁止されており(5条a項1号)、連邦取引委員会(Federal Trade Commission:FTC)は、欺瞞的広告に関して多くの指針や政策声明等を公表しています。以下は、そのうちの一例ですが、特定の業種を対象にしたものもあるため、自社に関係する指針等の内容を把握することが必要です 3。
FTCの指針等 | 対象 |
---|---|
推奨広告と証言広告の利用に関する指針 4、欺瞞的な形態の広告に関する執行方針声明 5 | ステルス・マーケティング |
ドットコム・ディスクロージャー 6 | デジタル広告における効果的な情報開示(disclosures) |
グリーン・ガイド 7 | 環境主張 |
不正な価格設定に関する指針 8 | 二重価格表示等 |
「無料」および類似の表現の利用に関する指針 9 | 「2つ買うと1つ無料」、「2つ買うと◯%オフ」といった販促表示 |
EUでも、不公正取引方法指令により、不公正な取引方法(unfair commercial practices)が禁止されているところ(5条1項)、所定の要素(商品の性質・主たる特徴、事業者の約束の範囲、価格、消費者の権利等)について消費者を誤認させる行為(誤認惹起作為)や、通常の消費者が必要とする重要な事実を省略する行為(誤認惹起不作為)は、誤認惹起的な行為とみなされ(6条、7条)、不公正な取引方法に当たることになります(5条4項(a))。さらに、付表Ⅰでは、いわゆるブラック・リストとして、いかなる場合にも不公正な取引方法となるものがあげられています(5条5項)。ブラック・リストには、おとり広告や記事広告、虚偽または不実の消費者レビューや推奨広告を投稿することなどがあげられています。
(2)罰則
これらの規制に違反した場合のリスクについても意識する必要があります。
アメリカでは、FTCによる排除措置命令や民事制裁金、同意命令、FTCによる裁判所への提訴(差止めや金銭的救済の請求)等があり得ます。FTC法に基づき私人が被害回復を求めることはできませんが、各州は、FTC法をモデルにした包括的な消費者保護法を制定しており(各州の消費者保護法でも、unfair or deceptive acts or practicesが禁止されています)、州法に基づき、私人が損害賠償請求などをできる可能性があります。私人による損害賠償請求については、3倍損害賠償(treble damages)や数倍賠償(multiple damages)、懲罰的損害賠償(punitive damages)について定めている州もありますし、クラス・アクションが提起されるリスクもあります。
EUでは、現代化指令による改正後の不公正取引方法指令において、一部規定が定められていますが、規制に違反した場合の効果については、基本的に加盟国に委ねられています。各国により差異はありますが、措置命令、差止請求、損害賠償請求、刑事罰、制裁金や、適格消費者団体による訴訟等もあり得ます。
景品提供などのキャンペーン
キャンペーンを行う場合は、景品規制が問題になります。
日本では、懸賞のうち、クローズド懸賞(商品・サービスの購入や来店などの条件(取引付随性)があり、抽選等で景品類が提供される企画)や、総付景品(懸賞以外の方法で景品類が提供される企画)は、景品表示法上の景品規制の適用対象となり、金額について上限があります(4条およびそれに基づく告示 10)。オープン懸賞(取引付随性がなく、抽選等で景品類が提供される企画)は、景品規制の適用対象にはなりません。
これに対して、諸外国では、景品提供に対する評価はさまざまです。景品提供に対する評価によって、規制内容も大きく異なります。
アメリカ
たとえばアメリカでは、景品提供は連邦法・州法により規制されていますが、以下の3つの要素のすべてを満たすものは、違法なギャンブルとして禁止されます。
- 賞品・賞金(prize)
- 偶然性(chance)
- 代償性(consideration)
違法なギャンブルとして禁止されるか否かの判断は以下のように考えられます。
判断要素 | 適法性 | |||
---|---|---|---|---|
① 賞品・賞金 (prize) |
② 偶然性 (chance) |
③ 代償性 (consideration) |
||
有 | 有 | 有 | ✕ | 違法なギャンブル |
有 | 無 | 有 | ◯ | コンテスト(contest) |
有 | 有 | 無 | ◯ | スウィープステークス(sweepstakes) |
有 | 無 | 無 | ◯ | 違法なギャンブルに該当しない |
①と③を満たし②を満たさないものは、コンテスト(contest)と呼ばれます。典型的には、参加者が、写真やエッセイ等を提出し、その優劣によって受賞者が決められるものです。どのような事情があれば偶然性が否定されるかは、州によって判断基準が異なりますが、一般的には、事前にテーマや客観的な審査基準を公表し、適切な審査員により審査をすることが必要になります。
①と②を満たし③を満たさないものは、スウィープステークス(sweepstakes)と呼ばれます。どのような場合に代償性が否定されるかは、ケースバイケースであり、州によっても判断が異なります。応募のために商品・サービスの購入が必要な場合は当然として、たとえば応募のためのフォームの入力にそれなりの時間や労力をかける必要がある場合は、その点も考慮されて代償性があると判断される可能性があります。日本における取引付随性に近い要素ですが、具体的なケースでは判断が異なる可能性があるので、注意が必要です。
①を満たすとしても②や③を満たさない場合は、違法なギャンブルには該当せず、実施すること自体は可能です。もっとも、州によっては、消費者に対する情報開示や、事前登録・保証金の支払いなど、手続上の規制があります。全米規模で企画を実施する場合は、全州の規制を満たすか、または、「本件企画は、同様の企画が禁止されている州では無効」といった趣旨の「無効条項」を付記するなどの措置を講じる必要があります 11。
日本でいう総付景品については、基本的に額に関する規制はありませんが、州レベルでは特定の業界で景品提供が制限されている場合があるので注意が必要です。
EU
EUにおいては、統一的な景品規制は存在せず、その規制はさまざまです。たとえば、ドイツは、景品提供に対して否定的な立場をとっており、商品・サービスの購入など金銭的負担を条件とするクローズド懸賞と総付景品は、原則禁止されています。金銭的負担がないオープン懸賞については、直ちに禁止はされませんが、不正競争防止法に抵触しないようにする必要があります。
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経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(2022年4月)354頁 ↩︎
-
潮見佳男『契約法理の現代化』(有斐閣、2004)476頁 ↩︎
-
サイト表示との関係では、近年、ダークパターンが話題になっています。ダークパターンとは、一致した定義があるものではありませんが、一般的に、消費者を欺くなど不公正な方法により、消費者が意図しない不利益な選択をさせることを意図したオンライン上のインターフェイスをいいます。FTCは、FTC法5条a項1号を根拠にダークパターンを取り締まることがあります。FTCが2022年9月に公表した「Bringing Dark Pattern to Light」と題するレポートでは、ダークパターンの分類や過去の執行例が紹介されており、参考になります。 ↩︎
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Guides Concerning the Use of Endorsements and Testimonials in Advertising 16 C.F.R §255.0-255.6 ↩︎
-
Enforcement Policy Statement on Deceptively Formatted Advertisements ↩︎
-
Dot Com Disclosures: How to Make Effective Disclosures in Digital Advertising(2013) ↩︎
-
Guides for the Use of Environmental marketing claims 16 C.F.R §260.1-260.17 ↩︎
-
Guide Concerning Use of the Word “Free” and Similar Representations 16 C.F.R §251.1 ↩︎
-
「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告示第3号)、「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告示第5号) ↩︎
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原一弘「海外主要国における景品規制について」公正取引536号16頁 ↩︎

弁護士法人大江橋法律事務所