失敗した経営者が再チャレンジできる社会へ 弁護士と銀行員が語る『経営者保証ガイドラインの基本と実務』PR

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目次

  1. 経営者の再起を阻む経営者保証の現状
  2. まだまだ不十分な認知度。早期活用で事業再生へのインセンティブを
  3. 経営者の周囲の方々にも読んでほしい。弁護士と金融機関が共同執筆した新しい入門書
  4. 再チャレンジの環境整備で地域経済の活性化にもつながる

企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が連帯保証人となる経営者保証。中小企業の資金調達において長年当たり前とされてきた慣行ですが、経営者の再チャレンジを阻害する要因になっているとの指摘も多くあります。
従来の「経営が破綻すれば、経営者も破産すべき」ともいえる慣行を止めるべく、2013年に策定されたのが「経営者保証に関するガイドライン」(以下、経営者保証ガイドライン)です。

2024年7月、このガイドラインについて解説した書籍『弁護士と銀行員による経営者保証ガイドラインの基本と実務』(日本加除出版)が刊行されました。著者は、経営者保証ガイドラインの認知拡大と活用促進に取り組む、岡山ひかり法律事務所の森智幸弁護士と、北海道銀行 融資部 上席融資役の佐々木宏之氏です。
ガイドラインが策定されて約10年。債権者側と債務者側で利害が対立する立場の両氏に、経営者保証ガイドラインの意義と現状、本書の活用方法について聞きました。

プロフィール
  • 森 智幸 弁護士
    2007年弁護士登録 岡山弁護士会 全国倒産処理弁護士ネットワーク常務理事
    日本弁護士連合会倒産法制等検討委員会委員

  • 佐々木 宏之 氏
    1985年北海道銀行入行 2005年~現職
    2010年〜2019年 地銀協「債権管理保全指導者講座 (回収専門コース)」「金融法務講座」講師
    2016年〜 2023年 北海道金融法務実務研究会幹事

経営者の再起を阻む経営者保証の現状

まず、経営者保証ガイドラインとはどのような目的で策定されたのでしょうか。

森弁護士:
経営者保証ガイドラインは、経営者個人保証の問題点を解決するために中小企業、経営者、金融機関共通の自主的なルールとして策定されたもので、主に3つの場面で活用されます。1つめは融資を受けるとき、2つめは事業承継のとき、そして3つめが債務整理のときです。
従来、会社が破綻すると経営者個人も連鎖的に破産に追い込まれるケースが多くありました。経営者保証ガイドラインを使えば、一定の条件下で経営者個人の破産を回避し、再起の機会を得ることができます。

佐々木氏:
金融機関の立場から補足すると、経営者保証ガイドラインは、会社の債務整理を行うことで、保証人である経営者個人の破産を回避し、再スタートを支援できる仕組みです。金融庁の調査 1 によると、経営者保証人からの回収割合は2%未満に過ぎないという金融機関が82%に上り、1%未満でも全体の63%となっています。
したがって、経営者保証は債権保全としての機能を果たしておらず、むしろ重要な機能は、適切に会社の債務を整理するためのインセンティブとなっていることです。

岡山ひかり法律事務所 森 智幸 弁護士

岡山ひかり法律事務所 森 智幸 弁護士

債務整理の際に経営者保証ガイドラインを活用するメリットについて教えてください。

森弁護士:
先ほどの通り、これまでは「会社が潰れたら自己破産。家族も路頭に迷う」というイメージが強くありました。しかし、経営者保証ガイドラインを活用することで、自宅を残せたり、いわゆるブラックリストに載らずに済む可能性があります。つまり、一度失敗しても次のステップを踏み出しやすくなったといえます。
私の経験では、40代で会社を畳んだ経営者が、経営者保証ガイドラインを使って自宅を残し、小さな子供たちの生活の場を確保できたというケースがありました。これまでの生活を維持しながら新しい仕事に就いて人生をやり直せる。そうした意味で、経営者個人だけでなく、家族と生活も守れるガイドラインだと実感しています。

佐々木氏:
金融機関側の変化も大きいですね。以前は保証債務を免除することは保証人に対する寄付行為ないし利益供与とされる危険性が高かったため、安全に不良債権処理を行う必要性から、保証人である経営者個人も厳しく追及せざるを得ませんでした。しかし、経営者保証ガイドラインによって、多くの保証人に再スタートの機会を提案できるようになった。これは金融機関にとっても、地域経済の活性化につながる有益なガイドラインだと考えています。

たとえば、地方の有力企業が経営難から破綻したケースで、経営者保証ガイドラインを使って経営者の再スタートを支援したことがあります。すると、地元で「あの会社は潰れたのに社長さん個人は破産しなかった」という話が広まり、「うちも先行きが不安だから、保証債務をなんとかしたい」という相談が増えました。成功事例が口コミで広がり、経営者による早期の事業再生や事業清算の決断につながる可能性もひらけてきています。

森弁護士:
経営の悪化は病気の進行と似ています。辛い現実から目を背けたくなりますが、早期発見・早期対応が重要です。経営者保証ガイドラインは、いわば経営難に対する1つの処方箋といえます。

経営者がこのガイドラインを知っていれば、万が一のときの選択肢が増えます。特に若い起業家や事業承継を考えている方には、スタートの時点でこういった「出口戦略」を知っておいてほしいですね。失敗したらすべてを失うのではなく、誠実に経営をしていれば厳しい状況になっても救済の可能性があることを知っておくことで、新たなビジネスに踏み出す勇気もでるはずです。経営者保証ガイドラインは、リスク管理ツールとしても機能し、より多くの人が起業や事業承継に挑戦するきっかけになる可能性があるものといえます。

まだまだ不十分な認知度。早期活用で事業再生へのインセンティブを

経営者保証ガイドラインが公表されてから約10年になりますが、現在の認知度や浸透状況はいかがでしょうか。

森弁護士:
以前に比べれば認知度は確実に上がっていますが、まだまだ十分ではないように思います。経営者保証ガイドラインは弁護士側にも金融機関側にもきちんとした理解がなければ機能しないので、認知だけでなく理解も広がっていってほしいと思います。残念ながら、弁護士の間でも、「経営破綻=経営者も破産」という考えが、まだ残っているように感じます。

もちろん、適切な審査と十分な説明をしたうえで経営者保証を取得すること自体は問題ありません。しかし、すべての関係者がこれまでの慣行に従って「経営者保証は必要」「経営破綻=経営者の破産」と考え、思考停止状態で対応するのは望ましくありません。

佐々木氏:
現状、経営者保証ガイドラインは主に「手遅れになる少し手前で救うガイドライン」として機能しています。真面目な経営者ほどギリギリまで頑張ってしまい、会社を整理するお金すら残らないケースが多々あります。しかし、その少し前に経営者保証ガイドラインを使えば、会社の整理、具体的には破産手続に必要な資金を残した段階で撤退を決断できます。

ただ、本来の理想形は違います。もっと早い段階、つまり事業再生が可能な経営状態でこのガイドラインを活用すべきなのです。債権カットがあっても、経営者個人が差額を払わず済むことを理解してもらい、早期の事業再生を促すこと。これが経営者保証ガイドラインの究極的な姿だと考えています。現在はまだ過渡期にありますが、今後も経営者保証ガイドラインの存在によって早い段階で事業再生を決断し実現できた事例が増えれば、早期事業再生へのインセンティブになりえるでしょう。

北海道銀行 融資部 上席融資役 佐々木 宏之 氏

北海道銀行 融資部 上席融資役 佐々木 宏之 氏

経営者の周囲の方々にも読んでほしい。弁護士と金融機関が共同執筆した新しい入門書

本書の特徴はどこにありますか?

森弁護士:
最大の特徴は、弁護士と銀行員という異なる立場の著者が共同で執筆していることです。法的には利害が対立する立場ですが、経営者保証ガイドラインは対立構造で議論するのではなく、お互いにとってよい着地点を見つけようという仕組みです。本書も、そういった趣旨を体現するような内容になっていると思います。

佐々木氏:
そうですね。たとえば、弁護士視点のみの書籍だと金融機関の人間が手に取ったときに「ちょっと一方的だな」と誤解することがあります。そこで、弁護士の方が金融機関と交渉する際に「銀行員である著者がこう書いている」と本書を示すことで、理解を得やすくなるかもしれません。本書は両方の視点が入っているので、双方にとって納得感のある内容になっているはずです。

執筆にあたっては、具体的にどのような工夫をされましたか?

森弁護士:
できるだけフラットで平易な記述を心がけました。また、図を多用して視覚的な理解を促すようにしています。文字だけではなかなかわかりづらい部分も、図があるとイメージがわいたり記憶に残りやすいですからね。

佐々木氏:
私は実務で使えることを意識して書きました。ガイドライン活用の鍵は「支援専門家」の役割を明確にすることで、支援専門家たる弁護士と債権者たる金融機関との相互理解醸成を阻害する要因を解消すること。そのうえでガイドラインの規律を実践することにより、支援専門家を金融機関と保証人でWin-Winの解決を図るパートナーと捉えることを可能としています。相互理解醸成のために最も重要なのは、支援専門家側は金融機関の文化とルールを知ること、金融機関側は支援専門家の予測可能性を高める努力を行うことです。
本書は、このような弁護士と銀行員の相互理解醸成に寄与できるものと考えています。この本を片手に進めれば、経験の浅い弁護士や銀行員も、実際の案件に対応できると信じています。

森弁護士:
特に債務整理の章は、債務整理の開始から終了までのプロセスを時系列で追い、必要な書式も掲載しています。金融機関と弁護士が協議するときに、手元において参照しながら話をするという使い方もよいですね。

本書をどのような方に読んでもらいたいですか?

森弁護士:
「経営者保証ガイドラインって聞いたことあるけど、何?」という方にも読んでもらいたいと思っています。経営者保証ガイドラインは公表されていますが、なかなか一読しただけではよくわかりません。既存の解説書も専門的で、一般の方が読むには難しい。そこで、もっと身近でわかりやすい、最初の一冊にちょうどいい本が必要だと考えて執筆したのが本書です。

佐々木氏:
私は特に金融機関の方に読んでもらいたいですね。このガイドラインをよく理解しきれていない金融機関の方もまだまだ多くいます。本来、行間まで含めた適切な理解によってガイドラインの趣旨に適う形で最大限の残存資産を確保・保全するなど、もっと柔軟に経営者の再スタートを支援できるはずなのに、「そこまでやってよいのかどうかわからない」という声もよく聞きます。そういった方々に、銀行員の立場からこのガイドラインの意義や活用方法を伝えたいと思いました。

森弁護士:
経営者はもちろんですが、経営者の周りにいる方々にも読んでほしいですね。たとえば、企業の総務や法務の担当者、顧問税理士などの専門家、商工会議所や商工会といった支援機関の方々にも活用していただきたいです。
経営者が困ったとき、まず頼るのは身近な方です。周囲の人たちが事前に本書を通して経営者保証ガイドラインについて知っておくことで、適切なタイミングで弁護士に繋ぐこともできます。近いところから、経営者をサポートするネットワークを広げてもらえればうれしいです。

佐々木氏:
特に中小零細企業では、経営者が相談できるいちばん身近な専門家が税理士という場合が多いです。ぜひ、本書を手に取って理解を深めてもらえるとうれしいです。

森弁護士:
経営者保証ガイドラインは、都会の先進的な事案で利用されるようなものと誤解されることもあります。経営者保証ガイドラインは、業界や企業規模、地域に関係なく、全国のあらゆる企業が利用できます。「他人事ではなく、自分の話なんだ」と、本書を通じて多くの人に知っていただけたらと思っています。

再チャレンジの環境整備で地域経済の活性化にもつながる

最後に、BUSINESS LAWYERSの読者へ向けたメッセージをお願いします。

森弁護士:
経営者保証ガイドラインは、一人の経営者を助けるだけでなく、社会全体にとっても意義のあるものだと考えています。特に地方では、少子化や人口流出に伴って意欲ある若い経営者が減少している現状があります。そんななか、一度の失敗で再起の芽まで摘まれることになれば、社会は回らなくなってしまいます。
経営者ガイドラインを活用して再チャレンジできる環境を整えることは、地域経済の活性化にもつながります。ぜひ多くの方に理解を深めていただき、活用してほしいと思います。

佐々木氏:
金融機関の立場からも、経営者保証ガイドラインの普及は重要だと考えています。地域経済の活性化は、金融機関自身の存続にも関わる問題です。一度経営に失敗した方が再スタートを切り、その経験を活かして新たな事業を成功させる。そういったサイクルが生まれれば、地域全体が活気づくはずです。本書を通じて、そのきっかけを提供できれば幸いです。

左から岡山ひかり法律事務所 森 智幸 弁護士、北海道銀行 融資部 上席融資役 佐々木 宏之 氏

弁護士と銀行員による経営者保証ガイドラインの基本と実務 − 融資・事業承継・債務整理のすべて −

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