営業現場で使える!英文契約書のポイント

第4回 取引条件を提示するときの伝え方

取引・契約・債権回収
宮田 正樹 一般社団法人GBL研究所 理事

シリーズ一覧全22件

  1. 第1回 英文契約書の基礎知識
  2. 第2回 英文契約書のサンプル・テンプレート:英語で構成する際の用語集
  3. 第3回 国際売買取引のきっかけとなる英文メールの作法
  4. 第4回 取引条件を提示するときの伝え方
  5. 第5回 見積もりの依頼と申し込みの承諾
  6. 第6回 契約締結における留意点
  7. 第7回 売約書(Sales Note)と買約書(Purchase Note)の一般条項(その1)
  8. 第8回 売約書(Sales Note)と買約書(Purchase Note)の一般条項(その2)
  9. 第9回 英文契約書送付時のメールや取り交わしの送付状の例文・ドラフト送付の文章
  10. 第10回 契約締結時に問題となる、印紙税と書式の争い
  11. 第11回 契約条項の変更交渉と変更契約書の締結
  12. 第12回 電子データでの契約締結
  13. 第13回 貿易決済の種類と条項
  14. 第14回 荷為替手形決済の仕組みと為替手形の形式
  15. 第15回 信用状付荷為替決済(L/C決済)の為替手形と開設依頼書
  16. 第16回 信用状(L/C)の開設通知と訂正依頼
  17. 第17回 信用状(L/C)の受領後の船積実務
  18. 第18回 船積みの督促と船荷証券(B/L)未着の場合の対応
  19. 第19回 貿易取引で売主が支払督促を行う場合の英文メール・督促状(Demand Letter)の書き方と法的手続
  20. 第20回 信用状付荷為替決済(L/C決済)のディスクレ
  21. 第21回 英文契約書における商品クレームの通知と応対
  22. 第22回 商品クレームの解決手段として用いる英文の和解契約書例
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目次

  1. 取引条件の提示
  2. 「申し込み(offer)」の意義
  3. 申し込みの種類
  4. 申し込み(offer)に関わる文章

取引条件の提示

 前回の「第3回 国際売買取引のきっかけとなる英文メールの作法」では、取引交渉を始めるきっかけとなるメールの書き方について説明しました。「ジャブ」の段階が終わり、シリアスに取引の意欲が湧いてくると取引条件を提示する、あるいは、提示を求めることになります。いわゆる「申し込み(オファー:offer)」ですね。

【一般的な取引交渉の流れ】

 売り手側が取引条件(価格、数量、納期、仕様、納期、支払条件など)を提示する場合を「selling offer」、買い手側が提示する場合を「buying offer」と呼んだりします。

 申し込みを受けた方がその条件を承諾(accept)すると契約が成立します。これは大陸法での原則であり、英米法では約因(consideration)の存在などが必要となります。

※約因(consideration)については「第1回 英文契約書の基礎知識」参照

 最初に提示した条件で承諾されることは少なく、申し込みを受けた方が値切りや納期の改善など、自分の希望する条件を逆提案することになります。これをカウンター・オファー(counter offer)と呼び、そのやり取りが何度も続くことになります。このやり取りの段階を「交渉」という意味の英語”negotiation”からとって「ネゴ(ネゴシエーション)段階」と呼ぶこともあります(別途「ネゴ」と呼ばれている行為に「荷為替手形を銀行が買い取る」ことがありますが、これは「流通、譲渡、換金」という意味での”negotiation”です)。

「申し込み(offer)」の意義

 日本法と英米法では申し込みの「撤回」について、以下のとおり違いがあるので留意が必要です。

①日本法

 承諾期間の定めのある申し込み(firm offer)の場合、撤回は不可となります。「撤回」(withdrawal)とは撤回のときまでは有効で、将来に向かって無効とすることです。
 承諾期間の定めのない申し込み(free offer)の場合、「相当期間」は撤回不可です。「相当期間」とは、申し込みが到達するのに必要な期間に加え、申し込みを受けた者がその内容を検討し、承諾を通知するのに要する期間のことです。

②英国法

 申し込み(offer)は、承諾があるまでいつでも撤回が可能です。申込段階では約因(consideration)が不存在なため、承諾期間の有無に関わらず、いつでも撤回が可能となります。

③米国法(UCC)

 商人による物品の売買において、確定的な申し込み(”firm offer”)であり、承諾期間が定めてある場合は、その期間内(ただし、最長3か月を限度とする)は申し込みの撤回が不可能です。承諾期間を定めていない場合は、合理的期間内は、申し込みの撤回はできません(UCC§2-205)。

 ”firm offer”について、より詳しく説明すると、3か月を限度として一定期間申し込みを撤回しない保証を明記し署名した申し込みのことです。「3か月を限度として」という意味は、たとえば、4か月の承諾期限(つまり4か月撤回しない保証)を定めたとしても、3か月を過ぎてからの1か月間は「いつでも撤回できる通常の申し込み」となるということです。

§ 2-205. Firm Offers.
An offer by a merchant to buy or sell goods in a signed writing which by its terms gives assurance
that it will be held open is not revocable, for lack of consideration, during the time stated or
if no time is stated for a reasonable time, but in no event may such period of irrevocability
exceed three months
; but any such term of assurance on a form supplied by the offeree
must be separately signed by the offeror.

商人による売買の署名をした書面による申し込みで、その中で撤回しない旨を保証している時には、その申し込みは撤回できないが、約因(consideration)に欠けることでもあり、その撤回不能期間はその書面で定めた期間、定めがない場合には合理的な期間とする。ただし、いずれの場合においてもその期間は3か月を超えないものとする。その撤回不能条項が被申込者の提供した書面に記述されている場合には、申込者がそれについて別個に承諾の署名をしなければ有効ではない。

 物品の売買契約は、申し込みと承諾、契約の存在を認める両当事者の行為、電子的媒体による相互作用など、合意を証明するのに足る方法でなされます(UCC§2-204)。

§ 2-204. Formation in General.

(1)A contract for sale of goods may be made in any manner sufficient to show agreement,
including conduct by both parties which recognizes the existence of such a contract.

(2)An agreement sufficient to constitute a contract for sale may be found even though
the moment of its making is undetermined.

(3)Even though one or more terms are left open a contract for sale does not fail for indefiniteness
if the parties have intended to make a contract and there is a reasonably certain basis for giving
an appropriate remedy.

(1)物品の売買契約は、その契約が存在することを両者が認識していることを示す行為を含め、両者間の合意を示すに十分な方法で行うことが出来る。

(2)売買契約を構成するに十分な合意とは、それがいつ成立したか不明であっても(その合意を)見出すことは出来る。

(3)一つ以上の条件(条項)が未決定であったとしても、当事者が契約を締結する意思を有しており、適切な救済の基盤が整っていさえすれば、売買契約は不明瞭であるとして成立を否定されるものではない。

④ウィーン売買条約

 有効な申し込みとは、十分に確定し、かつ承諾があるときは拘束されるとの意思が示されている場合です(ウィーン売買条約14条)。物品を示し、数量や代金を定めている(あるいは決定方法を規定している)場合には、申し込みが確定していることになります。

Article 14

(1)A proposal for concluding a contract addressed to one or more specific persons constitutes
an offer if it is sufficiently definite and indicates the intention of the offeror to be bound
in case of acceptance. A proposal is sufficiently definite if it indicates the goods and expressly
or implicitly fixes or makes provision for determining the quantity and the price.

(2)A proposal other than one addressed to one or more specific persons is to be considered merely
as an invitation to make offers, unless the contrary is clearly indicated by the person making
the proposal.

(1)一人または二人以上の特定の者に対してした契約を締結するための申し入れは、それが十分に確定し、かつ、承諾があるときは拘束されるとの申し入れをした者の意思が示されている場合には、申し込みとなる。申し入れは、物品を示し、並びに明示的または黙示的に、その数量および代金を定め、またはそれらの決定方法について規定している場合には、十分に確定しているものとする。

(2)一人または二人以上の特定の者に対してした申し入れ以外の申し入れは、申し入れをした者が反対の意思を明確に示す場合を除くほか、単に申し込みの誘引とする。

 同意を示す言明あるいは行為は承諾となり(ウィーン売買条約18条)、承諾が有効であるとされる場合に契約は成立します(ウィーン売買条約23条)。

 申し込みの撤回は、承諾が発信されるまでに、到達する場合にできます(ウィーン売買条約16条)。また、承諾期間が定められており、撤回不能とされている場合や撤回不能であることを信頼して行動した場合は、撤回できません(ウィーン売買条約16条2項)。

Article 16

(1)Until a contract is concluded an offer may be revoked if the revocation reaches the offeree
before he has dispatched an acceptance.

(2)However, an offer cannot be revoked:

  (a)if it indicates, whether by stating a fixed time for acceptance or otherwise, that it is irrevocable; or

  (b)if it was reasonable for the offeree to rely on the offer as being irrevocable and the offeree has
acted in reliance on the offer.

(1)申し込みは、契約が締結されるまでの間、相手方が承諾の通知を発する前に撤回の通知がその相手方に到達する場合には、撤回することができる。

(2)申し込みは、次の場合には、撤回することができない。

  (a)申し込みが、一定の承諾の期間を定めることによるか他の方法によるかを問わず、撤回することができないものであることを示している場合

  (b)相手方が申し込みを撤回することができないものであると信頼したことが合理的であり、かつ、その相手方が当該申し込みを信頼して行動した場合


(参考:CISG-Japan Database「< Japanese>関連する国際契約法」)
⑤ユニドロワ原則

 申し込み(offer)は、承諾(acceptance)により、また合意を示すのに十分な行為により成立します(ユニドロワ原則2.1.1条)。申し込みは、申し込みの確定性と申込者の拘束される意思であり(ユニドロワ原則2.1.2条)、申し込みの撤回は、承諾が発信されるまでに、到達する場合にできます(ユニドロワ原則2.1.4条)。

 ただし、承諾期間が定められており、撤回不能とされている場合や撤回不能であることを信頼して行動した場合は、撤回できません(ユニドロワ原則2.1.4条2項)。

申し込みの種類

(1)確定的な申し込み(firm offer)

 確定的な申し込み(firm offer)とは申し込みの有効期間を明示して提示するものであり、

  • この期間内は、申し込みを撤回できない
  • この期間内に承諾をすることが必要となる
  • この期間内に承諾をしない場合には、申し込みの効力がなくなる

というのが一般的な対応です(「UCCに定めるfirm offer」は前述のとおり)。

(例文)
We are pleased to make the following offer, which is firm for thirty (30) days from the day of this letter.

謹んで以下の申し込みをいたします、この申し込みは本書の日付から30日間有効なものといたします。

(2)確認条件付き申し込み(offer subject to confirmation)

 承諾があっても申込者がそれを確認(confirm)するまでは契約は成立しません。
 売主の商品在庫に限りがある場合、あるいは、生産が追い付かない場合等に用いられます。

(例文)
Orders are subject to confirmation.

注文については、確認条件とします。


Offer subject to our confirmation.

申し込みは当社の最終確認条件です。

(3)先売り御免申し込み(offer subject to prior sale)

 複数の買主に同時に申し込みをして、早い者勝ちで契約をするものです。

(例文)
Offer valid till March 31, 2017, subject to prior sale.

この申し込みは2017年3月31日まで有効ですが、先売り御免条件です。

(4)価格不確定申し込み(offer subject to market fluctuations)

 市況変動の激しい商品の場合に用いられる条件で、市況が変動した場合には相手方に価格の変更を申し込めるものです。

(例文)
All prices are subject to market fluctuations.

全ての価格は、市場価格変動条件付きです。

申し込み(offer)に関わる文章

(1)申し込みする側(offeror)が用いる文章

 申し込みと撤回についての基本的な考え方を整理したところで、ここからは実際に申し込みをする際の例文を紹介します。

①確定的な申し込み(firm offer)をする場合の例文
この申し込みは5月31日まで有効です。〔firm offer〕

This offer is valid [またはopen, effective] until [またはtill] May 31,2017 [日付].


貴社の受諾を5月31日までに頂けることを条件として、下記のとおり確定の申し込みをいたします。

We are pleased to make a firm offer as follows, on condition that we receive
your acceptance by May 31,2017 [日付].

②確認条件付き申し込み(offer subject to confirmation)をする場合の例文
当社の最終確認を条件として、プラスチック射出成型機を10台、1台あたり〇〇米ドル、シンガポールまでの運賃込み(CFR)、6月船積みで申し込みいたします。

We (are pleased to) offer you ten (10) units of plastic injection machine[商品名]
at US$220,000. [金額] per unit, CFR Singapore basis, for next June shipment,
subject to our final confirmation.

(2)申し込みを受けた側(offeree)が用いる文章

 続いて、申し込みを受けた側の例文を記載します。申し込みを受けた側は、「従う」「断る」「自分の希望する条件を逆提案する(カウンター・オファーをする)」という対応が考えられます。

①申し込みに従う例
4月20日付の貴社の申し込みを受諾し、プラスチック射出成型機10台に対する当社の注文書(買約書)第123号をお送りいたします。

We are pleased to accept your offer of April 20, 2017[日付], and are sending
our Purchase Order No. 123 for ten (10) units of plastic injection machine.

②申し込みを断る例
貴社の4月20日付のプラスチック射出成型機モデル番号XL-1000に対する申し込みはお断りせざるをえません。

We have to decline your offer of April 20, 2017 [日付] for the plastic injection machine
Model No.XL-1000[商品名].

③カウンター・オファーをする例
当社が15台購入することを条件として、貴社のプラスチック射出成型機モデル番号XL-1000をシンガポールまでの運賃込み(CFR)で単価20万ドルの価格とするよう反対の申し込みをいたします。

We make you a counter offer for your plastic injection machine Model No.XL-1000 [商品名]
at the price of US$200,000 per unit on CFR Singapore basis, subject to our purchasing
fifteen (15) units of the same.

(注釈)
 実際に値下げ等の条件交渉を行う場合には、その理由などを説明する文章がこの前後に入ることになります。

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