展望 2020年の企業法務

第8回 会社法改正の成立と株主総会実務への影響

コーポレート・M&A 公開 更新

目次

  1. 会社法改正の成立
  2. 今回の会社法改正の主な経過
  3. 今回の改正の概要
    1. 株主総会に関する規律の見直し
    2. 取締役等に関する規律の見直し
    3. その他の規律の見直し
  4. 株主総会実務への影響について
    1. 取締役等の報酬にかかる規律の見直しと情報開示の拡充
    2. 会社補償・D&O保険に関する情報開示
    3. 株主提案権の濫用的行使の制限
  5. 株主総会資料の電子提供制度について
    1. 電子提供制度導入の背景
    2. 上場会社における導入
    3. 電子提供措置の概要
    4. その他
  6. まとめ

会社法改正の成立

 2019年12月4日、会社法の一部を改正する法律が成立し、今後、公布日(同年12月11日)から1年6か月以内に施行される予定です(附則1条本文)。本稿執筆時点で施行日は未定ですが、株主総会実務の関係では、来年度(2021年度)の総会に影響する可能性も十分にあり、本年度の株主総会においても、改正を見すえた情報収集と対応の検討が必要です。

 ただし、今回の改正内容のうち、株主総会実務に最も大きな影響がある株主総会資料の電子提供制度については、公布日から3年6か月以内の施行とされています(附則1条ただし書)。少し先ではありますが、実務への影響も大きいため、入念な準備が求められます。

 以下、会社法改正の経過とその概要に触れつつ、今後の株主総会実務への影響を中心に紹介します。

(*追記)2020年11月27日、「会社法施行規則等の一部を改正する省令」(令和2年11⽉27⽇法務省令第52号)が公布されました。また、今回の会社法改正のうち、株主総会資料の電子提供制度等を除く改正法の施行日は、2021年3月1日と定められました。一定の経過措置が定められていますが、取締役の個人別の報酬の決定方針の決定(改正後の会社法361条7項)については、経過措置が設けられていないため、決定義務を負う会社が施行日前に決定していない場合には、施行日以後すみやかに対応する必要があります。また、施行日以後に株主総会の招集手続を開始する会社においては、株主総会参考書類等の作成に際して、改正法に則った対応を行う必要があります。
なお、株主総会資料の電子提供制度については、2022年度内(2023年3月31日までの年度内)に施行予定とされています。

今回の会社法改正の主な経過

 2014年(平成26年)、監査等委員会設置会社制度や社外取締役の設置の一部義務付け等を導入する会社法改正が行われました(2015年5月1日施行)。前回の改正時に設けられた附則において、施行後2年経過時に企業統治にかかる制度のあり方について検討し、必要があると認めるときは、社外取締役を置くことの義務付け等の所要の措置を講ずるものとされていました(附則25条)。

 その後、コーポレートガバナンス改革の議論が急速に進むなかで、公益社団法人商事法務研究会に「会社法研究会」が設置され、論点整理や規律のあり方に関する検討が行われました。

 その議論を引き継ぐ形で、2017年2月、法務大臣が法制審議会に会社法改正に関する諮問を行い、法制審議会において会社法制(企業統治等関係)部会(部会長 神田秀樹学習院大学教授)が設置されました。同部会では、様々なバックグラウンドを有する関係者が委員・幹事となり、各論点についての検討が行われました。その後の主要な経過は、以下のとおりです。

今回の改正の概要

 今回の改正の内容は、大まかに、下記に区分されます(なお、以下は改正内容を網羅的に紹介するものではないことに留意ください)。

  1. 株主総会に関する規律の見直し
  2. 取締役等に関する規律の見直し
  3. 社債の管理や株式交付制度などその他の規律の見直し
改正内容 施行日
株主総会に関する規律の見直し 株主総会資料の電子提供制度 公布日から3年6か月以内
株主提案権の濫用的行使の制限 公布日から1年6か月以内(一部は3年6か月以内)
取締役等に関する規律の見直し 取締役の報酬等にかかる規律の見直し
会社補償や役員賠償責任保険(D&O保険)に関する規定の新設
社外取締役に関する規定の整備
その他の規律の見直し 社債の管理に関する規律の見直し
株式交付制度の創設
その他

株主総会に関する規律の見直し

 株主総会に関する規律の見直しとして、①株主総会資料の電子提供制度と、②株主提案権の濫用的行使の制限が規定されました。

(1)株主総会資料の電子提供制度

 株主総会資料の電子提供制度は、株主総会参考書類等の株主総会資料を自社のホームページ等に掲載し、株主に対してアドレスを書面で通知することにより、株主に対して電子的に提供することができる制度です(改正後の会社法325条の2〜325条の5)。

法務省民事局「会社法の一部を改正する法律の概要」を参考に編集部作成

法務省民事局「会社法の一部を改正する法律の概要」を参考に編集部作成

(2)株主提案権の濫用的行使の制限

 株主提案権の濫用的行使の制限によって、株主が同一の株主総会で提案できる議案の数の上限は10となりました(改正後の会社法305条4項・5項)。

取締役等に関する規律の見直し

 取締役等に関する規律の見直しとして、①取締役の報酬等にかかる規律の見直し、②会社補償やD&O保険に関する規定の新設、③社外取締役に関する規定の整備等が行われました。

(1)取締役の報酬等にかかる規律の見直し

 取締役の報酬等に関して、下記事項の義務付け等が定められました。詳細は 4-1をご参照ください。 

  • 上場会社における取締役の報酬等の決定方針の義務付け(改正後の会社法361条7項)
  • 株式や新株予約権を報酬等として付与する場合の株主総会決議事項の具体化(改正後の会社法361条1項)
  • 事業報告における報酬等の決定方針や個人別報酬等の決定の代表取締役に対する委任などの事項の開示

(2)会社補償やD&O保険に関する規定の新設

 役員等が職務の執行に関して責任追及を受けるなどして生じた費用等を会社が補償すること(会社補償)については、明文の規定がなかったため、新たに規定が設けられ、会社補償を行うために必要な手続や、情報開示の義務等が定められました(改正後の会社法430条の2)。同様に、D&O保険についても新たに規定が設けられ、必要な手続等が定められました(改正後の会社法430条の3)。詳細は 4-2をご参照ください。

法務省民事局「会社法の一部を改正する法律の概要」を参考に編集部作成

法務省民事局「会社法の一部を改正する法律の概要」を参考に編集部作成

(3)社外取締役に関する規定の整備

 上場会社について、社外取締役の設置が義務付けられることとなりました(改正後の会社法327条の2)。もっとも、上場会社についてはほとんどの会社がすでに社外取締役を設置しており、実務への影響は限定的と考えられます 1。また、社外取締役が取締役会から委託された業務を執行した場合に社外性を失わないものとする規定が設けられました(改正後の会社法348条の2)。

法務省民事局「会社法の一部を改正する法律の概要」を参考に編集部作成

法務省民事局「会社法の一部を改正する法律の概要」を参考に編集部作成

その他の規律の見直し

 その他の規律の見直しのうち、主要なものとして、①社債の管理に関する規律の見直し、②株式交付制度の創設が行われました。

(1)社債の管理に関する規律の見直し

 社債の管理に関し、現行法上の社債管理者の責任が重く、なり手の確保が難しい等との指摘があったことから、社債権者が自ら社債を管理する場合を前提に、社債管理者よりも権限を限定した社債管理補助者の制度が新たに設けられました(改正後の会社法714条の2〜714条の4等)。

法務省民事局「会社法の一部を改正する法律の概要」を参考に編集部作成

法務省民事局「会社法の一部を改正する法律の概要」を参考に編集部作成

(2)株式交付制度の創設

 株式会社が他の株式会社を子会社とする場合に、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる株式交付制度が新たに設けられました(改正後の会社法2条32号の2、774条の2〜774条の11、816条の2〜816条の10)。これは、現行法上の株式交換の制度は完全子会社化を行う場合にしか利用できず、また、新株発行と株式の現物出資と新株発行の構成を取る場合は手続が複雑でコストがかかるとの指摘がされていたことを背景としたものです。

法務省民事局「会社法の一部を改正する法律の概要」を参考に編集部作成

法務省民事局「会社法の一部を改正する法律の概要」を参考に編集部作成

(3)その他の改正事項

 その他、下記の改正が行われました。議決権行使書面の閲覧謄写請求については、濫用的な目的による請求が行われるおそれが指摘されていましたが、株主名簿の閲覧謄写請求の場合と同様の規律となり、株主は請求の理由を明らかにしなければならず、会社は一定の場合に当該請求を拒絶できる旨が明文化されました(改正後の会社法311条5項)。

  • 取締役の責任追及等の訴えにおいて和解をする場合に監査役等の同意を必要とした(改正後の会社法849条の2)
  • 議決権行使書面の閲覧請求に関して会社による拒絶事由が明文化された(改正後の会社法311条4項、5項)
  • 新株予約権の登記事項の変更(改正後の会社法911条)
  • 支店の所在地での支店登記の廃止(会社法930条〜932条の削除)
  • 取締役等の欠格条項の削除およびこれに伴う規律の整備(改正後の会社法331条1項、331条の2)等

株主総会実務への影響について

 株主総会実務に与える影響としては、当面、取締役の報酬等の規律の見直しに伴う対応や、事業報告における開示事項の拡充への対応が主要なトピックになると思われます。株主提案権の濫用的行使の制限については、来年の施行が見込まれますが、近時の動向からすれば、適用場面は限定的でしょう。
 なお、公布日から3年6か月以内の施行となる株主総会資料の電子提供制度については、後記5で概要を紹介します。

取締役等の報酬にかかる規律の見直しと情報開示の拡充

(1)報酬等の決定方針の決定

 現行の会社法では、指名委員会等設置会社では報酬等の決定方針を決定しなければならないとされていました(会社法409条1項)。

 今回の改正により、下記の会社についても、定款または株主総会決議による会社法361条1項各号に定める取締役の報酬等の定めがある場合、報酬等の決定方針として、法務省令で定める事項を決定しなければならないとされました(改正後の会社法361条7項)。

  1. 監査役会設置会社(公開会社かつ大会社に限る)であって、金融商品取引法24条1項に基づき有価証券報告書の提出義務を負う会社
  2. 監査等委員会設置会社

 ただし、コーポレートガバナンス・コードにおいても情報開示が求められていた事項であり(原則 3-1)、対応済みの上場会社も多いと思われます。

 報酬等の決定方針の詳細は、今後、法務省令において規定されますが、取締役の個人別の報酬等についての報酬等の種類ごとの比率にかかる決定の方針、業績連動報酬等の有無およびその内容にかかる決定の方針、取締役の個人別の報酬等の内容にかかる決定の方法(代表取締役に決定を再一任するかどうか等を含む)等が含まれる予定です。報酬制度の設計を検討している会社においては、これらの開示が求められる項目に留意しておく必要があります。

(*追記)改正会社法施行規則において、取締役の個人別の報酬等の決定方針の決定に関して、取締役会において具体的に決定すべき事項として、以下の内容が定められました(改正後の会社法施行規則98条の5)。
1号 取締役の個人別の報酬等の額またはその算定方法の決定に関する方針
2号 業績連動報酬等がある場合には、業績指標の内容、業績連動報酬等の額または数の算定方法の決定に関する方針
3号 非金銭報酬等がある場合には、その内容、当該非金銭報酬等の額もしくは数またはその算定方法の決定に関する方針
4号 報酬等の額、業績連動報酬等の額または非金銭報酬等の額の取締役の個人別の報酬等の額に対する割合の決定に関する方針
5号 報酬等を与える時期または条件の決定に関する方針
6号 取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の全部または一部を取締役その他の第三者に委任することとするときは、

イ 委任を受ける者の氏名または当該株式会社における地位・担当

ロ 委任する権限の内容

ハ 権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容

7号 取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の方法(前号以外)
8号 その他重要な事項

(2)株主総会における説明義務

 現行の会社法では、会社法361条1項2号または3号の報酬(不確定額報酬または非金銭報酬)に関する議案の内容を定め、または改定する議案を提出する場合、取締役はその報酬議案の事項を「相当とする理由」の説明が求められます(会社法361条2項)。今回の改正により、会社法361条1項1号の確定額報酬に関しても、当該事項を「相当とする理由」の説明が求められることになりました(改正後の会社法361条4項)

 立法過程では、取締役の報酬に関して、従来のお手盛り防止の見地に加えて、取締役への適切なインセンティブの付与となっているかを株主が適切に判断できるよう、株主総会における説明義務の対象として前記(1)に述べた「報酬等の決定方針」を含めるか否かが議論されました。最終的には、「報酬等の決定方針」自体は説明義務の対象とはされませんでしたが、報酬等に関する議案を株主総会に提出する場合、その後に決定される「報酬等の決定方針」を踏まえてその内容を決定すると考えられることから、上記の「相当とする理由」の説明において、決定しようとする「報酬等の決定方針」の概要の説明が求められることになります。

(3)事業報告における報酬等の情報開示の拡充

 役員の報酬等について、現在の事業報告における開示の内容が不十分であり、これを充実するための見直しをすべきであると指摘されていました。
 今後、法務省令において公開会社は下記の事項等に関し、事業報告に記載が求められることになり、情報開示の充実が図られることになる予定です。

  • 報酬等の決定方針に関する事項
  • 報酬等についての株主総会の決議に関する事項
  • 取締役会の決議による報酬等の決定の委任に関する事項
  • 業績連動報酬等に関する事項
  • 職務執行の対価として株式会社が交付した株式または新株予約権等に関する事項
  • 報酬等の種類
(*追記)改正会社法施行規則において、取締役の個人別の報酬等の決定方針の決定に関する事業報告記載事項として、以下の内容が定められました(改正後の会社法施行規則121条4号~6号の3)。取締役会で決定しなければならない事項(会社法施行規則98条の5)と連動した内容となっています。
4号・5号 報酬等の総額(業績連動報酬等、非金銭報酬等、それら以外の報酬等を分けて記載する)
5号の2 業績連動報酬等に関して、業績指標の内容・業績指標を選定した理由、業績連動報酬等の額または数の算定方法、業績連動報酬等の算定に用いた業績指標に関する実績
5号の3 非金銭報酬等がある場合は、当該非金銭報酬等の内容
5号の4 報酬等についての定款の定めまたは株主総会の決議による定めに関して、定めを設けた日または決議日、当該定めの内容の概要、当該定めに係る会社役員の員数
6号 取締役の報酬等の決定方針を定めているときは、当該方針の決定の方法、当該方針の内容の概要、個人別の報酬等の内容が当該方針に沿うものであると取締役会が判断した理由
6号の2 (6号の方針以外の)会社役員の報酬等の決定方針の概要
6号の3 取締役の個人別の報酬等の内容についての決定の再一任を行っている場合には、委任を受けた者の氏名または当該株式会社における地位・担当、委任された権限の内容、権限を委任した理由、権限が適切に行使されるようにするための措置を講ずることとするときは、その内容

会社補償・D&O保険に関する情報開示

 会社補償(改正後の会社法430条の2)について、役員との間に補償契約がある場合、法務省令において下記の事項等を事業報告に記載することが求められることとなる予定です。

  • 当該役員の氏名や補償契約の内容
  • 役員に費用や損失を補償した場合にはその旨
  • 損失の補償金額等

 また、D&O保険にかかる契約(役員等賠償責任保険契約)(改正後の会社法430条の3)がある場合、法務省令において下記の事項等を事業報告に記載することが求められる予定です。

  • 被保険者
  • 保険契約の内容の概要(役員等による保険料の負担割合、塡補の対象とされる保険事故の概要等)
(*追記)会社補償については改正会社法施行規則121条3号の2~3号の4において、また、D&O保険に係る契約(役員等賠償責任保険契約)については改正会社法施行規則121条の2第1号~第2号において、それぞれ事業報告における記載事項の項目が規定されました。内容は、概ね上記項目のとおりですが、いずれについても、役員の「職務の執行の適正性が損なわれないようにするための措置を講じている場合にあっては、その内容」について記載を要する点に留意が必要です。

株主提案権の濫用的行使の制限

(1)背景

 近年、個人の株主により膨大な数の議案が提案されたり、株主から会社を困惑させる目的で議案が提出されたりするなど、株主提案権が濫用的に行使される事例が見られました 2。これにより、株主総会における審議時間等が無駄に割かれ、株主総会の意思決定機関としての機能が害されたり、株主総会における検討や招集通知の印刷等に要するコストが増加したりする弊害が生ずることが指摘されていました。

(2)提案の個数制限

   今回の改正により、株主が会社法305条1項に基づき株主提案権を行使し、同一の株主総会に提案することができる議案の数は10個に制限されることとなりました(改正後の会社法305条4項)。

(3) 議案数の数え方

 役員等(取締役・会計参与・監査役または会計監査人)の選解任等議案は、役員等の数にかかわらず1つと数え、制限議案数に含めて数えることとなります。

 定款変更議案については、従前、関連性のない多数の条項を追加する定款変更議案であっても、株主が当該議案を分けて提案しない場合は、形式的には1つの議案として扱われる場合がありました。これが1つの議案として扱えることになると、議案数の制限の潜脱が容易になってしまいます。そこで、改正法では、「2以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には、これらを1の議案とみなす」と定めることとされました(改正後の会社法305条4項4号)。相互に矛盾するか否かの判断は、解釈に委ねられることになります。

(4)上限を超えた提案

 上限を超える数の議案が提案された場合、会社は上限超過部分の提案を拒絶することができます。上限を超える数の議案の決定方法について、株主が議案の優先順位を定めていない場合は取締役が定める順位に従い、株主が優先順位を定めた場合は、その順位に従うこととなります(改正後の会社法305条5項)。

(5)国会での議論

 国会に提出された改正法案では、株主提案権に関して、もっぱら人の名誉を侵害し、侮辱する等の目的でなされた場合や、株主総会の適切な運営が著しく妨げられ、株主の共同の利益が害されるおそれがあると認められる場合には、会社は株主提案を認めないとする明文の規定が置かれていましたが、審議過程で削除されることとなりました。ただし、濫用的な株主提案権の行使を拒否できる場合があること自体が否定されたものではありません。

株主総会資料の電子提供制度について

 公布日から3年6か月以内の施行と、施行日は少し先となりますが、今回の改正会社法で新たに規定された株主総会資料の電子提供制度について、その概要を説明します。

電子提供制度導入の背景

 現行の会社法では、株主総会の招集通知に際し、原則として株主総会参考書類や計算書類等の資料(以下「株主総会資料」という)を書面で交付しなければならないとされています(会社法301条1項)。例外的に、株主の個別の承諾(会社法299条3項)を得た場合には電磁的方法による通知も許容されていますが(会社法301条2項、302条2項)、実務において広く利用される状況には至っていません。これらの資料を紙媒体に印刷して郵送するコストの問題が指摘されており、インターネットを活用した株主総会の電子化プロセスを促進させる必要があると認識されていました。

 今回の改正会社法で導入された電子提供制度は、定款に電子提供措置を採用する旨を定めた会社が、株主総会資料を自社のウェブサイト等を通じて提供した場合、株主に対して適法に提供したものとする制度です(改正後の会社法325条の2)。

 電子提供制度の導入により、株主総会資料の印刷、郵送にかかる会社の負担が軽減されるうえに、紙媒体の制約がなくなることで、より充実した情報開示が期待されます。ただし、デジタル・デバイドの問題を避けるため、株主に書面交付請求権(株主総会資料を書面で提供するよう求める権利)が認められており(改正後の会社法325条の5)、依然として、紙媒体の株主総会資料制作は必要です。

上場会社における導入

 電子提供制度は、既存の上場会社に一斉に適用される想定であり、振替株式の要件として、定款に電子提供措置をとる会社の株式であることが追加され、電子提供制度の導入が義務付けられることとなりました(会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(整備法)9条)。
 また、当該制度にかかる改正の施行に伴い、上場会社は、電子提供制度をとる旨の定款の定めを設ける定款変更の決議をしたものとみなされます(整備法10条2項)。

電子提供措置の概要

 電子提供措置をとる場合、下記の事項などを、自社のウェブサイト等に掲載し、株主に提供しなければなりません。

  • 株主総会招集時の決定事項
  • 株主総会参考書類および議決権行使書面に記載すべき事項
  • (定時株主総会の場合)計算書類および事業報告に記載された事項
  • 株主提案がある場合にはその議案の要領など

 提供期間は、株主総会の日の3週間前の日または招集通知の発送日のいずれか早い日から、株主総会の日の後3か月を経過する日までの間です(改正後の会社法325条の3第1項)。

 電子提供措置をとる場合でも、株主総会の日の2週間前までに、株主総会招集通知を発送しなければなりません(改正後の会社法325条の4第1項)。この株主総会招集通知には、株主総会の日時・場所等のほか、電子提供措置をとっている旨が記載され(同条2項)、法務省令において、その情報を掲載するウェブサイトのアドレスを記載することが定められる見込みです。

 なお、株主総会の招集通知に際して株主に議決権行使書面を交付する場合には、議決権行使書面に記載すべき事項について、電子提供措置をとることを要しません(会社法325条の3第2項)。

 現在の上場会社の実務においても、株主総会の日の3週間前の日までには招集通知の原稿が完成していることが多いと推察され、株主総会開催に向けた準備スケジュールが大幅に前倒しされることはないと思われます。もっとも、株主総会参考書類の内容について、より一層の充実が図られる方向で検討が進むことが予想されます。

その他

 電子提供措置をとる会社の株主は、電子提供措置事項を記載した書面の交付を請求することができます(書面交付請求)(改正後の会社法325条の5)。また、電子提供措置に中断が生じた場合でも、会社が善意無重過失または正当な事由があり、中断を生じた時間が電子提供措置期間の10分の1を超えない場合等、所定の場合には電子提供措置の効力に影響を及ぼさないこととされました(改正後の会社法325条の6)。

まとめ

 株主総会実務との関係でも、取締役の報酬等の規律の見直しに伴い、報酬関連事項の事業報告への記載事項が拡充され、株主総会当日における取締役の説明義務が重くなるものと考えられます。コーポレートガバナンス・コードにおいても業績連動性や自社株報酬を適切に設定することが求められており(補充原則4-2①)、投資家の関心も高い事項であることから、株主に対してより丁寧な説明が求められるようになるものと考えられます。
 また、少し先になりますが、株主総会資料の電子提供制度は、株主総会資料の提供方法を大きく変更するものとなります。現在でも、自社ウェブサイト等において、株主総会資料を任意に掲載している例は少なくありませんので、株主総会実務が大きく変わるということではありませんが、投資家からは、株主総会資料の内容の充実化と早期提供が強く要請されており、電子提供制度の開始とともに、情報開示の範囲がより広くなっていくことも予想されます。制度開始に向けて、インフラ面の整備を行うと同時に、株主に対する情報開示の在り方についての実質的な検討も必要となるでしょう。

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<追記>
2021年2月3日:「会社法施行規則等の一部を改正する省令」(令和2年11月27日法務省令第52号)の公布を受けて、記事の一部に加筆を行いました。

  1. 東証上場会社の98.4%(市場第一部においては99.9%)は社外取締役を置いている(法務省「会社法の一部を改正する法律の概要」より)。 ↩︎

  2. たとえば野村ホールディングスの2012年の定時株主総会では個人株主が100個の株主提案を行なっている。参考:野村ホールディングス株式会社「第108回 定時株主総会招集ご通知」 ↩︎

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