展望 2020年の企業法務

第1回 スタートアップ法務の2020年のトレンド ベンチャー・ファイナンスから法規制の動向まで

法務部
草原 敦夫弁護士 READYFOR株式会社

目次

  1. スタートアップ ×「お金」
  2. スタートアップ × オープンイノベーション等
  3. スタートアップ × M&A
  4. スタートアップ × データ
  5. スタートアップ × 法規制
    1. 著作権法
    2. 資金決済法
    3. デジタル・プラットフォーマー規制
  6. スタートアップ × ルールメイキング
  7. さいごに

 本稿では、2019年のスタートアップ法務に関する動向を振り返りつつ、2020年のスタートアップ法務に関する私なりの展望を述べます。

スタートアップ ×「お金」

 2019年は、グロービス・キャピタル・パートナーズによる400億円規模の新ファンドの設立など、VC(ベンチャー・キャピタル)による大型ファンドの組成のニュースが相次ぎました。オリンピックイヤーである2020年は景気が後退するとの見方もありますが、後述するCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)活動の活発化も併せて考えると、ただちにスタートアップの資金調達環境が悪化するものではないと考えられます

 スタートアップは、特にアーリー期以降においては、優先株式(残余財産優先分配権などが定められた種類株式)を発行して資金調達を行うことが一般的ですが、昨今、シード期のスタートアップを中心にJ-KISSとよばれる新株予約権を発行して資金調達を行う事例も増加しています。
 スタートアップが株式を発行する場合、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく事前届出審査についても注意する必要があります
 これは、外国投資家が事前届出業種を実施する企業に対内直接投資等を行う場合の事前届出を義務付け、法定期間 1 が経過するまで株式投資等を禁止する制度です。
 2019年5月27日に外国為替及び外国貿易法(外為法)の対内直接投資等に関する事前届出業種の追加等を行う改正告示が発表され、IT関連の幅広い業種が事前届出対象業種に追加された 2 ことで、多くのスタートアップの実施する業種が事前届出業種に該当することになりました。この規制変更に対しては、国内のスタートアップへの投資を停滞させるなどとして、スタートアップ業界を中心に強い懸念の声が上がりました。
 これを受けて、同年11月14日に成立した外為法の改正法では、事前届出の免除制度が新設されましたが(本記事執筆時点では未施行)、実際に免除されるかは個別の案件ごとに判断されることになります。
 そのため、スタートアップにとっては、VC等から株式投資を受ける際、自社の業種分類が事前届出業種に該当するかや、投資家が外国投資家に該当するかを確認したうえでスケジュールを検討することが必要となります

 また、スタートアップの資金調達に関連しうるところとして、2019年5月31日にはICO(イニシャル・コイン・オファリング)3 に関する法整備を含む金融商品取引法の改正法が成立しています。本記事執筆時点では、投資型のICOで発行されるトークン(セキュリティ・トークン)が金融商品取引法上の「有価証券」に該当することを前提に、いかなる条件の下で(第一項有価証券と比較して開示規制が緩やかな)第二項有価証券と整理されるかなどが検討されています。ただちにICOがスタートアップの主力な資金調達手法となるかはさておき、将来的には魅力的な選択肢の1つとなりうるため、その規制動向は気になるところです。

スタートアップ × オープンイノベーション等

 昨今、大企業において従来の自前主義を脱却し、スタートアップと連携してその技術や成長力を取り込む重要性が高まっていることなどを背景に、事業会社が社外のスタートアップに対して投資を行うCVC活動が活発化しています。
 与党が公表した「令和2年度税制改正大綱」では、「オープンイノベーションに係る措置」としてスタートアップへの出資に関する税制上の優遇措置を創設するとされていますが、こうした措置の後押しもあり、2020年も引き続きCVCによる出資が活発に行われると考えられます。

 スタートアップにとって、CVCからの出資の受入れは、運転資金の調達にとどまらず、大企業の持つ販路やマーケティング力等を活用して自社の事業を拡大する契機となりえます。他方、通常のVCが主に財務上のリターンを追求するのに対し、CVCは事業シナジーの見込めるスタートアップを選別して投資を実行することが一般的です。そのため、CVCから出資を受け入れる場合、投資契約等において、大企業との事業提携の実施や、その大企業の競合会社との取引の制限などを定めることを求められる場合もあります。スタートアップにとっては、将来の事業戦略を必要以上に狭めることにならないか、注意を要します

 また、CVCの出資案件では、マイノリティ出資であるにもかかわらず、大企業側から、ガバナンス強化などの名目で、広汎な事項を事前承諾/通知事項として定めることや、厳格な報告義務を負うことを求められる場合もあります。スタートアップにとっては、経営管理コストが過大にならないように注意する必要があります。

 なお、昨今、企業経営にSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)を取り込むことが求められ、財務的リターンと並行して社会的・環境的インパクトをも生み出すことを意図したインパクト投資の市場規模も急速に拡大しています。2020年は、社会課題の解決に取り組むスタートアップを中心に、SDGsへの貢献も念頭に置いた大企業からの出資や、インパクト投資ファンドからの出資を受け入れる案件も増加すると考えられます

スタートアップ × M&A

 日本は、2013年頃から「第4次ベンチャーブーム」にあるといわれており、2019年は特に年末にかけて、注目されていたスタートアップのIPOが続きました。その一方、スタートアップのM&A案件も増加しており、救済的な後ろ向きの案件や、成長加速を目的とした前向きの案件など、背景はさまざま考えられるにせよ、2020年もこの傾向は続くと考えられます。

 スタートアップのM&Aについては、いくつか留意点があります。まず、スタートアップが優先株式を発行している場合、株主間契約等において、Liquidation Preference(残余財産の優先分配ルール)に従って各株主の得られる買収対価を決定する旨が合意されていることが一般的であるため、この点に留意して株式譲渡契約等が作成される必要があります

 また、スタートアップが役職員などにストックオプションを発行している場合、M&Aにより、IPO後のストックオプションの行使が事実上困難となることから、オプション保有者に対して普通株式から新株予約権の行使価格を差し引いた額を支払うなど、適切な処理が行われる必要があります。ストックオプションの適切な処理がなされない場合には、買収後に不満を持った従業員の離反を招き、結果的に買収の目的を達成できない場合もありうるでしょう。

 さらに、スタートアップの企業価値の源泉が経営陣に紐づいている場合も少なくありません。そのため、株式譲渡契約等において経営陣について一定年数のロックアップ条項が定められることも少なくありませんが、これに加え、買収後の事業成長へのインセンティブを設計することも検討に値します。具体的には、株式譲渡契約等において、買収後の業績等に基づき経営陣に業績連動報酬を支払う旨を合意することや、株式の譲渡価額についてアーンアウト条項(買収後の業績等に基づき譲渡価格を修正する条項)を定めることなどが考えられます。

スタートアップ × データ

 2019年は、株式会社リクルートキャリアが利用企業に対して内定辞退率を提供するサービスを行っていたことに端を発し、個人情報保護委員会が同社に対して2度にわたって勧告を行うとともに、サービス利用企業に対して指導を行うなどの事態に発展しました。

 データは「新時代の石油」といわれることもありますが、スタートアップにとっても、データの利活用は事業戦略上の重要課題の1つです。データの取扱いに関しては、当然ながら、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)を遵守することが求められますが、2020年は、同法について法改正が予定されています。2019年11月29日に個人情報保護委員会が公表した個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱」では、保有個人データの利用停止・消去の請求、第三者提供の停止の請求に係る要件の緩和や、一定の類型に該当する個人データ漏えい等に係る報告の義務化が盛り込まれるなど、事業者の守るべき責務を加重する方針が示されています。他方、個人情報と匿名加工情報の間の中間的規律についての経済界からの要望を踏まえ、一定の安全性を確保しつつ、イノベーションを促進する観点から「仮名化情報(仮称)」を導入するとされており、注目に値します。

 個人情報の取扱いに関しては、「本人の同意」ひとつとっても、プライバシーポリシーの定め方のほか、プライバシーポリシーの内容に関する適正な同意取得のあり方、事後的な同意の取消しに関する対応方針など、検討事項は少なくありません。また、AIスピーカーのように家族で使う機器については、そもそも「本人」をどのように考えたらよいかが判然としないとの指摘もされています。
 また、ビッグデータの利活用が進むに伴い、データプロファイリングによるセンシティブ情報の推知の問題や、信用スコアの低い人が理由もわからないまま仮想空間上で排除される「バーチャル・スラム」の問題、AIにより最適化された情報提供に関する「フィルター・バブル」(情報の選択肢制限)の問題なども提起されています。
 高度なデータ活用社会においては、プライバシー権や自己情報コントロール権に関する検討事項が次々と惹起され、適用法令さえ遵守していれば社会的な要請に応えているとも言い切れないことには注意が必要です

 なお、プライバシー保護法制の厳格化は世界的な動向であり、2020年1月からはカリフォルニア州においてCCPA(消費者プライバシー法)が施行されました。海外でも事業を展開しているスタートアップにおいては、EUのGDPR(一般データ保護規則)などとあわせて、その対応が必要となる可能性があります

スタートアップ × 法規制

著作権法

 2019年2月13日に文化庁の文化審議会著作権分科会が報告書を公表すると、創作物の適正な流通を阻害し、また、将来の創作を阻害するおそれが強いなどとして、多くの有識者やクリエイター、ネットユーザー等から批判や懸念が示されました。

 結果的に著作権法改正は見送られましたが、すでに「侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会」による検討が開始されており、特にメディアやコンテンツプラットフォーム等を運営しているスタートアップは、その動向を注視する必要があります。

資金決済法

 また、2019年は、金融庁の金融審議会「金融制度スタディ・グループ」や「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」が開催され、資金移動業や前払式支払手段などに関する規制の見直しが議論されました。

 この中では、ECモールやシェアリングエコノミー事業者などが幅広く用いている収納代行について為替取引に関する規制を適用することについても議論がなされました。金融審議会「決済法制及び金融サービス仲介法制に関するワーキング・グループ」報告では、個人間の収納代行の形式をとっているサービスのうち、割り勘アプリのようなサービスについては為替取引に関する規制の適用対象となることを明確化することが必要とされた一方、エスクローサービスについては直ちに制度整備を図ることは必ずしも適当でないとされています。ただし、具体的な規制の適用対象は必ずしも明らかでなく、その対象範囲によっては、事業に大きな支障が生じるスタートアップも出てくることが懸念されます。

デジタル・プラットフォーマー規制

 経済産業省、公正取引委員会及び総務省は、「デジタル・プラットフォーマーをめぐる取引環境整備に関する検討会」を設置し、2018年12月18日に「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」を公表しました。
 2019年は、同原則を踏まえ、公正取引委員会などを中心にデジタル・プラットフォーム事業者に対する規制について検討が行われました。

 特に実務に波紋が広がったのは、公正取引委員会が2019年8月29日に公表した「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」でした。
 このなかで、デジタル・プラットフォーマーによる一定の個人情報の取扱いが優越的地位の濫用として問題となるとの考え方が示されると、適用対象の不明確さや、規制を行う背景事実が存在しないことなどを理由として経団連(一般社団法人日本経済団体連合会)が詳細な反対意見を表明するなど、経済界を中心に強い反対の声が上がりました。
 公正取引委員会は、原案に対する意見を踏まえた一部追記等を行ったうえで、2019年12月17日に「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」を公表しています。

 プラットフォームを運営するスタートアップにとっても、データの集積・利活用を推進して競争上の優位性を獲得することは合理的な経営戦略でありうる以上、今後の規制動向について注視する必要があると考えられます。

スタートアップ × ルールメイキング

 従前も、金融領域でスタートアップがグレーゾーン解消制度を利用して自社事業の適法性に関する回答を得た事例 4 などが存在しましたが、2019年は、保険分野のスタートアップが生産性向上特別措置法に基づきサンドボックス認定を取得したことが公表されました 52020年も、規制領域においてイノベーションを目指すスタートアップが、法律が予定していない領域(グレーゾーン)でのビジネス拡大を目指し、戦略的にグレーゾーン解消制度 6 や規制のサンドボックス制度 7 を活用する事例が出てくると考えられます

 2019年11月19日に公表された「国際競争力強化に向けた 日本企業の法務機能の在り方研究会 報告書~令和時代に必要な法務機能・法務人材とは~」は、法務機能には事業の可能な領域を広げる「クリエーション機能 8」が含まれると指摘しています。特にグレーゾーンでのビジネス拡大を目指すスタートアップにとっては、クリエーション機能が適切に発揮されることは成長加速のために不可欠といえます。
 クリエーション機能を発揮し、ルールにチャレンジするためには、立法過程に遡って立法事実を調査するなどして、精緻にロジックを立てる必要があります。また、トラブルの未然防止などのユーザー保護の仕組みを整備して「サービスの安心・安全」を実現することで、規制の必要性がないことを示す必要もあると考えられます。この点に関しては、同業他社と業界団体を組成し、自主規制を行うことなども一考に値するでしょう

さいごに

 第4次産業革命により生産性向上や経済成長を実現するために、イノベーションの担い手として、スタートアップに大きな期待が寄せられています。

 その一方、スタートアップの事業が高度化・複雑化するほど、リスクマネジメントの難易度も上がり、やみくもに売上や利益の拡大を目指すだけでは持続的に事業・組織を成長させることは望めなくなります。
 事業上のリスクを適切にコントロールするうえで、ステークホルダーの権利利益への配慮や、ビジネスにおけるインテグリティの実現、コンプライアンス体制の整備などを無視できないことは、スタートアップも例外ではありません。

 2019年7月には、スタートアップが社外の高度人材を機動的に起用できるように、弁護士を含む社外人材に対するストックオプション税制の適用対象が拡大されました。スタートアップの法務の重要性がいっそう認識されるとともに、今後、このような制度も有効活用され、スタートアップへの法的助言を行う弁護士がますます増えることが期待されます。

 また、社外の人材活用のみならず、弁護士、法務部員等の法務人材がスタートアップに参画し、スタートアップの一員としてその戦略策定や意思決定に積極的に関与し、法的知見をスタートアップの事業成長に活かす事例が一層増加することも期待されます。このような人材の移動は、スタートアップの法務機能を強化し、ひいてはその成長を加速させると信じてやみません。そうであるとすれば、法務人材のスタートアップの参画は、マクロの視点で見ても、1つの望ましい人材配置のあり方だといえるのではないでしょうか。


  1. 原則として届出書の受理日から起算して30日間。 ↩︎

  2. 情報処理関連の機器・部品製造業種として10業種、情報処理関連のソフトウェア製造業種として3業種、情報通信サービス関連業種として7業種が追加等(対象範囲の拡大を含む)されています。詳細については、財務省報道発表「対内直接投資等に係る事前届出対象業種の追加等を行います」追加等する業種をご参照ください。 ↩︎

  3. 一般に、企業等がトークンと呼ばれるものを電子的に発行して、公衆から法定通貨や仮想通貨の調達を行う行為の総称をいう。 ↩︎

  4. 経済産業省「グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対し回答がありました」(2018年12月20日公表) ↩︎

  5. 株式会社justInCase「少額短期保険業者のjustInCase、P2P保険のサンドボックス認定を取得」(2019年8月6日公表) ↩︎

  6. 現行の規制の適用範囲が不明確な場合でも、事業者が安心して新事業活動を行うことができるよう、具体的な事業計画に即してあらかじめ規制の適用の有無を確認できる制度。 ↩︎

  7. AI、IoT、ブロックチェーン等の革新的な技術やビジネスモデルの実用化の可能性を検証し、実証により得られたデータを用いて規制の見直しにつなげる制度。 ↩︎

  8. 法令等のルールや解釈が時代とともに変化することを前提に、「現行のルールや解釈を分析し、適切に(再)解釈することで当該ルール・解釈が予定していない領域において、事業が踏み込める領域を広げたり、そもそもルール自体を新たに構築・変更する機能」。 ↩︎

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