株主総会実務や開示実務等に関して今後検討される法令・制度改正について

コーポレート・M&A

目次

  1. 有価証券報告書に基づく情報開示
    1. 人的資本投資に関する開示の充実、有価証券報告書の記載事項の整理(スリム化)について
    2. サステナビリティ情報の開示について
  2. コーポレートガバナンス・コードの改訂
    1. 有報の総会前開示に向けた環境整備について
    2. 「稼ぐ力」の向上に資するコーポレートガバナンス改革について
  3. 会社法の改正
    1. バーチャルオンリー株主総会の活用に向けた環境整備
    2. 実質株主確認制度の導入、株主提案権の行使要件の廃止の要否

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.233」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 本稿では、株主総会実務や開示実務等に影響が生じうる、今後検討される法令・制度改正を官公庁の公表資料に基づきご紹介いたします。

有価証券報告書に基づく情報開示

人的資本投資に関する開示の充実、有価証券報告書の記載事項の整理(スリム化)について

 人的資本投資に関する開示の充実、有価証券報告書の記載事項の整理(スリム化)について金融庁より6月30日に公表された「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム 2025」(以下、「アクションプログラム2025」)において、有報に関する検討事項として、以下の事項が挙げられています。

  • 人的資本への投資に関する開示を充実させる観点から、有価証券報告書における従業員給与・報酬に関する記載事項を集約するとともに、新たに企業戦略と関連付けた人材戦略や従業員給与・報酬の決定に関する方針、従業員給与の平均額の前年比増減率等の開示を求める
  • 投資判断への有用性と企業負担のバランスに配慮する観点から、有価証券報告書の記載事項の整理(スリム化含む)を検討する。

(出所)アクションプログラム2025より三菱UFJ信託銀行作成

サステナビリティ情報の開示について

 金融庁の金融審議会より7月17日に公表された「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ中間論点整理」では、プライム市場上場企業を対象に、時価総額の大きな企業から順次、SSBJ基準に準拠して有報を作成することを義務付け、SSBJ基準の適用開始時期の翌期から第三者保証を義務付けるロードマップが示されています。

  • SSBJ基準の適用開始時期は、企業等の準備期間を考慮し、以下を基本とする。
     i. 時価総額3兆円以上の企業 : 2027年3月期
     ii. 時価総額3兆円未満1兆円以上の企業 : 2028年3月期
     iii. 時価総額1兆円未満5千億円以上の企業 : 2029年3月期
    ただし、iii.の適用時期は、国内外の動向等を注視しつつ、引き続き検討していく。
  • 第三者保証については、開示基準の適用開始時期の翌期から義務付け。
  • 保証水準は限定的保証(合理的保証への移行の検討は行わない)、保証範囲は当初2年間はScope1・2のGHG排出量情報、ガバナンス及びリスク管理(3年目以降は国際動向等を踏まえ今後検討)とし、保証の担い手は引き続き検討していく

(出所)「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ中間論点整理」より三菱UFJ信託銀行作成

コーポレートガバナンス・コードの改訂

有報の総会前開示に向けた環境整備について

 アクションプログラム2025では、有報の総会前開示を促進することを目的として、コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)の見直しを含む環境整備が検討事項として挙げられています。

  • 上場企業の総会前開示の取組を更に促すべく、総会前開示に係る要請を受けた企業の対応状況を有価証券報告書レビューによりフォローアップしつつ、コーポレートガバナンス・コードの見直し等を検討するとともに、環境整備に向け制度横断的な検討を進める。

(出所)アクションプログラム2025より三菱UFJ信託銀行作成

「稼ぐ力」の向上に資するコーポレートガバナンス改革について

 アクションプログラム2025では、「稼ぐ力」の向上に資するコーポレートガバナンス改革推進の重要性が謳われており、以下の点に留意したCGコードの見直しが検討事項として挙げられています。

  • 持続的な成長の実現に向けた経営資源の最適な配分の実現のため、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識した取締役会の実効的な監督や更なる開示が促進されるよう、以下の点にも留意しつつ、コーポレートガバナンス・コードの見直し等を検討する。
    1.  経営資源の配分先には、設備投資・研究開発投資・地方拠点の整備等・スタートアップ等を含む成長投資、人的資本や知的財産への投資等、様々な投資先が考えられ、これらの多様な投資機会があることを認識することが重要である。
       このうち、知的財産等の無形資産への投資については、コーポレートガバナンス・コードと整合的な取組の促進に向け、引き続き関係機関との連携や事例の共有を進める。
    2.  投資等のための経営資源の配分(上記①)に関し、現状の資源配分が適切かを不断に検証しているか、例えば現預金を投資等に有効活用できているかの検証・説明責任の明確化を検討する(cash hoarding問題)。

(出所)アクションプログラム2025より三菱UFJ信託銀行作成

 また、政府が6月13日に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」(以下、「新しい資本主義のグランドデザイン」)においても、CGコードの改訂が検討事項として挙げられています。

  • 企業の稼ぐ力を更に向上させるため、経営資源の配分先には設備投資・研究開発投資・地方拠点の整備・スタートアップ等を含む成長投資、人的資本や知的財産への投資等を含む多様な投資機会があることを認識することが重要であり、経営資源の適切な配分が行われているかの検証・説明責任の明確化を含むコーポレートガバナンス・コードの見直しを検討する。
  • 地域のまちづくり・スタートアップ等の成長投資をコーポレートガバナンスに位置付けることで企業の投資を促すべきであり、企業の積極的な投資による地方における拠点整備が、中長期的な企業価値の向上につながることをコーポレートガバナンス・コードの見直し等により明らかにする。

(出所)新しい資本主義のグランドデザインより三菱UFJ信託銀行作成

会社法の改正

 政府が6月13日に閣議決定した「規制改革実施計画」および新しい資本主義のグランドデザインでは、会社法改正に関わる検討事項として、以下の事項が挙げられています。

  1. 株式対価M&Aの活性化に向けた会社法の見直し(※1)
  2. バーチャルオンリー株主総会の活用に向けた環境整備(※1)
  3. バーチャルオンリー社債権者集会の実現(※1)
  4. 持続的な成長及び中長期的な企業価値向上に向けた株式会社と株主との建設的かつ実効的な対話の促進(実質株主確認制度の導入・株主提案権の行使要件の廃止要否)(※1)
  5. 従業員等に対する株式報酬の無償交付を可能とする会社法の見直し(※1)
  6. 指名委員会等設置会社の機関設計等の企業統治改革・資本市場改革(※2)

(※1)「規制改革実施計画」より三菱UFJ信託銀行作成。実施時期について、令和8年度内を目途にできるだけ早期に結論、結論を得次第速やかに措置とされている

(※2)新しい資本主義のグランドデザインより三菱UFJ信託銀行作成


 上記のうち、特に株主総会関連の実務に影響が強いと思われるものを以下ご紹介いたします。

バーチャルオンリー株主総会の活用に向けた環境整備

 産業競争力強化法上の確認を受けた株式会社に対して会社法の特例として認められている、場所の定めのない株主総会(以下「バーチャルオンリー株主総会」)について、当該確認の有無にかかわらず、その開催を容易にする方向で、以下の検討事項が挙げられています。

  • バーチャルオンリー株主総会の開催に際し産業競争力強化法で必須とされる経済産業大臣及び法務大臣の確認並びに定款の定めを不要とする。
  • 会社の責めに帰すことが適切ではない通信障害により、株主が議事を十分に視聴できなかったり、議決権を適時に行使できなかった場合であっても、当該株主総会の決議の効力が影響を受けないよう、セーフハーバールールの規定を設ける。
  • 株主による濫用的な質問権の行使や動議の提出による議事進行の妨害を防止するため、株主総会当日の、株主による議案の提出を制限したり、株主からの質問に対する取締役の説明義務を免除することができるなどの規定を設ける。

(出所)「規制改革実施計画」より三菱UFJ信託銀行作成

実質株主確認制度の導入、株主提案権の行使要件の廃止の要否

 株主との建設的かつ実効的な対話を促進するため、以下の検討事項が挙げられています。

  • 名義株主(株主名簿上の株主)等に実質株主(株式の議決権の指図権限等を有する者)の情報の提供を請求することができる制度(実質株主確認制度)の導入
  • 名義株主が実質株主の基本的な情報(※3)について、単に事務処理の誤り等の場合を除き、情報の提供をせず、又は虚偽の情報を提供した場合、当該実質株主に係る株式について議決権の停止を可能とする
  • 株主提案権の行使要件のうち、300個以上の議決権を有する株主が株主提案権を行使できるとすること議決権数を基準とする行使要件について、当該行使要件の廃止の要否を含めて検討すること。
    その際、議決権数を基準とする行使要件の単純な廃止のみならず、株主提案権の行使に必要な議決権数の引上げ、株式会社が定款で株主提案に必要な議決権数を定められるものとすること、議決権数を基準とする行使要件に代替する行使要件など、様々な株主提案権の行使要件の在り方を検討

(出所)「規制改革実施計画」より三菱UFJ信託銀行作成
(※3)実質株主の氏名・名称、住所、連絡先、議決権を有する株式数など


【ご参考】(本文掲載順)

問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務グループ
03-6747-0307(代表)

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