展望 2020年の企業法務

第6回 プラットフォーム事業者に対する独占禁止法による規制

競争法・独占禁止法

目次

  1. はじめに
  2. 公取委による実態調査
  3. 独禁法解釈ガイドライン・新法の制定・改訂
    1. 対消費者優越的地位濫用ガイドライン
    2. 企業結合ガイドラインおよび企業結合審査手続対応方針
  4. まとめ

はじめに

 プラットフォーム事業者(日本ではプラットフォーマーと呼ぶこともあります)に対する独占禁止法(独禁法)の観点からの規制のあり方に関する検討は、2019年に大きく進展し、2020年にはこれら検討の成果である独禁法解釈ガイドライン等が個別具体的な事案へと適用されていくことが見込まれています。
 プラットフォーム事業者に対する規制のあり方の検討は、「未来投資戦略」(2018年6月閣議決定)によって本格化し、経済産業省、総務省、公正取引委員会等が研究会を開催するなどして検討を重ねていましたが、さらに2019年には「デジタル市場競争本部」も設置されて(2019年9月閣議決定)デジタル市場のルール整備が急ピッチで進められました。
 政府におけるこれらの動きに応えて、公正取引委員会(公取委)は独禁法の観点からの検討を以下のとおり精力的に展開しており、2020年にはさらに多くの成果が公表されていくものと見込まれています。

公取委による実態調査

 公取委が、先入観に基づくことなく客観的な競争分析に基づいて、プラットフォーム事業者に対する事件審査を行い行政処分(排除措置命令等)等の措置をとるためには、まず、公取委がプラットフォームビジネスの実態を正確かつ具体的に理解することが重要であるといえます。

 公取委は、たとえば2019年1月にオンラインモール・アプリストアにおける事業者間取引について、9月ころに飲食店ポータルサイトについて、11月ころにキャッシュレス決済およびいわゆる家計簿アプリについて、さらにオンライン広告についても、関係事業者に調査票を送付するなどして本格的な実態調査に乗り出しています。公取委は実態調査を継続的に実施していく旨の方針を表明していますので、オンラインプラットフォームに関する実態調査が2020年もさらに行われる可能性があります。
 公取委は、これらのうちオンラインショッピングモールおよびアプリストアに関する実態調査について2019年10月に調査報告書 1 を公表し、たとえばオンラインショッピングモールにおける出店者とモールとの間の取引条件等について、①規約変更による取引条件変更、②消費者に返品・返金を行う際の負担の出品者への押し付け等、具体的な行為を列挙し、これらの行為が独禁法に違反するおそれがあるという見解を示しました。

 公取委による実態調査は、取引実態の単なる調査にとどまることなく、取引が有する問題点を具体的に説明していますので、出品者など関係事業者が公取委へ違反行為の情報提供(申告〔独禁法45条〕)を行ったり裁判所に損害賠償請求訴訟を提起したりする際に大いに参考となるといえます。2020年に公表される報告書の内容にも十分な留意が必要です。

 もっとも、オンラインショッピングモールおよびアプリストアに関する実態調査報告書をみますと、競合するオンラインプラットフォームを排除する行為について、競合者排除効果の厳密な立証を必ずしも要しない規定である「競争者取引妨害」(不公正な取引方法〔一般指定〕14項)の適用可能性が繰り返し言及されています 2
 公取委が、競争への悪影響である“他社の排除”などについて客観的かつ厳密な分析を経ることなく、安易に行政処分(排除措置命令)や違反被疑事業者との和解(確約決定)に及んでしまうようなことにならないか、2020年における公取委の独禁法運用が注目されます。

独禁法解釈ガイドライン・新法の制定・改訂

 公取委は、オンラインプラットフォームに関する競争政策上の懸念への対応策の柱として、継続的な実態調査の実施のほか、①対消費者取引における優越的地位の濫用の考え方の明確化や、②経済のデジタル化をふまえた企業結合審査をあげています 3
 これらのことに関する検討の成果として、公取委は、2019年12月、①対消費者優越的地位濫用ガイドラインを制定して公表し、また②企業結合ガイドラインおよび企業結合審査手続対応方針を改訂しました。

対消費者優越的地位濫用ガイドライン

 対消費者優越的地位濫用ガイドラインは、(事業者ではなく)消費者に対する優越的地位濫用行為も「優越的地位濫用」(独禁法2条9項5号)に該当し規制対象となるという、裁判例においてはすでに当然の前提とされていた考え方 4 を公取委がはじめて採用しました。この考え方を採用することによって、公取委は、オンラインプラットフォームが消費者(サービス利用者)から個人情報等を不当に取得したり不当に利用したりする行為を摘発する可能性があることを明らかにしました。

 事業者による個人情報の適正な取扱いについては、個人情報保護委員会が個人情報保護法の観点から規制を行っていますので、二重規制を懸念する意見がみられます。また、個人情報保護法における「個人情報」に該当しないデータの取得や利用が独禁法によって規制されることに対する懸念もみられます 5
 しかし、独禁法が(特別の適用除外法がない限り)すべての業界のあらゆる不公正取引を規制する法律であることは、以前から知られていたことです。

【表】個人情報保護法と独禁法(優越的地位濫用規制)の比較

個人情報保護法 独禁法(優越的地位濫用)
対象となる「情報」の範囲 「個人情報」(個人情報保護法2条1項) 「個人情報」(個人情報保護法2条1項)および「個人情報以外の個人に関する情報」
義務等を負う企業 「個人情報取扱事業者」(個人情報データベース等を事業の用に供している者) 優越的地位にある事業者
違反に対する処分等 原則として行政指導(勧告等)のみ 行政処分(排除措置命令)による是正が可能

 もっとも、今後の規制のトレンドについて検討する際には、独禁法の優越的地位濫用規制の範囲が「優越的地位」要件によって大幅に制限されるであろうことに、留意する必要があります。これは個人情報保護法にはない要件ですので、この観点からみれば、独禁法の適用範囲は個人情報保護法の適用範囲よりも狭いといえます。
 対消費者優越的地位濫用ガイドラインにおいては、①一般的な消費者にとって代替可能なサービスが存在しない場合や、②代替可能なサービスが存在していたとしても当該プラットフォーム事業者が提供するサービスの利用を止めることが事実上困難な場合などに、プラットフォーム事業者が一般的な消費者に対して優越的地位にあるという考え方が示されました。この要件を認定することは、公取委にとって必ずしも容易なことではありません 6 7

 2020年には、消費者やその声を集約する団体等によって、個人情報保護委員会のみならず公取委に対しても、様々な問題事例が報告されるようになることが予想されます。プラットフォーム事業者には個人情報等の一層適正な取扱いが期待されますし、消費者は問題事例を独禁法〔優越的地位濫用規制〕の観点から的確に整理して公取委へ報告する技量が問われることとなるでしょう。

企業結合ガイドラインおよび企業結合審査手続対応方針

 独禁法は、企業買収などいわゆるM&Aについて、当事会社(買収者および対象会社)の国内売上高が所定の基準額を超える案件について、公取委への事前(取引完了前)届出の義務を課しています。M&Aが競争に対して及ぼす影響の分析枠組については企業結合ガイドラインが、また審査手続の詳細については企業結合審査手続対応方針が、それぞれ公表されており、これまで度々改訂されてきました。

 公取委は、デジタル分野の企業結合案件に的確に対応する必要性が高まってきているとして、成長戦略実行計画(2019年6月閣議決定)等もふまえ、これらガイドライン等の改定作業を行い、2019年12月に成案を公表しました。

(1) 企業結合ガイドライン

 企業結合ガイドラインの改訂には、最近の企業結合審査案件において公取委がその都度明らかにしてきた考え方を盛り込んだにすぎない(オンラインプラットフォームとは関係がない)箇所も多々ありますが、その一方で、オンラインプラットフォームやデジタル分野の特性をふまえた競争分析の手法について具体的な解説が盛り込まれました。改訂内容には海外においてすでにさかんに議論されていた論点が多く含まれていますので、今回の改訂からは、独禁法の国際的な潮流に乗り遅れてしまうことを避けたいと願う公取委の意図が窺われます。

 2019年秋に公表されたヤフー・LINE経営統合案件は、改訂された企業結合ガイドライン運用の試金石となるといわれており、公取委の審査能力がさっそく試されることになりそうです。

 もっとも、デジタル分野の特性をふまえた今回の改訂は、市場シェアに直結しないビッグデータなど新たな要因の分析を重視しているせいか、市場シェアを重要な指標の1つとしていた従来の審査実務に変更をもたらすことが見込まれます
 たとえば、いわゆるHHI指数(市場シェア数値に基づいて計算される指数)は、実質的な企業結合審査を行わない案件を選別するための“セーフハーバー”基準として用いられていますが、データなどが重要な意味を持つM&A案件においてはこのセーフハーバーを適用しない可能性があるとされました。これは、たとえば、当事会社が保有するビッグデータを統合してアルゴリズムの性能を向上させることを目的とするようなM&A案件 8 において、審査に要する期間や労力の予測、さらには審査結果の予測を困難にする可能性があります。
 M&Aを検討する企業は、今後の公取委審査実務の動向に十分に留意する必要がありますし、届出前相談への対応や届出後の審査を合理的かつ迅速に進めていくよう公取委に対して働きかけていくことも重要となるでしょう。

(2) 企業結合審査手続対応方針

 企業結合審査手続対応方針には、当事会社の国内売上高が事前届出義務発生の基準額に達しないM&A案件について、①買収額が400億円を超えると見込まれ、かつ②対象会社が日本語ウェブサイトや日本語パンフレットを作成して日本国内の顧客に対して営業活動をしているなどの場合 9 には、(事前届出義務はないものの)事前届出に準じて公取委への相談(“準じる相談”)を行うことが望まれるという考え方が示されました。

 海外の独禁当局は、将来競合者となる可能性のあるベンチャー企業等を競合者となる前に買収する案件(いわゆるキラー・アクイジション)を、将来の競争に深刻な悪影響をもたらすおそれがあるとして問題視するようになっています。しかし、キラー・アクイジション案件においては対象会社がまだ現実の競争者ではなく、それゆえ売上高が小さいので事前届出義務が生じない案件が多いのではないかといわれています。そうだとすると、各国独禁当局が案件の存在を察知することは必ずしも容易なことではありません。
 公取委が買収額という新たな基準を導入してM&A案件の審査対象を実質的に拡大しようとすることは、ドイツなど一部の国の独禁当局における同様の取り組みに倣ったものであるといえ、国際的にみて必ずしも異例のものではありません。また、“準じる相談”を通じて公取委がオンラインプラットフォームの実情に関する情報を収集し、実情を理解することは、長期的にみれば公取委の審査能力向上につながる取組みであるといえます。

 しかし、今回の対応方針改訂は、国会における法改正の手続を経ることなく事業者に新たに多大な負担を課すものです。指針や方針の改正による実質的な届出制度変更が今後も繰り返されていくようであれば、負担増に対する事業者の懸念は一層大きくなっていくでしょう。
 また、事業者(特に外国企業)が、法的な事前届出義務がないにもかかわらず公取委に相談するか否かは、相談が行われなかった(特に外国の)M&A案件に対して公取委が厳正な審査等に乗り出すか否かにかかっているといえます(厳正な審査が避けられないのであれば、事業者が“自発的”に相談を申し出る可能性は高くなるでしょう)。対応方針の今後の運用が注目されます。

まとめ

 プラットフォーム事業者に対して独禁法の観点から規制を行うためのガイドラインその他の枠組の整備は2019年末までに急速に進展し、一応の完成をみたといえます 10
 しかし他方において、プラットフォーム事業者に対する違反被疑事件審査やM&A案件審査の実例は乏しいままであり、公取委が実際にどのような行為についてどの程度厳正な措置をとるのか、正確に見通すことは困難なままです。公取委実態調査の報告書や実態調査に関する新聞報道は、これまで当然かつ正当な商慣習であると考えられてきた取引、価格設定等について独禁法違反の「おそれ」を幅広く指摘していますので、プラットフォーム事業者の間に過度の萎縮効果が生じてしまうことが懸念されます。
 2020年は、公取委や裁判所が個別の事案へと独禁法を具体的に適用していくことによってこのような懸念を払拭し、プラットフォーム事業者が漠然とした「おそれ」に萎縮することなく革新的サービスを安心して提供できる年になることが期待されます。企業においては、ガイドラインや新法の制定等の動向のみならず、訴訟や公取委審査事例についての報道や評釈記事等をこまめにチェックし、多面的な情報収集を欠かさないことが重要です。


  1. デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査(オンラインモール・アプリストアにおける事業者間取引)について(公取委・2019年10月31日) ↩︎

  2. オンラインプラットフォーム事業者の行為が「競争者取引妨害」にあたる旨認定された公取委先例として、「株式会社ディー・エヌ・エーに対する排除措置命令について」(2011年6月9日)があります。 ↩︎

  3. デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査(オンラインモール・アプリストアにおける事業者間取引)について(公取委・2019年10月)第1部第3参照。 ↩︎

  4. 東京地裁平成28年10月6日判決・金融・商事判例1515号42頁〔太陽電池グレードポリシリコン事件〕。 ↩︎

  5. これらの意見に関して、「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」の公表について参照。 ↩︎

  6. 想定される濫用行為(不利益行為)のうち、サービスに新規登録する消費者から個人情報等を取得する行為については、消費者にはそのサービスに新規登録せずにほかのサービスを利用するという選択肢が通常はあると推察されます。したがってこの場合には、プラットフォーム事業者が優越的地位にあったと認定することは特に困難であるといえます。これは「取引開始時濫用」として議論されている論点の適用場面ですが、公取委による摘発事例は過去に一例しかありません。参照、舟田正之「取引開始時における優越的地位の濫用」立教法学98号(平成30年)92頁以下、平山賢太郎「優越的地位濫用を防止するための視点」。 ↩︎

  7. ガイドラインは、これらのほか、プラットフォーム事業者が市場支配力(サービスの品質や価格を、ある程度自由に思いのまま左右できる力)を有する場合にも優越的地位があるという考え方を示しています。これは、欧州委員会や欧州連合加盟国による市場支配的地位濫用規制に呼応するものであり、各国当局間協力による国際的同時並行審査への道を開くものであるといえます。 ↩︎

  8. たとえば、シンガポールの独禁当局は、ライドシェア事業者であるUberとGrabの経営統合案件について、両社のアルゴリズムを統合しないよう命じました。 ↩︎

  9. 対象会社の国内売上高合計額が1億円を超える場合も同様に扱うこととされています。 ↩︎

  10. 本稿で紹介したガイドライン等のほか、特別の指定を受けたプラットフォームと出品者等との間の取引条件について開示義務を課すことなどを内容とする「取引透明化法」の策定へ向けた検討がデジタル市場競争本部において行われており、法律の方向性について2019年12月にパブリックコメント手続が開始されました(参考:デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案(仮称)の方向性に対する意見募集について)。同法の主務大臣については、取引に関するルール整備を所管する経済産業省が中心となりつつ、公正取引委員会や総務省がそれぞれの所掌事務に応じて連携・共同して対応することが想定されています。 ↩︎

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