展望 2020年の企業法務

第4回 変わる著作権法、2020年の企業法務に求められる5つのこと

知的財産権・エンタメ

目次

  1. 2020年の著作権法改正の予想
    1. 海賊版対策
    2. 写り込みや研究利用など、公正な利用の範囲拡大
    3. 教育利用の拡充
    4. MANGAナショナルセンターとデジタルアーカイブ推進
  2. カギは「法制度から民間対応へ」
    1. カギ①「メニューミックス」
    2. カギ②「プラットフォームとの対等な交渉・幸福な共存」
    3. カギ③「ネット世論/炎上への対処」
    4. カギ④「過剰なコンプライアンス至上主義からの脱却」
    5. カギ⑤「知財・法務は収益部門である」

 オリンピック・イヤーの若者たちを応援します(←アンブッシュ)。令和2年も働く気満々のBusiness Lawyers編集部から「2020年の著作権法分野の法制度の動向と企業法務の課題、5000字でお願いします!」という素敵なお歳暮を頂いたので、年末年始の繁忙期をつぶして書いてみた。

2020年の著作権法改正の予想

 まずはご注文の、予測される著作権法改正のスケジュールから。目についたものを4つあげれば、今年も「変わる情報社会に著作権法がキャッチアップするための改正」が並ぶ。

海賊版対策

 具体的にはダウンロード違法化の拡大リーチサイト規制である。著作権法には「私的複製」という例外規定(著作権法30条)があるので、たとえ侵害品からでも、個人的な楽しみのためのコピーは許される。しかし、オンライン海賊版の蔓延を受けて「海賊版だと知りながらダウンロードするのはさすがにあんまりだろう」と議論が起き、2011年にかけてまずは映像・音楽を対象にそうしたダウンロードが違法化され処罰対象になった。映画館に行くともれなく見せてもらえる、あのCMである(図)。

「NO MORE 映画泥棒」CMより

出典:シネマトゥデイ「NO MORE 映画泥棒」新トレーラー

 これを、「漫画村」など超絶規模の海賊版被害に悩む漫画や写真など他の分野にも拡大しようというのがダウンロード違法化だが、「違法アップロードされた作品」すべてに対象を拡大しようとしたため、「ネット利用を萎縮させる」など各界から激しい反発を受けて昨年の通常国会への提出が見送りとなった。

 昨年末から文化庁の検討会議 1 で、対象を侵害品の悪質なダウンロードに限定する修正が検討された。筆者も抵抗むなしく狩り出され、委員を務めた。検討会議は、違法化する対象から「軽微な部分のダウンロード」や「二次創作など翻案作品のダウンロード」を除く点で合意し、さらに「著作権者の利益を不当に害する場合」に違法化の対象を限定するかでは両論併記の形で、1月に報告書を公表 2 している。

 同時に、違法な侵害品にリンクなどで誘導して稼ぐ「リーチサイト・リーチアプリ」の規制も検討されている。ダウンロード違法化のあおりで昨年見送りになったが、こちらは異論も少なく早期導入が提言されている。

 議論は現在政治の場に移っており、多くの人が納得できれば今年の通常国会で立法審議されるだろう。施行は、周知期間を考えて来年1月が予想されるが、リーチサイト規制については前倒し施行も検討されている。「悪質な海賊版を抑止しつつ、人々の情報アクセスの自由をいかにはかるか」というバランスが焦点だろう。

写り込みや研究利用など、公正な利用の範囲拡大

 ダウンロード違法化に対して、「ネット上の様々な情報をスクリーンショットで保存する人は多いが、その一部に違法アップされた文章などが混ざっているとスクショも犯罪になるのか」と懸念されていた。そこで、従来からあった、「写真や映像の背景に人の著作物が写り込んでも軽微ならOK」という例外規定(著作権法30条の2)の拡大が議論されている 3。スクショなど撮影・録音に類する行為にも対象を拡大し、条件も和らげるものだ。

 同じく、長らく要望の強かった「研究利用のため人の著作物を一定の範囲で複製など出来る規定」も、導入が検討されている 4

 前者は順調に行けば 1−1と同じく今年の通常国会での審議入り、後者は範囲も不明確で、法制化は来年度以降だろう。

教育利用の拡充

 こちらはもう法改正は2018年に済んでいる。オンライン講義など、非営利の教育機関の授業に伴って、資料として人の著作物の公衆送信が幅広く可能になるのだ(著作権法35条2項)。ただし、(授業のライブ同時送信を除けば)権利者への適正な補償金が必要となり、今、その補償金の額などをめぐって権利者と教育機関側との間で協議が進んでいる 5。施行は2021年5月までの予定だ。大学などの情報発信が画期的に進むことが期待される。

 1−2、1−3ともに焦点は1−1と同じで、人の創作成果への過度なフリーライドを抑止して利益還元をはかりつつ、いかに情報の自由な活用を確保するかのバランスだろう。

MANGAナショナルセンターとデジタルアーカイブ推進

 最後は著作権プロパーから離れるが、文化・芸術・社会にとって重要なこれ。過去のマンガ・アニメ・ゲームを収集・保存し世界に発信するための "MANGAナショナルセンター" こと「メディア芸術ナショナルセンター」の整備運営法案 6 は、成立目前と思われつつ産みの苦しみを味わっている。政局の混迷を受けて与野党がまとまらず、昨年の臨時国会では審議に入れなかったのだ。京都アニメーション事件でも首里城火災でも、人々の生きた証である作品データの保存と活用に社会の関心と希望が集まった。通常国会での成立が期待される。

 この関連で、マンガに限らずあらゆるジャンルのデジタルアーカイブの振興に各国政府はしのぎを削っている。作品・資料への人々の思いと共に、ビジネス活用の面でも大きな期待が寄せられるからだ。だが多くの現場では「ヒト・カネ・権利」の壁が立ちふさがる。著作権・肖像権を筆頭に、アーカイブで残すための大量の作品の権利処理がままならないのだ。

 そこで、筆者も加わるデジタルアーカイブ学会では、絶版作品のデジタルアーカイブ化を可能にする著作権法改正などを提言している。焦点は一言、政府の本気度である。

内容 時期
侵害コンテンツのダウンロード違法化
リーチサイト対策
多くの人の納得を得られれば、2020年の通常国会で立法審議
2021年1月施行?リーチサイト対策は前倒しも?
写り込みにかかる例外規定の拡充 順調に行けば2020年の通常国会で立法審議
研究利用の範囲拡大 法制化は来年度以降?
教育利用の拡充 2021年5月までに施行予定
「メディア芸術ナショナルセンター」の整備運営法案 2020年通常国会での成立に期待

カギは「法制度から民間対応へ」

 以上、いずれもきわめて重要な改正だ。では、これらが2020年の企業法務最大のカギか?法務担当者はこれら改正スケジュールを追いかけて業界団体でパブコメを出したり、成立後には勉強会に余念がないのが最重要任務なのか。実はそうとも思わない。むしろ「政府の法制度から民間対応へ」が、今年の(今年も)焦点となるだろう。

カギ①「メニューミックス」

 情報社会の進展はあまりに早い。政府各部署は真摯に努力を続けており、その動向は無論重要だ。だが、どうしても周回単位で遅れるのは宿命である。時間がかかるうえに多様化し過ぎた利害関係の影響を受けて頓挫したり、途中で大きく姿を変えることは常態化している。官が笛を吹いても、もはや民は踊らない。あるいは『東京音頭』を流しているのに『不協和音』を踊り出す。それを待つより、今日にでも自社で対処できるメニューを動員して、現実と並走するしかない。よってカギは不可避的に、「メニューミックス」となる。

 まずは契約や利用規約の見直しだ。将来の法改正より前に、御社の契約は十年も前の書式の盲目的な使い回しではないか。各社多様であるはずの知財戦略を反映しアップデートされた、十分リスクに対処できるものになっているか。利用規約は、ユーザーにとっての納得度をはかりつつも、御社の重要な利益を守れる網羅的な内容か。その見直しである。

 あるいは、アーキテクチャだ。アーキテクチャは広く物理構造や情報技術を指す言葉で、前述の契約も、しばしばこれとセットになる。たとえばネット上のコンテンツや各種サービスも、自由にアクセスや利用をできないプロテクションがかかっているから、人々は利用規約に同意クリックしてIDを作成してくれるのである。

 もっとソフトなアプローチもある。拘束的な契約・規約より、非拘束的なガイドラインの方が効果の上がるケースも少なくない。利害関係者間の協議で共通の意識を育むことが契約より重要な場合もある。もっとシンプルに「思いの発信」が有効な場合もある。

 前述の海賊版対策も、昨年の法制度をめぐる論争を経て、むしろ民・民の協力体制・自主的なガイドライン作りに中心が移り、成果を上げている。もちろん、従来からの権利者自身による国内外の訴訟や警察と協力しての摘発は最も重要だ。新たな法改正は、あくまでそれを補完する位置づけである。デジタルアーカイブ学会でも、非拘束的な「肖像権ガイドライン」の策定に取り組んでいる。

 なお、この関連で重要な法改正もある。「ライセンシーの保護法制7 だ。現在、著作権者から独占ライセンスを受けたライセンシーの地位を守る、あるいはライセンシーが自ら原告となって訴訟を起こせるような制度は、ごく部分的にしか存在していない。この改正は通常国会で行われることが予想され、民間での取り組みを後押しできる重要なメニューになろう。

カギ②「プラットフォームとの対等な交渉・幸福な共存」

 GAFAに代表されるプラットフォームが強い、という話は耳にタコだろう。彼らは今や情報の生成・流通・序列化・受容までを寡占する存在であり、我々はその存在を抜きにビジネスを展開することは出来ない。そこでは彼らのポリシーやアルゴリズムが法制度以上に力を持つ。あらゆる検索とSNSから締め出されれば、どんな名門の店舗も強力な海賊版もひと月で音を上げるだろう。

 では、誰が彼らの規約やアルゴリズムを作るのか。誰がそれを執行し、ユーザーが異議を申し立てたら誰が裁くのか。彼ら自身だ。プラットフォームは今や、ブラックボックスの中で立法・行政・司法を一手に担う、準国家的な存在とも言えるだろう。だからEUはじめ各国は、彼らをコントロールしようと躍起になる。そしてこれまでのところは、その一部でしか成功していない。

 無論、強大な国際プラットフォームが存在しない社会や生活など、もはや想像も出来ないし多くの人も望まないだろう。だから、カギはどうやって行き過ぎた締め付け、不公正と思えるアルゴリズムや一方的と思える規約について、彼らとの対等な交渉を確保し、幸福な共存をはかるかである。そこでは無論、「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案」や独禁法の活用のような法制度の役割も小さくない。が、同時に各プレーヤー、各企業の法務がいかにこの後で述べるようなタフな交渉力を持つか、時には横の連携も駆使しながら対等な交渉環境に近付けて行くかの努力が、決定的に重要となる。

カギ③「ネット世論/炎上への対処」

 プラットフォームと同じく情報社会の落とし子は、ネット世論の影響拡大だろう。今や万人が情報発信者であり受信者の時代だ。ネット世論のうねりや炎上は、ダウンロード違法化から吉本芸人の契約、あいちトリエンナーレから桜を見る会まで、状況を瞬時に転換させる力を持つ。強大な力を誇るプラットフォーム達ですら、彼らがポリシーやアルゴリズムを変更するのは、それがネット世論の強い批判を集めた時である。

 今や強大な権力となったネット世論は、五輪エンブレム疑惑(図)など幾多の「パクリ炎上」をあげるまでもなく著作権法務でも大きな影響因子である。

オリビエ・ドビ氏ツイッターより


 では、ネットで炎上している状況とは、一体何人の人々が怒っている状態なのか。ネットで批判が殺到とは、一体何人が殺到しているのか。この方面では、田中辰雄・山口真一氏らの実証研究 8 により、ネット世論・炎上とされるものはしばしば「ごく少数の人々の多重発信」に過ぎない場合も多いことが判明して来た。もっとも、一見炎上であり、一見多数の意見であれば負のアナウンス効果は十分であり、無視できない。

 そしてネット世論が今や最大のリスク要因の1つである以上、その対策がリスク管理部門である企業法務の大きな役割であることも疑いがないだろう。広報部門と連携した事態の正確な把握(真相はどうか、誰がどう行動しているのか)、情報発信の内容とタイミングの立案(放置戦略か、反論・説明か、謝罪やむなしか)は、今や企業法務の大きな役割でありノウハウの集積は急務となった。

カギ④「過剰なコンプライアンス至上主義からの脱却」

 では、炎上が怖いからと言って、少しでも違法のおそれのある行為はすべて自粛し、批判を受けそうな行為は取りやめておくべきか。「リスクゼロ」をひたすら目指すことが企業法務の役割か。全くそうは思わない。そもそも、そんな考えならグーグルはいま世界企業にはなっていないだろう。

 よく書くことだが、彼らは16.5億ドルという今からすれば驚くべき安値でYouTubeを買収した際、2億ドルもの訴訟対策費を積んでいる。当時、人々がこぞってTV番組などをアップロードすることで急成長した彼らは、海賊版の巣窟とみなされていたためだ。案の定、ハリウッドメジャーから10億ドルの損害賠償請求訴訟を起こされたが、バカ高い強力な弁護士チームでこれを闘い抜き、その間に侵害対策を着々と進め、見事完全勝訴している。つまり闘いながら走ったのである。彼らが当時慎重な弁護士たちの意見をすべて聞いていたら、おそらく今は存在さえしていないだろう。「リスクゼロ」は「チャンスゼロ」であり、それより大きなリスクなど存在しないのである。

 大事なのは、重箱の隅をつつくような文書チェックの挙句、「リスクを完全に否定することはできません」「たとえ適法でもレピュテーションリスクがありますし・・・」などという当たり前のコピペ文を繰り返す法務意見ではない。頭を絞ってそのリスクの大きさをはかり、期待できるメリットやチャンスがそれを上回っていると思えばそのリスクを取る、(無論、下回っていれば止める)「リスク/メリットバランス」である。

カギ⑤「知財・法務は収益部門である」

 もはやカギというか、標語みたいになって来た。知財ビジネスは契約・権利ビジネスであり、よって当然ながら知財・ライツ・法務は収益部門である。コンテンツを扱う企業の命運を担うこの部門に、いまだに不十分な人員と予算しか割り振らず、プロジェクト予算の中にそもそも法務コストが含まれてもいない( ! )企業はいまだに多いが、それでどうやって情報社会で闘うつもりなのか。

 企業は今よりはるかに大きな人的リソースを知財・法務部門に注ぐべきである。法改正の予想すべてを見通すことは出来ないが、それが2020年もカギであるとは言える。

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