東京証券取引所「IR体制・IR活動に関する投資者の声」を公表

コーポレート・M&A

目次

  1. 投資者からの期待
  2. IR体制(改善が期待される事例)
  3. IR体制(投資者から評価されている事例)
  4. IR説明会(改善が期待される事例)
  5. IR説明会(投資者から評価されている事例)
  6. 投資者への期待

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.232」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 東京証券取引所(以下、「東証」)は、東証上場規程において、全上場会社を対象に、株主や投資者との関係構築に向けて、必要な情報提供を行うための体制(IR体制)を整備することを義務付けました(2025年7月22日より施行)。

 一方で、国内外の投資者からは、実効的なIR体制・IR活動の更なる充実を求める声があがっています。東証は7月22日、今後上場会社各社がIRの在り方を検討するうえで参考となる情報として、「IR体制・IR活動に関する投資者の声」(以下、「本資料」)を取りまとめ、公表しました。

 本特集では本資料より、国内外の投資者から寄せられた「投資者からの期待」や「投資者から改善が期待される事例・評価された事例」の一部をご紹介いたします。

投資者からの期待

 IR体制について投資者から期待されていることとして、以下の点があげられています。

  • 上場会社の経営者やIR部門が、IR活動を通じ、自らの言葉で中長期的な経営戦略や将来のビジョンを発信すること
  • 双方向の対話を通じて得られた投資家からのフィードバックを、経営上の課題として認識のうえ、企業価値向上に繋げること

 また、IRの専門部署や担当者を形式的に設置するのではなく、企業価値向上の取り組みの一環として、自社にとって必要なIR体制・IR活動を検討し、実行に移していくことが求められています。
 さらに、投資者からは経営者やIR部門によるIR活動に加え、経営を監督する立場であり、一般株主の声を代弁する役割を担っている社外取締役とのコミュニケーションを期待する声もあります。
 ①「取締役会において、経営上の重要課題等に関する実効的な議論がなされているのか」、②「コーポレート・ガバナンス体制の実効性や、少数株主保護の観点で必要とされる支配株主からの独立性が確保されているのか」といった点においては、社外取締役との対話が重要であると考えられています。
 社外取締役が、平時から積極的に投資者との対話に応じるとともに、上場会社として、社外取締役が適切なコミュニケーションを図れるよう、体制を整備することが求められています。

IR体制(改善が期待される事例)

充実したIR活動のための体制(専門部署、経営陣の関与等)が整備されていない
  • 多忙を理由に面談を断られることや、数値説明に終始してしまい、中長期的な経営戦略や資本政策、将来のビジョンについて議論ができない

    ⇒IRの担当役員や専門部署を設置するなど、所管や権限を明確にし、実効的なIR活動を行うために必要な体制を確保することが期待される

  • 経営陣が関与しない体制となっていたり、経営陣と担当部署の説明にズレが生じる

    ⇒IR部門が経営陣や経営企画部門と連携のとりやすい体制を整備することが期待される

  • 投資家からのフィードバックについて、経営陣に議事録を形式的に展開するのみで、企業価値向上に繋げる体制が構築されず

    ⇒対話で得られたフィードバックについて、経営に生かしうるような体制を整え、企業価値向上に繋げる取り組みが期待される

IR体制(投資者から評価されている事例)

【東亜建設工業株式会社の事例】

東亜建設工業株式会社の事例

(出所)東亜建設工業株式会社 2025年3月期通期決算説明会資料(2025年5月20日)30~32ページ
投資者が評価したポイント
  • IRに特化した部署を設置するなど、IRの充実への取り組み
  • 幅広い投資家層がアクセスできるよう、専門人材の増員や外部リソースを活用
  • 対話で得られた意見を経営施策に反映するなど、投資家に向き合うための体制を着実に整備

IR説明会(改善が期待される事例)

IR説明会による情報提供を対面の参加者等に限定
<決算説明会を対面開催に限定>
  • いまだに決算説明会をはじめとするIR説明会を対面開催のみに限定している
  • 公表資料に加え、対面参加者限りの資料を配布するなど、投資者への公平な情報提供を行わず
  • 経営陣が自ら説明や質疑応答を行うことにより、投資者と中長期的な経営戦略や将来のビジョンが共有され、中長期的な信頼関係を構築できる場であるからこそ、オンライン配信の実施が期待される
  • コンテンツの充実や、質疑応答の時間をオンライン参加者も含めて十分に確保するなどして、IR活動の場として積極的に活用することが期待される

<説明会終了後、質疑応答部分を削除したスクリプトを公表>
  • アーカイブ配信等において、質疑応答部分がカットされている
  • 意図的に質疑を掲載せず、要旨として公表する企業が散見される
  • 質疑応答部分を含めた公平な情報提供が期待される
合理的な理由もなく、個別面談(対話)に応じない
  • 面談に前向きな企業が増えている中、合理的な理由なく断る企業が目立つ
  • 足元の課題に対する経営者の認識や考え方が分からなければ、リスクを判断できないため、定期的な面談の機会を設けることが重要である
  • 経営陣が中心となり、積極的に面談に応じる姿勢が必要不可欠となる
  • 企業価値向上の観点から、新規の投資家の獲得のため、既存の投資家に限らず面談を実施することも期待される
  • 時間が確保できないのであれば、スモールミーティングを活用することも一案である
  • 少数株主の立場を代弁すべき存在である社外取締役が、積極的に面談に応じることが期待される

IR説明会(投資者から評価されている事例)

【株式会社インターネットイニシアティブの事例】

株式会社インターネットイニシアティブの事例

(出所)株式会社インターネットイニシアティブ 2025年3月期(FY24)連結業績説明資料(2025年5月13日)40~41ページ
投資者が評価したポイント
  • 面談等を通じて、エクイティーストーリーが上手く説明され、投資家の要望への深い理解
  • 事業上のインシデント発生時においても真摯な説明を継続し、投資家との信頼関係を着実に構築
  • 英文資料の同日開示や、質疑応答部分を含めた説明会資料の開示など情報発信が充実

投資者への期待

 上場会社において、IR活動を通じ、株主や投資者との信頼関係を構築することで、企業価値向上に取り組む動きがみられます。企業と株主・投資者との建設的な対話を実現するためには、投資者側においても、事前の十分な企業リサーチや、中長期的な経営戦略等に関する投資家の目線を伝えるという観点で対話に臨むことなどが期待されています。

問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務グループ
03-6747-0307(代表)

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