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第3回 ドワンゴ対FC2事件 – 国境をまたぐインターネットビジネスと特許権の効力 コメント配信システム特許最高裁判決

知的財産権・エンタメ 更新
神田 雄弁護士 弁護士法人イノベンティア

目次

  1. ドワンゴ対FC2事件の概要
  2. 両事件に共通する争点
    1. サーバが海外にあるケースにおける問題
    2. 属地主義の原則との関係
    3. 各判決における判断の有無
  3. 第2事件の一審判決
    1. 第2事件の特許と「実施」
    2. 裁判所の判断:特許権侵害を否定
    3. 小括(裁判所は何を重視したか)
  4. 第1事件の控訴審判決
    1. 第1事件の特許と「実施」
    2. 裁判所の判断:特許権侵害を認める
    3. 小括(裁判所は何を重視したか)
  5. 第2事件の控訴審判決
    1. 第2事件の控訴審への注目
    2. 裁判所の判断:特許権侵害を認める
    3. 小括(裁判所は何を重視したか)
  6. 最高裁判決
    1. 第2事件の最高裁判決
    2. 第1事件の最高裁判決
  7. 本判決を踏まえた企業実務のポイント

 2025年3月3日、最高裁において、動画上にコメントを表示する機能を備えた動画配信システムに関する特許権侵害が主張された2件の訴訟の判決がありました。


 侵害が主張されたのは株式会社ドワンゴ(以下「ドワンゴ」といいます)の特許で、同社の「ニコニコ動画」で画面上を横に流れるコメントに関する技術が対象となっています。ドワンゴは、FC2, Inc.(以下「FC2」といいます)が運営するインターネット上のコメント付き動画配信サービス「FC2動画」等が、ドワンゴの特許権を侵害しているとして、FC2等に対し、対象特許権を異にする2件の訴訟を提起しました。

 両訴訟は共に、FC2動画のサーバが海外にある場合に特許権侵害が認められるかを主要な争点とし、概ね同じ時期に並行して審理と判決がされ、それぞれ地裁の結論を高裁が覆す結果となりました。さらに最高裁において、同じ日に同じ裁判官によって判断が出されることにより、両訴訟は裁判所における解決を見ました。
 今回は、当該争点が絡んで地裁・高裁において結論を分けた経緯および最高裁における判断のポイントを見ていきます。

ドワンゴ対FC2事件の概要

 判決日の順序に従い、冒頭紹介した2023年5月26日に控訴審判決がなされた訴訟を「第2事件」、もう1つの訴訟を「第1事件」と呼んで2つの訴訟を対比すると、以下のとおりです。

第1事件 第2事件
訴えの内容 FC2が運営するインターネット上のコメント付き動画配信サービス「FC2動画」等が、ドワンゴの持つ特許権を侵害している
侵害が主張された特許 特許第4734471号
発明の名称:「表示装置、コメント表示方法、及びプログラム」
特許第6526304号
発明の名称:「コメント配信システム」
特許第4695583号
発明の名称:「表示装置、コメント表示方法、及びプログラム」
一審 判決日:2018(平成30)年9月19日
裁判所:東京地裁
判決日:2022(令和4)年3月24日
裁判所:東京地裁
控訴審 判決日:2022(令和4)年7月20日
裁判所:知財高裁
判決日:2023(令和5)年5月26日
裁判所:知財高裁(大合議判決)
最高裁 判決日:2025(令和7)年3月3日 判決日:2025(令和7)年3月3日

 そして、両訴訟の一審および控訴審における判決の結論は以下のとおりです。第1事件の一審判決を除いては、いずれの判決もFC2らの行為はドワンゴの特許発明の技術の範囲内にあると判断しています。それにもかかわらず第2事件の一審判決では特許権の侵害を認めず、第1事件および第2事件の控訴審判決では特許権侵害が認められ、結論が分かれました。

第1事件 第2事件
一審判決 東京地裁平成30年9月19日判決
請求棄却
<理由>
FC2らの装置及びプログラムはドワンゴの特許発明の技術的範囲に属しないし、均等侵害も成立しない。
東京地裁令和4年3月24日判決
請求棄却
<理由>
FC2らのシステムはドワンゴの特許発明の技術的範囲に属するが、特許発明を実施する行為が日本国内で行われていると認められない。
控訴審判決 知財高裁令和4年7月20日判決
請求一部認容
<理由>
FC2らの装置及びプログラムはドワンゴの特許発明の技術的範囲に属する。FC2らのプログラムの配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。
知財高裁令和5年5月26日判決
請求一部認容
<理由>
FC2らのシステムはドワンゴの特許発明の技術的範囲に属する。FC2らのシステムを構成する要素の一部であるサーバは国外に存在するが、諸事情を総合考慮すれば、特許発明を実施する行為が日本の領域内で行われたとみることができる。

 このように異なる結論となったのは、本件ではFC2動画等に係るFC2らのサーバが日本国外に存在していたところ、この場合にも日本の特許権の侵害になるか、という点について判断が分かれたためです。
 言い換えれば、インターネットを通じて日本のユーザが利用できるサービスを提供していたとしても、サーバなど一部の要素が日本国外にあれば日本の特許権の侵害は免れるのか、という点が当事者と対象サービスを同じくする2つの訴訟で激しく争われました。

 そしてこの争点は、両事件とも最高裁において、以下のとおり日本の特許権の侵害を認める結論となりました。

第1事件 第2事件
最高裁判決 最高裁(二小)令和7年3月3日判決
上告棄却
<理由>
プログラム等が、電気通信回線を通じて我が国の領域外から送信されることにより、我が国の領域内に提供されている場合であっても、問題となる行為を全体としてみて、実質的に我が国の領域内における「電気通信回線を通じた提供」に当たると評価されるときは、当該行為に我が国の特許権の効力が及ぶと解することを妨げる理由はない。FC2らは、本件配信によって、実質的に我が国の領域内において、本件各プログラムの電気通信回線を通じた提供をしていると評価するのが相当である。
最高裁(二小)令和7年3月3日判決
上告棄却
<理由>
サーバと端末とを含むシステムについて、当該システムを構築するための行為の一部が電気通信回線を通じて我が国の領域外からされ、また、当該システムの構成の一部であるサーバが我が国の領域外に所在する場合であっても、システムを構築するための行為やそれによって構築されるシステムを全体としてみて、当該行為が実質的に我が国の領域内における「生産」に当たると評価されるときは、これに我が国の特許権の効力が及ぶと解することを妨げる理由はない。FC2らは、本件配信及びその結果としての本件システムの構築によって、実質的に我が国の領域内において、本件システムを生産していると評価するのが相当である。

 以下ではこの点についてポイントを見ていきます。

両事件に共通する争点

サーバが海外にあるケースにおける問題

 インターネットに関連する発明は、端末とサーバの間で情報を送受信する内容を含み、端末とサーバなど複数の物で構成されていることがよくあります。
 一方、実際にそのような技術が実装される場合、端末は日本国内にあるがサーバは海外にあるケースが見られます。本件は、まさにこのケースに該当します。
 このようなケースで問題になるのが、「特許発明の一部が国外で実施された場合に日本の特許権の侵害が成立するか」という点です。

属地主義の原則との関係

(1)属地主義の原則とは

 特許権は国ごとに、その国の法制度に従って付与されます。各国の特許権は、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、その効力は当該国の領域内においてのみ認められます。これは特許権の属地主義の原則と呼ばれます。
 属地主義の原則は日本においては過去の最高裁判例 1 でも前提とされており、特許の世界の大原則と言っても過言ではありません。
 他方、一般に特許権の侵害が成立するためには、特許発明を構成する要素(「構成要件」と呼びます)の全てが侵害者によって実施されている必要があります。このことをオールエレメンツ・ルールと呼びます。

(2)特許発明の一部が国外で実施された場合に日本の特許権の侵害が成立するか

 そうすると、特許発明の構成要件の一部が日本国外で実施されている場合には、属地主義の原則とオールエレメンツ・ルールとの関係で、特許権侵害が成立するのか否かが問題となります。上記属地主義の原則の後段部分からすると「日本の特許権の効力は日本の領域内においてのみ認められる」ことになるからです。
 これが「特許発明の一部が国外で実施された場合に日本の特許権の侵害が成立するか」という問題です。

 仮にこうした場合に特許権侵害にならないとすると、特許権者の立場から見れば、特許発明の要素の一部、たとえばサーバを国外に置かれるだけで特許権侵害にはならないことになり、日本国内の利用者はサーバがどこにあっても受けられるサービスは同じであるにもかかわらず、第三者は特許発明に係る技術を実装しても簡単に侵害の責任を免れることができてしまうといえます。

各判決における判断の有無

 では本件の2つの訴訟において、この問題はどのように判断されたのでしょうか。

 実は第1事件の一審判決では、上記の属地主義の原則に関わる争点について裁判所の判断はされていません。前述のように、そもそも特許発明の技術的範囲に属さないとの判断により、特許権は非侵害ということで請求棄却の結論が導かれたためです。
 それ以外の判決では、上記の属地主義の原則に関わる争点について、裁判所による判断がなされました。

 そこで以下では、当該争点に対する判断をした各判決をその判決日の順に、第2事件の一審判決、第1事件の控訴審判決、第2事件の控訴審判決の順で紹介します。

第2事件の一審判決

第2事件の特許と「実施」

 第2事件で問題となった特許第6526304号の請求項1記載の発明の構成は、以下のようになっています。

1A サーバと、これとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、

1B 前記サーバは、前記サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、

1C 前記端末装置に、前記動画と、コメント情報とを送信し、

1D 前記コメント情報は、前記第1コメント及び前記第2コメントと、前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、

1E 前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、

1F 前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、

1G 重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、

1H 前記サーバが、前記動画と、前記コメント情報とを前記端末装置に送信することにより、前記端末装置の表示装置には、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、

1I コメント配信システム。

 最後が「コメント配信システム」で結ばれていることからわかるように、この特許はいわゆるシステムに関する発明の特許です。

 ドワンゴは、上記発明に係るコメント配信システムをFC2が「生産」していると主張しました。
 特許権侵害が成立するためには、侵害者の行為が特許法の定める特許発明の「実施」行為に該当する必要があります。特許法上、システムの発明は「物」の発明に分類され、物の発明の「実施」行為にはその物の生産、使用、譲渡、貸渡しが含まれます(特許法2条3項1号)。このうちドワンゴは「生産」を主張したというわけです。
 特許法でいうシステムの「生産」は、通常の物とは異なり、複数の物の結合により完成される場合がある点が特徴といえます。ドワンゴは具体的には、FC2がそのサーバから日本国内のユーザ端末に所定の電子ファイルを送信することがFC2動画等に係るシステムの「生産」に当たると主張しました。

裁判所の判断:特許権侵害を否定

 第2事件の一審判決は、属地主義の原則を理由に、特許法にいう物の「生産」は日本国内におけるものに限定されると解するのが相当であると述べ、その「生産」に当たるためには、特許発明の構成要件の全てを満たす物が日本国内において新たに作り出されることが必要であると判断しました。

 この判断基準によると、ドワンゴの特許発明であるコメント配信システムが生産されたというためには、ドワンゴの特許発明の構成要件を全て備えるコメント配信システムが日本国内で新たに作り出されることが必要です。しかしFC2動画の場合、ドワンゴの特許発明の構成要件の1つであるサーバが海外に所在しています。そのため、特許発明の構成要件の「全てを満たす物が日本国内において」新たに作り出されているとはいえないので、特許権侵害は否定されることになります。
 第2事件の一審判決はこのような論理で特許権の侵害はないと判断しました。

 この訴訟でドワンゴは、多数のユーザ端末は日本国内に存在しているからFC2のシステムの大部分は日本国内に存在しており、「生産」行為の大部分は日本国内で行われているとの主張をしていました。
 しかし、この主張に対して一審判決は、特許権による禁止権の及ぶ範囲については明確である必要性が高いといえることからも、明文の根拠なく、物の構成要素の大部分が日本国内において作り出されるといった基準をもって「生産」の範囲を画するのは相当ではないと判断しました。

小括(裁判所は何を重視したか)

 第2事件の一審判決は、属地主義の原則との関係に加え、この「特許権による禁止権の及ぶ範囲については明確である必要性が高い」ことを理由として重視したのだと思われます。

 たしかに、特許発明の構成要素の一部が日本国外にある場合に、その国外の要素に係る個別事情等に応じて侵害か非侵害かが決まるといった考え方よりも、一律に特許権非侵害と解釈されるほうが結論は明確ではあります。

第1事件の控訴審判決

 次に、第1事件の控訴審判決を見てみましょう。

第1事件の特許と「実施」

 第1事件で問題となった特許は複数ありますが、第1事件の控訴審判決が侵害を認定した特許第4734471号の請求項9記載の発明の構成は、以下のようになっています。

1-9A 動画を再生するとともに、前記動画上にコメントを表示する表示装置のコンピュータを、

1-9B 前記動画を表示する領域である第1の表示欄に当該動画を再生して表示する動画再生手段、

1-9C コメントと、当該コメントが付与された時点における、動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部に記憶された情報を参照し、

1-9D 前記再生される動画の動画再生時間に基づいて、前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち、前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間に対応するコメントをコメント情報記憶部から読み出し、

1-9E 当該読み出されたコメントの一部を、前記コメントを表示する領域であって一部の領域が前記第1の表示欄の少なくとも一部と重なっており他の領域が前記第1の表示欄の外側にある第2の表示欄のうち、前記第1の表示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表示するコメント表示手段、

1-9F として機能させるプログラム。

 最後が「プログラム」で結ばれていることからわかるように、この特許はプログラムに関する発明の特許です。

 ドワンゴは、FC2動画等のサービスの提供に際し、上記発明に係るプログラムをFC2が電気通信回線を通じて「提供」していると主張しました。
 特許法上、プログラムは「物」の発明に分類されます。物の発明の「実施」行為には、前述した生産、使用、譲渡、貸渡しに加え、「物」がプログラムである場合は「電気通信回線を通じた提供」が含まれます(特許法2条3項1号)。このうちドワンゴは「電気通信回線を通じた提供」を主張したというわけです。

裁判所の判断:特許権侵害を認める

 FC2らのサービスにおいて、各プログラムは米国内に存在するサーバから日本国内に所在するユーザに向けて配信される 2 ものであるため、FC2らの各プログラムに係る電気通信回線を通じた提供はその一部が日本国外において行われるものでした。
 そのため、FC2らのプログラムの配信が日本国特許法にいう「電気通信回線を通じた提供」に該当するか否かが問題となりました。

 この点につき知財高裁は、特許発明の実施行為の一部が形式的に日本国外で行われていた場合であっても、問題となる提供行為が実質的かつ全体的にみて日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「電気通信回線を通じた提供」に該当し、特許権侵害となると判断しました。同判決はその際の考慮要素として以下の4つを例示しています。

  1. 当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか
  2. 当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか
  3. 当該提供が日本国の領域内に所在する顧客(ユーザ)等に向けられたものか
  4. 当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているか

 同判決はこの点を以下のように述べています。

 しかしながら、本件発明1−9及び10のようにネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反するというべきである。他方、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。
 したがって、問題となる提供行為については、当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である。

 そして同判決はこの基準を当てはめ、以下の事情に照らし、本件配信はその一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当であると判断し、FC2らのプログラムを日本国内に所在するユーザに向けて配信する行為はドワンゴの特許権の侵害になると結論づけました。

  1. 本件配信は、日本国の領域内に所在するユーザがFC2ら各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、完結されるものであって、本件配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難である
  2. 本件配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われる
  3. 本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである
  4. 本件配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした本件発明1−9及び10に係る動画を視聴することができるのであって、本件配信により得られる本件発明1−9及び10の効果は、日本国の領域内において発現している。

小括(裁判所は何を重視したか)

 第1事件の控訴審判決が重視したのは、上記引用部分にもあるように、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることになってしまうことと、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会においてそのような潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反することであると思われます。その見方の前提には、どこにサーバがあっても日本国内の利用者が受けられるサービスは同じという事実もあるのでしょう。

 他方で同判決は、属地主義の原則との関係を考慮し、実質的かつ全体的にみて日本国の領域内で行われたと評価し得るかどうかという判断基準を定立しました。この判断は、結局は諸事情の総合考慮ということになります。その意味で、前述の第2事件の一審判決が重視した「特許権による禁止権の及ぶ範囲については明確である必要性が高い」という要請が後退する面は否めません。

第2事件の控訴審判決

第2事件の控訴審への注目

 上記のように第1事件において知財高裁が特許権侵害を認める判断をしたことで、一審判決では特許権侵害が否定された第2事件において控訴審ではどのような判決がされるか、注目されることとなりました。

 なお、第1事件、第2事件とも控訴審は知財高裁にて審理および判決がされますが、担当する裁判官は異なります。
 第1事件の控訴審は、知財高裁の4か部のうち第2部(本多知成裁判長)が担当しました。
 これに対して第2事件の控訴審は、知財高裁の特別部(大鷹一郎裁判長)にて審理されました。特別部は、知財高裁の4か部それぞれの裁判長らを含む5名の裁判官から成り、知財高裁が必要と判断した事件に対して個別に構成されます。一定の信頼性のあるルール形成および高裁レベルでの事実上の判断統一の要請に応えるための制度であると説明されていますので、重要な法的争点を含む事件が特別部で審理されるといってよいでしょう。この特別部による判決には「大合議判決」との呼称が定着しています。

 また、第2事件の控訴審では、上記争点につき、近時の法改正で特許法に導入された第三者意見募集制度」が初めて適用されました。これは、特定の訴訟の争点について訴訟の当事者でない者から広く意見を公募する制度です。同制度が初めて適用されたことも、本件の争点の重要性を裏付けるとともに注目を増すきっかけの1つとなりました。

裁判所の判断:特許権侵害を認める

 さて、第2事件の控訴審判決の内容は以下のとおりです。

 まず同判決は、以下のように、インターネット等のネットワークを介してサーバと端末が接続され全体としてまとまった機能を発揮するシステム(同判決はこれを「ネットワーク型システム」と呼んでいます)における「生産」の意味を、「単独では当該発明の全ての構成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能を有するようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいう」と述べました。

そして、本件発明1のように、インターネット等のネットワークを介して、サーバと端末が接続され、全体としてまとまった機能を発揮するシステム(以下「ネットワーク型システム」という。)の発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能を有するようになることによって、当該システムを新たに作り出す行為をいうものと解される。

 次に同判決は、FC2動画においてシステムを新たに作り出す行為は何かを検討し、サーバが送信した各ファイルをユーザ端末が受信した時点で本件発明1の全ての構成要件を充足する機能を備えたFC2動画のシステムが新たに作り出されたものということができると判断しました 3

 この解釈を前提とすると、FC2のサーバが海外にあること、ユーザ端末との送受信は米国と日本とにまたがって行われることからして、新たに作り出されるFC2のシステムは米国と日本にまたがって存在することになりますので、属地主義の原則との関係が問題になります。
 同判決はこれを踏まえて、FC2動画のシステムを新たに作り出す行為が特許法上の「生産」に当たるかを検討しました。その際の同判決のポイントは、

  • ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格に解釈して、サーバが国外に存在すれば一律に日本の特許法上の発明の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、妥当ではない
  • 他方で、端末が国内に存在することを理由に一律に「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、これも妥当ではない

というものです。同判決は上記ポイントを以下のように述べています。

 ネットワーク型システムにおいて、サーバが日本国外(以下、単に「国外」という。)に設置されることは、現在、一般的に行われており、また、サーバがどの国に存在するかは、ネットワーク型システムの利用に当たって障害とならないことからすれば、被疑侵害物件であるネットワーク型システムを構成するサーバが国外に存在していたとしても、当該システムを構成する端末が日本国内(以下「国内」という。)に存在すれば、これを用いて当該システムを国内で利用することは可能であり、その利用は、特許権者が当該発明を国内で実施して得ることができる経済的利益に影響を及ぼし得るものである。
 そうすると、ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格に解釈し、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在することを理由に、一律に我が国の特許法2条3項の「実施」に該当しないと解することは、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないこととなって、妥当ではない。
 他方で、当該システムを構成する要素の一部である端末が国内に存在することを理由に、一律に特許法2条3項の「実施」に該当すると解することは、当該特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を生じる事態となり得るものであって、これも妥当ではない。

 同判決はこのような検討を踏まえて、諸事情を総合考慮して当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法上の「生産」に該当すると判断し、考慮される事情として以下のものを例示しました。

  1. 当該行為の具体的態様
  2. 当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割
  3. 当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所
  4. その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等

 同判決はこの点を以下のように述べています。

これらを踏まえると、ネットワーク型システムの発明に係る特許権を適切に保護する観点から、ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が、特許法2条3項1号の「生産」に該当するか否かについては、当該システムを構成する要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が我が国の領域内で行われたものとみることができるときは、特許法2条3項1号の「生産」に該当すると解するのが相当である。

 そして同判決はこの基準を当てはめ、FC2動画のシステムを新たに作り出す行為は、日本の領域内で行われたものとみることができ「生産」に該当すると判断し、FC2動画のシステムはドワンゴの特許権の侵害になると結論づけました。その判断にあたって考慮された事情は以下のとおりです 4

  1. 具体的態様として、米国に存在するサーバと国内のユーザ端末との間の送受信は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによってFC2動画のシステムが完成することからすれば、上記送受信は国内で行われたものと観念することができる
  2. 国内に存在するユーザ端末は、FC2動画のシステムにおいて特許発明の主要な機能(動画上に表示されるコメント同士が重ならない位置に表示されるようにするために必要とされる構成要件1Fの判定部の機能と構成要件1Gの表示位置制御部の機能)を果たしている
  3. FC2動画のシステムは、ユーザ端末を介して国内から利用することができるものであって、コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の向上という特許発明の効果は国内で発現している
  4. FC2動画のシステムの国内における利用は、ドワンゴが特許発明に係るシステムを国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得る

小括(裁判所は何を重視したか)

 第2事件の控訴審判決も、サーバが国外に存在することを理由に一律に特許権侵害が否定されるとすると特許権の保護に欠けることを重視しています。他方で同判決は、端末が国内に存在することを理由に一律に特許権侵害を肯定することも過剰な保護であると指摘して、諸事情の総合考慮という判断基準を定立しました。

最高裁判決

第2事件の最高裁判決

 まず、知財高裁において大合議判決が出された第2事件の最高裁判決を見てみましょう。
 はじめに最高裁は、「我が国の特許権の効力は、我が国の領域内においてのみ認められる」と述べ、属地主義の原則を確認しました。
 もっとも、続いて最高裁は、電気通信回線を通じた国境を超える情報の流通が極めて容易な現代において、サーバと端末とを含むシステムについて、特許に係るシステムの一部が日本国外にあるからといって常に日本の特許権の効力が及ばないとすれば特許法の目的に沿わない旨を述べました。

 この点についての最高裁の判決文は以下のとおりです。

我が国の特許権の効力は、我が国の領域内においてのみ認められるが(最高裁平成12年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参照)、電気通信回線を通じた国境を越える情報の流通等が極めて容易となった現代において、サーバと端末とを含むシステムについて、当該システムを構築するための行為の一部が電気通信回線を通じて我が国の領域外からされ、また、当該システムの構成の一部であるサーバが我が国の領域外に所在する場合に、我が国の領域外の行為や構成を含むからといって、常に我が国の特許権の効力が及ばず、当該システムを構築するための行為が特許法2条3項1号にいう「生産」に当たらないとすれば、特許権者に業として特許発明の実施をする権利を専有させるなどし、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に沿わない。

 そのうえで最高裁は、以下のように、システムを構築するための行為やそれによって構築されるシステムを全体としてみて、実質的に我が国の領域内における「生産」に当たると評価されるときは、これに我が国の特許権の効力が及ぶと解する旨の判断をしました。

そうすると、そのような場合であっても、システムを構築するための行為やそれによって構築されるシステムを全体としてみて、当該行為が実質的に我が国の領域内における「生産」に当たると評価されるときは、これに我が国の特許権の効力が及ぶと解することを妨げる理由はないというべきである。

 続いて最高裁は、第2事件への当てはめとして、以下のとおり、本件システムを構築するための行為および本件システムを全体としてみると、

  • 本件配信による本件システムの構築は、日本国内に所在の端末を使用するユーザが本件各サービスの提供を受けるため本件各ページにアクセスすると当然に行われるものであること
  • その結果、本件システムにおいて、コメント同士が重ならないように調整するなどの処理がされ、当該処理の結果が日本国内に所在の端末上に表示されること

を指摘しました。

しかし、本件システムを構築するための行為及び本件システムを全体としてみると、本件配信による本件システムの構築は、我が国所在の端末を使用するユーザが本件各サービスの提供を受けるため本件各ページにアクセスすると当然に行われるものであり、その結果、本件システムにおいて、コメント同士が重ならないように調整するなどの処理がされることとなり、当該処理の結果が、本件システムを構成する我が国所在の端末上に表示されるものである。

 そのうえで最高裁は、本件配信による本件システムの構築は、日本所在の端末で本件各発明の効果を奏させるようにするものであり、当該効果が奏されることとの関係においてサーバの所在地が日本国外にあることに特段の意味はないと判断しました。また、本件配信やシステムがドワンゴに経済的な影響を及ぼさないとの事情もうかがわれないと指摘しています。
 そして、これらの理由により最高裁は、本件配信およびその結果としての本件システムの構築によってFC2は実質的に日本の領域内で本件システムを生産していると評価するのが相当と判断しました

 この点についての判決文は以下のとおりです。

これらのことからすると、本件配信による本件システムの構築は、我が国で本件各サービスを提供する際の情報処理の過程としてされ、我が国所在の端末を含む本件システムを構成した上で、我が国所在の端末で本件各発明の効果を当然に奏させるようにするものであり、当該効果が奏されることとの関係において、前記サーバの所在地が我が国の領域外にあることに特段の意味はないといえる。そして、被上告人が本件特許権を有することとの関係で、上記の態様によるものである本件配信やその結果として構築される本件システムが、被上告人に経済的な影響を及ぼさないというべき事情もうかがわれない。そうすると、上告人は、本件配信及びその結果としての本件システムの構築によって、実質的に我が国の領域内において、本件システムを生産していると評価するのが相当である。

第1事件の最高裁判決

 第1事件についても、最高裁は第2事件と同様に、以下の判断をしました。

  • 我が国の特許権の効力は、我が国の領域内においてのみ認められる。
  • 電気通信回線を通じた国境を超える情報の流通が極めて容易な現代において、プログラム等が我が国の領域外から送信されることの一事をもって常に我が国の特許権の効力が及ばないとすれば特許法の目的に沿わない。
  • 問題となる行為を全体としてみて、実質的に我が国の領域内における「電気通信回線を通じた提供」に当たると評価されるときは、当該行為に我が国の特許権の効力が及ぶと解することを妨げる理由はない。

 この点についての最高裁の判決文は以下のとおりです。

我が国の特許権の効力は、我が国の領域内においてのみ認められるが(最高裁平成12年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁参照)、電気通信回線を通じた国境を越える情報の流通等が極めて容易となった現代において、プログラム等が、電気通信回線を通じて我が国の領域外から送信されることにより、我が国の領域内に提供されている場合に、我が国の領域外からの送信であることの一事をもって、常に我が国の特許権の効力が及ばず、上記の提供が「電気通信回線を通じた提供」(特許法2条3項1号)に当たらないとすれば、特許権者に業として特許発明の実施をする権利を専有させるなどし、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に沿わない。そうすると、そのような場合であっても、問題となる行為を全体としてみて、実質的に我が国の領域内における「電気通信回線を通じた提供」に当たると評価されるときは、当該行為に我が国の特許権の効力が及ぶと解することを妨げる理由はないというべきである。そして、この理は、特許法101条1号にいう「譲渡等」に関しても異なるところはないと解される。

 続いて最高裁は、第1事件への当てはめとして、本件各プログラムに係るファイルを我が国の領域外のサーバから送信し我が国の領域内の端末で受信させる行為を全体としてみると、

  • 本件配信は、我が国所在の端末を使用するユーザが本件各サービスの提供を受けるため本件各ページにアクセスすると当然に行われるものであること
  • 本件各サービスは、本件配信により当該端末にインストールされた本件各プログラムを利用することにより、ユーザに、我が国所在の端末上で動画の表示範囲とコメントの表示範囲の調整等がされた動画を視聴させること

を指摘しました。

 そのうえで最高裁は、本件配信は我が国所在の端末において本件各プログラム発明の効果を当然に奏させるようにするものであり、当該効果が奏されることとの関係において前記サーバの所在地が我が国の領域外にあることに特段の意味はないこと、本件配信がドワンゴに経済的な影響を及ぼさないというべき事情もうかがわれないことを指摘しました。
 そして、これらの理由により最高裁は、本件配信によってFC2は実質的に日本の領域内で本件各プログラムの電気通信回線を通じた提供をしていると評価するのが相当と判断しました。

 この点についての最高裁の判決文は以下のとおりです。

しかし、これを全体としてみると、本件配信は、我が国所在の端末を使用するユーザが本件各サービスの提供を受けるため本件各ページにアクセスすると当然に行われるものであり、本件各サービスは、本件配信により当該端末にインストールされた本件各プログラムを利用することにより、ユーザに、我が国所在の端末上で動画の表示範囲とコメントの表示範囲の調整等がされた動画を視聴させるものである。これらのことからすると、本件配信は、我が国で本件各サービスを提供する際の情報処理の過程として行われ、我が国所在の端末において、本件各プログラム発明の効果を当然に奏させるようにするものであり、当該効果が奏されることとの関係において、前記サーバの所在地が我が国の領域外にあることに特段の意味はないといえる。そして、被上告人が本件特許権を有することとの関係で、上記の態様によりされるものである本件配信が、被上告人に経済的な影響を及ぼさないというべき事情もうかがわれない。そうすると、上告人らは、本件配信によって、実質的に我が国の領域内において、本件各プログラムの電気通信回線を通じた提供をしていると評価するのが相当である。

 以上のとおり、第1事件で最高裁判決が用いたロジックは、基本的に第2事件と共通しているといえます。

本判決を踏まえた企業実務のポイント

 以上で見てきたように、共に特許権侵害を認めた第1事件と第2事件の控訴審判決は、サーバが海外にあるというだけで特許権侵害の責任を免れてしまうことは妥当ではないという考え方に立脚しているとみられます。この考え方を踏まえながら、属地主義の原則との関係をいかに整理するか、バランスの取れた結論を導くための判断基準をどう設定するかという課題に向き合ったのが、2件の知財高裁の判決であったように思われます。その姿勢は特別部による大合議を採用し、第三者意見募集制度を初めて適用した第2事件の控訴審においてより顕著であったといえるかもしれません。

 この点は最高裁も同様で、第1事件、第2事件のいずれにおいても、サーバが海外にあることの一事をもって常に日本の特許権の効力が及ばないとすることは妥当でない旨を明言しています。最高裁として、属地主義との関係を踏まえつつ、サーバが海外にあるケースでも日本の特許権の効力が及ぶ場合があることを示した点で、実務的にも意義のある判決です。
 もっとも、最高裁は、行為を「全体としてみて」「実質的に」、我が国領域内における「生産」や「電気通信回線を通じた提供」といった特許法上の実施行為に該当するか否かを判断するというにすぎず、具体的な判断基準を定立したとはいえません。考慮すべき諸事情を列挙していた知財高裁の判決と比較しても、一般的な規範の定立には踏み込まなかった印象があります。
 他方、最高裁の当てはめをみると、第1事件、第2事件のいずれにおいても、①日本に所在する端末で発明の効果が生じ、当該効果の発生との関係でサーバが海外に所在することに特段の意味はないことと、②特許権者に及ぼす経済的な影響の存在に言及されています。そのため、今後の実務においても、同種の争点については発明の効果と特許権者に及ぼす経済的影響に着目した2要素が検討されることが多くなるのではないかと予想されます。

 ただし、最高裁判決の射程には注意が必要です。本件は、ネットワーク型システムの事案におけるプログラムの発明の「電気通信回線を通じた提供」とシステム発明の「生産」について判断したものですので、これら以外の事案にも当然に適用されるとはいえません。その内容からしても、インターネット等のネットワークを介したシステムの事案に向けた判断基準となるのではないかと思われます。

 サーバが海外にあるというだけで特許権侵害の責任を免れてしまうことは妥当ではないという観点は、第2事件控訴審判決後の報道等でもしばしば強調されており、IoTや国際化の時代においてサーバの所在地だけで特許権侵害の責任を免れる抜け道をふさぐ判断であるとして評価する声もあります。
 他方、この判決からすれば、他社の特許発明の要素の一部を海外に置くだけで特許権侵害の責任を免れるとは限りません。そのため、本判決を踏まえた企業実務のポイントとしては、自社が他社特許権を侵害する事態を避けるために本判決の内容を踏まえた検討をしていくことが必要となります。

 さらには、本件の知財高裁判決によって、日本企業が海外でサービス展開をする際に日本にサーバを置くなどしてもそのサービス展開国の特許権を侵害することになるのではと思われるかもしれませんが、それはその国の法解釈によりますので一概に同じ結論になるとはいえません。とはいえ、その国における特許権を侵害しないかについてあらかじめ調査しておくべきことは、本件の最高裁判決の前後を問わず変わらないでしょう。


  1. 最高裁(三小)平成9年7月1日判決・民集51巻6号2299頁、最高裁(一小)平成14年9月26日判決・民集56巻7号1551頁 ↩︎

  2. 具体的には、FC2動画等のサービスにおいて、FC2動画のコメント表示に係るプログラムに関するJavaScriptファイル、swfファイル等がユーザの端末にダウンロードされていました。 ↩︎

  3. この判断の理由について判決は、まず、コメント付き動画を日本国内のユーザ端末に表示させる手順として、ユーザがユーザ端末でFC2動画のウェブページを指定すると、サーバからJSファイルまたはSWFファイルがユーザ端末へ送信され、ブラウザのキャッシュに保存され、ユーザ端末がこれらのファイルに格納された命令に従って、サーバが送信した動画ファイルとコメントファイルを受信する旨を認定しました。そのうえで、これらの動画ファイルとコメントファイルを受信した時点において、動画配信用サーバおよびコメント配信用サーバとユーザ端末はインターネットを利用したネットワークを介して接続されており、ユーザ端末のブラウザにおいて動画上にコメントをオーバーレイ表示させることが可能となる旨を理由として述べています。 ↩︎

  4. FC2動画にはFLASH版とHTML5版があり、また本件ではFC2動画以外のFC2らの動画サービスも特許権侵害として問題とされましたが、同判決はいずれについても大要同旨の論理展開により「生産」該当性を認めています。 ↩︎

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