法律事務所パラリーガルの英文契約書翻訳ノート

第7回 英文契約書の分離可能性、完全合意、譲渡禁止

国際取引・海外進出
山本 志織 弁護士法人瓜生・糸賀法律事務所

目次

  1. 分離可能性(Severability)
  2. 完全合意(Entire Agreement)
  3. 譲渡禁止(Non-Assignment)

今回は、分離可能性(Severability)、完全合意(Entire Agreement)、譲渡禁止(Non-Assignment)について、筆者の法律事務所における翻訳実務経験に基づき、具体的な文例と翻訳例を示しつつ、翻訳にあたって注意すべき点を解説します。

なお、本稿は、筆者個人の見解であり、筆者の所属する法律事務所の公式の見解ではありません。

分離可能性(Severability)

条項例 和訳
In the event that any provision of this Agreement is held invalid, illegal or unenforceable by any court of competent jurisdiction, that will not render invalid, illegal or unenforceable the remaining provisions of this Agreement. The validity, legality or enforceability of this Agreement shall not be affected, unless the commercial balance between the parties is materially changed. 本契約の条項が管轄法域の裁判所により無効、違法又は強制執行不能と判断された場合であっても、これにより本契約の余の条項は無効、違法又は強制執行不能とはされない。当事者間の商業上の均衡に重大な変更が発生する場合を除き、本契約の効力、適法性及び強制執行可能性は、何ら影響を受けないものとする。

分離可能性条項とは、たとえば準拠法に基づき何らかの理由により契約中の1つの条項が違法または無効となった場合に、契約中の他の条項も自動的に全部無効とはせずに、違法・無効な1つの条項のみを全体から切り離し、契約の他の部分は生かすという趣旨を示す条項です。

上記では、一方当事者が示した条項案に対して、他方当事者が条項を修正した例をあげました。一方当事者にとって耐え難いほどのビジネス上の不利益を被る場合には、残りの規定をそのまま有効とはしないことがあります。ここでは、そのような趣旨の記述を追記しています。なお、上記の契約条項例の文中における茶色のテキストは、条項修正時の加筆部分を示しています。

また、以下に文例をあげるとおり、代わりに当初の契約締結時に意図した目的に沿った代替的な条項に合意するよう両当事者で努力するという規定を添えることもあります(そこまで規定しないこともあります)。

条項例 和訳
The parties shall make efforts to modify any invalid, illegal or unenforceable provision to reflect the original intent of the parties. 当事者は、当事者の原意を反映するために、無効、違法又は強制執行不能な条項を変更するよう、努力するものとする。

完全合意(Entire Agreement)

完全合意条項は、この契約に規定されている内容が当事者間の合意のすべてであり、契約締結前の書面や口頭の外部証拠は当事者間の合意の証拠として利用することができない、という趣旨の条項です。典型的には、以下のとおり規定されます。

条項例 和訳
This Agreement constitutes the entire agreement of the parties with respect to the subject matter hereof, and supersedes all prior agreements, undertakings and arrangements, written or oral, among the parties with respect to the subject matter hereof. 本契約はその対象事項に関して当事者間の完全な合意を構成し、本契約の対象事項に関する当事者間の従前の合意、約束及び取決めの一切(書面又は口頭であるかを問わない 。)に取って代わる

英文契約の完全合意条項は、英米法上の口頭証拠排除原則(Parol evidence rule:パロール・エビデンス・ルール)の裏返しです。口頭証拠原則については、UCC2−202条に規定があります。

UCC § 2−202. Final Written Expression:
Parolor Extrinsic Evidence.
UCC 2−202条 書面による最終的表示
- 口頭証拠または当該書面以外の証拠
(1) Terms with respect to which the confirmatory memoranda of the parties agree or which are otherwise set forth in a writing intended by the parties as a final expression of their agreement with respect to such terms as are included therein may not be contradicted by evidence of any prior agreement or of a contemporaneous oral agreement but may be explained or supplemented
(a) by course of dealing or usage of trade (Section 1−205) or by course of performance (Section 2−208); and
(b) by evidence of consistent additional terms unless the court finds the writing to have, been intended also as a complete and exclusive statement of the terms of the agreement.
(1) 当事者の確認用の記録が合意する条項、またはそこに規定された条項について、当事者の合意の最終的表示であると当事者が意図して別途書面に規定した当該条項は、従前の合意または同時期の口頭の合意を証拠としてこれを否認することはできない。但し、以下の事項によりこれを説明し、または補充することはできる。
(a) 取引経過もしくは取引慣行(1−205条)または履行経過(2−208条)
(b) 上記と整合的かつ追加的な条項の証拠。但し、書面が合意の条項の完全かつ排他的な表示と意図されたものであると裁判所が認定した場合を除く。

米国法に基づく完全合意条項のルールは、以下のとおりです。

  1. 米国契約法では、完全合意条項は、契約書面中に規定されている内容が当事者の合意のすべてを構成することの終局的な証拠(Conclusive evidence)とはなりません。あくまでも契約書が当事者の合意のすべてを構成しているか(=契約がIntegratedされているか)ということを裁判官が判断するうえで、考慮材料となる(Persuasive evidence(説得的証拠)となる 1 )に過ぎないとされています。
  2. Integratedされているか否かの判断(Completely integrated(契約が、当事者間の合意のすべてを、完全に規定している)か、Partially integrated(契約が、当事者間の合意のすべてを、部分的に規定している)かの判断を含めて)は、裁判官が法律問題として行います(これに対して、陪審は事実問題を扱います)。
  3. Partially integratedされていると判断されれば、契約を追加的かつ整合的な用語(Additional consistent terms)によって補充(Supplement)するために外部証拠を利用することはできますが、契約をContradictするために外部証拠を利用することはできません。
  4. Completely integratedであると判断されれば、契約をContradictするために外部証拠を利用できないのはもちろん、契約を補充(Supplement)するためにも外部証拠を利用することはできません。
  5. Completely integratedされていると判断されても、曖昧性(Ambiguities)のある用語を解釈するために外部証拠を利用することは可能です。
外部証拠の利用の可否
Supplement Contradict
Integratedされているか否かの判断 Partially integrated ×
Completely integrated × ×

譲渡禁止(Non-Assignment)

条項例 和訳
Neither this Agreement nor the rights and obligations hereunder may be assigned by any party without the prior written consent of the other party. Subject to the foregoing, this Agreement shall be binding upon and inure to the benefit of each party hereto and its respective successors and assigns. Any purported assignment without the prior written consent of the other party shall be null and void. 当事者は、本契約又は本契約に基づく権利義務を、他方当事者の事前の書面による同意なく、譲渡することができない。上記を条件として、本契約は、本契約当事者並びにその各々の承継人及び譲受人に対し拘束力を有しそれらの利益のために供するものとする。他方当事者の事前の書面による同意なく譲渡を試みた場合には、当該譲渡は無効とするものとする。

米国契約法上、一般的に、当事者が権利義務を譲渡できる場合が広範に認められています。他方当事者の同意がなければ譲渡することができないとしたい場合には、そのように規定しておくことが重要となります。

「Assignment of this Agreement」とは、契約上の地位の譲渡を意味します。「Assignment of the rights and obligations under this Agreement」とは、契約上の権利義務の譲渡(債権譲渡と債務引受)を意味します。
「譲渡」には、Assign、Delegate、Transferといった言葉を使うこともあります。権利についてはAssignment、義務についてはDelegationという用語を使用し、Assignment of rights、Delegation of obligations/dutiesということもあります。なお、TransferはAssignとほぼ同義で使われることも多いです。

米国契約法上、「The rights shall not be assignable.」と定めた場合において一方当事者が権利を譲渡したときには、譲渡人は契約違反になりますが、契約譲渡そのものが有効か無効かは、曖昧になります。
「The assignment of rights shall be void.」と定めた場合において一方当事者が権利を譲渡したときには、譲渡人は契約違反となるとともに、契約そのものが無効であることが明確になります。契約をドラフトする側としては、譲渡禁止条項に違反した契約譲渡を無効としたい場合には、「void」という用語を使用することをおすすめします。

翻訳者である筆者の視点からは、「譲渡不能(non-assignable)」と「無効(void)」を正確に区別して翻訳しなければ、契約上の効果も意味も変わってくるので、注意する必要があります。

次回は、準拠法(Governing Law)、管轄裁判所(Jurisdiction)、紛争解決 (Dispute Resolution)、紛争解決(Dispute Resolution)について解説していきます。


  1. 完全合意条項が、契約がIntegratedされているということのRebuttable presumption(反証を許す推定)になり、Burden of production(証拠提出責任)が相手方に転換されるということです。 ↩︎

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