法律事務所パラリーガルの英文契約書翻訳ノート

第5回 英文契約書の保証の否認、責任の制限、秘密保持

国際取引・海外進出
山本 志織 弁護士法人瓜生・糸賀法律事務所

目次

  1. 保証の否認(Disclaimer of Warranties)
  2. 責任の制限(Limitation of Liability)
  3. 秘密保持(Confidentiality)

今回は、保証の否認(Disclaimer of Warranties)、責任の制限(Limitation of Liability)、秘密保持 (Confidentiality)について、筆者の法律事務所における翻訳実務経験に基づき、具体的な文例と翻訳例を示しつつ、翻訳にあたって注意すべき点を解説します。

なお、本稿は、筆者個人の見解であり、筆者の所属する法律事務所の公式の見解ではありません。

保証の否認(Disclaimer of Warranties)

条項例 和訳
EXCEPT AS SET FORTH HEREIN, EACH PARTY MAKES NO REPRESENTATIONS, AND HEREBY EXPRESSLY DISCLAIMS ALL WARRANTIES, EXPRESS OR IMPLIED, REGARDING ITS PRODUCTS OR SERVICES, INCLUDING ANY IMPLIED WARRANTY OF MERCHANTABILITY OR FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE. 本契約に定める場合を除き、各当事者は、自己の製品又は役務に関連して、何ら表明を行わず、商品性の黙示保証及び特定目的適合性の黙示保証を含む、保証の一切(明示的又は黙示的であるかを問わない。)をここに明示的に否認する

上記の規定例では、商品性の黙示保証(Implied warranty of merchantability)と特定目的適合性の黙示保証(Implied warranty of fitness for a particular purpose)が否認(Disclaim)されています。
統一商事法典(Uniform Commercial Code; UCC)の規定により、商品性の保証と特定目的適合性の保証は、黙示的に保証されます。そのため、これらの保証を行わないのであれば、その旨明示的に契約に規定しなければなりません。
UCC2−316条は、このような保証の否認はConspicuous(顕著)に規定しなければならないと規定しており、実務慣行上は通常、英文契約において大文字表記で記載されます。
翻訳の問題としては、英文契約におけるConspicuous要件に適合する大文字記載を和訳する場合には、太字記載にすることが多いです。

商品性の保証とは、製品が通常の目的に適合している商品性を有している旨保証する責任をいいます。
特定目的適合性の保証とは、以下の要件を充たした場合に、売主が買主に対して当該商品が特定目的に適合する商品性を有している旨保証する責任をいいます。

  1. 買主が特定の目的のために製品を求めている。
  2. 買主が売主の商品選択の判断を信頼している。
  3. 売主が①②を知っていた場合または知り得た場合である。

責任の制限(Limitation of Liability)

条項例 和訳
IN NO EVENT WILL ANY PARTY BE LIABLE FOR ANY CLAIM FOR INDIRECT, PUNITIVE, INCIDENTAL, EXEMPLARY, SPECIAL OR CONSEQUENTIAL DAMAGES, OR FOR LOSS OF BUSINESS PROFITS ARISING OUT OF OR IN RELATION TO THIS AGREEMENT, WHETHER BASED ON CONTRACT, TORT OR ANY OTHER LEGAL THEORY, EVEN IF SUCH PARTY HAS BEEN ADVISED OF THE POSSIBILITY OF SUCH DAMAGES. 当事者はいかなる場合であっても、契約・不法行為その他の法理論に基づくか否かを問わず、また損害の可能性について知らされていた場合であっても、本契約に起因し又はこれに関連して発生する間接損害、懲罰的損害、付随損害、特別損害若しくは派生損害、又は逸失利益の請求について、何ら責任を負わない。

責任を制限する趣旨の規定は、保証の否認に関する条項と同様に、大文字表記で記載することが多いです(UCC2-316条)。

米国契約法上は一般的に、「通常損害」と予見可能な「特別損害」を請求することができます。
日本法では民法416条で「通常損害」「特別損害」について規定しており、「特別損害」の予見可能性が契約違反時で判断されます。それに対して、米国法上は「特別損害(Special damages)」の予見可能性は、契約締結時で判断される点に注意が必要です(英国における1854年の事案Hadley v. Baxendaleに由来するルールであり、ハドレー準則とも呼ばれます)。

米国契約法上、特別損害の要件としては、①確実性(Certainty)、②予見可能性(Foreseeability)、③損害軽減義務(Duty of mitigation of damages)を充足していること、があげられます。

なお、Punitive DamagesとExemplary Damagesはともに「懲罰的賠償」と和訳して構いません。懲罰的賠償とは、日本法では認められていませんが、非難に値する行為や不正行為を行った当事者を罰するために与えられる、英米法上の賠償です。米国法上、賠償は陪審が決定する事項ですが、懲罰的賠償は時として非常に多額になるため、論争の対象になることも多いです。米国契約法上、懲罰的賠償は契約違反の救済手段として認められませんが、詐欺等、悪質な不法行為に該当する場合には、懲罰的賠償が付与されることがあります。

秘密保持(Confidentiality)

一方当事者が提示した秘密保持の条項案について、他方当事者が条項を修正する例を以下にあげます。なお、以下の契約条項例の文中における茶色のテキストは、条項修正時の加筆部分を示しています。

条項例 和訳
[ポイント①] AA Each party (hereinafter, the “Receiving Party”) shall maintain in confidence, [ポイント②] and shall not use for any purpose other than the performance of this Agreement, any and all information of BB the other party (hereinafter, the “Disclosing Party”) disclosed to or acquired by AA the Receiving Party in connection with this Agreement that is designated as confidential (hereinafter, the "Confidential Information"); [ポイント③] provided, however, that AA the Receiving Party may disclose such information to its officers, directors, and employees, consultants and agents who have a need to know such information for the purposes of performing this Agreement (hereinafter, the “Authorized Persons”), or may disclose such information where disclosure is required by applicable laws and regulations or by the governmental agencies or the court. [ポイント④] The Authorized Persons shall be bound by confidentiality obligations of the same degree as those set forth in this Agreement. The Receiving Party shall be fully responsible for the breach of such confidentiality obligations by the Authorized Persons. [ポイント⑤] Each party’s confidentiality obligations under this Agreement shall continue for a period of three (3) years after the termination or expiration of this Agreement. [ポイント①]AA各当事者(以下、「受領当事者」という。)は、本契約に関連して受領当事者に開示され又は受領当事者が取得した BB他方当事者(以下、「開示当事者」という。)の情報の一切のうち、秘密であると指定された情報(以下、「本秘密情報」という。)を秘密保持するものとする[ポイント②]し、かつ本契約の履行以外の目的のためにこれを使用してはならない。[ポイント③]但し、AA受領当事者は、本契約を履行する目的のために当該情報を知る必要のある自己の役員、取締役、及び従業員、コンサルタント及び代理人(以下、「授権者」という。)に対し当該情報を開示することができ、また適用法令又は政府機関若しくは裁判所により開示が要請される場合に当該情報を開示することができる。[ポイント④]授権者は、本契約に定める秘密保持義務と同程度の秘密保持義務を負うものとする。受領当事者は、授権者による当該秘密保持義務の違反について、完全に責任を負うものとする。[ポイント⑤]本契約に基づく各当事者の秘密保持義務は、本契約の終了又は期間満了の後も3年間継続するものとする。
Confidential Information shall not include:
(i) information in the public domain at the time of disclosure thereof;
(ii) information which was already known by AA the Receiving Party without any obligation of confidentiality at the time of disclosure thereof;
(iii) information which entered the public domain through no fault of the AA Receiving Party;
(iv) information disclosed to AA the Receiving Party by a third party entitled to make such disclosure; or
(v) information independently developed by AA the Receiving Party.
本秘密情報は、以下の情報を含まない。
(i) 情報の開示の時点において公知であった情報、
(ii) 情報の開示の時点において秘密保持義務を負うことなくAA受領当事者が既に知っていた情報、
(iii) AA受領当事者の責めによらずに公知となった情報、
(iv) 開示を行う権利を有する第三者によりAA受領当事者に開示された情報、及び
(v) AA受領当事者が独自に開発した情報。

契約条項の修正のポイントは、以下のとおりです。

  1. 一方当事者が他方当事者に対し秘密保持義務を負うという規定から、両当事者が互いに他方当事者に対し秘密保持義務を負うという規定に修正しました。
  2. 秘密情報を目的外使用しないことを明記しました。
  3. 受領当事者が秘密情報を開示できる人々(授権者)の範囲を吟味したうえで、コンサルタントと代理人を除外しました。
  4. 授権者も秘密保持義務を負うことを明記しました。また、受領当事者が授権者の秘密保持義務違反について責任を負うことも明記しました。
  5. 秘密保持義務は契約終了後も存続することを規定しました。ここでは契約終了後3年間存続するとしています。

なお、秘密保持条項に関しては、当事者が負う注意義務の水準について、議論の余地があることに注意が必要です。外国では「自己の秘密を保護するのと同程度の水準の注意義務」を負わせるとする論調が多いですが、日本の民法では、自己の物に対する義務の水準は低いからです。

次回は、不可抗力(Force Majeure)、権利不放棄(Non-Waiver)、見出し(Headings)について解説していきます。

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