海外法Legal Update

第2回 2024年12月に押さえておくべき海外法の最新動向

国際取引・海外進出
ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業)

目次

  1. 米国
    1. グリーンウォッシュ訴訟の新たな台頭
    2. 米国財務省が中国関連の先端技術への対外投資を制限する規則案を発表
    3. 米国司法省が公益通報報奨金パイロットプログラムの運用を開始
    4. 米国司法省が人工知能および進化するポリシーに焦点を当てたコンプライアンス・プログラム評価ガイダンスを更新
  2. EU・英国
    1. EU:企業の持続可能性デューデリジェンス指令(CS3D)に関するFAQの公表
    2. EU:欧州委員会が域内市場を歪める外国補助金の評価手法の明確化に係る文書を初めて公表
    3. 英国:平等人権委員会がセクシャルハラスメント防止の合理的な措置のためのガイダンス草案を公表
    4. 英国:歳入関税庁が移転価格コンプライアンスに関する新ガイドラインを発表
    5. スイス:連邦最高裁、弁護士依頼者秘匿特権の範囲を明確化する重要な判断
    6. ポーランド:公益通報者保護法の制定
    7. ドイツ:違法なロビー活動に対する新たな刑事罰の導入
  3. 中国・香港・台湾
    1. 香港:人工知能(AI)技術採用のための新しい個人情報保護フレームワークを公表
    2. 台湾:高齢者の雇用継続の推進(労働基準法54条の改正)
  4. 東南アジア
    1. シンガポール:治療用製品の登録に関する規制のアップデート
    2. シンガポール:AIによる合成データの学習および生成に関するガイダンス案を公表
    3. マレーシア:サイバーセキュリティ法2024およびその関連規則が施行
    4. マレーシア:個人情報保護法改正法案が可決
    5. インドネシア:医療機器の製品登録に適正流通規範(GDP:Good Distribution Practice)に関する証明書が必要となる
    6. インドネシア:株式保有の報告に関する規則の改正および公開会社の株式に対する担保設定の報告義務の導入
    7. インドネシア:外国フランチャイザーがインドネシアへ進出する際の要件が厳格化
    8. ベトナム:労働総同盟が新労働組合法案を公表
    9. ベトナム:消費者保護強化のための指針を示す政令の公布
    10. タイ:再生可能エネルギーオークションの第2ラウンドが開始
    11. フィリピン:インターネット取引法の施行規則が発効
  5. オーストラリア
    1. 労働者のつながらない権利の導入
    2. 待望の連邦プライバシー法改正案が提出

 本稿では、2024年8⽉から10⽉にかけて当事務所から紹介した、世界各国オフィスのクライアントアラートのうち、特に企業法務担当者のみなさまにおいて押さえておくべき重要なトピックについて、概要を取り上げます。

 各トピックの詳細についてはリンクから当事務所のクライアントアラートをご参照ください。なお、情報がアップデートされている可能性もありますので、最新の情報について確認されたい場合や、記事のリンクからアクセスすることができない場合には、当事務所までお問い合わせください(問い合わせ窓口はこちら)。

編集担当
吉田 武史弁護士、長谷川 匠弁護士、甲斐 悠子弁護士、桒原 里枝弁護士、山内 理恵子弁護士、金子 周悟弁護士、田中 和美弁護士、藤原 総一郎弁護士、河邉 美杉弁護士、村田 優果弁護士(以上、ベーカー&マッケンジー法律事務所(外国法共同事業))

米国

グリーンウォッシュ訴訟の新たな台頭

 米国では、グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)を行う企業が消費者から集団訴訟を提起される事例が相次いでいます。このようなグリーンウォッシュ訴訟においては、これまで「エコフレンドリー」や「リサイクル可」などの環境配慮を謳う宣伝が標的となってきましたが、近年は、広範なサステナビリティ表明や長期のサステナビリティ目標に対する訴訟が増加傾向にあります。たとえば、最近では、「カーボンニュートラル」の表現をめぐり、消費者の誤解を生じさせるおそれがあるか否かを争点とする訴訟が相次いでいます。

 米国証券取引委員会(SEC)や連邦取引委員会(FTC)などの規制当局は、環境マーケティングに対する規制を強化しています。企業は、サステナビリティ表明の際には、第三者による検証や排出量の正確なモニタリングなどの対策を講じて、グリーンウォッシュのリスクを軽減し、訴訟や風評被害を防ぐ必要があります

 詳細は当事務所の2024年8月29日付けニューズレターをご参照ください。

米国財務省が中国関連の先端技術への対外投資を制限する規則案を発表

 2024年6月21日、米国財務省は、「懸念国における国家安全保障技術および製品に対する米国の投資」に関する2023年8月9日付大統領令第14105号に基づき、中国と関連があり、3つの特定技術分野(半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術、AI)に従事する企業への投資を禁止し、または届出を義務付ける規則制定案告示を発行しました。

 大統領令第14105号およびこれに関連する規則は、中国の軍事力、情報力、監視能力、サイバー能力を強化し得る先端技術を有する中国関連企業への米国からの投資を制限することで、米国の国家安全保障上の脅威に対処することを目的としています。規則案は、2023年大統領令第14105号と同時に発表された事前規則制定案告示に対するパブリックコメントについての財務省の検討結果を反映したものとなっています。最終的な規則は2025年初頭までに発表される見通しです。

 詳細は当事務所の2024年7月30日付けニューズレターをご参照ください。

米国司法省が公益通報報奨金パイロットプログラムの運用を開始

 2024年8月1日、米国司法省(DOJ)の刑事局は、公益通報報奨金パイロットプログラム(Corporate Whistleblower Awards Pilot Program)の運用を開始しました。米国には、従前から、米国証券取引委員会(SEC)などが、公益通報者に対する報奨金付与制度を設けていましたが、本パイロットプログラムは、それらの制度の適用範囲の隙間を埋めて企業犯罪の摘発の強化をするものです。本パイロットプログラムによって、米国の証券取引所への上場等に関係ない多くの日本企業が、新たに報奨金付与制度の適用対象となります

 DOJは、本パイロットプログラムの改訂と同時に「企業取締指針」(CEP:Criminal Division Corporate Enforcement and Voluntary Self Disclosure Policy)の暫定的な改訂も行っています。これによって、企業は、DOJに対し、内部通報を受領してから120日以内にCEPに基づく自主開示をすれば、不起訴処分の推定を受けることができるようになりました。企業としては、「内部通報を受領してから120日以内」という厳しい期間制限を意識して、迅速な対応ができる体制を平時から整備しておくことが重要となります。

 詳細は当事務所の2024年10月15日付けクライアントアラートをご参照ください。

米国司法省が人工知能および進化するポリシーに焦点を当てたコンプライアンス・プログラム評価ガイダンスを更新

 2024年9月23日、米国司法省(DOJ)は、検察官が、企業刑事訴追の各段階において、企業のコンプライアンス・プログラムの適切性を評価するために用いる「企業コンプライアンス・プログラムの評価」(以下「評価ガイダンス」といいます)の更新版を発行しました。

 最新の評価ガイダンスでは、人工知能および最新のテクノロジーと、会社およびそのコンプライアンス・プログラムならびにDOJの法執行活動との関連性の高まりを踏まえ、①AIおよび新興技術のリスク評価、②企業データの分析および評価という2つの重要な視点が加えられました。企業のコンプライアンス・プログラムにおいて、AIその他のテクノロジーが及ぼすリスクを積極的かつ敏捷に評価・軽減できる体制を整備することの重要性が増しています。

 詳細は当事務所の2024年10月30日付けニューズレターをご参照ください。

EU・英国

EU:企業の持続可能性デューデリジェンス指令(CS3D)に関するFAQの公表

 2024年7月25日、EUにおいて、企業の持続可能性デューデリジェンスに関する指令(Directive 2024/1760)(CS3D:Corporate Sustainability Due Diligence Directive)が発効したことに関して、欧州委員会は、同日、CS3Dに関するFAQ(Directive on Corporate Sustainability Due Diligence Frequently asked questions。以下「本FAQ」といいます)を公開しました。

 本FAQは、適用範囲、リスクベースのデューデリジェンス・アプローチに基づく義務の内容、執行、責任制度などのCS3Dの重要な側面について詳しく説明するものであり、関係する企業にとって有用なガイダンスとなります。

 詳細は当事務所の2024年9月27日付けニューズレターをご参照ください。

EU:欧州委員会が域内市場を歪める外国補助金の評価手法の明確化に係る文書を初めて公表

 欧州委員会は、外国補助金規則(FSR)の適用開始から1年を経て、外国補助金がEU域内市場を歪めるかどうかの評価手法に関し、初の指針となる文書を公表しました。FSRの目的は域内市場の競争の公平性を確保することであり、欧州委員会は外国補助金と市場の歪みとの関連性を立証する必要があります。例外的に、最も歪曲的である可能性が高いとされる類型の補助金については、受領者が歪曲的でないことを証明する責任があります。

 域内市場が歪められると認められるには、①受益者が域内市場で経済活動に従事し、活動と補助金に関連性があること、②補助金により受益者の競争上の地位が向上し市場競争に悪影響があること、が必要とされます。そのほか、評価においては、補助金の額や性質、受益企業の状況等が考慮されます。欧州委員会は域内市場の歪曲の可能性のみならず、政策目標と関連するプラスの影響も考慮しなければなりませんが、全体の判断には広範な裁量があることが強調されています。

 より明確な指針は遅くとも2026年1月までに公表される見込みです。

 詳細は当事務所の2024年8月29日付けクライアントアラートをご参照ください。

英国:平等人権委員会がセクシャルハラスメント防止の合理的な措置のためのガイダンス草案を公表

 英国では、2024年10月26日以降、雇用主は、従業員に対するセクシャルハラスメントを防止するために「合理的な措置」を講じる義務を負います。この義務への違反は、雇用審判所による賠償請求額の増額や平等人権委員会(EHRC)による執行につながる可能性があります。

 EHRCは、2024年7月、セクシャルハラスメントおよび職場におけるハラスメントに関する技術ガイダンスの草案を公表し、第三者によるハラスメントの防止も雇用主の義務の対象となることを明確にしました。これを根拠に、第三者のハラスメントについて、EHRCによる雇用主の調査や行動計画を定める契約の締結、裁判所による差止命令といった執行が可能となりました。

 雇用主が講じる「合理的な措置」の内容として、少なくとも、明確なハラスメント防止方針の実施、調査手法の見直し、適切な苦情処理や報告システムの導入、方針周知のための定期的な社員のトレーニング等が求められます。また、サプライヤー等の社外の第三者との契約においても、自社の行動規範と合致しているかを検討することも有用といえます。

 詳細は当事務所の2024年9月27日付けニューズレターをご参照ください。

英国:歳入関税庁が移転価格コンプライアンスに関する新ガイドラインを発表

 英国歳入関税庁(HMRC)は、移転価格コンプライアンス・リスクに関する新たなガイドライン「Help with common risks in transfer pricing approaches − GfC7」を発行しました。

 このガイドラインは、納税者の移転価格コンプライアンスにおける不確実性を解消することを目的とし、リスク管理におけるベストアプローチ、留意すべきリスク、情報や記録の適切な保管、移転価格文書に関するリスクとベストプラクティス、移転価格ポリシーの設計におけるリスクなどを紹介しています。

 なお、このガイドラインは、HMRCの移転価格ガイダンス(INTM410000からINTM480000まで)と合わせて読まれることが想定されています。

 詳細は当事務所の2024年10月30日付けニューズレターをご参照ください。

スイス:連邦最高裁、弁護士依頼者秘匿特権の範囲を明確化する重要な判断

 2024年8月6日、スイス連邦最高裁判所は、弁護士依頼者秘匿特権(attorney-client privilege)の範囲に関する2つの決定を下しました。

 従前は、内部調査報告書の形式による成果物は、純粋な法的助言を提供するものではないことから、弁護士依頼者秘匿特権の範囲に含まれるかが不明確でしたが、スイス連邦最高裁判所は、このような内部調査報告書に対しても弁護士依頼者秘匿特権が及ぶことを明らかにしました。

 一方で、スイス連邦最高裁判所は、金融機関が、スイス連邦金融市場監督機構(FINMA)に自主的に内部調査報告書を提出し、さらにFINMAによる報告書に秘匿特権情報が記載された場合には、当該情報は秘匿特権情報としての保護を受けないことも明らかにしました。金融機関は、FINMAに対する協力義務を負っていることから、秘匿特権情報にあたることを理由に情報開示を拒否することは稀とされています。

 今回の決定を受けて、秘匿特権情報はFINMAから強制的な開示命令が出された場合にのみ開示することや、口頭で情報を伝達することなど、実務上の工夫が必要になります。

 詳細は当事務所の2024年9月27日付けニューズレターをご参照ください。

ポーランド:公益通報者保護法の制定

 ポーランドにおいてEU公益通報者保護指令(2019/1937)を法制化する公益通報者保護法が、2024年6月14日に制定され、同年6月24日に正式に発表されました。

 ポーランドの公益通報者保護法の下では、50人以上を雇用している(または雇用している人数に関係なく特別なカテゴリーに属している)雇用主は、2024年9月25日までに、同法の要件に従い、内部通報制度を構築し、または調整する義務を負います。雇用主は、同法の要件を踏まえ、現地における通報チャネル、通報対応の責任者、通報者への対面でのミーティングの機会の提供方法、現地における調査の実行責任者、個人情報へのアクセス権限、記録保持およびデータの適時削除の責任者等について検討する必要があります。

 詳細は当事務所の2024年8月29日付けニューズレターをご参照ください。

ドイツ:違法なロビー活動に対する新たな刑事罰の導入

 2024年6月18日、ドイツでは刑法が改正され、違法なロビー活動に対する新たな刑事罰が導入されました。在独の日系企業が担うドイツ国内のロビー活動への影響も軽視することはできないため、注意が必要となります。その中でも特に、議員(Mandatsträger)による省庁等の公的機関での有償のロビー活動は刑事訴追の対象となります。各企業は、議員に対する講演料やコンサルタント料、監督役員や取締役の活動への報酬の妥当性を見直すことが不可欠となります。

 規制導入のきっかけとなったのは、新型コロナウイルスの流行の際に問題となったいわゆる「マスク取引事件」です。ドイツ連邦議会とバイエルン州議会の議員が、マスク業者と連邦当局および州当局の意思決定者との間で、場合によっては議員という立場を明示したうえで接触し、その見返りとしてコンサルタント料や手数料を受け取っていました。マスク取引事件は、ドイツ国内で大きな波紋を呼んだにもかかわらず、当時の法制度上、議員としての職務行為以外に関する対価の提供が処罰対象ではなく、当該議員に対して何らの刑事処分も課されなかったことから、立法の不備が指摘され、改正に至りました。

 詳細は当事務所の2024年7月30日付けニューズレターをご参照ください。

中国・香港・台湾

香港:人工知能(AI)技術採用のための新しい個人情報保護フレームワークを公表

 2024年6月11日、香港の個人情報保護委員会事務局(PCPD)は、「人工知能:モデル個人情報保護フレームワーク」(以下「AIフレームワーク」といいます)を公表しました。AIフレームワークは、組織が第三者のAIシステムを採用する際に、個人データ(プライバシー)条例(PDPO)に準拠するための実用的な推奨事項を提供することを目的とするものです。PCPDが2021年に公表した「人工知能の倫理的な開発と利用に関する指針」に基づき、AIモデルを社内で開発する組織から、第三者からAIソリューションを調達し実装する組織へと、焦点を移しています。

 このAIフレームワークは、一般的なAIの調達と実装に関して個人情報保護の観点からまとめられた、アジア太平洋地域初の包括的な枠組みとされており、香港のAI規制への取組みにおける重要なマイルストーンという意味で注目に値します。PCPDは、AIフレームワークが香港のイノベーションおよびテクノロジーのハブとしての発展を促進し、グレーターベイエリア(香港・マカオ・広東省の9都市)におけるデジタル経済の拡大を推進することを期待しています。

 詳細は当事務所の2024年7月12日付けクライアントアラートをご参照ください。

台湾:高齢者の雇用継続の推進(労働基準法54条の改正)

 台湾の立法院は2024年7月15日、強制定年退職年齢が高齢労働者の継続雇用を妨げないようにすることを目的に、労働基準法54条の改正案を可決しました。同条項は、労働者が、(i)「65歳に達した」場合、または(ii)「職務を遂行する身体的または精神的能力がない」場合を除いて、退職を強制してはならないと規定しています。

 今回の改正によって、強制定年退職年齢の延長について、労使間で協議を行うことが明確に規定されましたが、「強制定年退職年齢は、労使間の協議による合意により延長することができる」と記載されたにすぎず、合意に至らない場合は、使用者は、なお労働者の定年退職を強制することができます

 また、中高年者および高齢者就業促進法(Middle-Aged and Elderly Employment Promotion Act)12条では、「使用者は、年齢に基づいて中高年齢者を採用または雇用する際、異なる待遇をしてはならない」と規定しています。このことから、使用者および労働者が退職年齢の延長に合意した場合に、給与を減額してもとの仕事を継続することを要求し、または年齢を理由に給与等を減額すると、当該規定に反し、使用者に罰金が科される可能性があり、さらに労働当局より、企業名および責任者の氏名が公表されるリスクもあります。

 詳細は当事務所の2024年8月20日付けクライアントアラートをご参照ください。

東南アジア

シンガポール:治療用製品の登録に関する規制のアップデート

 2024年7月31日、保健科学庁(HSA)は、治療用製品の登録に関する規制をアップデートしました。主なポイントは以下のとおりです。

  1. 化学原薬の製造業者に対する製造管理および品質管理(GMP)の実施
  2. 主要な申請に関するタイムライン見積もりツールの導入
  3. クラウドベースの申請プラットフォーム「EasiShare」の利用開始
  4. HSAに対する通知が不要とされる承認後の変更事項に関するガイドライン公表
  5. バイオ後続品(バイオシミラー)の承認申請に関するリスク管理計画手続の簡素化
  6. スイスの医薬品・医療機器規制監督庁「Swissmedic」をレファレンスエージェンシー(参照官庁)として追加

 今回のアップデートは、規制の透明性と効率性を向上させ、業界関係者の負担軽減を目指したものです。

 詳細は当事務所の2024年8月29日付けクライアントアラートをご参照ください。

シンガポール:AIによる合成データの学習および生成に関するガイダンス案を公表

 2024年7月15日、シンガポールの個人情報保護委員会(PDPC)は、AIによる合成データの学習および生成に関するガイダンス案(Proposed Guide on Synthetic Data Generation)(以下「ガイダンス案」といいます)を公表しました。ガイダンス案は、合成データの生成と利用に関するベストプラクティスを企業に提示することで、同国におけるデータプライバシーの保護とAI技術の発展を両立させることを目的としています。

 ガイダンス案における「合成データ」とは、実際のデータを基に生成された人工的なデータであり、個人情報を含まないものをいいます。ガイダンス案では、このような合成データの性質に着目し、合成データの潜在的な再識別によるプライバシーリスクを軽減する観点から、ガバナンス管理、契約プロセスおよび技術的対策等、推奨される取組みが例示されています。合成データの生成と使用に関与する企業のデータプライバシー担当者に有用な視座を提供するものです。

 各企業は、再識別によるプライバシーリスクを考慮し、個人情報を保護するために必要な措置を講じる場合には、上記ガイダンス案を踏まえ、検討されている合成データの使用が、各企業のデータ保護コンプライアンス全体にどのような影響を与えるかを慎重に評価すべきです。

 詳細は当事務所の2024年7月31日付けクライアントアラートをご参照ください。

マレーシア:サイバーセキュリティ法2024およびその関連規則が施行

 2024年8月26日、マレーシアサイバーセキュリティ法2024」(CSA)および4つの関連規則(本規則)が施行されました。両者の関係は、CSAが国家重要情報インフラを所有・運営する企業(National Critical Information Infrastructure (NCII)事業者)やサイバーセキュリティサービスプロバイダー(CSSP)に対して実務上大きな影響を及ぼす法律である一方、本規則は、NCII事業者に課される様々な遵守事項を明確にし、CSAに基づく罰金対象となる違反行為のリストやライセンスが必要なCSSPの種類を示す内容となっています。

 マレーシアに拠点を持つ日系企業は、自社がNCII事業者に指定される可能性があるかを分析し、CSAおよび本規則に適合するよう既存のサイバーセキュリティ体制を見直す必要があります。

 詳細は当事務所の2024年8月26日付けクライアントアラートをご参照ください。

マレーシア:個人情報保護法改正法案が可決

 マレーシア国会で2024年個人情報保護法(改正)法案が審議され、7月に可決されました。本法案による2010年個人情報保護法の変更点としては、個人データ保護原則違反に対する罰則の強化、データ処理者の安全原則の遵守、データ漏えいの通知義務、データ保護責任者の任命義務、データポータビリティ権の導入、生体データのセンシティブ個人情報(sensitive personal data)への追加、越境移転ルールの変更、死亡者のデータ主体からの除外などが挙げられます。

 本法案は7月に可決されました。改正点については次回以降解説します。

 詳細は当事務所の2024年7月12日付けクライアントアラートをご参照ください。

インドネシア:医療機器の製品登録に適正流通規範(GDP:Good Distribution Practice)に関する証明書が必要となる

 2024年5月11日、インドネシア保健省(MOH)は通知第FR.03.01/E/884/2024号(以下「本通知」といいます)を発行しました。本通知において、MOHは、医療機器の製品登録発行の前提条件として、適正流通規範(CDAKB:Cara Distribusi Alat Kesehatan Yang Baik)証明書を要求することを発表しました。

 医療機器卸売業者は一般的に、事業免許取得の条件として、MOHが定めたCDAKBガイドラインを実施し、遵守することが義務付けられています。これまでMOHは卸売業者に対して、医療機器の製品登録を取得する前にCDAKB証明書を保有することは要求していませんでしたが、本通知によって、2024年7月1日より、CDAKB証明書の保有が申請当初から必要となります。

 今後(2024年7月1日以降)、CDAKB認証を受けていない医療機器卸売業者に対して発行済みの製品登録について、MOHがこの通知をどのように運用するのかについて、MOHも未だ、その詳細を明らかにしていません。

 医療機器卸売業者の新設または投資を計画している事業者にとっては、このような新たな展開を考慮し、CDAKB認証取得プロセスをスケジュールに組み込むことが必要となります。

 詳細は当事務所の2024年7月1日付けクライアントアラートをご参照ください。

インドネシア:株式保有の報告に関する規則の改正および公開会社の株式に対する担保設定の報告義務の導入

 2024年2月28日、インドネシア金融サービス庁(OJK)は、公開会社の株式の保有または保有変更の報告および公開会社の株式担保の報告に関するOJK規則第4号(2024年)を制定しました(以下「POJK 4/2024」といいます)。これによる主な変更点は以下の2点です。

  • 公開会社の株式を直接または間接的に少なくとも5%保有する者による情報開示の程度を高めること
  • 公開会社の株式のすべての担保設定に関する新たな報告義務を設けること

 報告は、オンライン報告システムが利用可能になるまではオフラインでなされなければならず、この場合の報告期限は該当する取引から5営業日以内であり、オンライン報告システムが利用可能になった場合は、取引実行後3営業日以内となります。POJK 4/2024に従わない場合、営業許可・認可・登録の取消しを含む行政処分の対象となります。

 POJK 4/2024の新たな要件を反映するために、ローン取引に関する取引書類においては、一定の調整が必要となるでしょう。

 詳細は当事務所の2024年9月27日付けニューズレターをご参照ください。

インドネシア:外国フランチャイザーがインドネシアへ進出する際の要件が厳格化

 2024年9月2日、インドネシア政府は「フランチャイズに関する2024年政府規則第35号(GR35/2024)」を施行し、フランチャイズビジネスに対する新たな措置を導入しました。この規制は、「フランチャイズに関する2007年政府規則第42号(GR42/2007)」に代わるもので、外国のフランチャイザーがインドネシアで事業を展開する際に従うべき要件を規定しています。

 インドネシアでフランチャイズ事業を展開するためには、フランチャイズ登録証明書(STPW)を取得する必要があるところ、「GR35/2024」によって、STPWの申請に必要な要素、取得の基準が厳格化されました。今回の新たな規則の発行に伴い、インドネシア市場に参入しようとする事業者は、収益性、運営実績、インドネシア国内での商標登録の完了などを含むより厳しい適格基準に注意する必要があります。

 詳細は当事務所の2024年9月19日付けクライアントアラートをご参照ください。

ベトナム:労働総同盟が新労働組合法案を公表

 ベトナム労働総同盟(VGCL)は、新たな労働組合法の法案を公表しました。概要は以下のとおりです。

  1. 労働者組織の承認
    2019年労働法で導入された「企業における労働者組織」の概念が明示され、労働者組織に労働組合制度に加入する権利が与えられます。
  2. 外国人労働者の加入
    外国人労働者を労働組合に加入できるようにすることが検討されています。
  3. 労働組合による監督権の拡大
    労働組合が国家当局と連携して監督活動を行い、企業や組織に対して情報や書類の提出を要求できるようになります。また、国家当局に対し、企業や組織への制裁の検討を要請できるようにもなります。
  4. 労働組合費の免除・減額
    天災等で事業が中断した場合、使用者の労働組合費拠出義務が免除・減額されます。
  5. 労働組合費の用途
    労働組合費について、全額を企業単位の労働組合または労働者組織のために用いるか、その上部組織と分配して用いるかを選択できるようにすることが検討されています。
  6. 産業別組合の導入
    同じ部門や職業の労働者を対象とする産業別組合の導入が検討されています。
  7. 禁止行為の追加 労働組合の設立・参加を理由とする差別や労働組合費の未納行為も新たに禁止されます。
  8. その他
    労働組合員の権利に関する意見表明権や、労働組合の財務の公表義務が新たに規定されます。

 詳細は当事務所の2024年7月30日付けニューズレターをご参照ください。

ベトナム:消費者保護強化のための指針を示す政令の公布

 2024年7月1日に、消費者保護を強化するための指針を提供する政令第55/2024/ND-CP号(消費者令)が発効しました。概要は以下のとおりです。

  1. 消費者向けの書式要件
    現地語要件や、消費者契約や標準書式契約に関する視覚基準が定められました。
  2. 遠隔地取引における取引業者の責任
    製品やサービスの交換・返品、消費者からのフィードバックや苦情の処理に関する義務が明示されました。
  3. 大規模デジタルプラットフォームの定義と責任
    年間300万以上のアクティブユーザーを持つプラットフォームなどの大規模デジタルプラットフォームの義務(検索結果の表示基準の明確化、スポンサーの表示、オンライン報告用アカウントの開設、苦情処理に関する状況の国家当局への報告)が定められました。
  4. インフルエンサーの定義
    特定の分野で影響力を持つ人物について、定性的基準が設けられました。
  5. 欠陥製品の特定
    取引業者に対し、関係当局や国際機関からの通知、裁判所の判決などを基に、欠陥製品を特定する責任が課せられました。

 詳細は当事務所の2024年7月30日付けニューズレターをご参照ください。

タイ:再生可能エネルギーオークションの第2ラウンドが開始

 2024年9月20日、タイエネルギー規制委員会(ERC)は、2022年から2030年までの再生可能エネルギー源からの電力購入に関するFiTスキーム(固定価格買取制度)の規則を発表しました。

 この規則は、民間事業者の募集を2つのフェーズに分け、2024年の再生可能エネルギー待機リストスキーム(2024 RE Waitlist Scheme)への参加条件を定めています。このスキームは、2022年のERCによる再生可能エネルギー調達ラウンド(2022 RE Big Lot Scheme)の成功を受けて実施されます。2022年のラウンドへの参加を逃した民間事業者も、第2ラウンドである今回の待機リストに参加できる可能性があります。

 フェーズ1は、2022 RE Big Lot Schemeで応募し、最低資格と技術的準備基準を満たしたが、PPAを獲得できなかった風力および地上設置型太陽光発電プロジェクトの応募者が対象です。フェーズ2は、フェーズ1の後に実施予定で、バイオガス、風力、地上設置型太陽光、廃棄物発電プロジェクト(2022 RE Big Lot Schemeで基準を満たさなかった応募者を含む)が対象です。

 購入目標は風力と地上設置型太陽光の合計2,180メガワットで、FiT料金は2022年と同様です。2022年の電力販売提案に加えて新しい提案を出す必要はなく、書面の参加通知を提出する方法で参加可能です。審査は、2022 RE Big Lot Schemeでの提案に関して行われます。ERCは近日中に正式な提案依頼(RFP)を発表する予定です。

 詳細は当事務所の2024年9月30日付けクライアントアラートをご参照ください。

フィリピン:インターネット取引法の施行規則が発効

 フィリピンでは、電子商取引を規制して消費者の権利およびデータプライバシーを保護し、知的財産権を維持することを目的として、2023年インターネット取引法(ITA)が制定されています。また、ITAの適用範囲、他の機関に対するフィリピン貿易産業省(DTI)の執行権限、罰金の適用手続を明らかにするものとして、実施細則(IRR)が定められています。IRRでは、オンラインビジネスおよびオンライン消費者の行動規範や、ITAでは明示されていない、電子商取引に従事するデジタルプラットフォーム等に対する追加要件および義務を規定しています。

 このIRRを含む共同行政命令第24-03号(Joint Administrative Order No.24-03)に、DTIを中心とする様々な機関が署名し、IRRが発効されました。IRRは施行済みですが、ITAでは、影響を受ける当事者が法律要件を遵守できるよう、18か月の移行期間を設定しています。

 詳細は当事務所の2024年10月15日付けクライアントアラートをご参照ください。

オーストラリア

労働者のつながらない権利の導入

 2024年8月26日、オーストラリアで労働者の「つながらない権利」が導入されました(小規模企業は2025年8月26日より導入)。オーストラリアにおける「つながらない権利」とは、「その拒否が不合理でない限り、勤務時間外の使用者からの連絡を確認、返信することを拒否できる労働者の権利」を指し、勤務時間外に使用者が労働者に対して連絡を取ることを一切禁止するものではありません。

 労働者が対応を拒否することの合理性は、仕事の責任や緊急性などの状況により判断されます。たとえば、緊急のシフト変更や出社要請の連絡である場合は、使用者が労働者に対して連絡への対応を求めることが、例外的に認められるケースもあります。紛争に発展した場合は、まず職場内で解決を図らなければならず、解決が難しいときは公正労働委員会(FWC)に紛争解決を求めることができます。

 詳細は当事務所の2024年9月27日付けニューズレターをご参照ください。

待望の連邦プライバシー法改正案が提出

 オーストラリアで長く待望されていたPrivacy Act 1988(Cth)(以下「連邦プライバシー法」といいます)の改正案が、2024年9月12日、国会に提出されました。本法案は包括的な改正ではないものの、重大なプライバシー侵害が不法行為に該当すると定められ、また「ドキシング」(doxxing)という犯罪類型が刑法に定められるなど、いくつかの重要な改正が含まれます
 また、本法案では、連邦プライバシー法を遵守する義務のあるすべての企業に影響を及ぼす、以下のような改正がなされています

  • 執行権限、調査権限の強化および罰則の引き上げ
  • 個人の権利または利益に重大な影響を与える自動意思決定の使用に関する情報の開示義務
  • 企業が保有する個人情報の保護基準、越境データフローに関する具体的要件など、個人情報の管理に関する変更

 本法案の審議は延期されており、2025年までに可決されない可能性がありますが、可決された場合には、一部の例外を除き、本法案の大部分は即時に施行されます。

 詳細は当事務所の2024年10月30日付けニューズレターをご参照ください。

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