法律事務所パラリーガルの英文契約書翻訳ノート
第6回 英文契約書の不可抗力、権利不放棄、見出し
国際取引・海外進出
シリーズ一覧全9件
今回は、不可抗力(Force Majeure)、権利不放棄(Non-Waiver)、見出し(Headings)について、筆者の法律事務所における翻訳実務経験に基づき、具体的な文例と翻訳例を示しつつ、翻訳にあたって注意すべき点を解説します。
なお、本稿は、筆者個人の見解であり、筆者の所属する法律事務所の公式の見解ではありません。
不可抗力(Force Majeure)
条項例 | 和訳 |
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No delay or failure in the performance of any obligation of a party to this Agreement [ポイント①] (other than payment hereunder) shall constitute a default or a breach of this Agreement, to the extent that such delay or failure arises out of a cause which is beyond the reasonable control of the party otherwise chargeable with the delay or failure, including, but not limited to, Acts of God, action or inaction of governmental, civil or military authority, fire, strike, lockout or other labor dispute, flood, war, riot, earthquake or natural disaster (hereinafter, a “Force Majeure Event”). [ポイント②] The party which cannot perform due to a Force Majeure Event shall take reasonable action to minimize the consequences of any such Force Majeure Event. [ポイント③] Either party desiring to rely upon a Force Majeure Event as an excuse for delay or failure in performance shall, when the Force Majeure Event arises, give to the other party prompt notice in writing of the facts which constitute such Force Majeure Event, and when the Force Majeure Event ceases to exist or no longer materially impairs the ability to perform, give prompt notice thereof to the other party. [ポイント④] In the event such Force Majeure Event delays the performance by the party claiming force majeure beyond ninety (90) days from the date such performance was due, either party may terminate this Agreement upon notice in writing. | 本契約当事者の義務の履行[ポイント①](本契約に基づく支払いを除く。)における遅延又は不履行は、当該遅延又は不履行が、当該遅延又は不履行について別途責任を負う当事者の合理的なコントロールを超える事由に起因する限りにおいて、本契約の債務不履行又は違反を構成しないものとする。当該事由には、天災地変、政府・民間又は軍事当局の作為又は不作為、火災、ストライキ、ロックアウトその他の労働紛争、洪水、戦争、暴動、地震又は自然災害を含むがこれらに限らない(以下、「不可抗力事由」という。)。[ポイント②]不可抗力事由を理由として履行することのできない当事者は、当該不可抗力事由の結果を最小化するために合理的な措置を講ずるものとする。[ポイント③]履行における遅延又は不履行の免責理由として不可抗力事由に依拠することを希望する当事者は、当該不可抗力事由が発生した場合に、当該事由を構成する事実について、他方当事者に速やかに通知するものとし、当該不可抗力事由が消滅し又は履行能力を重要な点において損なわなくなった場合に、他方当事者にその旨速やかに通知するものとする。[ポイント④]当該不可抗力事由が、不可抗力を主張する当事者の履行を、当該履行の期日の後90日を超えて遅延させた場合には、いずれの当事者も書面の通知を行うことにより本契約を解除することができる。 |
日本法と英米法における相違として、責任の性質があげられます。日本の民法は過失責任原則を採用しており、当事者の過失がないかぎり責任を問われません。それに対して、英米法は無過失責任原則を採用しており、当事者に過失がなくても責任を問われます。したがって、英米法では、当事者のコントロール外の事由により履行することができなかった場合であっても、原則として厳格に責任を問われることになります。不可抗力条項は、そのような場面において当事者の責任を限定する意味合いがあります。
他方、英米法では、無過失責任原則の厳格さに対処するものとして、Frustration(目的達成不能)、Impracticability(履行困難性)、Impossibility(履行不能)といった法理が存在することにも注意すべきです。前述の法理は不可抗力の概念とも、趣旨として重なる部分があります。これにより、契約を履行しても目的が達せられなくなったり、契約の履行が不可能となったり、契約の履行が実際的ではなくなるような事由が発生した場合に、当事者が契約関係から外れることが可能となります。
上記の条項例では、以下のポイントを明記しました。文中における茶色のテキストは、条項修正時の加筆部分を示しています。
- 金銭支払義務は、不可抗力条項によっても免責されません。
- 不可抗力事由により履行することのできない当事者は、不可抗力事由の結果(影響)を最小化するために合理的な措置を講ずる義務を負うこととしました。
- 不可抗力事由により履行することのできない当事者は、不可抗力事由の発生時と消滅時に、他方当事者に速やかに通知する義務を負うこととしました。
- 不可抗力事由が90日を超えて継続した場合には、いずれの当事者も契約を解除することを可能としました。
権利不放棄(Non-Waiver)
条項例 | 和訳 |
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The failure of any party to enforce any of the provisions of this Agreement shall in no way be construed as a waiver of such provision and shall not affect the right of such party thereafter to enforce such provision of this Agreement in accordance with its terms. | 当事者が本契約の条項を強制執行しなかった場合であっても、当該条項を放棄したものとは解釈されてはならず、その後、かかる当事者が、本契約の条件に従って、本契約の当該条項を強制執行する権利に、何ら影響を与えないものとする。 |
英米法の法理として、本来契約上有する権利であってもそれを行使しない状態が継続し、相手方がそのことを信頼するようになった場合に、禁反言(Estoppel)の法理に基づきその権利を行使できなくなるというルールがあります。このような考え方やルールが適用されないことを明確化するためにも、権利不放棄(権利非放棄)を規定しておくことが重要です。
なお、「解釈」を英訳する場合には、InterpretationともConstructionとも訳すことが可能ですが、いずれの用語を使用すべきでしょうか。InterpretとConstrueとを比較した場合、Interpretは文言の客観的意味が問題となるのに対して(文理解釈)、Construeは法の目的や契約全体の趣旨に照らした文言の意味が問題となる(目的論的解釈)ため、契約書で使用する言葉としては、Construeを好む当事者も多いです。ただ、基本的には、いずれも使用しても問題ありませんし、このような複雑な議論を避けて、一般的に馴染みやすいTakenを使用することも可能です。
見出し(Headings)
条項例 | 和訳 |
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The headings used in this Agreement are inserted solely for the purposes of convenience and shall not affect the construction hereof. | 本契約で使用される見出しは専ら便宜のために挿入されており、本契約の解釈に何ら影響を与えないものとする。 |
見出しは、契約の解釈に影響を与えません。この規定は、その趣旨を明確化しています。これに対し、Whereas条項(参照:「第2回 英文契約書の冒頭の規定、Whereas条項」)も法的拘束力を有しませんが、契約の解釈には影響を与える可能性があるので、注意が必要です。
次回は、分離可能性(Severability)、完全合意(Entire Agreement)、譲渡禁止(Non-Assignment)について解説していきます。
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弁護士法人瓜生・糸賀法律事務所