取締役・監査役の選任や解任の手続:株主総会での決議方法
コーポレート・M&A 公開 更新 新たに役員を選任するのですが、取締役や監査役を選任する場合、解任する場合の手続について教えて下さい。
また、それぞれの任期をどのように設定すればいいのか教えて下さい。
役員の選任・解任は株主総会の決議で決定するのが原則です。一方で、代表取締役、執行役、各委員会の委員については、取締役会決議によって選定・解職します。
解説
役員の選任・解任
(1) 役員の変更は登記事項
取締役や監査役といった役員は株式会社において非常に重要な権限と責任をもっています。したがって、いつから役員となったのか、いつまで役員の地位にあったのかを明確にする必要があり、また、会社法は、役員の選任・解任についての手続を厳格に規定しています。
これらの役員の変更は登記事項になっていて、選任日や退任日は公示されることになっています(会社法911条3項13号以下)。役員の変更から2週間以内に登記をしないと100万円以下の過料の制裁の対象になりますので(会社法976条1号・会社法915条1項)、忘れずに登記しましょう1 。
以下では、役員の選解任について説明します。
(2) 「選任」と「選定」、「解任」と「解職」
まずは、用語の説明ですが、会社法では、何の役職にもついていない人を何かの役職に選ぶときは「選任」、ある種類の役職についている人の中から選ぶときは「選定」という言葉を用いています。具体的には、取締役は「選任」(会社法329条1項)、代表取締役は取締役の中から選ぶので「選定」です(会社法362条2項3号)。
「解任」、「解職」についても同様の区別です。
他に役職がない | 他にも役職がある | |
---|---|---|
役職につける | 選任 | 選定 |
役職から外す | 解任 | 解職 |
選任・選定手続
(1)株主総会決議による取締役・監査役・会計参与・会計監査人の選任
決議の種類
取締役、監査役、会計参与及び会計監査人は、株主総会の普通決議によって選任されます(会社法329条1項)。
ただし、取締役、監査役、会計参与の選任決議は、定款に普通決議の定足数を排除する規定があったとしても、定足数を3分の1までしか下げられない点で、通常の普通決議とは異なり(会社法341条)、特則普通決議とも呼ばれます。
なお、監査等委員会設置会社における監査等委員である取締役は、それ以外の取締役と区別して選任されなければなりません(会社法329条2項)。
他方、会計監査人の選任については、定款に普通決議の定足数を下げる、あるいは、排除する規定がある場合にはこれに従うこととなる、通常の普通決議です。
株主総会の決議については、「株主総会の決議方法の種類について」もあわせてご覧ください。
監査役選任議案を提出する場合
監査役選任議案を株主総会に提出するに当たっては、取締役は、事前に、監査役(2人以上いる場合は過半数。監査役会設置会社の場合は監査役会)の同意を得なければなりません(会社法343条1項・3項)。これは、監査役が取締役の業務執行を監査するという職務を担っていることから、取締役からの独立性を確保するため、監査役(監査役会)に特に認められたものです。
(2)代表取締役の選定
代表取締役は、取締役の中から、取締役会決議によって選定されます(会社法362条2項3号、3項)。
代表取締役の選定については、「代表取締役の選定・解職と特別利害関係」もあわせてご覧ください。
(3)執行役・各委員会の委員の選任・選定
執行役については、取締役会決議によって選任されます(会社法402条2項)。また、指名委員会等設置会社の各委員会の委員も、取締役会決議により選定されます(会社法400条2項)。
解任・解職手続
(1)株主総会決議による取締役・監査役・会計参与・会計監査人の解任
決議の種類
取締役、会計参与及び会計監査人は、いつでも、株主総会の普通決議によって解任することができます(会社法339条1項)。これが特則普通決議である点は、選任の場合と同様です(会社法341条)。 他方、監査役の解任については、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上で決議するという特別決議により行わなければなりません(会社法343条4項・309条2項7号)。
監査役設置会社における会計監査人の選解任・不再任
また、監査役設置会社において、取締役が会計監査人の選解任や不再任を株主総会の議題・議案とする場合には、監査役の同意(2人以上いる場合は過半数。監査役会設置会社の場合は監査役会の同意)を得なければなりません(会社法344条1項・3項)。
(2)監査役らによる会計監査人の解任
また、会計監査人については、監査役(監査役会設置会社の場合は監査役会。監査等委員会設置会社の場合は監査等委員会。指名委員会等設置会社の場合は監査委員会)も解任することができます。 具体的には、会計監査人が次のいずれかに該当するときに解任することができます(会社法340条1項以下)。
- 職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき
- 会計監査人としてふさわしくない非行があったとき
- 心身の故障のため、職務の執行に支障があり、又はこれに堪えないとき
ただし、この解任に当たっては、監査役が2人以上いる場合には、監査役全員の同意(監査等委員会設置会社の場合は監査等委員全員の同意。指名委員会等設置会社の場合は監査委員会の委員全員の同意)が必要となります(会社法340条2項以下)。
(3)代表取締役の解職
代表取締役は、取締役会決議によって解職されます(会社法362条2項3号)。
代表取締役の解職については、「代表取締役の選定・解職と特別利害関係」や「社内クーデターによる代表取締役の解職」もあわせてご覧ください。
(4)執行役・各委員会の委員の解任・解職
執行役については、取締役会決議によって解任されます(会社法403条1項)。また、指名委員会等設置会社の各委員会の委員も、取締役会決議により、いつでも、解職されます(会社法401条1項)。
役員の任期
任期
(1)会社法で定める任期
当然のことですが、取締役や監査役は会社の役職である以上、任期を設定する必要があります。
会社法上、原則として、取締役の任期は2年(会社法332条1項)、監査役の任期は4年(会社法336条1項)、会計参与の任期は2年(会社法334条1項・会社法332条1項)、会計監査人の任期は1年(会社法338条1項)、執行役の任期は1年(会社法402条7項)とされていますが、定款等により伸縮が可能です。
なお、特例有限会社の場合は、取締役・監査役のいずれについても任期の規制はありません(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律18条)。特例有限会社については、「会社法施行と有限会社」もあわせてご覧ください。
原則 | 伸長の可否 | 短縮の可否 | |
---|---|---|---|
取締役 | 選任 | 非公開会社は、定款で、10年まで可能 (ただし、監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社を除く)(332条2項) | 定款・株主総会普通決議で可能(332条1項ただし書き) (ただし、監査等委員である取締役については不可(332条4項)。 もっとも、定款で、退任監査等委員である取締役の補欠として選任された監査等委員である取締役の任期を退任監査等委員である取締役の任期満了時までとすることは可能(332条5項)) |
監査役 | 4年(336条1項) | 非公開会社は、定款で、10年まで可能(336条2項) | 不可 (ただし、定款で、退任監査役の補欠として選任された監査役の任期を退任監査役の任期満了時までとすることは可能(336条3項)) |
会計参与 | 2年(334条1項・332条1項) | 非公開会社は、定款で、10年まで可能 (ただし、監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社を除く)(334条1項・332条2項) | 定款・株主総会普通決議で可能(334条1項・332条1項ただし書き) |
会計監査人 | 1年(338条1項) (ただし、定時株主総会で別段の決議がない場合は再任されたものとみなされる(338条2項)) | 不可 | 不可 |
※表中、カッコ内の数字は会社法の条番号
(2)任期を決めるポイント
いったん選任した以上、任期の途中で解任するというのは相当の労力が必要となります(外部からは役員間でトラブルが発生しているようにも見えてしまいます)。一方で、役員が交代する可能性もないのに頻繁に再任手続を取るのも面倒ですし、登記費用もかかります。
そのあたりのバランスを勘案して、任期を決める必要があります。
オーナー会社のように「株主=役員」である場合には、多くの場合が非公開会社でしょうから、定款で任期を10年に定めるのも合理的かもしれません。
剰余金の配当等を取締役会で決定したい場合
一方で、株主との合意による自己株式の取得(特定の株主からの取得の場合を除きます)、欠損てん補のために行われる準備金の減少や剰余金の処分等(まとめて「剰余金の配当等」といいます)につき、株主総会ではなく取締役会決議で行おうとする場合には、①株式会社が会計監査人設置会社であり、また、②監査役会設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社のいずれかであることのほか、③取締役(監査等委員会設置会社の場合は監査等委員である取締役以外の取締役)の任期を1年以内に設定する必要があります(会社法459条1項)。
したがって、剰余金の配当等につき取締役会による迅速な手続を目指すのであれば、取締役の任期を1年と定める必要があります。
剰余金の配当に関して取締役会決議で行う場合については、「株主総会決議事項を取締役会で決議することができるか(会社の機関における権限の委譲について)」もあわせてご覧ください。
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『令和元年改正対応 図解 新会社法のしくみ(第4版)』
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編著等:浜辺 陽一郎
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『伊藤真の会社法入門』
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出版社:日本評論社
編著等:伊藤真
BUSINESS LAWYERS LIBERARYで読む
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2週間を過ぎてから変更登記の手続をした場合、登記官は、遅滞なく地方裁判所に通知することになっています(商業登記規則118条)。裁判所は、この通知を受けて、過料の金額を決めることになりますが、2週間を過ぎれば必ず過料に処するというわけではなく、また、金額も一定の基準が公開されているわけでもありません。変更登記を数年間せずに放置していても、10万円程度のことが多いようです。
なお、この過料については、裁判所から代表者に通知が届き、代表者個人が負担するものです。 ↩︎

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