取締役など役員の選任・解任の手続は?株主総会の決議を解説

コーポレート・M&A 更新

 当社では新たに役員を選任する予定です。取締役や監査役を選任する場合、解任する場合の手続について教えてください。また、それぞれの任期はどのように設定すればいいのでしょうか。

 役員の選任・解任は株主総会決議で決定するのが原則です。一方で、代表取締役、執行役、各委員会の委員については、取締役会決議によって選定・解職します。

 役員の任期は、会社法により、原則として、取締役は2年、監査役は4年、会計参与は2年、会計監査人は1年、執行役は1年とされています。定款等により伸縮が可能ですので、会社の事情に合わせて設定するとよいでしょう。

解説

目次

  1. 役員の選任・解任とは
  2. 選任・選定手続
    1. 取締役・監査役・会計参与・会計監査人の選任
    2. 代表取締役の選定、執行役・各委員会の委員の選任・選定
  3. 解任・解職手続
    1. 取締役・会計参与・会計監査人の解任
    2. 監査役の解任
    3. 代表取締役の解職
    4. 執行役・各委員会の委員の解任・解職
  4. 役員の任期
    1. 会社法で定める任期
    2. 任期を決めるポイント
    3. 取締役の任期に関する注意点
  5. 株主総会議事録への記載
  6. 役員変更の登記
    1. 選任・選定の登記
    2. 退任の登記

役員の選任・解任とは

 取締役や監査役といった役員は株式会社において非常に重要な権限と責任をもっています。したがって、いつから役員となったのか、いつまで役員の地位にあったのかを明確にする必要があり、また、会社法は、役員の選任・解任についての手続を厳格に規定しています。

 役員の選任・解任の手続について、原則的な大まかな流れは以下のとおりです。

(取締役会設置会社の場合)取締役会への議案提出
  ↓
(取締役会設置会社の場合)取締役会による決議
  ↓
株主総会への議案提出
  ↓
株主総会による決議
  ↓
就任の承諾
  ↓
登記申請

 なお、会社法では、何の役職にもついていない人を何かの役職に選ぶときは「選任ある種類の役職についている人の中から選ぶときは「選定という言葉を用いています。具体的には、取締役は「選任」(会社法329条1項)、代表取締役は取締役の中から選ぶので「選定」です(会社法362条2項3号)。
 「解任」、「解職」についても同様の区別です。

他に役職がない 他にも役職がある
役職につける 選任 選定
役職から外す 解任 解職

選任・選定手続

取締役・監査役・会計参与・会計監査人の選任

(1)決議の種類と定足数

 取締役、監査役、会計参与および会計監査人は、株主総会の普通決議によって選任されます(会社法329条1項)。ただし、取締役、監査役、会計参与の選任決議は、定款に普通決議の定足数を排除する規定があったとしても、定足数を3分の1までしか下げられない点で、通常の普通決議とは異なり(会社法341条)、特則普通決議とも呼ばれます。
 なお、監査等委員会設置会社における監査等委員である取締役は、それ以外の取締役と区別して選任されなければなりません(会社法329条2項)。
 他方、会計監査人の選任については、定款に普通決議の定足数を下げる、あるいは、排除する規定がある場合にはこれに従うこととなる、通常の普通決議です。
 株主総会の決議については、「株主総会の決議方法は?普通決議、特別決議、特殊決議の違いと決議事項一覧」もあわせてご覧ください。

(2)監査役を選任する場合の注意点

 監査役を選任する場合、取締役は、選任議案を株主総会に提出する前に、監査役(2人以上いる場合は過半数。監査役会設置会社の場合は監査役会)の同意を得なければなりません(会社法343条1項・3項)。これは、監査役が取締役の業務執行を監査するという職務を担っていることから、取締役からの独立性を確保するため、監査役(監査役会)に特に認められたものです。

代表取締役の選定、執行役・各委員会の委員の選任・選定

 代表取締役は、取締役の中から、取締役会決議によって選定されます(会社法362条2項3号、3項)。代表取締役の選定については、「代表取締役の選定・解職と特別利害関係」もあわせてご覧ください。

 執行役については、取締役会決議によって選任されます(会社法402条2項)。また、指名委員会等設置会社の各委員会の委員も、取締役会決議により選定されます(会社法400条2項)。

解任・解職手続

取締役・会計参与・会計監査人の解任

(1)決議の種類と定足数

 取締役、会計参与、会計監査人は、いつでも、株主総会の普通決議によって解任することができます(会社法339条1項)。ただし、選任の場合と同様、定款に普通決議の定足数を排除する規定があったとしても、定足数を3分の1までしか下げられない点で、通常の普通決議とは異なり(会社法341条)、特則普通決議とも呼ばれます。

(2)監査役設置会社における会計監査人の選解任・不再任

 監査役設置会社において、取締役が会計監査人の選解任や不再任を株主総会の議題・議案とする場合には、監査役の同意(2人以上いる場合は過半数。監査役会設置会社の場合は監査役会の同意)を得なければなりません(会社法344条1項・3項)。

(3)監査役らによる会計監査人の解任

 会計監査人については、監査役(監査役会設置会社の場合は監査役会。監査等委員会設置会社の場合は監査等委員会。指名委員会等設置会社の場合は監査委員会)が解任することもできます。具体的には、会計監査人が次のいずれかに該当するときに解任することができます(会社法340条1項各号)。

  1. 職務上の義務に違反し、または職務を怠ったとき
  2. 会計監査人としてふさわしくない非行があったとき
  3. 心身の故障のため、職務の執行に支障があり、またはこれに堪えないとき

 ただし、この解任に当たっては、監査役が2人以上いる場合には、監査役全員の同意(監査等委員会設置会社の場合は監査等委員全員の同意。指名委員会等設置会社の場合は監査委員会の委員全員の同意)が必要となります(会社法340条2項以下)。

監査役の解任

 監査役の解任については、株主総会の特別決議により行わなければなりません(会社法343条4項、309条2項7号)。特別決議とは、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上で決議するものです。

代表取締役の解職

 代表取締役は、取締役会決議によって解職されます(会社法362条2項3号)。代表取締役の解職については、「代表取締役の選定・解職と特別利害関係」や「社内クーデターによる代表取締役の解職」もあわせてご覧ください。

執行役・各委員会の委員の解任・解職

 執行役については、取締役会決議によって解任されます(会社法403条1項)。また、指名委員会等設置会社の各委員会の委員も、取締役会決議により、いつでも、解職されます(会社法401条1項)。

役員の任期

会社法で定める任期

 当然のことですが、取締役や監査役は会社の役職である以上、任期を設定する必要があります。
 会社法上、原則として、取締役の任期は2年(会社法332条1項)、監査役の任期は4年(会社法336条1項)、会計参与の任期は2年(会社法334条1項、会社法332条1項)、会計監査人の任期は1年(会社法338条1項)、執行役の任期は1年(会社法402条7項)とされていますが、定款等により伸縮が可能です。

 なお、特例有限会社の場合は、取締役・監査役のいずれについても任期の規制はありません(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律18条)。特例有限会社については、「会社法の施行と有限会社」もあわせてご覧ください。


取締役・監査役・会計参与・会計監査人の任期

※表中、カッコ内の数字は会社法の条番号

会社法上の原則 伸長の可否 短縮の可否
取締役 2年(332条1項) 非公開会社は、定款で、10年まで可能(ただし、監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社を除く)(332条2項) 定款・株主総会普通決議で可能(332条1項ただし書き)(ただし、監査等委員である取締役については不可(332条4項)。もっとも、定款で、退任監査等委員である取締役の補欠として選任された監査等委員である取締役の任期を退任監査等委員である取締役の任期満了時までとすることは可能(332条5項))
監査役 4年(336条1項) 非公開会社は、定款で、10年まで可能(336条2項) 不可(ただし、定款で、退任監査役の補欠として選任された監査役の任期を退任監査役の任期満了時までとすることは可能(336条3項))
会計参与 2年(334条1項、332条1項) 非公開会社は、定款で、10年まで可能(ただし、監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社を除く)(334条1項、332条2項) 定款・株主総会普通決議で可能(334条1項、332条1項ただし書)
会計監査人 1年(338条1項)(ただし、定時株主総会で別段の決議がない場合は再任されたものとみなされる(338条2項)) 不可 不可

任期を決めるポイント

 いったん選任した以上、任期の途中で解任するというのは相当の労力が必要となります(外部からは役員間でトラブルが発生しているようにも見えてしまいます)。一方で、役員が交代する可能性もないのに頻繁に再任手続を取るのも面倒ですし、登記費用もかかります。そのあたりのバランスを勘案して、任期を決める必要があります。

 オーナー会社のように「株主=役員」である場合には、多くの場合が非公開会社でしょうから、定款で任期を10年に定めるのも合理的かもしれません。

取締役の任期に関する注意点

 剰余金の配当等(株主との合意による自己株式の取得(特定の株主からの取得の場合を除きます)、欠損てん補のために行われる準備金の減少や剰余金の処分等)につき、株主総会ではなく取締役会決議で行おうとする場合には、以下の条件をすべて満たす必要があります(会社法459条1項)。

  1. 会計監査人設置会社であること
  2. 監査役会設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社のいずれかであること
  3. 取締役(監査等委員会設置会社の場合は監査等委員である取締役以外の取締役)の任期が1年以内

 したがって、剰余金の配当等につき取締役会による迅速な手続を目指すのであれば、取締役の任期を1年と定める必要があります
 剰余金の配当に関して取締役会決議で行う場合については、「株主総会決議事項を取締役会で決議することができるか(会社の機関における権限の移譲について)」もあわせてご覧ください。

株主総会議事録への記載

 役員を変更する場合の株主総会議事録の記載については、以下の関連記事をご参照ください。

役員変更の登記

 これらの役員の変更は登記事項になっていて、選任日や退任日は公示されることになっています(会社法911条3項13号以下)。役員の変更から2週間以内に登記をしないと100万円以下の過料の制裁の対象になりますので(会社法976条1号、会社法915条1項)、忘れずに登記しましょう 1
 なお、登録免許税は、申請1件当たり1万円で、資本金が1億円超の場合には3万円となり(登録免許税法別表第一第24号(一)カ)、司法書士等に依頼する場合は、このほか、報酬等がかかります。

選任・選定の登記

 取締役、代表取締役を例に挙げて説明すると、登記すべき事項は、取締役の氏名、代表取締役の氏名および住所(会社法911条3項13号・14号)、ならびに、それぞれの就任年月日であり、登記原因は「就任」、「重任」(任期満了後直ちに就任すること)または「代表権付与」となります。

 登記申請時の添付書面は、基本的には以下のとおりです(商業登記法46条1項・2項、54条1項、商業登記規則54条1項、61条等)。

  1. 取締役の選任に係る株主総会議事録
  2. 取締役会非設置会社において代表取締役を定めた場合は、以下のいずれか
    • 定款によって代表取締役を定めた場合は、定款変更に係る株主総会議事録
    • 株主総会決議によって代表取締役を定めた場合は、株主総会議事録
    • 定款の定めに基づく取締役の互選によって代表取締役を定めた場合は、定款および互選を証する書面
  3. 取締役会設置会社において代表取締役を定めた場合は、取締役会議事録
  4. 就任承諾書
  5. 取締役会非設置会社において、取締役が就任承諾書に押印した印鑑に係る印鑑証明書(ただし、再任の場合は不要)
  6. 取締役会設置会社において、代表取締役が就任承諾書に押印した印鑑に係る印鑑証明書(ただし、再任の場合は不要)
  7. 代表取締役選定に係る以下の印鑑証明書(ただし、当該書面に、変更前の代表取締役が登記所に提出している印鑑が押されているときは不要)
    • 取締役会非設置会社において、各自代表として、取締役の中から代表取締役を定めなかった場合は、議長および出席取締役が取締役選任に係る株主総会議事録に押印した印鑑
    • 取締役会非設置会社において、定款または株主総会決議によって代表取締役を定めた場合は、議長および出席取締役が株主総会議事録に押印した印鑑
    • 取締役会非設置会社において、取締役の互選によって代表取締役を定めた場合は、取締役がその互選を証する書面に押印した印鑑
    • 取締役会設置会社において、取締役会決議によって代表取締役を選定した場合は、出席した取締役および監査役が取締役会議事録に押印した印鑑
  8. 就任承諾書に記載した取締役の氏名および住所と同一の氏名および住所が記載されている本人確認書類(ただし、再任の場合および印鑑証明書が添付書面となる場合は不要)

退任の登記

(1)取締役

 取締役を例に挙げて説明すると、退任事由は、死亡、辞任、解任、任期満了等があり、退任事由および退任年月日を登記します。

 登記申請時の添付書面は、退任事由によって異なり、以下のとおりです(商業登記法54条4項参照)。

  1. 死亡
    戸籍等抄本、死亡診断書、住民票等
  2. 辞任
    辞任届
  3. 解任
    株主総会議事録
  4. 任期満了
    改選の際の「任期満了により退任した」旨の記載がある株主総会議事録(当該記載がない場合には、定款も必要)

(2)代表取締役

 代表取締役の退任事由および登記内容は取締役と同様で(ただし、通常、代表取締役に任期はありません)、登記申請時の添付書面は次のとおりです。

  1. 死亡
    戸籍等抄本、死亡診断書、住民票等

  2. 辞任
    • 取締役会非設置会社において定款または株主総会決議によって定められた代表取締役については、定款変更または株主総会の承認決議に係る株主総会議事録
    • 取締役会非設置会社において定款の定めに基づく取締役の互選によって定められた代表取締役については、定款および辞任届
    • 取締役会設置会社における代表取締役については、辞任届
      上記のほか、登記所に印鑑を提出した代表取締役の辞任の場合には、辞任届に押された印鑑に係る印鑑証明書(ただし、当該書面に、登記所に提出された印鑑が押されているときは不要)
  3. 解職
    • 取締役会非設置会社において、特定の者を代表取締役とする定款の定めの削除または株主総会決議により解職した場合は、株主総会議事録
    • 取締役会非設置会社において、取締役の過半数の一致により解職した場合は、定款および取締役の過半数の一致を証する書面
    • 取締役会設置会社において、取締役会決議により解職した場合は、取締役会議事録

  1. 2週間を過ぎてから変更登記の手続をした場合、登記官は、遅滞なく地方裁判所に通知することになっています(商業登記規則118条)。裁判所は、この通知を受けて、過料の金額を決めることになりますが、2週間を過ぎれば必ず過料に処するというわけではなく、また、金額も一定の基準が公開されているわけでもありません。変更登記を数年間せずに放置していても、過料は10万円程度のことが多いようです。なお、この過料については、裁判所から代表者に通知が届き、代表者個人が負担するものです。 ↩︎

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