吸収合併をした場合の取締役の任期
コーポレート・M&A当社は、同業を営む別会社と吸収合併を行い、経営を統合することにしました。①当社が存続会社である場合、②当社が消滅会社である場合とで、それぞれ、当社取締役の任期はどうなるのでしょうか。また、消滅会社の取締役は、存続会社の取締役に就任することになるのでしょうか。
吸収合併が行われたこと自体は、存続会社の取締役の地位に影響を及ぼしません。よって、存続会社の取締役の任期は、会社法、定款または株主総会決議で定められた任期が満了するまで(次回の改選期まで)となります。
一方、吸収合併が行われても、消滅会社の取締役は、当然に存続会社の取締役に就任するものではありません。存続会社において、消滅会社の取締役を存続会社の取締役として選任する株主総会決議が必要であり、会社法、存続会社の定款または株主総会決議に沿って任期が決定されます。
解説
吸収合併と役員構成
吸収合併の効力発生後、役員には誰が就任するのか、代表取締役はどちらの会社から選定されるかなど、合併後の役員構成は重要な決定事項であると共に、合併当事会社の株主・従業員・取引先など関係者にとっても関心が極めて高いといえます。しかし、会社法に定められた吸収合併契約で規定すべき法定事項(会社法749条1項各号)には、合併の法的効果には直接影響しないことから、役員に関する事項が含まれていません。
そこで、まずは、原則となる取扱い、すなわち吸収合併において役員に関する事項が何も決議されなかった場合を説明します。
存続会社の取締役について
存続会社の取締役は、吸収合併の前後においても、辞任や解任といった事由が生じなければ、その地位に変更はありません。よって、存続会社の取締役の任期は、会社法332条、定款または株主総会決議で定められた任期が満了するまで(すなわち、次回の改選期まで)となります。
消滅会社の取締役について
会社法上、消滅会社の取締役が、吸収合併に伴って存続会社の取締役に就任する旨の規定はありません。吸収合併の効力発生に伴い消滅会社は解散(法人格が消滅)しますので(会社法471条4号)、当然に消滅会社の取締役たる地位を喪失する一方、存続会社の取締役に就任するものではないと考えられます。
存続会社の取締役として、消滅会社の取締役を選任する場合
実務上は、消滅会社の取締役が、合併の効力発生と同時に存続会社の取締役に就任するケースが多く見られます。このケースでは、吸収合併の効力が発生する前に、存続会社の株主総会決議により、消滅会社の取締役を存続会社の取締役として選任することが必要です。なお、この取締役選任決議は、存続会社において、吸収合併契約を承認する株主総会決議とは別に決議すべきと解されていることに留意が必要です(相澤哲編著「立案担当者による新・会社法の解説」191頁~192頁(商事法務、2006)参照)。
存続会社で選任された取締役の任期については、会社法332条、存続会社の定款、存続会社における株主総会決議により定まることとなりますが、具体的に以下のケースを考えてみます。
- 存続会社の事業年度は1月1日~12月31日、毎年3月に定時株主総会を開催
- 平成29年10月1日 臨時株主総会を開催し、以下2議案を承認
- 合併契約の承認(平成30年1月1日が合併の効力発生日)
- 平成30年1月1日付での取締役選任
- 平成30年1月1日 吸収合併の効力発生
- 存続会社の定款には、「取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」と定められている。
上記ケースでは、就任日である平成30年1月1日を任期の起算日とした場合、2年以内に終了する最終の事業年度は平成31年12月期であり、平成32年3月開催の定時株主総会終結時までが任期となりそうです。
しかし、この任期の起算点については、株主総会の決議で選任決議の効力発生時期を遅らせることとしても、選任決議の日と解すべきことが指摘されています(相澤哲=葉玉匡美=郡谷大輔編著「論点解説 新・会社法」286頁(商事法務、2006)参照)。よって、平成29年10月1日の選任決議後、2年以内に終了する事業年度のうち最終のものは平成30年12月期となり、平成31年3月開催の定時株主総会終結時までが任期となることに留意が必要です。
なお、定款において、「増員または補欠として選任された取締役の任期は、在任取締役の任期の満了する時までとする」旨が定められている場合も多いと思われます。定款にかかる規定が定められている存続会社であれば、増員として選任された取締役の任期は、在任取締役、すなわち存続会社に元々いる取締役の任期と同じになると考えられます。

三宅坂総合法律事務所
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