株主総会後の登記実務のポイント
コーポレート・M&A(1) 株式会社において登記事項に変更が生じた場合には、いつまでに変更の登記をする必要がありますか。
(2) 変更の登記をする場合の添付書面について教えてください。具体的には、次の場合を想定しています。
a. 株式の譲渡制限に関する規定を設定した場合(当社は株券発行会社です)。
b. 任期途中に代表取締役が辞任し(ただし取締役としては留任します)、新たに選任された取締役が代表取締役に就任した場合(当社は取締役会設置会社です)。
(3) 変更の登記の具体的申請方法を教えてください。
(1) 株式会社において登記事項に変更が生じた場合には、変更が生じた時点から2週間以内に変更の登記をする必要があります。
(2) 変更登記の申請書の添付書面として共通して必要となる書類は以下の3点になります。
①株主総会議事録
②株主リスト
③委任状(代理人が登記の申請をした場合)
また、官庁の許可または認可が効力要件となっている登記申請には、官庁の許可証または認可書が必要となります。
a. 株式の譲渡制限に関する規定の設定(株券発行会社)
共通して必要となる①株主総会議事録、②株主リスト、③委任状(代理人による申請の場合)に加え、株券の提出に関する公告をしたことを証する書面または株式の全部について株券を発行していないことを証する書面を添付する必要があります。
b. 任期途中に代表取締役が辞任(ただし取締役としては留任)し、新たに選任された取締役が代表取締役に就任する場合(取締役会設置会社)
共通して必要となる①取締役選任にかかる株主総会議事録、②株主リスト、③委任状(代理人による申請の場合)に加え、新取締役の就任承諾書、新代表取締役選任にかかる取締役会議事録、新代表取締役の就任承諾書、新代表取締役の印鑑証明書、旧代表取締役の辞任届が必要となります。
(3) 登記を申請する会社の営業所の所在地を管轄する登記所(法務局)に申請書を提出する方法により申請します。代理人により申請することもできます。当事者またはその代理人が登記所に出頭して申請する方法、郵送により申請する方法、オンラインにより申請する方法があります。
解説
目次
登記の対象と期間
株式会社において、その設立登記事項に変更が生じたときは、変更が生じた時点から2週間以内に、その本店の所在地において変更の登記をしなければなりません(会社法915条)。設立登記事項は、会社法911条3項各号に記載があり、たとえば、目的、商号、本店および支店の所在場所、資本金の額、取締役の氏名、代表取締役の氏名および住所などが該当します。株主総会の決議によって、これらの事項につき変更が生じた場合には、2週間以内に変更の登記が必要となります。
添付書面
共通して必要となる書類
登記すべき事項につき株主総会の決議を要するときに、登記申請書の添付書面として共通して必要となる書類は、①株主総会議事録、②株主リストおよび③委任状(代理人による申請の場合)になります。
まず、登記すべき事項につき株主総会の決議を要するときは、登記申請書に①株主総会議事録を添付する必要があります(商業登記法46条2項)。
また、平成28年10月1日以降の登記の申請から、登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合には、②株主リストの添付が必要となりました。
具体的には、株主リストは、(a)議決権数が上位10名の株主、または(b)議決権数の割合の合計が3分の2に達するまでの株主(割合の多い順に順次加算する)のいずれかのうち、株主の数が少ない方の株主について、以下の各事項を会社の代表者が証明する書面になります(商業登記規則61条3項)。
(i) 株主の氏名または名称
(ii) 株主の住所
(iii) 株主それぞれの株式数(種類株主総会の決議を要する場合には種類および数)
(iv) 株主それぞれの議決権数
(v) 株主それぞれの議決権数割合
(詳細は「株主リストを添付書面とする商業登記規則の改正内容とは?」を参照ください)
そして、代理人に登記の申請を委任した場合には、上記に加え、③委任状の添付が必要となります(商業登記法18条)。
なお、官庁の許可または認可が効力要件となっている登記を申請する場合(たとえば、文部科学大臣などの認可を受けて学校を設置する場合の目的変更の登記申請の場合(学校教育法4条1項))には、官庁の許可書または認可書を添付する必要があります(商業登記法19条)。
その他の添付書面については、各登記事項について異なります。
具体例1 株式の譲渡制限に関する規定の設定(株券発行会社の場合)
株券発行会社が、株式の譲渡につき会社の承認を要する旨の定款の定めを設定する場合には、①株主総会議事録、②株主リストおよび③委任状(代理人による申請の場合)に加え、株券の提出に関する公告をしたことを証する書面または株式の全部について株券を発行していないことを証する書面を添付する必要があります(商業登記法62条、59条1項2号)。
株券の提出に関する公告とは、基本的に、定款変更の効力発生日までに株券を提出しなければならない旨を株券提出日の1か月前までに公告し、かつ、株主および登録株式質権者に各別に通知することです(会社法219条1項)。
具体例2 取締役・代表取締役の変更(新任)(取締役会設置会社の場合)
取締役会設置会社において、取締役が新たに選任された場合には、①株主総会議事録、②株主リストおよび③委任状(代理人による申請の場合)に加え、その取締役の就任承諾書(商業登記法54条1項)と本人確認証明書(商業登記法規則61条5項)が必要です(ただし、後述するように代表取締役については就任の際に印鑑証明書を添付するため、これとは別に本人確認証明書を添付する必要はありません)。
本人確認証明書は、たとえば住民票の写し、戸籍の附票、運転免許証のコピーなどが該当します。本人確認証明書と就任承諾書に記載されている氏名および住所が一致している必要があります。なお、外国人については、氏名および住所の記載がある本国のサイン証明書(ただし、外国文の場合は日本語の訳文を添付する必要があります)でも構いません。
また、代表取締役が辞任し(ただし、取締役としては残る)、新たに選任された取締役が代表取締役に就任する場合には、上記に加え、新代表取締役選任にかかる取締役会議事録(商業登記法46条2項)、新代表取締役の就任承諾書(商業登記法54条1項)、新代表取締役の印鑑証明書および旧代表取締役の辞任届が必要になります。
代表取締役選任にかかる取締役会議事録には、原則として、出席した取締役および監査役が議事録に個人の実印を押印して、これらの印鑑証明書を添付する必要があります。ただし、旧代表取締役が取締役として留任する場合には、取締役会議事録に登記所に届け出ている旧代表取締役の会社代表印を押印することにより、個人の実印と印鑑証明書の添付を省略することができます(商業登記規則61条4項)。
新代表取締役の就任には添付書面として印鑑証明書が必要とされ、その場合、前述したように同人の取締役としての本人確認証明書は不要です。
旧代表取締役の辞任届には、個人の実印を押印して印鑑証明書を添付するか、または登記所に届け出ている代表取締役としての印鑑(会社代表印)を押印する必要があります。
なお、新たに選任された代表取締役は、代表取締役としての印鑑(会社代表印)を法務局に印鑑届出書により届け出る必要がある点にもご留意ください。
申請方式
申請方式
登記申請は、登記を申請する会社の営業所の所在地を管轄する登記所(法務局、その支局・出張所)に申請書を提出して行うことになります(商業登記法1条の3、17条)。
会社の登記の申請は、代表者が会社を代表して行うことになりますが、代理人により申請することもできます。その際に添付書面として委任状が必要となるのは、前述のとおりです。申請方法としては、当事者またはその代理人が登記所に出頭して申請する方法、郵送により申請する方法があります。また、オンラインで申請することも認められています。
申請人が会社である場合に登記申請書に記載すべき事項は、次のとおりになります(商業登記法17条)。
① 商号および本店並びに代表者の氏名および住所
② 代理人の氏名および住所(代理人によって申請する場合)
③ 登記の事由
④ 登記すべき事項
⑤ 登記すべき事項につき官庁の許可を要するときは、許可書の到達した年月日
⑥ 登録免許税の額およびこれにつき課税標準の金額があるときは、その金額
⑦ 申請の年月日
⑧ 登記所の表示
申請書の具体的記載については、以下の記載例をご参照ください。
登記申請書記載例(取締役および代表取締役の変更):任期途中に代表取締役が辞任し(ただし取締役としては留任)、新たに選任された取締役が代表取締役に就任した場合
【申請書記載例(本文)】
※資本金が1億円を超える場合には登録免許税は3万円となります。
【申請書記載例(別紙)】

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