事務局が知っておくべき株主総会の基本 近年の傾向、準備、当日運営など
コーポレート・M&A
目次
法務部門の重要ミッションの1つである株主総会の運営。その事務局の実務について、「実は知っているつもりになっているだけかも」と不安に感じることはないでしょうか。本記事では、2026年2月にBUSINESS LAWYERS主催で開催した、「いまさら聞けない法務の基本『株主総会』」のレポートをお届けします。
講師は、コーポレートガバナンスや株主対応に精通するスパークル法律事務所の三谷 革司弁護士。バーチャル総会の普及やアクティビストの台頭など、この10年で激変した株主総会のあり方を踏まえ、年間スケジュールに沿った事前準備から当日の議事進行、さらには不祥事や株主提案といった有事の対応までを体系的にご解説いただきました。
株主総会のあり方の変容
株主総会は、「所有と経営の分離」を前提としつつ、会社の基礎的変更や株主利益に関わる重要事項を決定する最高意思決定機関として位置づけられます。三谷弁護士はまず、その基本構造を整理しました。
株主総会で決議すべき事項として、会社法で定められているものがあります。取締役・監査役の選解任、定款変更・合併等の基礎的変更、役員報酬の決定など、会社の根幹に関わる事項は、取締役会等ではなく、株主総会での決議が必要です。
また、決議要件は、以下のように普通決議・特別決議・特殊決議と段階的に設計されており、事項の重要度に応じた株主の意思確認が制度上担保されています。
決議要件の構造

「シャンシャン総会」からの脱却
こうした制度的な位置づけを踏まえたうえで、三谷弁護士が強調したのは、株主総会のあり方そのものの変容です。
かつての株主総会は「シャンシャン総会」とも呼ばれ、瑕疵なく適法な決議を短時間で得ることが望ましいこととされていました。安定株主が大多数を占めていたため決議の可決はほぼ確実であり、形式的な回答に終始して、株主との実質的な議論がほとんど行われない例もありました。三谷弁護士は自身の経験を振り返りながら、「形式的に決議が取られていればそれでいい、質問はまともに相手にしないという時代があった」と率直に語っています。
しかし近年、この構図は大きく変化しています。いわゆる「総会屋」が事実上消滅した一方、安定株主も減少しました。近年では、企業価値向上を目的とした合理的な提案活動を行うアクティビスト株主も目立つようになっています。事実、2025年6月株主総会では、アクティビスト等から株主提案を受けた企業数が110社以上と過去最高水準でした。
加えて、新NISA制度の拡充を背景に個人投資家が急増し、質問の質も高まっています。政策保有株式の縮減による安定株主の構造的減少、機関投資家の議決権行使基準の厳格化も相まって、取締役選任の賛成率が60〜70%台にとどまるケースも珍しくなくなりました。
エクイティガバナンスの時代の到来
「株主ときちんと向き合わなければ、役員の信任が得られない。株主との対話が重要になった」三谷弁護士はこう指摘し、さらに「株主総会は予定調和的な儀式の場から企業価値を踏まえた経営評価の場へと構造的に変質した。エクイティガバナンスの本格的な時代が到来している」と強調しました。
株主総会プロセスの視点からみた当日の意義

その背景には、2015年のコーポレートガバナンス・コード適用開始に始まる一連のガバナンス改革や、2023年以降の東証による資本コストや株価を意識した経営の要請があります。バーチャル総会などのDX化も進み、ハイブリッド参加型が376社(18.6%)に達するなど、株主による会社情報へのアクセスの拡大も進んでいます。
株主総会の計画的準備
株主総会は「当日」だけではない
株主総会に向けた準備は、当日の数か月前から慌てて始めるものではありません。三谷弁護士は、「年間を通じた計画的準備がリスクを低減する」と話し、3月決算会社(6月定時株主総会)をモデルとした年間スケジュールを示しました。
3月決算会社を前提とした年間タイムラインと各フェーズの重要タスク

7月から、前年総会の振り返りと課題整理を行い、翌年度の議案の方向性を取締役会と連携して検討します。株主構成の分析やIR・SR活動、年間計画策定もこの時期に進めます。会場の予約についても、大規模な会場を必要とする企業では翌年度分、場合によっては2年先まで確保しているケースもあるといいます。
4月に入ると準備が本格化します。招集通知のドラフト作成、各部署による想定問答の準備・更新に着手し、株主提案がある場合はその対応方針の検討に入ります。三谷弁護士は「株主提案は水面下での交渉が先行することも多いが、4月から5月にかけて対応を検討するのが一般的」と述べています。議決権行使助言会社の基準確認といわゆる「票読み」もこの段階の重要なタスクです。
5月には招集通知の校了・電子提供措置の準備を進めるとともに、リハーサルが開始されます。バーチャル環境の最終確認や、機関投資家への個別SR訪問もこの時期に行われます。
ガバナンス体制に応じた議案設計
株主総会でどのような議案を上程するかは、その会社のガバナンスの根幹に関わります。三谷弁護士は、役員候補者の選定、報酬制度の設計、機関設計の3つを主要な検討領域として提示しました。
ガバナンスに関する重要論点

役員候補者の選定では、指名報酬委員会での議論を経て、スキルマトリックスに基づく候補者選定が行われます。「DX、グローバル、財務など、中期経営計画の実現に必要なスキル要件の定義から始めて、その中でマッチする候補者を選んでいくのが選定プロセス」だと三谷弁護士は解説しました。多様性やジェンダーバランス、社外役員の独立性確保も重要な観点です。
報酬制度については、譲渡制限付株式(RS)や業績連動型株式(PSU)の活用による中長期インセンティブ設計が進んでおり、業績連動指標にROEやROIC、ESG指標を組み込む企業も増加しています。
機関設計では、監査等委員会設置会社への移行が引き続き主要なテーマであり、執行への権限委譲と取締役会の監督機能強化の両立が検討されています。
招集通知の変化と電子提供制度
招集通知のあり方にも変化が見られます。
電子提供制度の定着により、株主総会資料の早期開示が進んでいます。東証が公表した「2025年3月期決算会社の定時株主総会の動向について」によると、プライム市場の35.3%が株主総会4週間前に電子提供を開始する見込みとなりました。
また、株主宛に送付する書類の形態について、「アクセス通知」「サマリー資料」「フルセットデリバリー」のどれを選ぶかがよく議論になるポイントだと三谷弁護士は話します。従来のフルセットデリバリーからアクセス通知のみ、あるいはアクセス通知+サマリー資料へと移行が進んでおり、上記の東証の公表資料によると、2025年3月決算会社のうちプライム市場では56.3%がサマリー資料併用型を採用しています。
三谷弁護士は「機関投資家が議決権行使の判断材料として精読していることを意識して作成すべき」と述べ、わかりやすさと情報量のバランスが重要であると強調しました。
当日の品質は事前準備で決まる
(1)想定問答
想定問答は、業績・財務、経営戦略、役員関連、ESG・サステナビリティ、株主還元、リスク管理、資本効率といったカテゴリに分けて準備されます。2025年は特に資本効率に関する質問が増加傾向にあったといいます。
三谷弁護士は「当日バタバタするかしないかは、事前準備の精度で決まる」と語り、各部署が今年度のトピックを洗い出し、参考回答を用意しておくことの重要性を指摘しました。
想定問答の主要カテゴリ
| カテゴリ | 具体例 |
|---|---|
| 業績・財務 | 業績の増減要因、セグメント別分析、キャッシュフロー |
| 経営戦略 | 中期経営計画の進捗、M&A戦略、事業ポートフォリオ |
| 役員関連 | 取締役選任の妥当性、報酬の合理性、社外取締役の実効性 |
| ESG・サステナ | 気候変動対応、人的資本、ダイバーシティの取組み |
| 株主還元 | 配当政策、自社株買い、総還元性向の目標水準 |
| リスク管理 | 不祥事・コンプライアンス問題、内部統制の整備状 |
| 資本効率 | ROE/ROIC目標、PBR改善策、資本コストの認識 |
(2)リハーサル
リハーサルは通常1〜2回実施され、議長シナリオの読み合わせ、回答者の指名・役割分担の確認、想定外質問への対応シミュレーション、バーチャル環境の接続テスト、動議への対応手順の確認などが行われます。受付スタッフの配置や弁護士の待機場所、議事録作成者の配置、緊急時対応マニュアル(地震発生時、来場者の体調不良時等)の確認まで含め、総合的なシミュレーションが実施されるのが一般的です。
⬜︎ 議長シナリオの読み合わせ(開会から閉会まで通し)
⬜︎ 回答者の指名・役割分担の最終確認
⬜︎ 想定外質問への対応シミュレーション
⬜︎ タイムスケジュールの確認(質疑時間の配分含む)
⬜︎ バーチャル環境の接続テスト・通信障害時の対応手順
⬜︎ 動議(修正動議・手続的動議)への対応手順の確認
⬜︎ 事務局・受付スタッフの動線・連絡体制の最終確認
⬜︎ 議事録作成者の配置・記録方法の確認
⬜︎ 緊急時対応マニュアル(不規則発言・体調不良等)の確認
株主総会当日の運営
いよいよ迎える株主総会当日の運営においては、株主との対話姿勢と適切な議事進行のコントロールの両立が求められます。セミナーでは、シナリオの工夫から議長の権限行使、質疑応答のコントロールまでが実務的に解説されました。
株主総会当日の議事運営フロー

近年のトレンド
近年の株主総会では、事業報告の充実化が顕著です。動画やスライドを活用したビジュアルな事業報告はもはやメインストリームとなり、代表取締役自らがプレゼンテーション形式で経営ビジョンを語るケースも増えています。
対話環境の整備に関しては、事前質問制度の拡大が近年の大きな変化として挙げられました。コロナ禍を契機に導入が進んだ事前質問の受付は、会場での質疑時間に制約がある中で、株主の声を幅広く拾う仕組みとして定着しつつあります。三谷弁護士は「多くの株主が出席する総会では全員を当てることは事実上不可能。事前質問によって質疑応答を充実化させる取組みは非常に有用だ」と評価しました。総会後の株主懇談会や施設見学会の併催など、対話機会の多様化も進んでいます。
議決結果の透明性向上も注目される動きです。スマートフォンを利用したリアルタイム投票・開示の仕組みを導入する企業も現れています。
議長と事務局の連携体制が成否を分ける
株主総会当日の議場運営では、議長のリーダーシップと事務局のサポート体制が成否を分けるといいます。
| 議長の役割と権限 | 事務局のサポート体制 |
|---|---|
|
|
三谷弁護士は、株主総会当日の議場における両者の連携体制のイメージを以下のスライドで示しました。
議場の設定例

前方のステージ上に議長席(中央)、答弁席(議長の横)、役員席が配置されるのが一般的です。
注目すべきは後方・裏方エリアの事務局体制です。このモデルでは、第1事務局(司令塔)は議長の直後に位置し、進行シナリオの管理、指示出し、議事の適法進行の監理、動議発生時の対策検討、議場の様子の監視を担います。第2事務局(情報検索・回答作成)は、答弁サポートとして回答原稿の作成や想定問答の検索・送付を行い、第1事務局と連携して議長・回答者に情報を伝達します。
「昔は紙でメモを渡していたが、今はモニターで想定問答を検索して、役員席の前のモニターに回答案を映す形が多い」と、三谷弁護士は実務の変化にも言及しました。
議長権限の適切な行使が重要
議長には議事整理権が付与されており、議場の秩序維持、発言の許可・制限、退場命令といった権限を有しています。三谷弁護士は「議長の権限行使は、株主の権利行使の機会を大幅に制限する場面もあるため慎重さが求められる一方、株主総会をきちんと運営するという利益も大きい。適切な権限行使が当日運営の肝」と述べました。
質疑応答においては、会社法314条に基づく取締役の説明義務を果たすことが大前提となります。株主から議題に関連する事項について質問された場合、合理的な範囲で丁寧な説明を尽くさなければ、総会決議取消しの原因にもなり得ます。
取締役の説明義務(会社法314条)

質疑応答のコントロールのコツ
一方で、株主総会の進行を妨げるような不規則発言や、突然提出される動議に対しては、適法かつ毅然とした対応が必要です。こうした臨機応変な対応を議長が迷いなく行えるようサポートする実践的なツールとして、三谷弁護士が紹介したのがシナリオカードです。
議長のシナリオカードの例

たとえば、議事を妨害して喋り続ける株主がいた場合には、第1事務局の判断で議長にカードを差し入れ、「株主様、議事進行の妨げとなりますので、不規則発言はおやめください」と警告させます。それでも収まらない場合は退場警告のカードを出し、場合によっては議事中断の宣言を行います。
また、実務上よく見られる議長不信任動議が出された際も、「私は議長としてこの動議に反対です。私が議長を続けることに賛成の株主様は拍手をお願いします」と記載された定型文のカードを瞬時に手渡すことで、冷静かつ適法に対処することが可能です。
有事を想定した平時からの準備体制
最後に、平時とは異なる緊迫した対応が求められる有事の株主総会についての解説が行われました。有事における対応力は、平時からの想定と準備体制によって決定づけられるといいます。
不祥事・スキャンダルがあった場合
不祥事・スキャンダル発生時には、株主からの厳しい経営責任追及、取締役選任議案の否決リスク、法的リスク(損害賠償請求・株主代表訴訟等)への言及、議場の紛糾・長時間化といった事態が想定されます。
三谷弁護士は、2025年に耳目を集めた不祥事事例にも触れつつ、対応の基本ポイントとして次の5つを挙げました。
- 冒頭での率直な謝罪と事実関係の正確な説明
- 原因分析と再発防止策の具体的な提示
- 第三者委員会等の調査結果の開示
- 役員の責任の明確化(辞任・報酬返上等)
- 今後の改善計画とモニタリング体制の説明
株主提案への対応
株主提案については、2025年6月に過去最高水準の110社以上が株主提案を受けたことが改めて強調されました。提案内容は取締役の選解任、剰余金の配当、定款変更、役員報酬など多岐にわたり、定款変更議案の形をとれば比較的自由に提案できるという制度的な特徴もあって、企業側には丁寧な対応と説明が求められています。
- 提案内容の法的検討(適法性・記載要件の充足)
- 取締役会での審議・会社側反対意見の決定
- 招集通知への適切な記載(提案理由+反対意見)
- 機関投資家への事前説明(SR活動の実施)
- 議決権行使助言会社(ISS/GL)への対応
- 総会当日の質疑応答への備え(想定問答)
- 議決結果の分析とフィードバック
プロキシーファイト(委任状争奪戦)
プロキシーファイト(委任状争奪戦)は、経営権をめぐる最も激しい対立形態です。対立の表面化→委任状勧誘→SR活動→総会での採決というプロセスの中で、機関投資家への個別説明を含むSR活動が勝敗を分ける最重要局面となります。

三谷弁護士は、「複数のアクティビストが同時に仕掛けてくるケースもあり、戦略的判断が求められる」と述べました。
継続会・流会
継続会・流会についても触れられました。
継続会は、株主総会が当日中に終了しない場合に後日再開する手続で、コロナ禍で話題になりました。流会は、定足数不足等による総会不成立ですが、近年は紛争案件で議長が流会を宣言するケースも見られ、その適法性をめぐる議論が注目されています。

セミナーの最後に三谷弁護士は、「どのような企業であっても、ガバナンス問題の指摘や株主提案に直面するリスクと無縁ではない。常に危機感を持ち、有事のシナリオを想定した平時からの準備体制を構築しておくことが、株主総会対応の重要な姿勢だ」と締めくくりました。
株主総会は、単なる法的手続をこなす場から、企業と株主が対話を通じて経営を評価し合う場へと進化を遂げています。法務・総務担当者には、年間を通じた緻密なスケジュールの遂行と、当日の洗練された議事運営スキルの双方が求められているといえるでしょう。
(文:周藤 瞳美)
弁護士ドットコム株式会社