株主総会開催中に不測の事態(地震・災害等)が発生した場合の対応とシナリオ
コーポレート・M&A当社は上場会社であり、来月、定時株主総会を開催予定です。株主総会中に大きな地震が発生した場合、どのように対応すればよいでしょうか。
決議が得られることを前提に各種の実務的な手続きが進んでいるため、可能な限り株主総会の決議を得ておくべきと考えられます。まずは出席者の安全を確保すべきですが、余震等が懸念される状況の場合には、適宜、シナリオを短縮し、質疑応答も手短に済ませることも許容されます。また、議事進行の継続が困難な状況の場合には、後日、継続会を開催することとするか、質疑を打ち切って、議案の採決を優先して行うことも考えられます。
解説
株主総会開催中の不測の事態(地震・災害等)を想定したシナリオの必要性
株主総会開催中に、大地震、火災、停電、会場内の事故の発生等、不測の事態が発生する可能性もゼロではありません。各社において、緊急事態の場合に備えた避難訓練等は行っているかと思いますが、予見できない状況に陥る可能性もありますから、議事進行についての考え方を整理しておかないと対応を誤ってしまうおそれがあります。また、緊急事態の場合におけるシナリオについても、できれば事前に準備しておくことが望ましいでしょう。
株主総会の決議を得ておく必要性が高いこと
基本的な考え方として、株主総会の決議が得られることを前提として各種の実務的な手続きが進んでいるため、不測の事態が発生した場合であっても、可能な限り株主総会の決議を得ておくべき状況にあることを理解しておく必要があります。
特に、剰余金の配当決議がある場合には、実務的には株主に対する支払手続きが手配済みである場合が多く、その中止が事実上困難という問題があります。また、役員の選任が行われないために社内人事にも影響が生じます。加えて、延会・継続会を開催するとしても、その日時の設定や会場手配、株主への告知方法等、多くの課題があり、決して容易に開催ができるわけではありません。
参考:「株主総会の延期・続行をするための方法は」
通常時の株主総会においては、瑕疵なく決議事項を決議することが目標となりますが、緊急事態の場合においては、状況に照らして最も適当な対応を選択し、決議事項の決議も確保するという難しい対応を迫られることになります。緊急事態の場合であっても、株主総会における取締役等の説明義務(会社法314条)がなくなるわけではなく、議長が質疑応答を行わずに採決を強行すれば、議長の議事整理権(会社法315条1項)の違法な行使となるおそれもあります。
参考:「株主総会での質疑打ち切りのタイミング」
実際の対応シナリオ
(1)議事進行の継続が可能な場合
株主総会開催中に不測の事態が発生した場合であっても、参加者の安全が確保されており、議場の混乱も大きくない状況であれば、議長としては、通常どおり議事進行を続けることになります。
株主総会の開会直後にそのような事態が発生した場合には、適宜、事業報告や議案説明に要する時間を短縮する対応が考えられます。このような場合にも対応できるよう、議長はシナリオを十分に頭に入れておくことが求められます。
また、緊急事態が継続している状況にあれば、質疑応答も通常時より手短にすませることも常識的であり、許容されると考えられます。このような議事進行について、可能であれば、議場に諮ってその信任を得ながら進めておけば、株主からの理解も得られやすく、仮に後日争われることがあっても、手続きに瑕疵があると認められるリスクは低いと言えるでしょう。
ただいま、大きな地震が発生いたしました。一旦、議事を中断し、安全の確認をいたしますので、しばらくお待ちください。
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(揺れがおさまった後)
会場の安全の確認ができましたので(揺れもおさまったようですので)、議事を再開いたします。なお、当会場は十分な耐震構造を有しておりますので、どうぞご安心ください。
(情報が判明した後)
先ほどの地震ですが、〇〇地方において、震度〇の地震が発生したとのことです。今後の余震や、交通機関の乱れも予想されますので、本総会の審議は手短に進めることといたしたく、ご理解をお願いいたします。
(議案の上程と質疑応答)
それでは、決議事項の各議案を上程いたしますが、その内容は招集通知記載のとおりでありますので、詳細の説明は省略いたします。次に、株主様からの総会の目的事項に関するご質問、ご発言をお受けいたしますが、緊急の事態ですので、特に重要なものに限らせていただきたく、ご理解をお願いいたします。以上につき、ご賛同いただける株主様は拍手をお願いいたします。(拍手)ありがとうございます。多数のご賛同をいただきましたので、そのように進めさせていただきます。
(採決)
それでは、緊急の事態ですので、そろそろ採決に移らせていただきたいと思いますが、ご賛同いただける株主様は拍手をお願いいたします。(拍手)ありがとうございます。多数のご賛同をいただきましたので、そのように進めさせていただきます。
(2)議事進行の継続が困難と考えられる場合
株主総会開催中に不測の事態が発生した場合であって、議事進行の継続が困難な状況の場合には、議長は極めて難しい判断を迫られることになります。
① 議場に諮る猶予も無い場合(一刻を争う場合)
まず、何よりも優先すべきは出席株主や受付・会場係の従業員、役員等の総会参加者の安全ですから、会場が危険な状況であってただちに避難すべき場合には、議事はすっぱりと諦め、危機対応に専念すべきでしょう。たとえば、火災が発生して延焼しつつある場合や、天井や壁の崩落が始まっているような場合には、一刻を争って逃げなければなりません。この場合には、株主総会の延期・続行の決議(会社法317条)が得られないため、原則として株主総会の招集手続きをやり直す必要があることになります。
なお、この点を考慮して、念には念を入れた対応として、冒頭の議長による議事運営説明の一部に、緊急の場合には継続会を開く場合がありうること、その日時・場所については議長に一任し別途ウェブサイトに掲載することにより通知することについても含めておき、議場の信任を得ておくことで、あらかじめ予備的な決議を得た形をとっておく対応も考えられます。
②切迫した状況にあるが、議場に諮る程度の猶予はある場合
この場合、株主総会の続行の決議(会社法317条)を行い、後日、継続会を開催するというのが原則的な対応として考えられます。
しかし、深刻な緊急事態が現に発生している状況にあるとすれば、実務的な懸念として、予定通りに決議が得られないことに伴う混乱を解消するための各種手当てを講じつつ、継続会の手配を行うのは極めて困難になることが予想されます。
そこで、もう一つの選択肢として、ただちに議事を打ち切って採決を行ってしまうという対応をとることも検討に値すると言えるでしょう。このような対応をとった場合、当然ながら、取締役等の説明義務違反や議長の議事整理権の違法な行使とみなされ、決議取消しが認められてしまうリスクがあることにはなりますが、議決権行使書の提出によって議案が可決される見通しが立っている状況にあるのであれば、多くの株主は決議をしてほしいと考えるはずです。
継続会の開催は会社にとっても多大な負担となり、かえって株主の利益に資するものにはならないと考えられます。また、仮に決議取消訴訟を起こされたとしても、裁量棄却となる可能性もあると考えられます。したがって、このような選択肢をとることが賢明な場合も少なからず存するものと思われます。
なお、賛否が拮抗しているような状況の株主総会の場合には、十分に審議を尽くすべきですし、採決にも時間がかかりますから、継続会とせざるをえないと思われます。
ただいま、大きな地震が発生いたしました。一旦、議事を中断し、安全の確認をいたしますので、しばらくお待ちください。
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(揺れがおさまった後)
非常に大きな地震が発生いたしました。これから、係員の誘導に従って、安全な場所に避難していただきます。なお、本日の株主総会につきましては、議案の採決を優先し、すべての議案を一括して採決したいと思いますが、ご異議ございませんか。(拍手)ありがとうございます。
それでは、すべての議案について、原案に賛成の方は拍手をお願いいたします。(拍手)ありがとうございます。議案はすべて可決されましたので、本日の株主総会は終了いたします。それでは、係員の誘導に従ってください。

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