委任状勧誘規制の概要
コーポレート・M&A委任状勧誘規制の概要について教えてください。
金融商品取引法、同法施行令および勧誘府令において、委任状勧誘を行おうとする者は、所定の様式の委任状用紙を使用し、所定の情報を記載した参考書類を交付して行わなければならないことが定められています。
解説
目次
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株主総会における議決権行使の委任
株主が株主総会において議決権を行使する機会を保障するため、会社法上、株主は代理人によって議決権の行使ができることが明文で定められています。この場合、株主は、代理権を証する書面(委任状)を会社に提出しなければならないとされています(会社法310条1項)。
委任状は、株主の議決権行使という重要な権利を委任する書面ですから、その委任内容は明確である必要があります。この点、会社は、議決権の代理行使に関して、代理権を証明する方法、代理人の数、その他代理人による議決権の行使に関する事項等について、合理的な範囲内の制限を定めることができるとされています(会社法施行規則63条5号)。
委任状勧誘規制とは
議決権の代理行使の勧誘を行うことを「委任状勧誘」といいますが、上場会社については、株主総会を不当に支配しようとする株主等が、会社経営に無関心な株主から委任状を集め、株主総会の円滑な運営を妨害しようとすることを防止するため、金融商品取引法において委任状勧誘に関する規制が定められています。
すなわち、金融商品取引法は、株主に対する十分な情報の提供と株主の意思の決議への反映を確保する目的から、上場株式の議決権行使に係る委任状の勧誘について、何人も、政令の定めるところに反して自己または第三者に議決権の行使を代理させることを勧誘してはならない旨を規定しています(金融商品取引法194条)。具体的には、金融商品取引法施行令(「施行令」)36条の2以下およびその委任を受けた上場株式の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令(「勧誘府令」)に定めがあります。
これらの上場会社の株主総会において適用される委任状勧誘に関する規制を、一般に、委任状勧誘規制と呼んでいます。なお、非上場会社の株式の議決権の代理行使の勧誘については、委任状勧誘規制は適用されません。また、あくまで規制の対象となるのは、議決権の代理行使に限られるので、書面投票制度における議決権行使書面の提出を勧誘したとしても、規制の対象外となります。
委任状用紙および参考書類に係る規制の内容
議決権の代理行使の勧誘を行おうとする者は、相手方に対して、勧誘府令に定める所定の委任状の用紙および参考書類を交付しなければならないとされています(施行令36条の2第1項・第5項)。
委任状争奪戦になっているような場合、あるいは、そうでなくても議決権の行使状況が拮抗しているような場合には、個別の委任状の有効性が議決結果に影響する問題になり得ることもあります。特に、株主側の作成する委任状は、必ずしも所定の事項をすべて網羅していない場合があることに加えて、委任状を提出する株主も、委任状に余事記載をしたり、矛盾する記載をしたりする場合なども多く見られますので、委任状の効力について、短期間に極めて慎重な判断が求められる場合があります。
委任状用紙の様式
委任状用紙の様式については、議案ごとに被勧誘者が賛否を記載する欄を設けなければならないとされています(施行令36条の2第5項、勧誘府令43条)。議案ごとに株主の議決権行使に対する態度を明確化することで、株主の意思を正しく株主総会の議決結果に反映させようとする趣旨のものです。
したがって、議案ごとに賛否の欄を設けずに白紙委任状を勧誘することは、原則として違法となり、委任状としての効力が認められない結果となる可能性もあります(なお、後記4のモリテックス事件参照)。
委任状に賛否の欄が設けられているにもかかわらず、株主が何も記入せずに委任状を提出した場合には、当該議案に対する賛否の判断を代理人に委ねたものと考えられることから、そのような委任自体は有効となります。実務上は、これを確認する趣旨で、委任状用紙の中に「賛否の表示をしていない場合には白紙委任とする」旨を記載しています。
参考書類
委任状用紙とともに勧誘者が交付すべき参考書類には、一般的記載事項として、①勧誘者が発行会社またはその役員である場合には、その旨、議案、提案の理由等、②勧誘者が上記以外の者である場合には、議案、勧誘者の氏名または名称および住所を記載する必要があります(勧誘府令1条1項)。また、議案の提案者・勧誘者が会社側か否かにより分けて、議案の種類ごとに記載すべき内容が定められています。
ただし、会社側が行う(会社により、または会社のために行う)委任状勧誘に係る参考書類の議案の種類ごとの記載事項は、会社法上の書面投票制度に係る株主総会参考書類の記載事項と同様です。したがって、これらの参考書類の記載事項のうち、株主総会参考書類等により提供する事項がある場合には、その旨を明らかにすれば、これらの事項は委任状勧誘に係る参考書類に記載する必要はありません(勧誘府令1条2項)。
写しの金融庁長官への提出
勧誘者は、委任状用紙および参考書類を交付したときは、直ちにこれらの書類の写しを金融庁長官に提出しなければなりません(施行令36条の3)。
ただし、同一の株主総会に関して発行会社の株主のすべてに対し株主総会参考書類および議決権行使書面が交付されている場合は、提出が不要となります(勧誘府令44条)。
なお、実務上は委任状用紙および参考書類にとどまらず、被勧誘者に送付するすべての書類の提出が求められています。
虚偽記載の禁止
勧誘者は、重要な事項について虚偽の記載があり、または記載すべき重要な事項もしくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている委任状の用紙、参考書類その他の書類を利用して、議決権の代理行使の勧誘を行ってはならないとされています(施行令36条の4)。
モリテックス事件(東京地裁平成19年12月6日判決)
委任状勧誘規制をめぐって委任状の効力が争われた事案として、モリテックス事件(東京地裁平成19年12月6日判決)があります。同事件では、提案株主側の集めた委任状に会社提案の賛否を記載する欄が設けられていなかったこと等から、会社側は委任状勧誘規制に違反して会社提案に関する議決権行使の代理権授与は無効であると主張しましたが、裁判所はその趣旨に反するものではないと判示し、会社側の主張を退けています。
その理由として、同事件では提案株主側と会社側で経営陣の獲得をめぐって紛争となっており、両社から取締役候補者の選任議案が提出されるであろうことが株主にとっても顕著であり、株主提案に賛成する委任状を提出した株主は、会社側からの提案議案に反対する趣旨で代理権授与を行ったと解されること、また、提案株主側として、株主総会招集通知の受領によって会社提案の内容が判明した以降でなければ委任状勧誘を行えないとすると、会社と比較して著しく不利な地位に置かれることになる点などが挙げられています。
委任状勧誘規制の適用除外
委任状勧誘規制は、上場株式の議決権行使に係る委任状の勧誘を広く対象とするものですが、上場会社の株式についての委任状勧誘であっても、発行会社またはその役員のいずれでもない者が行う勧誘で、被勧誘者が10人未満である場合等、一定の場合には、委任状勧誘規制は適用されません(施行令36条の6第1項)。実務上、委任状勧誘規制の対象となるか否かについて検討を要し、慎重な対応が求められる場合があります。
【委任状勧誘規制の条文構成】

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