委任状争奪戦(プロキシーファイト)の対応方法

コーポレート・M&A

 委任状争奪戦(プロキシーファイト)の対応方法について教えてください。

 委任状争奪戦になった場合、あるいは委任状争奪戦になることが予想される場合には、株主に対するアプローチを早期に開始すべく、有能なアドバイザーを早期に確保し、豊富なノウハウを有するチームを結成することが重要です。

解説

目次

  1. 委任状争奪戦(「プロキシーファイト」)とは
  2. 委任状争奪戦に至る背景について
  3. 委任状争奪戦への対応について
    1. 人員体制の確保
    2. 委任状勧誘規制の遵守
    3. 検査役の選任
    4. 票読みの重要性
    5. 株主総会運営
  4. まとめ

委任状争奪戦(「プロキシーファイト」)とは

 一定割合以上の株式を保有する大株主が株主総会に先立ち株主提案を行ったうえで、提案した議案が可決されるよう他の株主に対して積極的に議決権行使の委任状勧誘を行うのに対し、会社側がこれに対抗して会社提案の支持を訴えかけたり、会社側も委任状勧誘を行ったりしているような場合、株主の委任状をめぐって争奪戦のような様相を呈することから、「委任状争奪戦」と呼ばれる状況になります。委任状は英語で「プロキシー」であることから、「プロキシーファイト」と呼ばれることもあります。

 委任状争奪戦となるのは、大株主が会社経営陣を入れ替えることにより会社の支配権を取得しようとして、大株主側の推薦する取締役候補者の選任を求めて行われる場合が典型ですが、会社の経営陣に対して積極的な提言を行うアクティビスト株主(いわゆる「物言う株主」)の戦術の一つとして用いられる場合もあります。

 日本では、2002年の東京スタイルの事例が本格的な委任状争奪戦の最初の事例と言われますが、その他有名な事例として、サッポロHDの事例、TBS・楽天の事例、モリテックスの事例、近年では父娘で経営権を争った大塚家具の事例などがあります。

委任状争奪戦に至る背景について

 会社の支配権をめぐる争いがあっても、委任状争奪戦にまでなれば多大な労力と費用がかかりますから、多くの場合、会社の経営に不満を持つ株主側と会社経営陣との間で事前に接触があり、株主総会の議案や経営方針等に株主側の意向を反映するよう任意の交渉が行われます。株主側が可決要件を超える支持を集めることが確実な場合には、会社経営陣としても無駄な抵抗は行わず、自らの善管注意義務に反しない範囲で、株主側の意向に沿った方針を採ることになるでしょう。

 株主側と会社経営陣との協議が決裂した場合には、株主側として、株主総会において自らの意向に沿って行動する取締役を新たに選任させるため、株主提案権の行使を検討することになります。株主側の株主提案が適法になされた場合(株主提案がなされた場合の対応については「株主総会において株主提案が行使された場合の対応方法」「株主提案権が行使できる株主なのかどうかを確認する方法」をそれぞれ参照)、株主総会において、株主提案と会社提案が並立することになります。

 株主側として、株主提案について可決要件を超える株主の支持が得られる見通しが立つ場合には、コストをかけても、積極的に委任状勧誘を行い、株主提案の可決を現実のものとするインセンティブがあります。したがって、委任状争奪戦にまで至るのは、通常、株主提案にある程度可決される見込みがあるような場合に限られることになります。

委任状争奪戦への対応について

 委任状争奪戦における注意点は、株主側・会社側のいずれに立つか、また会社の株主の分布状況、浮動株主・安定株主の割合、どの程度拮抗しているか等によっても様々であり、多数の事項を厳しい時間的制約の中で検討していくことが求められます。以下、一般的な注意事項について触れておきます。

人員体制の確保

 委任状争奪戦では、多数の株主から賛成票を取り付けるため、プレスリリース、インターネットのホームページの設営、バナー・メール広告、新聞・テレビ広告、株主説明会の開催、説明資料の作成等、様々な媒体・手法を駆使して株主に訴えていくこととなります。また、多くの事例では、機関投資家へのアプローチが極めて重要となります。さらに、株主名簿閲覧謄写や各種閲覧謄写請求への対応、委任状勧誘や株主総会運営等をめぐって多数の法律問題も発生しますから、この種の案件の取扱いに慣れた弁護士の起用も不可欠といえます。

 まず、このような各分野に長けたアドバイザーを早期に確保し、豊富なノウハウを有するチームを結成することが重要です。

委任状勧誘規制の遵守

 委任状勧誘は、委任状勧誘規制に従って行われなければなりません。具体的には、金融商品取引法施行令(「施行令」)36条の2以下およびその委任を受けた上場株式の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令(「勧誘府令」)に定めがありますが、これらの規制の概要については、「委任状勧誘規制の概要」を参照してください。委任状争奪戦となる場合には、委任状勧誘規制の対象となる行為に該当するかをよく検討していく必要があります。

検査役の選任

 委任状争奪戦になった場合、委任状の取扱いの適法性等について調査する検査役の選任(会社法306条1項)を申し立てることになります。
 検査役の選任は、会社または株主がこれを申し立てることができますが、会社としても、株主総会の手続の公正性を客観的に担保するため、検査役を選任しておくことが望ましいといえます。
 委任状争奪戦になっている場合、検査役は経験がある弁護士が選任されることになるでしょう。検査役の調査は、株主総会の招集手続および決議方法を対象とするものですが、実際の場面では、検査役と株主側、会社側の代理人が都度打合せを行い、進め方を協議していくことになります。

票読みの重要性

 委任状争奪戦において、株主へのアプローチは重要であり、いかに大株主の票を固めるかの争いとなります。この点、金融機関や保険会社等の大株主であっても、委任状争奪戦に必ずしも慣れているわけではなく、委任状の記入方法についても誤りがないよう、十分な説明をしておくことが必要です。

 外国人株主や機関投資家の構成比率が高い会社の場合には、議決権行使助言会社の見解が議決結果に大きく影響することになるので、議決権行使助言会社への説得活動には特に重点を置いて行うことになります。
 なお、議決権行使助言会社であるISSの2016年版ポリシーでは、委任状争奪戦のような特殊な状況における取締役選任議案について、以下のような観点から包括的に議案を評価するとされていることが参考となります。

  1. 同業種他社と比較した、長期で見た会社の経営成績
  2. 現経営陣の実績
  3. 経営権に争いが生じた背景
  4. 候補者の経歴・資格・資質
  5. 株主が提案する経営戦略および現経営陣に対する批判の妥当性
  6. 両サイド(現経営陣および提案株主)の提案の実現可能性
  7. 株主構成(現経営陣および提案株主の株式保有状況)

株主総会運営

 委任状争奪戦になっている場合には、株主総会においても株主による投票が行われることになりますから、議決権行使書面によって会社側提案に既に過半数の賛成があることが前提となっている株主総会とは異なった運営となります。

 また、株主側が議場を支配できるほどに多数の委任状を取得していれば、議長不信任動議を提出して会社側の議長の交代を求めるような場合もありますし、このような機会に乗じた問題株主が騒ぐ場合もあり、動議処理についても慎重を要することになります。 その他、委任状と議決権行使書面が重複する場合の処理等、株主総会運営に関する多くの問題が発生することになります。

まとめ

 委任状争奪戦では、手続の適正を遵守するとともに、株主に対するアプローチを早期に開始して、票固めをすることが必要になります。有能なアドバイザーを早期に確保し、豊富なノウハウを有するチームを結成することが重要です。

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