株主総会における議長の権限と退場命令

コーポレート・M&A

 当社の株主総会には、審議とは無関係に突然議長に対して暴言を叫び、議事進行を妨害する株主の出席が予想されています。総会の議長として、どのように対応すれば良いでしょうか。

 議長には、会社法上認められた権限として、①秩序維持権、②議事整理権、③退場命令権があります。不規則発言や離席等、議事を妨害する株主に対しては、まず議長から説得・警告や発言禁止・着席命令を発し、それでもなお当該株主が妨害行為をやめない場合には、退場命令を発することができます。また、著しい妨害行為を行う特殊株主に対しては、早い段階で退場命令を発することも許されます。

解説

目次

  1. 議長の権限
  2. 議長の権限はいつから発生するか
  3. 退場命令の方法
    1. 退場命令を発するにあたって考慮しておくべき事項
    2. 警告を発すべき妨害行為の程度
    3. 退場命令を発する手順(基本:「3回ルール」)
    4. 退場命令を発する手順(著しい妨害行為の場合)
    5. 退場命令を発した後の退出のさせ方
  4. 退場命令の適法性に関する裁判例

議長の権限

 株主総会の議長には、総会の議事を円滑に運営し、終了させるため、①総会の秩序を維持する権限秩序維持権)、②総会の議事を整理する権限議事整理権)、③議長の命令に従わない者その他当該株主総会の秩序を乱す者を退場させる権限退場命令権)があります。

 この、①秩序維持権、②議事整理権、③退場命令権の3つの権限(相互には、①、②を担保するために③があるという関係になります。)は、会社法上、明示的に議長に与えられたものであり(会社法315条1項、2項)、議長による総会の議事運営の骨格となるべきものですから、議長はこれを十分に理解しておくことが必要です。

株主総会における議長の権限

株主総会における議長の権限

議長の権限はいつから発生するか

 多くの会社の総会シナリオでは、冒頭で開会宣言を行うとともに、定款の定めに基づいて、議長が就任宣言を行っています。この開会・議長就任宣言により、議長は総会の議長としての権限を取得すると解されています。

 もちろん、この開会・議長就任宣言の以前に騒いだり、危険行為に及んだりする株主がいた場合であっても、当該株主を議場から排除できないということではなく、会社としての施設管理権に基づき、議場から退出させる等の措置を適宜講ずることができます。
 この場合、当該株主の議決権行使の機会が奪われることにはなりますが、会社として議場の安全を確保し、総会を開催する必要があり、そのような妨害行為に及んだ株主が被るべき不利益としてやむを得ないものと考えられます(この点は、退場命令の場合にも共通しますので、後記3もご参照ください)。

 また、総会の開会直前、役員が議場に入場して席に着き、議長が発言する前後(開会宣言前)のタイミングで騒ぎ出す株主がいる場合もあります。この場合、議長がシナリオを読み上げることが困難という状況にまで至らなければ、とりあえず開会・議長就任宣言まではシナリオは進めてしまって、その後、秩序維持権・退場命令権を取得した議長が、その権限に基づき、総会の手続内で当該株主を退場させるという対応にすると整理しておくことが考えられます。

議長の権限の発生時期

退場命令の方法

退場命令を発するにあたって考慮しておくべき事項

 総会への出席は、株主の質問権や議決権行使の前提となるものであり、重要な株主の権利でもあります。退場命令は、このような株主の権利を剥奪するものですから、最終手段として利用されるべきものと考えられています。すなわち、退場命令権の行使は、他のより穏当な方法では秩序の維持が図れない場合にのみ認められるべきであり、原則として、事前に警告を行うなどの措置を採る必要があると考えられています。

 手順を踏まず、いきなり退場を命じたような場合には、後日決議取消訴訟や損害賠償請求訴訟等において争われた場合、議長の権限濫用と評価される可能性も否定できません。特に、特定株主や少数株主の発言や質問権の行使を封じるための手段として議長により退場命令権が行使されたと評価された場合には、決議の方法が著しく不公正な場合に当たるとして、株主総会の決議取消原因となる可能性もあります。

警告を発すべき妨害行為の程度

 株主による妨害行為がある場合、議長として何らかの対応をすべきか否か、対応するとして、まずは警告を行うべきか、それともいきなり退場命令を発するべきかは、当該妨害行為の態様や程度等によりますし、会場の大きさ、雰囲気、影響を受けている他の株主の状況などによっても異なります。

① 無視をして議事を進行させるレベル

 例えば、株主が議長や役員等に対して軽度のヤジを飛ばしている程度であったり、単に自分の席から離れて総会会場を徘徊したり、他の株主に小声で話しかけたりする程度の行為にとどまる場合には、当該行為自体が議事を深刻に妨害しているとまでは評価できない可能性があり、まずは「無視」の対応が考えられます。
 通常のヤジ程度なら、多少は気になるかもしれませんが、警告をすることにより議事進行の流れが中断され、かえって不規則発言の呼び水となる場合もあり得ますので、一切「無視」で粛々と議事を進行させるという対応がまずは基本になるでしょう。

② 警告を発するレベル

 これに対し、妨害行為が上記の限度を超えるものである場合には、議長として、当該株主に対して適切に警告を発するべきです。実際に警告を発すべきメルクマールとしては、例えば、①他の株主への影響が生じているか、②株主が離席しているか、③議長の声が聞こえない程度に至っているか、④議長の議事整理に従わない状況か、⑤妨害行為が継続的なものかなどがあり、これらを総合的に考慮して判断することになります。
 「無視」対応は基本としつつも、株主の妨害行為を放置すると、会場の雰囲気も悪くなることがありますから、議長として臨機応変に判断する必要があります。また、議長は議事進行に集中しなければなりませんから、議場の様子を観察している事務局のサポートも必要です。

退場命令を発する手順(基本:「3回ルール」)

 実務上は、退場命令を発する前にまず議長から株主に対する警告(発言禁止・着席命令とも構成できます)を発し、それでもなお当該株主が不規則発言や離席等をやめない場合に、退場命令を発することになります。警告の回数は状況によって異なりますが、議長が当該株主に対応する場合の基本形は、①初回の警告、②これ以上続けると退場になる旨の警告、③退場命令の3度と覚えておくと良いでしょう(「3回ルール」)。以下、具体的に見ていきます。

① 初回の警告

 株主の妨害行為がある場合、議長は、初回の警告として、「株主様、議事進行の妨げになりますので、不規則発言はおやめください。静粛にお願いいたします。」「株主様、お席にお戻りください。」といった内容で、諭すように話しかけることが考えられます。
 通常の株主であれば、議長からこのような警告を受ければ、妨害行為をそれ以上継続することはありません。妨害行為の程度が深刻でない場合には、この段階の警告を何度か行うことになります。

② 2回目の警告

 警告しても、株主が妨害行為を止めない場合には、退場命令も視野に入れた警告が必要になってきます。
 例えば、「株主様、これ以上、議事進行の妨害行為を継続されますと、退場命令を出さざるを得なくなります。ただちに不規則発言はおやめください。」といったメッセージが考えられます。

③ 退場命令

 それでも株主が妨害行為を止めない場合には、実際に退場命令を発することになります。この場合、例えば、「株主様、やむを得ません。議長の命令に従わず、議事進行の妨害を継続されておられますので、退場を命じます。係員は対応をお願いします。」といったメッセージが考えられます。
 このような株主ですから、退場命令に抵抗することも考えられますが、過度に対応する必要はまったくありませんので、毅然かつ粛々と退場命令を発して、あとは会場係に委ねる、という対応が良いと思います。

退場命令を発する手順(著しい妨害行為の場合)

 株主が突然暴力行為(他の株主その他の出席者・傍聴者に対する有形力の行使や、壇上に危険物等を投げつける行為等)に及んだ場合や、拡声器等を用いて議長の声が聞こえなくなるような著しい妨害行為に及ぶ場合には、当該行為の株主総会への妨害の程度や危険性は深刻であるといえますから、即座に警告を行うことは勿論、状況によっては、無警告で退場命令を発しても問題ないでしょう。

 また、近時、議事の進行とも全く無関係に、総会の場で騒ぐことのみを目的とし、著しい妨害行為を行う特殊株主もいます。そのような株主に対しては、もともと正当な権利行使を目的として総会に出席しようとしているものでもありませんから、議事進行への妨害を最小限にとどめるため、早い段階で退場命令を発したとしても問題ないでしょう(退場命令を発しなくても、警告を受けた段階で自ら退出していく場合もあります)。

退場命令を発した後の退出のさせ方

 議長が退場命令を発したにもかかわらず、当該株主が退場命令に従わない場合、それは不退去罪(刑法130条後段)に該当し得る行為であり、また退去せずに審理を妨害する行為は業務妨害罪(同法233条)に該当しうる行為になります。もっとも、警察官が臨場していた場合でも、単に退場命令に従わずに株主が退去しないというだけで株主を逮捕することは通常ありません。

 実務的には、会社の会場係がガードマンの助力を借りて、株主を議場から退場させることになります。株主が任意の退場を拒んでいる場合には、議場内における株主総会進行に係る秩序維持のためのやむを得ない自力救済として、社会通念上相当な範囲内における程度または態様で有形力を行使することができると解されています。
 ただし、この強制は、株主を退場させるのに必要最小限度のものであるべきであり、基本的には有形力を行使することはできないと考えておくべきです。

 したがって、株主が暴力行為を行っておりこれを制止する必要がある場合や議場内の造作にしがみついて退場に抵抗したような場合は別として、株主の衣服等をつかんだり、身体を引っ張ったりするのは妥当ではなく、単に両手を広げて身体全体で株主に圧力をかけ、退出を促すのが相当と考えられています。また、1人で対応するのではなく、集団で取り囲むようにするのが良いでしょう。

退場命令の適法性に関する裁判例

 退場命令の適法性については、佐藤工業事件東京地裁平成8年10月17日判決・判タ939号227頁)があります。同事件では、議長は不規則発言を中止しないと退場を命じる旨警告したにもかかわらず、当該株主は不規則発言を中止しなかったことが認定されています(違法でないことの根拠として、株主が回答に納得せず、不規則発言を続け、しかもその言動も罵声、怒号、ヤジや悪口雑言であり、警告にもかかわらず発言を続けて議事を混乱させたことが挙げられています)。

 なお、同事件では、議長は、退場命令を発するに当たって、慎重を期すために退場命令について議場に賛否を諮ったところ賛成多数であったとされています。しかし、本来、退場命令は議長の権限によって行うことができるものですから、議場に諮る必要はないでしょう。

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