東京証券取引所「『資本コストや株価を意識した経営』に関する4年目の取組み」を公表

コーポレート・M&A

目次

  1. はじめに
  2. 取組み状況の進展
  3. 開示していない企業の実情と東証の方針
  4. PBR・ROEの改善と国際比較
  5. 企業と投資家の認識ギャップ
  6. 企業に求められる4つの対応のポイント

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.241」の「特集」の内容を元に編集したものです。


はじめに

 2023年3月に東京証券取引所(以下「東証」)が要請を行った「資本コストや株価を意識した経営」は4年目を迎えています。これを受け、東証は4月7日に「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議第27回」を開催し、「『資本コストや株価を意識した経営』に関する4年目の取組み」(以下「本資料」)を公表しました。

 本資料では、「資本コストや株価を意識した経営」に関する開示状況の大幅な進展とともに、日本企業の資本効率や市場評価の状況、企業と投資家の認識ギャップ、今後求められる実効的な取組みの方向性が示されています。
 本稿では、本資料にて示された、現在の「資本コストや株価を意識した経営」に関する取組みや、東証の今後の対応方針についてご紹介します。

取組み状況の進展

 東証要請から約3年が経過し、プライム市場、スタンダード市場上場会社の対応は大きく進展しました。2026年2月末時点で、プライム市場では93%、スタンダード市場では51%の企業が何らかの開示を実施しています。特にプライム市場では71%が初回開示後に内容をアップデートしており、本取組みが継続的な経営テーマとして浸透していることが確認できます。一方、スタンダード市場では未開示企業も依然として半数弱を占める状況です。

「資本コストや株価を意識した経営」に関する4年目の取組み 資料3ページより抜粋

(出所)本資料3ページより抜粋

開示していない企業の実情と東証の方針

 プライム市場で未開示の企業は8%と少数ですが、高収益の単一事業モデルや将来の不確実性の高さ等を背景に、あえて未開示を選択する企業もみられます。一方、スタンダード市場では約50%が未開示であり、社内リソース不足や経営層の理解不足、資本コスト算定への不安が障壁となっています。

 東証は、あえて開示をしていない企業に対しては、コーポレート・ガバナンス報告書において開示をしない理由や今後の方針について記載を促していくとしています。
 一方、リソースやノウハウ不足により開示に踏み出せていない企業に対しては、そうした企業をターゲットとしたセミナー開催や個社訪問、開示事例集の拡充等のサポート活動を推進していく方針です。

【開示していない企業の内訳(左:プライム市場、右:スタンダード市場)】

「資本コストや株価を意識した経営」に関する4年目の取組み 資料13ページ、14ページより抜粋

(出所)本資料13ページ、14ページより抜粋

PBR・ROEの改善と国際比較

 東証要請からの直近数年間で、日本企業全体のPBRおよびROEの分布は改善傾向にあります。PBR1倍割れ企業の比率はプライム市場で27%(前年比▲23pt)、スタンダード市場で49%(前年比▲15pt)まで低下し、ROE8%未満の企業もプライム市場で43%(前年比▲4pt)、スタンダード市場で60%(前年比▲3pt)まで減少しました。もっとも、国際比較では、日本企業は依然として成長期待の高い企業群が少なく、欧米と比べて評価改善の余地が大きい状況です。特に、PBR2倍以上・ROE10%未満といった「成長期待が高い企業群」が少ない点が構造的課題として示されています。

企業と投資家の認識ギャップ

 企業と投資家の間では、経営資源配分に関する課題認識についてギャップが顕在化しています。企業側では株主還元や政策保有株の見直しが比較的進んでいる認識である一方で、多くの投資家は、重視する事業ポートフォリオの見直し、経営資源配分の見直し、最適なバランスシート構築の検討について十分とは認識していません。また、自己資本や手元資金の水準について、企業は「適正水準」と捉える割合が高い一方で、投資家は「余裕のある水準」であると認識する傾向が示されています。

「資本コストや株価を意識した経営」に関する4年目の取組み 資料7ページより抜粋

(出所)本資料7ページより抜粋

企業に求められる4つの対応のポイント

 今後のより実効的な取組みの推進に向けて、東証は以下の4点を対応のポイント(案)として掲載しており、4月中を目途に公表予定としています。
 今後、中長期の投資家との実効的な対話を行うこと等、更なる取り組みの進展を目指す企業が、4つの対応のポイントを実行することで、投資家との建設的な対話による資本収益性の向上や成長への道筋の納得に伴って、投資家に短期的な投資から中長期的な投資への移行を促す効果が考えられます。

① 長期的な経営方針(目指す姿・成長の道筋)を明確に示すこと
  • 中長期目線の投資家からの支持・信頼を獲得するためのベースとして中長期的な経営方針を整理するとともに、どのような強みを生かして価値創造をするのか、経営資源の重点的な配分とそれに基づく事業ポートフォリオ、収益性や資本効率に関する定量的目標を課題認識と共に示すことが期待される。
  • その際、経営トップが自らの言葉でその考えや覚悟を継続的に発信することで、戦略・計画の達成に向けて取り組むという積極的な姿勢を投資家に伝えていくことも期待される。
② 目指す姿に向けた資本の使い方(配分や優先順位)を明確に示すこと
  • 中長期的に価値創造の源泉を強化するための成長投資を検討し、手元資金の適正水準を踏まえたうえで余剰資金を株主還元に振り向ける等、検討の優先順位を定めることが重要。
  • 投資家との対話の質を高める観点から、将来見込まれるキャッシュ・フローも含めて、資本配分(キャピタル・アロケーション)の方針を投資家へクリアに説明することが期待される。
③ 保有資産が価値創出の観点で最適化されているか点検すること
  • 過剰な現預金を抱えていないか等、保有資産が将来の価値創出に向けて最適な状態となっているか継続的に点検、改善を行うことが望まれる。
  • 人的資本や知的財産等、無形資産についても目指す姿の実現に向けて必要な資産の形成・維持・強化ができているかを検証し必要な投資を積極的に推進していくことが期待される。
  • 課題認識や改善に向けた方針について、投資家にわかりやすく示していくことも併せて期待される。
④  ①〜③を取締役会レベルで、実効的に議論・監督すること
  • 取締役会が主体となってポイント①~③を統合的に議論し、中長期的な企業価値向上の観点からの妥当性を継続的に検証するとともに、そのような議論の状況をわかりやすく開示することが望まれる。
  • 取締役会の議論・監督を実効的なものとするため、社外取締役の積極的な議論への関与や取締役会事務局の機能強化等、環境を整えることが期待される。
  • 取締役会における議論・監督の状況について、投資家に向けてわかりやすく示していくことや、そうした開示をベースとして投資家との対話をより一層深めていくことも期待される。

(出所)本資料20ページ以降を基に三菱UFJ信託銀行作成


【ご参考資料】

問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務グループ
03-6747-0307(代表)

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