2022年企業法務の展望
第2回 2022年の会社法・コーポレートガバナンスの実務はここに注目
コーポレート・M&A
シリーズ一覧全6件
2021年は、令和元年改正会社法の施行、コーポレートガバナンス・コードの改訂、バーチャルオンリー株主総会の解禁など、会社法・コーポレートガバナンスに関して、非常に重要な改正が続いた1年でした。これを踏まえ、2022年の実務はどう変わっていくのでしょうか。
この記事では、会社法・コーポレートガバナンスの実務に多数携わり、造詣の深い3人の弁護士が講演したセミナー「【WEB配信】会社法・コーポレートガバナンスの2021年重要論点総ざらいと2022年の実務展望」(2021年11月30日収録)の内容から一部抜粋し、2022年の実務展望を紹介します。
バーチャルオンリー株主総会の解禁
2021年6月に「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」が成立し、「場所の定めのない株主総会」、いわゆるバーチャルオンリー株主総会の開催を可能にする特例が同法の公布と同時に施行され、上場会社に限り、バーチャルオンリー株主総会の開催が可能となりました。
バーチャルオンリー株主総会を開催するには定款の定めが必要ですが、施行から2年間は当該定款の定めがあるものとみなすことができる(みなし定款規定)との経過措置規定があります。ただし、みなし定款規定に基づいて開催されたバーチャルオンリー株主総会では、当該定款の定めを設ける定款変更の決議はできません。また、バーチャルオンリー株主総会の開催には、経済産業大臣・法務大臣の確認を受けることも必要です。
(1)2022年株主総会での対応方針
上記を踏まえ、上場会社の2022年の株主総会(主に定時株主総会)では、バーチャルオンリー株主総会に関し、①リアルの株主総会を開催して、当該株主総会で、バーチャルオンリー株主総会の開催を可能にする定款変更決議を行うか、それとも②みなし定款規定に基づいてバーチャルオンリー株主総会を開催するか、いずれにて対応するのがよいでしょうか。
川井弁護士は、「コロナの状況が極めて悪化している状況でない限り、定款変更を済ませていない会社は、みなし定款規定による開催ではなく、定款変更をすることが適切と思う」と話します。倉橋弁護士も、「定款変更を行ったうえでバーチャルオンリー株主総会を開催するのが基本的な対応になるのではないか」との見解でした。
塚本弁護士は、バーチャルオンリー株主総会を開催する会社はごく少数になるのでは、と予想しています。そのうえで、「株主総会資料の電子提供制度の施行準備としての定款変更(3で後述)に併せて、バーチャルオンリー株主総会を可能とするための定款変更だけはしておく会社は一定数あると見込まれる」と話しました。
(2)バーチャルオンリー株主総会を開催できる場合に限定はあるのか、それとも無限定でよいか
次に、バーチャルオンリー株主総会は、いかなる場合にも開催できるのでしょうか。たとえば、支配権争いがある場合や、総会本番における投票で議案の採否が決せられる場合も、バーチャルオンリー株主総会を開催することができるのでしょうか。
川井弁護士は、「災害やコロナなどの場合、また株主と会社との間で対立があり(支配権争いの場合を含む)、採決の際に投票が必要な場合の2つの場合には、リアル総会で行うべきではないか」と話します。
一方で倉橋弁護士は、バーチャルオンリー株主総会の意義を積極的に評価しており、選択肢を幅広く確保していくという観点では、開催要件は無限定でよいとの考えです。「プラットフォームが安定化しつつあるので、議決権行使の観点から、有事対応での投票も信頼できる。平時はバーチャルオンリー株主総会としつつ、株主との質疑が重要となるような有事の場合にハイブリッド参加・出席型に切り替えてもよいであろうし、バーチャルオンリー株主総会のままとしつつ、客観性・透明性を確保するための工夫で対処するということも可能で、各社各様であってよい」。
塚本弁護士は、「平時の株主総会でもテキストメッセージでの発言しか認めないというのは、もちろん適法ではあるものの、突き詰めると、そこまでして株主総会を開催することにどれだけの意味があるのかという問題も出てくる」と疑問を投げかけます。「事前の議決権行使で過半数の賛成を得るなど、可決が明らかであることが判明している場合は、株主総会自体を開催しなくてもいいといった改正も考えられよう」。
このほか、バーチャルオンリー株主総会については、「現状は別として、議決権行使助言会社や機関投資家の今後の意向によっては、将来、一気に普及する可能性もある」(川井弁護士)、「コロナ後もハイブリッド『参加型』は増えそう。また、株主総会の “見える化” が進むのでは」(塚本弁護士)というコメントがあり、今後の動向に要注目です。倉橋弁護士の「バーチャルオンリー株主総会では、会場費だけでなく、その他さまざまな対応に伴うコストの縮減も可能ではないか」という指摘も興味深いところです。
2021年改訂コーポレートガバナンス・コードへの実務対応とプライム対応
2021年6月、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)は2018年に続いて2度目の改訂が行われ、「投資家と企業の対話ガイドライン」も初めて改訂されました。CGコードの全原則が適用される上場会社においては、2021年12月末日が提出期限であったガバナンス報告書の更新に取り組んだものと思います。
2022年4月4日の新市場区分の移行時からは、プライム市場の上場会社のみを対象とする内容も適用となります。プライム市場を選択した上場会社は、同日以降、最初に到来する定時株主総会後に遅滞なく提出するガバナンス報告書において、当該内容を反映した更新を行えばよいこととされています。
以下では、2022年の実務において対応を継続すべき論点を紹介していきます。
(1)取締役会の機能強化
① スキル・マトリックス
2021年の改訂でスキル・マトリックスという言葉がCGコードに入りました(補充原則4−11①)。2021年の上場会社の定時株主総会における取締役選任議案に関して、株主総会参考書類においてスキル・マトリックスを使用している企業も多く見られています。
このような状況について、塚本弁護士は、単なる星取表に終始することは改訂の趣旨に必ずしも適うものではないという考えを述べました。また、倉橋弁護士も、「星取表の開示自体よりも、経営環境・経営課題→経営戦略→取締役会の職責→取締役会の最適な構成→現状説明という、ストーリーでの打ち出し方が重要」と語り、記述式でのスキル・マトリックスも考えられると言います。
川井弁護士も同様の意見で、「例示とはいえCGコードに明記された以上、スキル・マトリックスが普及することになるとは思うが、各項目に誰か1人は必ず〇がつくように項目のタイトルを設定する、ということに必ずしもこだわらない表の作り方もあり得るのではないか」と話しました。
② 監査等委員会設置会社への移行、社外取締役の割合の増加と監査役制度との併存
改訂CGコードにコンプライするためには社外取締役の人数をさらに増やす必要のある会社が多くなるため、社外取締役の人数を確保するために、監査等委員会設置会社に移行する会社が増えることも考えられます。また、取締役会で社外取締役の占める割合が増加すると、監査役制度との併存をどう考えるかという問題が今後生じる可能性があります。
塚本弁護士は、「社外取締役と社外監査役は、法的には役割の違いがもちろんあるが、いずれも社外者であるという点では、実務上あまり差が意識されていない側面もある。今後、過半数を社外取締役とする会社が一般的となった場合に、それでもなお(社外)監査役が必要なのかという議論が生じ得る」と指摘します。また、倉橋弁護士は、「社外役員の重複が多くなっている現状を踏まえると、委員会型の機関形態への移行は今後も増えるのではないか」という展望を述べました。
③ ダブル・レポーティング・ライン
改訂CGコード補充原則4−13③の「上場会社は、取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がこれらに対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築すること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである」という記述については、直接報告を行う仕組み、さらには、いわゆるダブル・レポーティング・ラインを構築しないとコンプライとはならないのか、という疑問が生じ得ます。
これについて塚本弁護士は、「“等” とあるとおり、例示であり必須ではないと考える。実務的には、内部監査体制の充実のほうが、優先度が高いのではないか」と話します。倉橋弁護士は「経営体制に機能不全が生じた場合に “横” の牽制として機能するよう、内部監査部門が直接、取締役会や監査役会に報告することができる権限・職制を設定しておくことがポイントとなる」と指摘しました。
(2)サステナビリティの強調
改訂CGコードでは、①サステナビリティの具体的内容が、SDGsの重要性を反映した形で例示として明示され(補充原則2−3①)、②サステナビリティを巡る課題への対処がリスク管理の問題だけではなく収益機会にもつながる経営課題であることが示され(補充原則2−3①)、③経営戦略の開示にあたって、サステナビリティについての取組みを適切に開示すべきとされました(補充原則3−1③)。
また、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスクおよび収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、「国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである」とされました。
倉橋弁護士はサステナビリティについて、事業機会とリスクの観点で企業活動に直結する重要な論点だと指摘したうえで、「戦略、経営課題への対処、リスクマネジメントなどの観点から実質的な議論を行い、全社対応と開示を進めていくことが実務上重要である」という考えを述べました。
また、サステナビリティ委員会の設計については、倉橋弁護士は、執行の会議体とする実務が主流になりつつあると話し、川井弁護士と塚本弁護士も同様の見解でした。「執行に対する監督の一環として、執行側のサステナビリティへの取組みを監督するため、サステナビリティ委員会における議論の状況を取締役会に定期的に報告し、社外取締役の監督を受け、アドバイスも受けるという仕組みがいいのではないか」(塚本弁護士)。
(3)監査役の候補者・報酬の決定プロセスの実務
改訂CGコード原則4−4においては、監査役および監査役会の役割・責務として、「監査役」の選解任に関する権限の行使の役割・責務を果たすこと、が新たに明記されました。
この点について塚本弁護士は、実務対応は特に変えないままコンプライとしてガバナンス報告書を更新した会社が多かったのではないかと予想しています。そのうえで、「これまで監査役については、候補者の指名や報酬決定に関する客観性・独立性があまりフォーカスされてこなかったが、今後はその点についての議論が高まる可能性もある」と指摘しました。
令和元年改正会社法の実務対応
(1)株主総会資料の電子提供制度
令和元年改正会社法のうち、取締役の報酬等に関する改正、会社補償・D&O保険に関する規制の新設、社外取締役を1名置くことの義務付け、株主提案権に関する改正、株式交付などについては、2021年に施行済みです。
他方、2022年9月1日から、株主総会資料の電子提供制度に関する改正が施行されますが、2022年の定時株主総会において、上場会社は本制度についてどう対応すればよいでしょうか。
塚本弁護士は、「株主から会社法325条の5第1項に基づく書面交付請求があった場合に、交付する書面に記載すべき事項を一部省略するためには定款変更が必要なので、2022年3月以降の株主総会で定款変更議案を出すのが一般的となる」と述べます。さらに、「定款変更議案では、書面交付請求に関する定めの設定だけでなく、ウェブ開示に関する規定の削除や、電子提供措置をとる旨の定めの設定も併せて行うことになる」と指摘しました。2022年3月以降に定時株主総会を開催する上場会社は、本制度に関する定款変更を決議することが必要となりそうです。
(2)取締役等の報酬等に関する改正の影響
次に、2021年に施行済みの改正について見ていきます。
個人別の報酬等の内容の決定方針の決定や開示の義務化のうち、個人別の報酬等の内容の決定方針の決定については、各社は粛々と対応している印象です。他方、機関投資家の間では不評な実務慣行とされる個別報酬の決定の代表取締役再一任については、その有無が事業報告で開示されることとなりました。
塚本弁護士は、「代表取締役への再一任をとりやめ、取締役会自身で決議する、または任意の報酬委員会に再一任することとした会社も現れている。機関投資家の中には、代表取締役へ再一任をしている場合、代表取締役の選任議案に反対することとしている会社もある」と実務の現状を分析します。倉橋弁護士も「個別報酬決定の代表取締役再一任は減少傾向が加速するであろう」と予想し、「取締役会ですべてオープンにしてもいいし、執行サイドでオープン化することが難しい事情があれば、委員会への再一任がよいと思う」と述べました。
また、個別報酬の決定方針と報酬実績との適合性確認の実務対応については、「報酬ごとの割合について、数値基準のようなものがあまり定められていないこと等もあり、これもあまり実質的な議論がしづらい状況にあるのではないか」(塚本弁護士)と指摘されました。倉橋弁護士は、「方向性として望ましいのは、報酬実績を取締役会ですべてオープンにする、または、少なくとも委員会ではオープンにするという実務。事業報告開示も骨太の記載内容に改めていったほうがよいのではないか」と語っています。
このような改正会社法による規律の見直しによって報酬ガバナンスの高度化は促進されるでしょうか。
この点について塚本弁護士は、「現状としては、取締役会の決議義務を履行することに焦点が当たってしまっている印象。今後、開示を踏まえた投資家との対話による精緻化・高度化が期待される」と述べます。倉橋弁護士からは、「株式報酬に関し、クローバックや支給条件の精緻化などを進めるにあたっては参考書類の記載事項の精緻化も必要となる。会社法施行規則記載事項との関係で漏れがないようにすべき」という注意喚起がありました。
(3)会社補償・D&O保険
令和元年会社法改正により、会社補償(補償契約)の制度が会社法に新設され、会社補償が認められる範囲や、会社補償を締結する際の手続面でのルールが明文化されました。この結果、いわゆる防御費用(典型的には弁護士報酬)や、損害賠償金・和解金について、会社が役員等に対して補償をすることが認められ、また、補償契約の内容については、取締役会設置会社の場合には取締役会の決議が必要であると定められました。
補償契約の導入動向については、補償契約における補償はD&O保険でも一定程度はカバーできるため、まだ上場会社での導入はさほど進んでいるわけではないが、今後は徐々に導入が進んでいくのではないか、という意見では3弁護士とも一致しました。塚本弁護士は、たとえば、株主代表訴訟が懸念される会社が導入を進めることも考えられる、と述べます。その背景として、D&O保険と補完し合う一種の保険としての意義を指摘しました。
(4)社外取締役の「果たすことが期待される役割」の開示義務化
令和元年会社法改正に伴う会社法施行規則の改正により、社外取締役が果たすことが期待される役割の概要を株主総会参考書類で開示すること、および当該役割に関して行った職務の概要を事業報告で開示すること(後者は公開会社の場合に限る)が義務化されました。
川井弁護士はこの改正への対応について、「実務上は、参考書類での開示内容はひな型的記載となってしまっている。“役割” を会社が定めることの意義はあると思うが、参考書類や事業報告に開示させることに果たしてどの程度の意味があるのか」と疑問を呈します。塚本弁護士も、「参考書類における “期待される役割” の開示とセットとなる、事業報告上の “期待される役割に関して行った職務” の開示について、改正の前後で記載内容が変わったという印象はない。どこまで意味のあるものとできるかは、報酬に関する開示の充実化と同様に、各社の取り組み次第ではないか」という見解を述べました。
実務担当者においては、2022年も、CGコードが要請するガバナンスの高度化への対応に引き続き取り組むことが求められます。BUSINESS LAWYERSでは今年も実務に役立つ記事をお届けしていきますので、ご期待ください。
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