CGコードにおけるESG要素の意義とESG情報開示等の実務対応

第1回 【2021年改訂】ESGに関するコーポレートガバナンス・コードの原則と実務対応

コーポレート・M&A 公開 更新
澤井 俊之弁護士 大江橋法律事務所

目次

  1. はじめに
  2. CGコードによるESG課題の積極的・能動的な取組みへの要請
  3. ESGに関する個々の原則と実務対応
    1. 取締役会によるサステナビリティ課題への対応
    2. ガバナンス体制
    3. 行為準則・経営計画等への反映、取組方針の策定
    4. 情報開示

はじめに

 我が国のコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」という)は、「コーポレートガバナンス」を「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と定義しており、昨今の世界的な流行語となっているステークホルダー資本主義 1 の要素を先取りしたものとなっています。

 このような、企業を巡る主なステークホルダー全体の利益に配意し、社会的価値の創造を重視する考え方は、機関投資家が個々の投資先企業のESG 2 要素(ESGに関する課題を含む)を踏まえて投資判断を行うESG投資と親和性が高く、CGコードにESGへの対応が具体的に盛り込まれることは時間の問題でした。2021年6月11日に公表されたCGコードの再改訂版 3 は、ESGをはじめとするサステナビリティに関する内容を大幅に補充するものとなっています。

 本稿では、前後半に分け、前半では、CGコードにおけるESG要素の意義を押さえたうえで(2)、ESGに関する諸原則の内容の確認と実務対応の検討を行うこととし(3)、後半において、最も重要なトピックの1つとしてESGに関する情報開示への対応について説明を行うこととします(後半の1~4)。

CGコードによるESG課題の積極的・能動的な取組みへの要請

 近年、気候変動問題を中心にESGが企業の持続可能性に重大な影響を及ぼす要素であると一般に認知され、また、いわゆるZ世代と呼ばれる若年層の台頭による消費者意識の変化 4 も相まって、企業自身、自らの市場競争力を維持・拡大するためにはESG要素を無視することができなくなっています。

 そのため、企業経営において、ESGをはじめとしたサステナビリティを巡る課題を、リスクとしてのみならず収益機会(ESG課題を解決するための技術等の開発・普及等)としても捉える視点が不可欠となりつつあります。

 このような意識の変化を受け、CGコード基本原則 2の「考え方」において、「我が国企業においては、サステナビリティ課題への積極的・能動的な対応を一層進めていくことが重要である」と明記されました。企業に対し、サステナビリティ課題への対応を、機関投資家からの要請と捉えるのではなく、当事者意識をもって主体的に進めるべきアジェンダとして位置付けることを推奨するものです

 CGコードでは、様々な箇所でサステナビリティ経営を後押しし、投資家との対話を促進するための考え方が示されています。次に、関連する個々の原則と実務対応を確認していきます。

ESGに関する個々の原則と実務対応

取締役会によるサステナビリティ課題への対応

 CGコードの改訂案では、基本原則 2「考え方」において、サステナビリティに、「ESG要素を含む中長期的な持続可能性」という説明が加えられました。
 スチュワードシップ・コードにおいて、機関投資家が「スチュワードシップ責任」として建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)を行うに際して考慮することが求められる(運用戦略に応じた)「サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)」と同趣旨です。
 今回のCGコード改訂により、サステナビリティという共通の概念について、投資家と企業との間で建設的な対話が促進されることが期待されています

 従来から、CGコードでは、原則2–3において「上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題について、適切な対応を行うべきである」と記載されていましたが、補充原則2–3①はこれを一歩進め、下記の内容へと改められました。

取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。

 ここでは、主体として取締役会にフォーカスを当てただけでなく、サステナビリティを巡る課題のうち、従来から注目されていた環境問題(E)のみならず、社会問題(S)として、「人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引」が例示されたことが注目されます。コロナ禍を経験し、サプライチェーンを含めて従業員等の役割や安全、人権に配慮することや、生産性の向上等に向けた人的資本に投資することは、企業自体の存続に欠かせない視点になっています。

 取締役会は、ESG課題への積極的・能動的な取組みへのリーダーシップの発揮が求められています。具体的には、長期的な視点で、少なくともこれらの着眼点について、自社の経営戦略やビジネスモデルに即して、リスク・収益機会のそれぞれに分けて特定や重要性(マテリアリティ)の評価を行い、リスクの適切な管理や収益機会の実現に向けた取組みをモニタリングすることが求められていると考えられます

ガバナンス体制

(1)取締役会における実効的な多様性の確保

 取締役会が上記の評価・モニタリングを適確に行うためには、社会問題や環境問題に対する多様な視点を持ち、経営環境の変化に柔軟に対応できる体制を構築することが重要となります。

 そこで、CGコードの改訂案では、取締役会の構成について、ジェンダーや国際性に加え、職歴、年齢の要素も追加され、一層の多様性が求められています(原則4–11)5。また、多様性を意義のあるものにするために、取締役会は、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定することが必要であり、「各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせを取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである」とされています(補充原則4–11①)。

 現状では、まだ浸透しているとは言い難いものの 6、実務的には、役員選任議案にかかる株主総会参考書類において、自社の経営戦略や取締役会の実効性評価の結果に照らして、取締役会が全体として備えるべき知識・経験・能力を特定するなど取締役会の構成の考え方を記載したうえで、各取締役候補者を縦軸に、期待するスキルや分野を横軸とした表形式にして開示することが考えられます 7。実際、取締役会が備えるべきスキルとして、「環境・サステナビリティ」「人材マネジメント」などESG要素に着目したものを掲げる例も出てきています(図表1)。

 なお、これらの取組みをサポートすることを見据え、CGコードの改訂案では、指名委員会・報酬委員会の設置等に関する補充原則4−10①において、「ジェンダー等の多様性やスキルの観点を含め」、これらの委員会の適切な関与・助言を得るべきである旨が追加されている点にも留意が必要です。

図表1「キリンホールディングス株式会社 第182回定時株主総会招集ご通知」(2021年3月3日)11頁より引用

図表1「キリンホールディングス株式会社 第182回定時株主総会招集ご通知」(2021年3月3日)11頁より引用

(2)取締役会による監督と執行に関する体制整備

 ESG課題については、各企業の事情に応じて優先して対応すべきものが異なり、概念も不明確です。そのため、各企業においては、ESG課題の洗出しや重要性(マテリアリティ)の評価を行うことが求められており、これらの作業にあたっては、経営陣がその裁量を適切に行使するように規律付ける必要性が高いといえます。規律付けの仕組みとして、サステナビリティに関する基本方針(後述3–3)を策定し、これに依拠することや、独立社外取締役による監督を強化することが考えられます 8。たとえば、取締役会の諮問機関として独立社外取締役をメンバーとするサステナビリティ委員会の設置などの枠組みを整備することも考えられます。
 サステナビリティ委員会の位置付けについては、投資家と企業の対話ガイドライン(以下「対話ガイドライン」という)1–3で「取締役会の下または経営陣の側に」と記載されているように、取締役会の諮問機関等とする方法と業務執行の一部門とする方法が考えられます 9
 いずれに位置付けるかは自社のコーポレートガバナンスに関する考え方やESG課題の捉え方などにより変わり得るものですが、CSR委員会などの既存の業務執行サイドの委員会を改組するなど 10 経営陣の側に位置付ける場合も、取締役会への報告等を通じて監督の対象とすることが重要といえます。
 委員会の構成については、投資家やNGO等のグローバルな最新動向や専門的な知見を得るために外部有識者をメンバーにしたりするなどの工夫をしている例もあります 11

 また、ESG課題への取組みは、全社横断的な対応が必要です。最初に中心となるのはCSR等の部署になると思いますが、将来を見据えて事業の持続可能性を議論する以上は、早い段階で事業部・IR部を巻き込み、経理・財務部や経営企画部のバックアップを受けられるチーム編成が必要となります。

 法務・コンプライアンス部署としては、ESGへの対応がコンプライアンスに含まれることを明確にしたうえで 12、実効的なコンプライアンスプログラム等規程類の整備(後述3–3)や社内調査等における法的知見の提供はもちろんこと、社内の利害関係の調整への対応も期待されます。具体的な取組みを継続的・組織的に行うにあたっては、既存の内部統制システムに組み込んでいくことが効率的といえます。

(3)役員報酬制度へのESG指標の組込み

 我が国でも、ESG課題への取組みを推進・監督するために、役員報酬評価にESG指標を取り込む動きが芽生えつつあります 13。報酬制度については、「持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、客観性・透明性ある手続」に従うことが求められています(補充原則4–2①)。報酬制度の策定においては、外部評価機関の指標を活用する方法や、自社で評価指標を設定する方法があります。いずれを採用するにせよ、KPIをはじめとする適切な指標と目標を設定するに当たっては、恣意性を排除するために、取締役会において、サステナビリティに関する基本方針に沿ってESG課題の重要性の評価を行うことが前提になります。

(4)幅広いステークホルダーのための苦情処理制度の整備

 ESGの観点からは、内部通報に関する原則(原則2–5、補充原則2–5①)も重要です。すなわち、ビジネスと人権を含めたESGの分野を幅広く対象とし、従業員のみならず、ステークホルダーからの苦情を受け付け、これを適切に処理するグリーバンス・メカニズムを設置・運用することが期待されています 14
 中立的な立場の専門家の援助を組み込んだ適切な通報制度を構築することができれば、ステークホルダーとの紛争が生じた場合にも、公平・早期に沈静化することが期待でき、SNSや報道を通じた社会的評価の毀損を防止することも可能となります 15。このようなメカニズムも、原則2–5にいう「内部通報に係る適切な体制整備」に位置付け、CGコードの下で運用すること(また、利用を促進すべく積極的に情報発信すること)が考えられます。

行為準則・経営計画等への反映、取組方針の策定

 取締役会が3–1で述べた評価・モニタリングを一貫した立場で行うためには、経営理念(原則2–1)や行動準則(原則2−2)に、サステナビリティの要素が組み込まれていることが重要です。具体的には、自社の企業理念や企業行動憲章、行動規範等に、環境保全や人権保護、社会貢献等の要素が記載されているか否かを見直すことが考えられます。人権保護を重視するのであれば、いわゆる人権デュー・ディリジェンス 16 に関する手続規程を設けることも考えられます。

 また、取締役会は、「中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべき」とされ、また、人的資本(これは社会問題(S)に関係すると整理できます)・知的財産等の無形資産に対する投資等の経営資源の配分が、企業の持続的な成長に資するように実効的な監督を行うべきであるとされています(補充原則4–2②)。

 すでに多くの企業において、サステナビリティ基本方針や人権方針等の形で体系化されていますが、CGコードの改訂を機に、投資家との対話を円滑に進めるためにも、改訂された補充原則2–3①の内容(前述(1))に沿って見直しまたは改定を行うことが重要です。無形資産に対する経営資源の配分についても、企業が持続可能であるために十分といえる水準か否かは常に検討される必要があります。

 さらに、取締役会は、具体的な経営計画や経営戦略(原則4–1)においても、「ESGやSDGsに対する社会的要請・関心の高まりやデジタルトランスフォーメーションの進展、サイバーセキュリティ対応の必要性、サプライチェーン全体での公正・適正な取引の必要性等の事業を取り巻く環境の変化」が適切に反映されているかについて、建設的な議論を行うことが期待されています(対話ガイドライン1−3)。

情報開示

 ESG要素は、リスクまたは収益機会として、中長期的な企業価値に影響を与える要素です。企業が市場で正当な評価を受けて資金を獲得するためには、投資家に対する適切な情報提供が重要です。CGコードでは、従来から、取締役会に対し、開示される情報が株主との建設的な対話を行ううえでの基盤となることも踏まえ、とりわけESG要素を含む非財務情報が、正確で利用者にとってわかりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきとされていました(基本原則3)。
 今般の改訂では、サステナビリティに関する情報開示に個別に焦点を当て、3–3で述べた補充原則4–2②に対応するものとして補充原則3–1③が追加されました。この実務対応については、後半で改めて検討します。


  1. 企業が全てのステークホルダーひいては社会全体の利益に配慮して長期的な価値創造を目指す資本主義の一形態をいい、2019年8月、アメリカの大手企業で構成される非営利団体「ビジネス・ラウンドテーブル」による声明がきっかけとなり、2020年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でも主題に据えられた。 ↩︎

  2. ESG=Environment, Social, Governanceの頭文字を取った言葉。 ↩︎

  3. この改訂に従ったコーポレートガバナンス報告書の提出については、遅くとも同年12月までに行うことが望まれるとされている。プライム市場上場会社のみに適用される原則等に関しては、2022年4月以降に開催される各社の株主総会の終了後速やかにこれらの原則等に関する事項について記載した同報告書を提出するよう求めることが考えられる(2021年4月6日付「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」(金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下「フォローアップ会議」という。))7頁)。 ↩︎

  4. フォローアップ会議「第24回事務局参考資料(ESG要素を含む中長期的な持続可能性(サステナビリティ)について)」18頁によると、半数以上の若者が、環境問題や社会問題に取り組む企業の商品には、普通よりも高い値段を支払ってもよいと考えており、投資への意欲がある若者のうち、環境問題や社会課題に取り組んでいる企業への投資の意欲を持つ若者は全体の約7割とされている。 ↩︎

  5. 組織の多様性に関しては、追加された補充原則2-4①において、「上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである」とされ、開示対象が拡大している点にも留意が必要である。 ↩︎

  6. 2021年2月の調査では、東証一部上場で売上高5,000億円以上の296社のうちでもスキル・マトリックスを公表している企業は25%以下に留まるとの調査結果がある(日本経済新聞 電子版(2021年4月26日「『専門性、社外取締役に依存?「スキルマトリックス」公開 4社に1社どまり』」))。 ↩︎

  7. 芳川雅史「【2021年株主総会の実務対応(2)】役員選任議案に係る実務上の留意点─法務省令の改正点を中心に─」(旬刊商事法務 2254号31頁~32頁)。 ↩︎

  8. フォローアップ会議第24回[神作メンバー発言] ↩︎

  9. フォローアップ会議第24回[武井メンバー発言] ↩︎

  10. フォローアップ会議第24回金融庁「第24回事務局参考資料(ESG要素を含む中長期的な持続可能性(サステナビリティ)について)」9頁によると、JPX400の企業のうち、サステナビリティに関する委員会を設けている企業は55社であり、取締役会の直下に置かれているものは8社に留まる。 ↩︎

  11. 株式会社リクルートホールディングスのサステナビリティ委員会(同社の有価証券報告書および「Recruit Group Profile: Inside Out 2020」参照)など ↩︎

  12. 日本取引所自主規制法人「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」原則1は、コンプライアンスの状況の把握にあたり、「明文の法令・ルールの遵守にとどまらず、取引先・顧客・従業員などステークホルダーへの誠実な対応や、広く社会規範を踏まえた業務運営の在り方にも着眼する」ことを求めている。 ↩︎

  13. 一例として、積水ハウス株式会社の有価証券報告書(2021年1月期)参照 ↩︎

  14. 日本政府の「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」でも、「政府から企業への期待表明」として「日本企業が効果的な苦情処理の仕組みを通じて、問題解決を図ること」と記載されています。実務的な取組みとして、「責任ある企業行動及びサプライ・チェーン研究会」の「責任ある企業行動及びサプライ・チェーン推進のための対話救済ガイドライン」参照 ↩︎

  15. 蔵元左近「企業・ステークホルダー間の相互理解と対話を促進 『問題解決メカニズム』設置・運用時の重要ポイント」(ビジネス法務2021年5月号101頁) ↩︎

  16. 責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」では、デュー・ディリジェンスを、「自らの事業、サプライチェーンおよびその他のビジネス上の関係における、実際のおよび潜在的な負の影響を企業が特定し、防止し軽減するとともに、これら負の影響へどのように対処するかについて説明責任を果たすために企業が実施すべきプロセス」と定義している。 ↩︎

この特集を見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する