法務初心者のための契約書作成・レビューのポイント

第6回 取引基本契約のレビュー 製造物責任条項のポイント

取引・契約・債権回収

目次

  1. 製造物責任の基礎的事項
  2. 製造物責任に関する条項の意義
  3. 修正のポイント
    1. 買主の視点からの修正
    2. 売主の視点からの修正
    3. 修正・交渉方針の一例

 売買取引における製造物責任について、当事者間での分担を、取引基本契約においてどのように規定すべきでしょうか。この記事では、製造物責任の基本と、製造物責任条項の修正の仕方について、買主・売主それぞれの視点からわかりやすく解説します。
 取引基本契約の全体像、概要についてはこちらの記事で解説しています。

想定事例

部品・半製品メーカーのA社(非上場・資本金5億円)と、完成品メーカーのB社(上場)は、これまで注文書と注文請書で少量の売買取引をしていました。しかしこの度、取引量が増えることが予想されたため、取引基本契約を締結することになりました。
A社は多数の種類の部品〔・半製品〕を取り扱っており、かつ、部品〔・半製品〕の品質・精度について定評があります。B社はA社の扱っている部品〔・半製品〕を定期的に購入して、トレーニング(健康)器具の製造に用いて、量販店等に販売をすることを予定しています。
B社に新卒入社して法務部に配属されたCさんは、上司から、この取引基本契約の作成を依頼されました。

製造物責任の基礎的事項

 製造物責任とは、製造物 1 の「欠陥」が原因で生命、身体または財産に損害を被った場合に、被害者が「製造業者等」に対して損害賠償を求めることができる制度です。不法行為責任(簡単にいうと、故意または過失により誰かに損害を与えた場合にその損害を賠償する責任)に基づく損害賠償請求の場合、通常は、加害者の故意・過失を立証しなければならないところ、製造物責任の追及の際は、故意・過失の立証を要せず、製造物の「欠陥」を立証することで足ります

 「欠陥」とは、製造物に関するさまざまな事情を総合的に考慮して、「製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいいます(製造物責任法2条2項)。安全性に関わらないような単なる品質上の不具合は、この法律の損害賠償責任の根拠とされる「欠陥」には当たりません 2

 製造物責任の主体は、「製造業者等」(同2条3項)に限定されています。「製造業者等」には、製造物を業として製造、加工または輸入した者(同2条3項1号)に加え、自ら製造業者として製造物にその氏名等の表示をした者または製造物にその製造業者と誤認させるような表示をした者(同項2号)、実質的な製造業者と認めることができる表示をした者(同項3号)を含みます。ですので、売主が、製造業者ではなく販売業者の場合でも、たとえば、輸入業者または製品に製造者として表示された者の場合は、製造物責任法の適用を受けます

 製造物責任法の対象となる損害は、欠陥に起因して生じた、他人の生命、身体または財産の侵害による損害です 3。製造物責任は、買主のみならず、契約関係にない(欠陥に起因して身体や財産を侵害された)第三者から直接請求されるものでもあるので、当該第三者から直接請求を受け、かつ、上記の製造物責任の要件を満たす売主は、売主・買主間の契約内容に関係なく、当該第三者に対して一次的に賠償をする必要があります

製造物責任に関する条項の意義

 取引基本契約における製造物責任に関する条項では、上記の製造物責任法の基本的内容を踏まえつつ、当事者間において、責任を分担するための規律を記載します

条項例1
第◯条(製造物責任等)
売主は、本製品の欠陥(本製品の特性、通常予見される使用形態、本製品を納入した時期その他の本製品に係る事情を考慮して、本製品が通常有すべき安全性を欠いていることをいう)により、買主または第三者の生命、身体もしくは財産に損害が生じた場合は、故意、過失の有無を問わず、一切の損害(買主が第三者に支払った賠償額、顧客対応のため負担した費用、買主による本製品の回収費用、弁護士費用等を含むがこれらに限られない。)を賠償するものとする。

 次に述べるように、必ずしも法律上の製造物責任に限定されない範囲の責任について定めることがありますし、欠陥が生じた原因等を考慮しつつどのように責任を分担するかの規律を検討することもあり、そのバリエーションはさまざまです。

修正のポイント

買主の視点からの修正

 買主に有利に修正する場合の検討項目の例として次のものが考えられます。

  • 売主が、製造物責任法2条3項に定める製造業者等に該当しない場合(責任主体の要件を必ずしも満たさない販売業者等であった場合)にも、製品の欠陥に起因する損害について対応を求められるようにする。
  • 製造物の欠陥に起因して生じた損害について、広く売主に請求できるように、売主が負う損害の種類・範囲を広く定めておくようにする(例:買主が支払った賠償額、顧客対応のため負担した費用、製品の回収費用、弁護士費用等)。
  • 上記について金額の上限を設けないようにする。
  • 製造物責任の問題が生じた場合をカバーする保険に売主が加入することを義務付けるようにする。
  • 製造物責任に関して第三者から請求や訴訟を提起された場合に、売主から必要な資料やその他のサポートの提供を受けられるようにしておく。
  • さらに上記を進めて、欠陥に起因する第三者からの請求に関して、売主が自己の責任と費用で解決する旨、また、買主は責任を負わず、買主に生じた損害や費用は売主が補償する旨を定める。

売主の視点からの修正

 売主に有利に修正する場合の検討項目の例として次のものが考えられます。

  • 売主が責任を負う場合を、売主が製造物責任法2条3項に定める製造業者等に該当する場合のみに限定する。
  • 欠陥が、買主の責めに帰すべき事由や故意・過失によって生じている場合、買主の仕様書や指示に基づく場合、買主側(または第三者)の使用・保管の問題に起因している場合、製品の引渡し後に新たに生じたものである場合、引渡し時点での技術水準では発見できないものである場合等において、売主は責任を負わないとする等の定めを設ける。
  • その他両当事者の帰責性を考慮して責任を分配する旨の定めを設ける。
  • 買主に対する賠償対象となる損害の種類・範囲を限定する。賠償責任を負う金額の上限を設ける。
  • 製造物責任の問題が生じた場合をカバーする保険に買主が加入することを義務付けるようにする。
  • 製造物責任に関して第三者から請求や訴訟を提起された場合に、買主から必要な資料やその他のサポートの提供を受けられるようにしておく。
  • さらに上記を進めて、欠陥に起因する第三者からの請求に関して、売主ではなく買主が自己の責任と費用で解決する旨、また、売主は責任を負わず、売主に生じた損害や費用は買主が補償する旨を定める 4

修正・交渉方針の一例

 契約当事者は、上記の検討項目のうち、事案の性質や相手方との関係性等も考慮しつつ、リスク管理の観点から重要だと思われるものを選択し、修正案に入れていきます。
 ただ、相手方に対して自らの検討項目(要求事項)を一方的にすべて受け入れてもらうような交渉は、ハードルが高いことがそれなりにあると思われます。

 そこで、あくまで一例ですが、冒頭の想定事例で考えうる修正・交渉を検討してみます。
 まず、売主(A社)は、製品の製造者自体であるので、買主(B社)は、製造物責任法2条3項に定める製造業者等でない場合にも対応を求められるようにすることを優先しなくてもよさそうです。

 一方、健康器具に関する取引であることを考慮して、本製品を用いた健康器具に欠陥があることで、当該器具の利用者が怪我を負うリスクが考えられますし、買主が弁護士へ相談しながら利用者(顧客)に対応することや、場合によっては、利用者(顧客)からの製品回収を行うことも検討する場面があるかもしれません。そこで、売主に対応してもらう損害の種類や範囲を、広く(かつ金額上限を設けないように)しておきたいです。

 ただし、製品の設計・仕様に関する買主側からの指示に起因して欠陥が生じている場合や、買主側が、禁止されている態様で製品を使用することで問題が生じた場合、その他買主側の帰責性がある場合は、その内容や程度に応じて、買主・売主間での責任分担には応じるといった条項とすることはありうると思われます 5

 また、製造物責任に関して第三者から請求や訴訟を提起された場合に、お互いに、必要な資料やその他のサポートの提供を受けられるようにしておくことは必要なので、かかる点についても売主・買主双方のために定めを置いておくことが考えられます。

 今回の記事では、取引基本契約の製造物責任に関する条項について、製造物責任法の内容を踏まえつつも、同法における製造物責任に限定されない範囲の責任について定めることがありうることや、欠陥の原因に応じた責任分担を検討して交渉する必要があること等を説明しました。

 次回は、知的財産権に関する条項等について解説する予定です。


  1. 「製造又は加工された動産」(製造物責任法2条1項)を指します。具体的には、人為的な操作や処理が加えられ、引き渡された動産が対象です
    (消費者庁ウェブサイト「製造物責任法の概要Q&A」Q3)。 ↩︎

  2. 消費者庁ウェブサイト「製造物責任法の概要Q&A」Q7 ↩︎

  3. したがって、欠陥のある製品そのものについての損害は対象とされていません。 ↩︎

  4. 既に述べたように、売主が責任を負わないとする規定(免責特約)の効力は、契約当事者である売主・買主間に及ぶだけ(契約当事者間の内部的な責任分担)であり、第三者に対して直接効力が及ぶわけではありません。したがって、「欠陥」によって、生命、身体、財産の損害を負った第三者は、免責特約の対象となっている売主に対して、売主が、製品の製造者等、上記の製造物責任を負う対象であった場合には、製造物責任に基づいて損害賠償を請求できます。売主としては、当該賠償責任を果たしつつ、その負担を、免責特約に基づいて(法律上可能な範囲で)買主に転嫁することが考えられます。ただし、免責特約がいかなる場合にも文言どおりの効力が生じるわけではないと考えられることにも留意が必要です。 ↩︎

  5. なお、やや細かいアレンジですが、売主が責任を負わない場合として、買主からの指示によって欠陥が生じている場合を含める場合でも、買主を保護する観点からは、買主の指示の問題に加えて、欠陥について売主側に過失がない場合に初めて、売主が責任を負わなくなるような記載となるように検討することがあります。 ↩︎

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