法務初心者のための契約書作成・レビューのポイント

第3回 取引基本契約のレビュー 納品・受領遅滞条項のポイント

取引・契約・債権回収

目次

  1. 「納品等」条項の意義とレビューのポイント
  2. 納期に遅れる場合への対応
    1. 買主の視点からの修正
    2. 売主の視点からの修正
  3. 「受領遅滞」条項の意義とレビューのポイント
    1. 売主の視点
    2. 買主の視点
この記事では、取引基本契約の納品に関する条項について、個別契約との関係にも触れながら、基本的なポイントをわかりやすく解説します。
取引基本契約の概要についてはこちらの記事で解説しています。
想定事例

部品・半製品メーカーのA社(非上場・資本金5億円)と、完成品メーカーのB社(上場)は、これまで注文書と注文請書で少量の売買取引をしていました。しかしこの度、取引量が増えることが予想されたため、取引基本契約を締結することになりました。
A社は多数の種類の部品〔・半製品〕を取り扱っており、かつ、部品〔・半製品〕の品質・精度について定評があります。B社はA社の扱っている部品〔・半製品〕を定期的に購入して、トレーニング(健康)器具の製造に用いて、量販店等に販売をすることを予定しています。
B社に新卒入社して法務部に配属されたCさんは、上司から、この取引基本契約の作成を依頼されました。

「納品等」条項の意義とレビューのポイント

条項例1

第◯条(納品等)

1 納期とは、個別契約にて定める納入場所に、個別契約にて定める本製品を納入すべき日をいい、売主はこれを厳守しなければならない。〔なお、一切の納入費用は、売主の負担とする。〕

2 売主は、納期に本製品を納入することができない事情が生じた場合は、直ちにその理由および納入予定時期を買主に通知し、〔その対応について買主と協議する。〕

 具体的な納期 1、納品場所 2、納入費用 3(運送費等)は、売買契約にとって重要であるため、少なくとも個別契約にて明確化しておく必要が高い内容です

 これらの項目は、個別の取引の実情に合わせることが必要なので、具体的内容は、取引基本契約ではなく、個別契約にて定めることも多いと思われます。たとえば、納品場所については、買主の指定する場所 4、売主の施設等があり、それらを個別契約等で明記します。納入費用(運送費等)も誰が負担するのか明記しておく必要があります。
 なお、条項例1では、売主が負担するとし、かつ、取引基本契約で明記する場合の規定例を記載しています(第1項の〔 〕内)。
 やや細かいですが、場合によっては、貨物の取扱いやトラック・その他車両からの荷下ろし等を誰が行うのか等も、(取引基本契約で記載することもありますが)少なくとも個別契約においては明確化されていることが望ましいと思われます。

納期に遅れる場合への対応

 売主が納期どおりに納品できない場合(または、その見込みが出てきた場合)の対応についても、具体的に定めておく必要があります
 債務不履行を理由に、契約解除、損害賠償を検討する余地はありますが、解除の要件を充足するか 5、どこまでが損害として認められるかは、具体的事情に左右され、明確な判断が難しい場合が生じることがその理由の1つです。

買主の視点からの修正

 納期の遅れが生じた場合の契約上の手当てについて、事業部門等の意向も確認しながら検討する必要があります。
 たとえば、買主として、売主の製品が代替性の乏しいものであれば、納期への遅れが最小限となるように対応依頼をするとともに、生じた損害の賠償を求めたいと考えることがあります。また、売主の製品が他社製品でも代替できるようなものであれば、個別契約を解除して、直ちに他のサプライヤーから同種のものを仕入れる等の対応をしたいという場合も考えられます。

 そこで、納期に遅れる見込みに関する売主の通知義務、契約解除し納品拒絶できる旨、他のサプライヤーからの調達で生じた追加コストの負担等、納期に遅れる場合の対応について、可能な範囲で定めておくことが、買主にとって有利になります。

 一例ですが、契約解除や損害の賠償請求を可能とする修正としては、次のような内容が考えられます。

条項例1の修正例1

買主は、納期の遅れが生じた場合には、納期への遅れの程度を問わず、個別契約を解除することができ、遅れに関して被った〔顧客対応・代替品の確保等に必要となった〕一切の費用〔(合理的な弁護士費用を含む)〕および損害を、売主に対して請求できるものとする。

 なお、納期に遅れが生じる「おそれ」について通知義務を課すことに加え、「おそれ」のみで解除等まで認めることを求めるかも検討の余地があります。ただ、このような規定は、相手方からすると受け入れにくいこともそれなりにあると思われます。

 また、やや内容が不明確になる等、慎重な検討が必要ですが、対応について売主の指示に従うものとするといった記載も、実務ではみられることもあります。

条項例1の修正例2

2 売主は、納期に本製品を納入することができない事情が生じた場合は、直ちにその理由および納入予定時期を買主に通知し、〔その対応について買主の指示に従う〕。

売主の視点からの修正

 売主としては、納期への遅れの程度が軽微な場合等にまで簡単に契約解除をされてしまうことは、一般的には不利益と考えられます。そのため、納期遅れの場合の解除事由が、自己に大きく不利益になっていないか確認することが望ましいです。
 また、納期が遅れた場合に、買主に発生した費用をどこまで負担するかという点や、賠償する損害の内容・範囲について、受け入れ困難なものとなっていないか、確認する必要があります。
 なお、具体的事案によって対応が異なりうること等を考慮し、解除事由や損害賠償の範囲について明記せずに、買主と協議をする旨のみを定めることも検討の余地があります。

「受領遅滞」条項の意義とレビューのポイント 6

売主の視点

 取引基本契約では、納期遅れとは逆に、売主が契約どおりの製品を準備し、契約どおりの場所・納期に持参し納入をしようとした(これを「債務の本旨に従った弁済の提供」といいます。)にもかかわらず、買主が当該製品の受領を拒絶した場合(これを「受領拒絶」といいます。)の対応を、売主保護の視点から定めることもあります。

 売主としては、弁済の提供をすることで債務不履行責任を逃れることができますが(民法492条)7、それを超えて売主に対して保護を与えるために、以下のような旨の条項を検討することがあります。

(例)
  • 買主に対し書面により相当期間を設けて受領を催告しても、買主が受領をしないときは、個別契約の解除を可能とする、または損害賠償を可能とする
  • 売主は、対象製品を第三者に任意に売却等して、その代金を買主に対する債権に充当し、不足額が存する場合はさらに請求することができる

 条項例としては次のような内容が考えられます。

条項例2

第◯条(受領遅滞による解除、任意売却)
買主が、合理的な理由なく、納期が到来しても本製品の受領を拒絶する場合、売主は買主に対して、書面により〔◯〕日以上の期間を定めて催告し、当該催告にもかかわらず、買主が本製品の受領をしないときは、売主は、当該受領拒絶に係る〔個別契約〕を解除、または、本製品の第三者への売却その他の処分をすることができ、さらに、これらに代えてまたはこれらと共に、売主の被った損害の賠償請求を買主に対して請求できるものとする。

買主の視点

 一方、買主の視点からは、売主から受領遅滞の条項を求められた場合には、検討せずそのまま受け入れるといったことはすべきではありません。以下のような点について会社として受け入れ可能か、一定の検討が必要と考えられます。

  • 受領遅滞の条項を設けることを受け入れてよいか
  • 受領遅滞が生じた場合の効果として、売主が正面から損害賠償請求や契約解除を行うことが可能な内容としてよいか
  • 受領遅滞が生じた場合の効果として、売主が任意売却することを認める内容としてよいか

 次回は、実務上問題となりやすい、検査と契約不適合責任に関する条項を取り上げます。


  1. 本稿では、下請法に関する考慮は検討対象から外しています(想定事例に記載の売主の資本金参照)。 ↩︎

  2. 納品場所については、以下のとおり、民法や商法に一定の規定がありますが、重要な事項なので、後述のように、少なくとも個別契約に、当事者間の合意内容を記載しておくことが必要と考えます(民法の例:484条1項では、納品場所について、別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならないとされています。)(商法の例:516条では、商行為によって生じた債務の履行をすべき場所がその行為の性質または当事者の意思表示によって定まらないときは、特定物の引渡しはその行為の時にその物が存在した場所において、その他の債務の履行は債権者の現在の営業所(営業所がない場合はその住所)において、それぞれしなければならないとされています。)。 ↩︎

  3. 民法485条では、納品等を行うためにかかった費用について、特に意思表示がないときは債務者(納品であれば売主)の負担とすることになっています。 ↩︎

  4. 据え付けまでを売主の義務とすることもあります。 ↩︎

  5. たとえば、民法では、契約および取引通念に照らして不履行が軽微であるときは解除をすることができないとされています(541条ただし書)。 ↩︎

  6. 他にも、製品供給の確保の観点から、売主に供給義務、受注義務、在庫確保義務を課すかといった買主視点の検討事項もありますが、紙面の関係で割愛します。 ↩︎

  7. 詳細は割愛しますが、民法413条1項・2項、同413条の2第2項、同567条2項等に、売主側保護の規定があります。ただ、売主の側から、契約の解除や損害賠償請求をできるかは、解釈にゆだねられています。また、商法上、商人間の売買では、売主による製品の供託(簡単にいうと、製品を国の機関等に預けることで債務を履行したことにする制度)や競売の定めがありますが(524条)、必ずしも売主にとって使い勝手のよいものではありません。 ↩︎

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