法務初心者のための契約書作成・レビューのポイント

第5回 取引基本契約のレビュー 所有権の移転、危険負担条項のポイント

取引・契約・債権回収

目次

  1. 「所有権の移転」条項
    1. 意義とレビューのポイント
    2. 買主・売主の視点からの検討・修正
  2. 「危険負担」条項
    1. 意義とレビューのポイント
    2. 買主・売主の視点からの検討・修正

 売買取引の中で注意すべき所有権の移転時期と危険負担について、取引基本契約においてどのように規定すべきでしょうか。この記事では、改正民法による変更点も踏まえ、買主・売主それぞれの視点からわかりやすく解説します。
 取引基本契約の全体像、概要についてはこちらの記事で解説しています。

想定事例

部品・半製品メーカーのA社(非上場・資本金5億円)と、完成品メーカーのB社(上場)は、これまで注文書と注文請書で少量の売買取引をしていました。しかしこの度、取引量が増えることが予想されたため、取引基本契約を締結することになりました。
A社は多数の種類の部品〔・半製品〕を取り扱っており、かつ、部品〔・半製品〕の品質・精度について定評があります。B社はA社の扱っている部品〔・半製品〕を定期的に購入して、トレーニング(健康)器具の製造に用いて、量販店等に販売をすることを予定しています。
B社に新卒入社して法務部に配属されたCさんは、上司から、この取引基本契約の作成を依頼されました。

「所有権の移転」条項

意義とレビューのポイント

 取引対象の製品の所有権の移転時期についても、次のような理由から、取引基本契約において明確化しておくことが望ましいです。
 製品の所有権を取得することで、一般的には、買主は、〔別途契約で制限をされていなければ〕当該製品を、制約なく自由に処分できるようになることから、所有権の移転時期の明確化は重要です。
 また、所有権の移転時期について契約書に定めを置かない場合、以下のような民法上の原則が自動的に適用されることになるため、当該原則の内容が自社にとって不都合な場合、所有権の移転時期に関する条項を設けることによってそれを回避するという狙いもあります。

民法上の原則
  • 特定物 1(当事者が物の個性に着目して指定したもの。たとえば不動産 2 や一点物のアンティーク家具等)の場合: 別段の定めがなければ、基本的には、契約成立時に所有権移転の効力が生じる 3
  • 不特定物(当事者が、種類、数量、品質等に着目し、個性を問わずに取引するもの。たとえば汎用性のある量産品等)の場合:
    特段の事情のないかぎり、目的物が特定 4 した時に買主に所有権が移転する 5

 以上のような理由から、契約書において、取引対象の製品の所有権が、売主から買主にいつ移転するとされているかを規定しておくことが重要です
 所有権の移転時期の定め方としては、たとえば以下のようなものが考えられます。

条項例1

第〇条(所有権の移転)
本製品の所有権は、第〇条に定める本製品の納入の時をもって、売主から買主に移転する。

条項例2

第〇条(所有権の移転)
本製品の所有権は、第〇条に定める買主による検査の合格時に、売主から買主に移転する。

条項例3

第〇条(所有権の移転)
本製品の所有権は、その代金がすべて支払われた時点をもって、売主から買主に移転する。

買主・売主の視点からの検討・修正

 買主としては、基本的には、所有権を取得することで、当該製品を制約なく処分できるようになることから、所有権の移転時期が早いほうが有利です。そこで、製品の引渡し時(条項例1)や検査合格時(条項例2)とすることが考えられます。

 一方、売主としては、所有権の移転時期が遅いほうが有利ですので、代金支払い時に所有権が移転する旨を選択することが望ましいです(条項例3)

 具体的には、代金が支払われるまでは製品の所有権を留保(自分に留めておくこと)しておき、代金が支払われないなどの債務不履行がある場合には商品を取り戻すことができるよう、すなわち、代金債権の担保として働くようにしておくことが望ましいと考えます。なお、やや細かい話ですが、代金が手形で支払われる場合には、手形の決済がされた時に、所有権が移転する旨を定めることもあります

 その他のバリエーションとして、取引基本契約における原則的な所有権の移転時期としては引渡し時または検査合格時を選択しておきつつ、「ただし書」等において、個別契約において別の定めがある場合を記載することも考えられます。
 この場合の記載例としては、条項例1または条項例2の末尾に、以下のように、個別契約において所有権を留保する場合がある旨を追記することが考えられます。

ただし、個別契約において代金の支払いが完了するまで製品の所有権が移転しないとされているものについては、当該個別契約の定めに従うものとする。

 なお、所有権を留保していても、製品が第三者に譲渡されると、取り戻しができなくなる場合があることに留意が必要です。
 具体的には、動産には「即時取得」という制度があり(民法192条)、対象製品が、善意無過失(簡単にいうと、留保されていることについて知らない・知らないことに過失がないという意味)の第三者に譲渡(転売等)された場合には、当該第三者は、担保権の負担のない完全な所有権を取得することから、売主は取り戻し請求ができなくなるとされているのです。
 したがって、所有権留保の実務上の実効性が完全なものではない 6 ことに留意が必要です 7

「危険負担」条項

意義とレビューのポイント

 売買取引においては、契約締結後にたとえば以下のような場面があり得ます。

(例)
買主の倉庫に製品を納入する義務を負う売主が当該倉庫に納入をする途中で、輸送トラックが雷に打たれて、積み荷である製品が破損してしまった。

 このような場合であっても、売主は買主に対して代金請求ができるのでしょうか。

 危険負担とは、売買契約の場面についていえば、このように契約締結後に、売買契約の目的物が、契約当事者の売主の責めに帰すべき事由に因らないで、滅失、損傷等をした場合に、そのリスク(=「危険」)をどちらが負担するかという問題のことをいいます
 この問題について、現行の民法においては、原則として、売買契約の目的物が売主から買主に対して引き渡された時点で、上記のリスクは買主に移転することとされています(民法567条1項 8)。すなわち、引渡しより後に製品が滅失等した場合は、買主は代金の支払いを拒絶できないことになります。

民法上の原則
危険負担は、目的物の引渡しの時点で買主に移転する。

 この民法上の原則をベースに作成された条項としては、以下のようなものが考えられます。

条項例4

第〇条(危険負担)
納入前に生じた本製品の滅失、損傷、変質等の損害は、買主の責めに帰すべき事由によるものを除き売主の負担とし、納入後に生じたこれらの損害は、売主の責めに帰すべき事由によるものを除き、買主の負担とする。

買主・売主の視点からの検討・修正

 危険の移転がどの時点に設定されているかを確認し、条項例4のような原則的な取り扱いに比べて不利になっていないか等を確認することが必要です。
 所有権の移転時期と危険負担の移転時期を同期させる場合もありますし、これを分ける場合もあります。両者の組み合わせ方については、形式的には、次のとおり9パターンが考えられます。

所有権の移転時期と危険負担の移転時期の組み合わせ方

所有権の移転時期と危険負担の移転時期の組み合わせ方

 たとえば、実務でしばしばみられる③×Aのパターンは、所有権の移転時期を代金支払い時としつつ、危険負担については引渡し時とする規定です。この規定は、所有権移転時期を遅らせたい売主としては有利になると考えられます。
 また、買主にとっても、売主による製品の引渡しによって、買主側が自ら製品について管理できるようになることから、危険負担の移転時期を引渡し時とする旨の交渉をすることには一定の合理性があります。

 一方で、危険負担の移転時期が代金支払い時とされた場合(C)、引渡し時や検査合格時から代金支払い時までの間が比較的長期間のときは、売主は、自らが製品を管理していない(買主側の手元に製品がある)状況においても、その滅失、損傷のリスクを負うことになりかねません。
 このような場合、売主としては、リスク管理の観点から、危険負担の移転時期が代金支払い時となる①×C、②×C、③×Cのパターンは避けたほうがよいとの考えがあります。

 なお、買主としては、早めに所有権を取得することが一般的には有利と考えられます(引渡し時とする①、検査合格時とする②)。
 しかし、危険負担の時期が、所有権の取得時期より後になる(すなわち買主は所有権を取得して製品を自由に処分できるのに、滅失等のリスクを売主に負わせたままとする)のは、公平ではないとも考えられます。
 そこで、両者の利益調整の観点から、所有権の移転時期と危険負担の時期を合わせるか(①×A、②×B)、所有権の移転時期よりも危険負担の移転時期が早くなるようにする(②×A)ことが考えられます。

 上記の理由から、実務では、所有権および危険負担の時期をいずれも引渡し時とするもの(①×A)も比較的多く見受けられます。

 所有権の移転時期と危険負担の移転時期に関する定め方は、一般的には以上のとおりです。
 実際の契約書レビューにおいては、製品・取引の性質や自社の置かれている立場に合わせて検討する必要があります。

 次回は取引基本契約における製造物責任に関する条項について解説します。


  1. 「特定物」と「不特定物」については、正確には、代替性がある製品かといった物の性質自体の観点ではなく、当事者が対象物の個性に着目して指定しているかといった主観的な観点から区別されますが、イメージしやすくするためにこのような例を使っています。 ↩︎

  2. 物(有体物、民法85条)のうち、土地およびその定着物(建物)のことを不動産といい、それ以外の物を動産(イメージとしては動かせるもの)といいます(民法86条)。 ↩︎

  3. 最高裁は、「売主の所有に属する特定物を目的とする売買においては、特にその所有権の移転が将来なされるべき約旨に出たものでないかぎり、買主に対し直ちに所有権移転の効力を生ずるものと解するを相当とする」としています(最高裁昭和33年6月20日判決・民集12巻10号1585頁)。 ↩︎

  4. 「特定」については、民法401条2項において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了したときに、以後その物が目的物となる(=特定する)と規定されています。たとえば、目的物を債権者の住所において引き渡すべき債務(持参債務)については、目的物を債権者の住所において提供すること(民法493条)を指します。 ↩︎

  5. 最高裁昭和35年6月24日判決・民集14巻8号1528頁 ↩︎

  6. たとえば、工作機械や製造装置等、転売されず買主の手元において使用されるものについては、所有権留保は実効性が比較的あると考えられます。一方、納入された製品が材料として費消されてしまうものや、すぐに転売されてしまうものについては、実効性が高くないと考えられます。なお、大きな機械類等の場合、所有権が留保されている旨を、当該物自体に表示しておくといったことも見受けられます。 ↩︎

  7. なお、船舶のように登記が必要とされている動産には、即時取得の適用はないとされています。 ↩︎

  8. ちなみに、売主が契約内容に適合する目的物を提供したにもかかわらず、買主が受領を拒んでいる間に、当事者双方の責めに帰することのできない事由により目的物が滅失・損傷したときも、上記と同様の扱いとされています(567条2項)。 ↩︎

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