業務委託契約で起きやすいトラブルとは? 5つのポイントを紹介

取引・契約・債権回収

業務委託契約に関してトラブルになりやすいのはどのような点でしょうか。契約締結にあたって気をつけるべきポイントを教えてください。

業務委託契約に関するトラブルは、その法的性質、業務遂行上の義務違反の有無、代金請求権発生の有無、損害賠償、取引解消時の精算などを巡って争いになることが多く、裁判となった事例も多数あります。
 どのような争いとなるかを理解して条項作成上の工夫をしていれば、争いを未然に防ぐことができる可能性があります。関係する条項については、お互いの意図を契約交渉の中で確認し、個々の取引の背景事情に沿って、作成するように心がけるとよいでしょう。
 もっとも、裁判となった場合には、契約条項の解釈にあたってさまざまな事情が考慮に入れられますので、条項の文言がすべてではないということには注意が必要です。

解説

目次

  1. 業務委託契約を巡る紛争とは
  2. 契約の法的性質
  3. 委託業務遂行の過程での両当事者の義務
  4. 代金請求権の発生の有無
  5. 損害賠償
  6. 取引解消時の精算(途中解約)
  7. おわりに

業務委託契約を巡る紛争とは

 業務委託契約書とは、その名のとおり、委託者が何らかの業務を第三者(受託者)に委託(外注)することを内容とする契約書です。委託する業務の内容等によって、「清掃業務委託契約書」「ソフトウェア開発委託契約書」などさまざまな類型があります。
 業務委託契約書作成上の一般的な注意点は、「業務委託契約書の作成・レビューにおける留意点」で説明したとおりです。

 業務委託契約の紛争は、①当初想定されていた段階まで至らずに途中で失敗に終わった取引や、②当初の予定されていた段階まで一応完了したものの、業務の結果が委託者の満足のいくものではなかった取引で生じることが多いです。
 受託者側の主張としては業務委託料の請求がよく見られ、これに対して、委託者側からは業務の履行未了、契約の解除、成果物の瑕疵担保責任や債務不履行を理由とする損害賠償請求等の主張が見られます。

 今回の記事では、業務委託契約を巡る実際の紛争において、どのような事項が争点となるか、また、契約上でどのような工夫をしておくことが考えられるかを紹介します。

契約の法的性質

 業務委託契約は、通常、民法上の典型契約としては請負契約または委任契約のいずれかに分類されます。請負契約では、受託者が「仕事の完成」を約束するのに対して、委任契約では、受託者は「法律行為を行うこと」(準委任契約の場合は「事実行為を行うこと」)を約束することになり、受託者側の義務の程度が異なります。

 受託者側の義務履行が果たされていたかどうかとの関係で、前提としてその義務の内容を認定するために、請負契約と委任契約のいずれかが争われることがあります。また、いずれの契約に関する民法の規定を適用するかを巡って、法的性質が議論されることもあります(たとえば、委託者側が委任契約に関する民法651条の適用に基づく契約の解除を主張する場合)。

 契約の性質を確認する際には、対象契約が委任契約または請負契約のいずれかということを記載するだけでは、説得力として十分ではありません。そのため、単純に契約の性質がいずれであるかを規定するのではなく、取引の目的と結び付けて具体的に記載をするように心がけることが望ましいと考えます。

 以上に対して、業務委託契約であっても請負契約または委任契約のいずれにも該当しない無名契約のようなものも存在します。裁判例でも、業務委託契約の法的性質が請負契約または委任契約のいずれであるかの議論に深入りせず、問題となる契約の中身を精査した事例もあります。
 このような場合には、法的性質論にとわられず、当事者の義務の内容や対価との関係などについて個別・具体的に記載しておいたほうが、後で解釈が争われた際に役立つと考えられます。

 業務委託契約の法的性質は、直接的には受託者の義務の程度や民法上の規定の適用の有無を左右しますが、これらの問題に限らず、マクロ的に見ればその取引での当事者間の責任分担(リスク分配)の理解に関わります。

 そこで、契約書全体を通じて、対象の取引が委任契約または請負契約のいずれの性格に近いものかを意識しながら条項を作成することが望ましく、そうすることで、業務委託契約の法的性質に関する考え方にも一貫性を持たせることができるでしょう。

 業務委託契約の法的性質を巡る裁判例と、それを踏まえ契約書作成にあたって留意すべき事項や条項例については、以下の記事をご覧ください。

委託業務遂行の過程での両当事者の義務

 業務委託の目的は、単に業務を実施するだけでは達成されず、その業務の実施の方法や内容が重要である場合もあります。

 業務を実施するうえで特に注意を払うべき事項があるなど、一般的な内容を超えて、個別の要注意事項について義務を明確にしておきたい場合には、その内容を説明する条項を、一般的な善管注意義務の条項とは別に設けるとよいでしょう(反対に受託者側からすると、引き受けられない事項があれば義務の範囲外であることを明記するといった対応が考えられます)。

 業務委託契約の適正な遂行のためには、委託者側の協力が大事になる場合があります。委託者においても適切な役割を果たすことが委託業務の遂行に必要な場合には、その内容に応じた規定を設けるとよいでしょう。

 業務委託契約の両当事者の義務を巡る裁判例と、それを踏まえ契約書作成にあたって留意すべき事項や条項例については、以下の記事をご覧ください。

代金請求権の発生の有無

 外形的には委託業務が行われていたものの、委託者側が十分に納得していない事案では、受託者の代金請求との関係で、業務の履行が果たされていたかどうかが問題となることがあります。
 業務委託契約が途中で終了した場合、報酬発生を基礎づける程度に業務が履行されていたと見るかどうかは事実の評価によって左右されるため、争点となりやすいです。
 契約書上で、履行の完了時期について規定を置いておけば、そのような争いを未然に防止する効果を期待できるといえます。
 また、本来はそのような成果物のないサービスであるものの、成果物に代わるものを引き渡すこととする契約条項や、複数の過程を有する業務については、できるかぎり過程ごとに分けて記述する契約条項も見られます

 業務委託契約に基づく代金請求権の発生の有無を巡る裁判例と、それを踏まえ契約書作成にあたって留意すべき事項や条項例については、以下の記事をご覧ください。

損害賠償

 業務委託契約の履行過程で違反等が生じた場合、当事者に生じる影響は同契約の対象としていた経済的利益の範疇にとどまらず、それから派生した利害関係にも及ぶことがあります。そのため、契約違反によって、結果的に、取引金額を上回る損害賠償の支払を命じられることもあります。

 そこで、損害賠償責任を限定する規定を設けておくと、実際に紛争が発生した場合に責任の拡大を防ぐことが期待できます。

 損害賠償責任の規定としては、双方にとって公平となるように一律に上限額を適用する契約条項のほか、損害賠償責任の発生原因に応じて個別の規定を設ける契約条項や、補償の範囲に含まれる損害の種類について定めておく契約条項などもあります。

 損害賠償責任を制限する規定や、賠償額を定めておく規定(違約金規定)は、当事者間の交渉力の差異やその内容等に応じて、その効力を否定または制限される可能性があり(たとえば民法90条や下請法によって規定が無効となる可能性)、それらの条項を常に適用できるとは限りません

 もっとも、不測の事態をできる限り回避するという観点からは、契約上でそれらの規定を設けておくことを検討するとよいでしょう。

 業務委託契約の損害賠償を巡る裁判例と、それを踏まえ契約書作成にあたって留意すべき事項や条項例については、以下の記事をご覧ください。

取引解消時の精算(途中解約)

 業務委託契約の履行の過程で、委託者と受託者の間で食い違いが生じ、取引を途中で終了することとなり、その精算を巡って紛争化することがあります。
 このような紛争では、契約を途中で終了させることが適法かどうか、当事者が主張する契約解除が有効かどうかといった点が問題となります。

 特に、委任契約について定める民法651条は、特段の理由がなくても委任者に解除を認めていることから、同条に基づく解除の可否について争われることがよく見られます。このような場合、解釈上の争いを少なくするため、任意解除の可否や解除権の放棄に関する条項を設けることが考えられます。

 ただし、実際は取引の背景事情を踏まえて、契約の目的や当事者の合理的意思が解釈されますので、このような条項が存在したとしても、直ちにその条項に沿った解釈が採用されるとは限らないことには留意が必要です。

 また、実務上は契約期間の定めを置くのみで、解除権放棄については何ら言及しない契約も広く用いられています。そのため、特段の必要がなければ、任意解除については具体的な条項は設けずにあえて解釈に委ねるという判断もあり得るでしょう。

 業務委託契約の途中解約を巡る裁判例での契約解釈と、それを踏まえ契約書作成にあたって留意すべき事項や条項例についてについては、以下の記事をご覧ください。

おわりに

 本記事では、業務委託契約に関して、契約当事者間で紛争となった場合に問題となりやすい争点について解説しました。

 業務委託契約の内容を検討する際には、紛争となった場面や相手方当事者との関係のみならず、契約期間中のオペレーションや下請代金支払遅延等防止法ほかさまざまな規制との整合性も考慮する必要があります。

 また、本記事では条項作成上の工夫を説明しましたが、実際の裁判では、契約書の文言に自動的に従って解釈が決まるわけではなく、取引の背景事情・目的や当事者の属性など、さまざまな事情が考慮されたうえで、判断がなされます。
 契約書の条項が常に絶対的な判断基準となるということではありませんので、この点は誤解されないようにしてください

 本記事で示したように、契約交渉段階の行為規範としては、争いの対象となりやすい事項を把握したうえで条項作成に活かすとともに、取引の内容を精査して、実態に即した契約書を作成することが大切であるといえるでしょう。

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