雇用に関する民法改正のポイント

取引・契約・債権回収
外山 信之介弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 改正民法における雇用に関する改正内容のポイントを教えてください。

 民法改正に伴い、雇用に関連して特に注意すべきポイントは以下の点です。

  1. 身分保証を含む個人根保証契約における極度額の明示に関する規律の新設
  2. 中間利息控除に関する規律の明文化
  3. 消滅時効期間の変更
  4. 雇用契約が中途の段階で終了した場合における報酬請求権の明文化
  5. 雇用契約の解除・解約に関する改正

解説

目次

  1. はじめに
  2. 身元保証(個人根保証)における極度額に関する改正
  3. 消滅時効期間に関する改正
  4. 中間利息控除に関する改正
  5. 雇用契約が中途の段階で終了した場合における報酬請求権
  6. 雇用契約の解除・解約に関する改正
    1. 期間の定めのある雇用契約の解除に関する規定
    2. 期間の定めのない雇用契約の解除に関する規定

※本記事の凡例は以下のとおりです。

  • 改正民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正後の民法
  • 旧民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正前の民法

はじめに

 本記事では、雇用に関する改正民法の内容を中心に解説します。
 今日における大部分の雇用契約は労働者および使用者間で締結されるものであり、労働基準法をはじめとする労働法規の適用を受け、民法上の雇用契約の定めがそのまま適用されることは多くありません(例外として、たとえば、同居の親族のみを使用する事業および家事使用人(労働基準法116条2項)については労働基準法の適用除外対象とされ、民法上の雇用契約の定めが適用されます)。しかし、その場合においても、総則的規定については民法の適用を受けます。
 そこで、以下では、雇用契約に特に関連すると思われる規定として、身元保証(個人根保証)における極度額に関する定め、中間利息控除に関する改正民法の内容、消滅時効期間について解説したうえで、民法上の雇用契約に関する改正内容を解説します。

身元保証(個人根保証)における極度額に関する改正

 新入社員の入社時に、新入社員が会社に対して損害を与えた場合における損害賠償責任を保証させるため、連帯保証人である個人との間で身元保証書を締結する企業も多いと思います。この場合における身元保証契約は、以下の2種類に分類されると考えられます。

  1. 被用者が使用者に対して負う損害賠償債務を保証する保証契約の性質を有するもの
  2. 被用者が使用者に対して損害賠償債務を負うか否かにかかわらず、被用者の行為によって使用者が負った損害を賠償する損害担保契約

 将来発生する不特定の債務を包括的に保証することは、民法上「根保証契約」に該当し、民法上の根保証契約に関する定めの適用を受けます。上記2分類のうち、①は根保証契約に該当すると考えられている一方、②が根保証契約に該当する否かは明確ではなく、解釈に委ねられています。
 従前から、根保証契約は、保証契約締結時点では保証額が確定していないほか、極度額の定めを規定しない場合もあったため、保証人が予期せぬ過大な責任を負うリスクがあるという問題点がありました。
 旧民法においては「金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務」を保証の範囲とする根保証契約に関してのみ、極度額の定めがなければ無効であると定められていましたが(旧民法465条の2第2項)、上記の問題点を踏まえ、改正民法においては、この定めが根保証契約一般に適用されることになりました(改正民法465条の2第2項)。
 したがって、少なくとも上記①のような類型の身元保証契約は、根保証契約に該当するためこの規定の適用を受け、極度額を定めない場合には契約が無効となります

 もっとも、上記②のような類型の身元保証契約の場合に本規定が適用されるか否かについては解釈が分かれています。立法担当者の見解によると、②のような損害担保契約は、典型的な根保証契約の性質とは異なる以上、根保証契約の規定は適用されないとされていますが、保証人が予想外の責任を負い得るというリスクがある点は②の場合も同じであり、②の場合も本規定を類推適用すべきであるという解釈も主張されています。

 このように、いずれの解釈もあり得る状況にあるため、実務対応としては、身元保証契約が無効と解釈されないよう、身元保証契約が上記①②の類型のいずれであるかを問わず、保守的に、極度額の定めを置く対応を行うことが望ましいものといえます。極度額として設定する金額については明確な基準がありませんが、職務内容等に照らして現実的な金額を極度額として定めることになろうかと思われます。
 なお、企業のなかには、実際に保証人に対して保証債務の履行を請求したことがなく、身元保証契約が形骸化していた状況を踏まえ、民法改正を機会に身元保証契約の締結自体を取りやめた企業もあるようです。

消滅時効期間に関する改正

 「民法改正による消滅時効に関する変更点 「主観的起算点」とは」の解説のとおり、改正民法では、債権の消滅時効について改正を行い、債権一般について「権利を行使することができることを知った時」から5年、「権利を行使することができる時」から10年が消滅時効期間として定められました(改正民法166条1項)。
 雇用契約に基づく債権については、民法に優先して適用される労働基準法115条において、退職手当を除く賃金や災害補償の請求権は2年、退職手当の請求権は5年が消滅時効期間として定められており、上記民法改正により、賃金債権について労働基準法上の消滅時効の方が民法上の消滅時効よりも短くなってしまうという問題が指摘されていました。
 この点、改正民法とあわせて、特に賃金債権の請求権の消滅時効期間も5年と定めるよう求める労働者側の動きがあった一方、急激に消滅時効期間を延長すると使用者側の実務対応に与える影響が大きく不都合であるという使用者側の事情も踏まえたうえで、民法改正のタイミングと同じ令和2年4月1日を施行日として、労働基準法115条の規定は、退職手当を除くすべての労働者から使用者に対する金銭請求権の消滅時効期間を3年とする改正がなされました(労働基準法附則143条)。この規定は、令和2年4月1日以後に支払期日が到来する賃金請求権の時効について適用されるほか、令和7年4月1日以降、施行状況を踏まえたうえで、消滅時効期間の5年への延長を含む検討が再度なされることになっています(労働基準法の一部を改正する法律(令和2年法律第13号)附則3条)。

中間利息控除に関する改正

 労働災害が発生するなどして労働者が負傷・死亡した場合、使用者は、労働者または遺族に対して、損害賠償として、治療費等の費用や、後遺障害や死亡による逸失利益等の支払義務を負う場合があります。このような損害賠償の全部または一部について、あらかじめ一時金として支払われることがあります。この場合、労働者または遺族は、将来分の損害賠償を先に受け取ることになりますが、受け取った損害賠償金を運用することによって、実際の損害額以上の利益を取得することができる可能性があり、公平性を害することになります。このような不都合を解消するため、将来において得られるべき運用益相当額について、所定の方法によって算定した額をあらかじめ損害賠償金から控除する旨の規定が「中間利息控除」の規定です。

 中間利息控除自体は旧民法下の判例においても認められていた運用であり、改正民法417条の2に規定が新設される形で明文化されました。同条によると、中間利息控除による控除額は、「損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率」によって算定されるものと定められています。旧民法での法定利率は年5%でしたが(旧民法404条)、改正民法においては、施行後3年間は年3%としたうえで、3年に1回の頻度で変動する可能性がある旨が定められています(改正民法404条2項~5項)。
 したがって、少なくとも改正民法の施行から3年間のうちに請求権が生じた損害賠償については、法定利率が従前の5%から2%減少することになる分について、中間利息として控除される金額も減少することになるため、支払うべき損害賠償金の額が増大することになる点について注意が必要です

雇用契約が中途の段階で終了した場合における報酬請求権

 旧民法では、雇用契約における報酬は、「その約した労働を終わった後」または「期間を経過した後」になってはじめて請求できるものと定められていました(旧民法624条1項、2項)。もっとも、従来から、労働者は、労働者自らの責めに帰する事由等によって契約の中途で労働に従事することができなくなった場合でも、すでに労働に従事した部分については、その履行割合に応じて報酬を請求することができるものと解されていました。
 改正民法624条の2は上記の解釈を明文化した規定ですが、具体的には、以下の2通りの場合において、労働者は履行割合に応じて報酬を請求できるものと定められています。

  1. 使用者の責めに帰することができない事由によって労働に従事することができなくなったとき
  2. 雇用が履行の中途で終了したとき

 このうち、①については、当事者双方の責めに帰することができない事由によって、または、労働者の責めに帰すべき事由によって、労働者が労働に従事することができなくなった場合が該当するものと解されています。
 一方、②については、雇用契約が解除された場合や、労働者の死亡によって雇用が中途で終了した場合等が該当するものと解されています。
 また、上記の規定とは別に、使用者の責めに帰すべき事由によって雇用契約が終了した場合には危険負担の規定(改正民法536条2項)が適用され、労働者は、使用者の責めに帰すべき事由があることを主張立証することによって、労働に従事していない部分も含む報酬全額を請求することができます。
 なお、労働基準法においては別途の定めがあり、同法26条によれば、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合、使用者は、休業期間中、労働者に対し、平均賃金の6割以上の手当を支払う義務が定められています。また、裁判例上、この場合における「使用者の責めに帰すべき事由」は、民法上に規定される「使用者の責めに帰すべき事由」よりも広いものと考えられており、天変地異等のような不可抗力の場合を除き、使用者側の事情に起因する経営・管理上の障害による事由も含まれるものと解釈されています。

雇用契約の解除・解約に関する改正

期間の定めのある雇用契約の解除に関する規定

 旧民法626条では、雇用の期間が5年を超える場合、または、その終期が不確定であるときは、労働者・使用者側のいずれが契約の解除をする場合でも、雇用の期間が5年を経過した後はいつでも解除することができる一方で、3か月前にその予告が必要である旨が定められていました。

 もっとも、労働者が退職を決意しているにもかかわらず、実際に契約を解除できるのが3か月後であるという点に対しては、労働者の自由が過度に制約されているという批判があったことから、労働者側からの契約解除の予告期間を短縮する改正がなされました。他方で、使用者側からの契約解除の予告期間を短縮することは労働者に不利益が大きいため、旧民法の規定が維持されました。
 具体的には、改正民法626条1項において、上記と同様の場合において、当事者の一方は、雇用期間が5年を経過した後いつでも契約を解除することができるとしたうえで、同条2項において、この場合における解除に際して、使用者側から解除する場合には3か月前に予告を要する一方、労働者側から解除する場合には2週間前に予告すれば足りるものと定められています。

 なお、労働基準法13条および14条によれば、一定の事業の完了に必要な期間を定める場合を除き、契約期間が3年(一定の場合は5年)の期間を超える労働契約は、3年または5年を超える部分が無効となるため、改正民法が想定する上記のような場面は原則として生じません。

期間の定めのない雇用契約の解除に関する規定

 旧民法627条2項および同条3項では、雇用の期間を定めておらず、期間に応じて報酬を定めていた場合、雇用契約の解約申入れに際しては、労働者・使用者側ともに、①6か月未満の期間によって報酬を定めた場合には当期の前半に次期以後の解約の申入れをすることが、②6か月以上の期間によって報酬を定めた場合には3か月前に解約の申入れをすることがそれぞれ必要とされていました。
 もっとも、労働者の立場からすれば、①の場合においては、解約申入れが前半・後半であるかによって雇用契約の終了時期が大きく異なることは不合理であり、②については上記 6−1で述べた理由と同様に、労働者の自由が過度に制約されているという批判があったことから、労働者側からの契約解除の予告期間を短縮する改正がなされました。他方で、使用者側からの契約解除の予告期間について短縮することは労働者に不利益が大きいため、旧民法の規定が維持されました。
 具体的には、改正民法627条において、労働者側からの解約申入れがあった場合は、解約申入れの日から2週間経過後に雇用契約が終了し、使用者側からの解約申入れについては上記の旧民法の規定をそのまま適用するものと定められています。

 なお、改正民法の規定を機械的に適用すると、たとえば、1週間の期間によって報酬を定めた場合には、労働者側からは解約申入れの日から2週間を経過するまで雇用契約を終了することができない一方で、使用者側からは、当期の前半(週の前半)に解約の申入れをすれば、次期(翌週)から雇用契約を終了することができることになり、労働者にとって不利益な事態が生じます。
 この場合には、上記の改正の趣旨を踏まえたうえで、使用者側からの解約申入れについても、解約申入れ日から雇用契約の終了までが2週間に満たない場合(つまり、4週間未満の期間によって報酬を定めた場合)には、労働者側と同様に、解約申入れの日から2週間経過後に雇用契約が終了するものと解釈されるものと考えられています 1

 なお、労働法規上は、使用者側からの解雇について様々な制約が定められています。たとえば、そもそも使用者側からの解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は解雇権の濫用として無効と解釈される(労働契約法16条)ほか、仮に解雇に相当な理由が存在するとしても、少なくとも30日前に解雇予告を行うか、予告日数分の平均賃金を支払うことが義務付けられています(労働基準法20条)。


  1. 筒井健夫・村松秀樹編著「一問一答 民法(債権関係)改正」(商事法務、2018)334頁 ↩︎

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