経営者保証ガイドラインと事業承継に焦点を当てた特則の解説

取引・契約・債権回収 公開 更新
辻田 俊幸弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 私は中小企業のオーナー社長をしています。会社の経営状態に余裕はなく債務が過剰気味であるものの、私が保証人となって銀行借入をして何とか資金繰りを繋いでいます。
 私も65歳を迎えたので、会社員をしている子や親しい取引先(中小企業)への経営権の譲渡・事業承継を検討してきました。ところが、子も取引先も、興味は示すものの、会社の過剰債務の問題に加え、銀行借入の私の保証債務を承継しなければならないのではないか、ということを気にして、具体的に話が進みません。そこで、銀行に保証債務の取扱いを相談したところ、「経営者保証ガイドライン」を利用してはどうか、と示唆されました。この経営者保証ガイドラインとはどのようなもので、どの程度利用されているのでしょうか。
 また、私は銀行借入だけでなく、会社の設備のリース契約の保証もしているのですが、そちらも経営者保証ガイドラインを利用できるでしょうか。

 経営者保証ガイドラインは、中小企業の経営者保証の適正な在り方や整理方法等を定めた準則であり、法的拘束力はないものの、金融機関、中小企業、経営者といった関係者によって自発的に尊重され、遵守されることが期待されるものです。中小企業の事業承継に伴い経営者保証の整理が必要な場合であっても、一定の要件のもと、経営者の自宅を残せることや信用情報機関への事故情報の登録がなされない等のメリットがあることから、経営者保証ガイドラインは中小企業の事業承継を促進する有効なツールといえ、利用件数も着実に増えています。また、近時、円滑な事業承継の促進のために、事業承継時の経営者保証の取扱い等に焦点を当てた同ガイドラインの特則も公表・適用開始されています。
 経営者保証ガイドラインの対象には、一定の場合、金融機関等以外も含めることが可能です。特に、リース契約に関しては「中小企業向けのリース契約に関する経営者保証ガイドライン」があります。

解説

目次

  1. 経営者保証ガイドラインとは
    1. 経営者保証ガイドライン制定・公表の背景と趣旨
    2. 経営者保証ガイドラインの利用状況
    3. 経営者保証ガイドラインが活用できる場面
    4. 経営者保証ガイドラインを活用するべき理由
  2. 経営者保証ガイドラインの特則で事業承継がさらに円滑に
    1. 経営者保証ガイドラインの特則で定められていること
    2. 経営者保証ガイドラインの特則で金融機関に求められる対応
    3. 中小企業・経営者に求められる対応
  3. 経営者保証ガイドラインの金融機関以外への適用
    1. 金融機関以外の債権者全般
    2. リース契約

経営者保証ガイドラインとは

経営者保証ガイドライン制定・公表の背景と趣旨

 日本では高齢化社会を迎え、経営者の高齢化が進むなかで、ここ数年、中小企業の円滑な事業承継が喫緊の国家的な課題となっています。このような状況に加えて、2020年2月以降のコロナ禍による業績悪化や過剰債務も重なり、中小企業の事業の承継を検討している経営者やその関係者は少なくないものと思われます。

 しかしながら、こうした事業承継等の場面で、中小企業と密接に結びついている経営者保証 1 の存在が、事業承継の妨げの原因の1つとして指摘されています 2 3

経営者保証

中小企業が金融機関等から借入をする際などに、中小企業の借入債務の履行を担保するために経営者が行う個人保証のこと。

経営者保証

出典:政府広報オンライン

出典:政府広報オンライン

 すなわち、経営者が金融機関等に対して保証債務を負っている場合、子息等の後継者に経営者保証を負わせたくないとして事業承継を躊躇したり、事業の後継候補者が保証債務の承継リスクを懸念して事業承継に二の足を踏むことがあるとされます。

 以上のような状況を踏まえ、2013年12月、「経営者保証に関するガイドライン」(以下「経営者保証ガイドライン」といいます)が制定・公表され、2014年2月より適用が開始されました。経営者保証ガイドラインは、中小企業の経営者保証の適正な在り方や整理方法等を定めた準則であり、法的拘束力はないものの、中小企業、経営者および金融機関等といった関係者によって自発的に尊重され、遵守されることが期待されています。経営者保証ガイドラインは、金融機関等の債権者と中小企業・経営者等の継続的かつ良好な信頼関係の構築・強化とともに、中小企業金融の実務の円滑化を通じて中小企業の活力を一層引き出し、日本経済を活性化することを目的として定められたものです。今日、経営者保証ガイドラインは、実務的に広く浸透しつつあり、経営者保証の取扱いについての実務の運用指針として重要な役割を果たしています。

経営者保証ガイドラインの利用状況

 経営者保証ガイドラインに基づく経営者保証の整理件数は着実に増えており、具体的には、経営者保証ガイドラインの適用が開始された2014年は108件(民間・政府系金融機関の合計)であったものが、2020年度には702件(同)まで増加しています。このように、経営者の保証債務の整理の検討に当たり、経営者保証ガイドラインはまずもって検討されるべき選択肢になってきています。

経営者保証ガイドラインの活用実績(経営者保証の整理件数)4

年度 2014 5 2015 2016 2017 2018 2019 2020 合計
民間金融機関 6 60件 207件 235件 298件 266件 584件 498件 2148件
政府系金融機関 7 48件 61件 135件 162件 189件 188件 204件 987件

経営者保証ガイドラインが活用できる場面

 中小企業の経営状態が芳しくなく、事業再生または廃業を活用した事業承継を検討せざるを得ないことがありますが、こうした事業再生・廃業の場面では、中小企業の主債務の整理だけでなく、経営者保証の整理についても併せて検討する必要があります。

 そこで、以下では、過剰債務や資金繰りが苦しいなどの事情により、中小企業が事業再生や廃業支援等を通じた債務整理を必要としており、それに伴って経営者の保証債務の整理も必要になってきた、という場面を念頭に置き、経営者保証ガイドラインの活用について説明していきます。

経営者保証ガイドラインを活用するべき理由

 中小企業が事業再生・廃業する際の経営者保証の整理の方法としては、①経営者保証ガイドラインに基づく整理、②破産手続、③個人再生手続があり得ますが、後述(1)のメリットを勘案すると、まずは①経営者保証ガイドラインに基づく整理を検討することが、経営者の意向に適い、事業承継を円滑に進めることに繋がると考えられます。

(1)経営者保証ガイドラインのメリット

経営者の個人財産のうち、

  1. 破産手続における自由財産に相当する財産
  2. 一定期間の生計費に相当する預貯金
  3. 華美でない自宅不動産

 といった資産を残すことができる場合があります。破産手続となった場合には、②や③を経営者の手元に残すのは非常に難しいのに対し、経営者保証ガイドラインでは、一定の要件の下、経営者による事業再生等の早期決断による対象債権者の回収見込額の増加額を上限として、②や③を経営者の手元に残せる資産(インセンティブ資産)としています。

 また、経営者保証ガイドラインの利用は、破産手続や個人再生手続とは異なり、信用情報機関への事故情報(いわゆるブラックリスト)の登録がなされないというメリットもあります(信用情報機関に事故情報が登録されると、クレジットカードの利用や新規借入・ローンが困難になります)。

(2)経営者保証ガイドラインを利用するために必要なこと

 経営者保証ガイドラインを活用して保証債務を整理するための主な要件は以下のとおりです。

  1. 保証人が中小企業の経営者であり、主債務者・保証人が融資の返済に誠実に取り組み、財産状況を適時適切に開示していること
  2. 主債務者が法的手続や準則型私的整理手続の申立て等をしていること
  3. 経営者保証ガイドラインの利用が対象債権者にとって経済合理性があること
  4. 保証人に破産法所定の免責不許可事由(たとえば、浪費等による著しい財産の減少)がないこと

 また、弁済計画を成立させて保証債務を整理するには、対象となるすべての金融機関等の同意が必要 8 となるため、すべての金融機関等に対して必要かつ丁寧な説明を行っていく必要があります。こうした金融機関等への説明や同意を得るにあたっては、手続に精通した弁護士等の専門家に依頼するとスムーズに進みます。

経営者保証ガイドラインの特則で事業承継がさらに円滑に

 2014年2月の適用開始以降、経営者保証ガイドラインは確実に実務に浸透してきましたが、経営者の高齢化が一段と進むなかで、中小企業の休廃業・解散件数の増加傾向は続き、後継者が未定の中小企業も多数存在しています。後継者不在により事業承継を断念して廃業する企業が一段と増加した場合には、地域経済の持続的な発展の妨げになりかねません。

 このような状況を踏まえ、経営者保証に依存しない融資の実現や、円滑な事業承継のさらなる促進を目的として、事業承継局面における経営者保証の取扱いを定めた「事業承継時に焦点を当てた「経営者保証ガイドラインの特則」(以下「経営者保証ガイドライン特則」といいます)」が、2019年12月に公表され、2020年4月より適用が開始されています。

経営者保証ガイドラインの特則で定められていること

 経営者保証ガイドライン特則は、既存の経営者保証ガイドラインを補完しつつ、事業承継局面において、中小企業、経営者、金融機関等に期待される経営者保証の具体的な取扱いを定めています

経営者保証ガイドラインの特則で金融機関に求められる対応

(1)経営者保証の二重徴求の原則禁止

 経営者保証ガイドライン特則は、金融機関等が事業承継時に前経営者・後継者の双方に対して経営者保証を二重徴求することの原則禁止を明確化し、例外的に二重徴求が許容される場合として、やむを得ない限定的な例外事例のみをあげています。

 また、すでに二重徴求に至っている場合においても、安易に二重徴求を継続せず、適時適切に管理・見直しすることを金融機関等に求めています。

(2)後継者への保証の引継ぎの要否を慎重に判断すべきこと

 後継者への経営者保証の引継ぎは、事業承継の阻害要因となり得ることから、後継者への経営者保証の引継ぎを当然とするのではなく、必要な情報開示を受けたうえで、保証の必要性を検討し、事業承継に与える影響も十分に考慮して、慎重に判断することとされています。後継者に保証を求めることがやむを得ないとされる場合であっても、適切な保証の上限額の設定や代替的な融資手法の活用等の検討を求めており、事案に応じた柔軟な対応が期待されています。

(3)前経営者との保証契約の適切な見直し

 2020年(令和2年)4月施行の改正民法では、法人の事業に関与していない親戚や友人などの第三者による保証提供について、一定の制限を加えています。しかし、経営者保証ガイドライン特則では、中小企業の事業承継にあたって、既存の保証契約の適切な見直しの検討を求めており、前経営者による保証は、前経営者が実質的な経営権・支配権を保有している等の特別の事情がない限り、第三者保証に該当する可能性があるとして、事業承継にあたり、保証契約の適切な見直しの検討を求めています。

中小企業・経営者に求められる対応

 経営者保証を提供することなく事業承継を行おうとする場合、金融機関等側だけでなく、中小企業・経営者側にも、一定の取組みを行うことが求められます。具体的には、中小企業・経営者の取組みとして、以下の①から③を満たす経営状態となることが求められます。

  1. 中小企業と経営者との関係の明確な区分・分離
  2. 財務基盤の強化
  3. 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保

 中小企業のみでこうした経営状態を構築することは容易でないこともありますが、そうした場合、外部専門家や公的支援機関の支援を活用することも推奨されています。

経営者保証ガイドラインの金融機関以外への適用

金融機関以外の債権者全般

 経営者保証ガイドラインに基づく経営者保証の整理手続は、経営者に対して保証債権を有している金融機関等を適用対象とすることを基本的に想定しています。しかしながら、経営者が、中小企業のリース債務・取引債務を保証したり、中小企業の事業資金等に用いるために経営者個人の名義で金銭の借入をしているケースがしばしばあり、こうした債務も同ガイドラインでの整理対象としなければ、同ガイドラインの目的を達成できない場合がありえます。

 そこで、経営者保証ガイドラインは、金融機関等以外に対する保証債務や、経営者個人の名義の債務(固有債務)について、「弁済計画の履行に重大な影響を及ぼす恐れのある債権者」も経営者保証ガイドラインの対象に含めることができると規定しています。

 実務的には、この規定を踏まえて、金額の多寡、整理の必要性、当該債務の性質・発生原因、当該債権者の協力を得られる見込み等を考慮のうえ、個別に債権者と協議するなどして、経営者保証ガイドラインの枠組みでの整理対象とするかを事案に応じて柔軟かつ適切に検討します。

 実際、本来的な対象債権者以外の債権者からも了解を得て、経営者保証ガイドラインに基づく債務整理の対象に含めることもありますので、専門家とも協議しながら慎重に方針を立てることが肝要です。

リース契約

 リース契約に関しては、「中小企業向けのリース契約に関する経営者保証ガイドライン」が策定され、2020年1月1日より適用されています。これまでのところ、リース契約に関する経営者保証ガイドラインの運用状況は公表されていませんが、活用状況が注目されるところです。


  1. 経営者保証は経営者の規律付けによるガバナンスの強化や中小企業の資金調達の円滑化、調達コストの低減等に寄与するなど一定の有用性をもつツールでもあり、一概に否定されるものではありません。 ↩︎

  2. 独立行政法人中小企業基盤整備機構「平成30年度「経営者保証に関するガイドライン」認知度調査結果」によると、事業承継の延期・断念の理由(複数回答)として「後継者に経営者保証を負わせたくない」が56.0%、「自身の経営者保証が解除されない」が10.6%という結果になっています。 ↩︎

  3. 少し古いデータですが、借入のある中小企業の経営者のうち80%超が個人保証を提供しているとされています。中小企業庁「中小企業における個人保証等の在り方研究会参考データ集」参照。 ↩︎

  4. 民間金融機関については、メイン行として経営者保証ガイドラインに基づく保証債務を成立させた件数。金融庁ウェブサイト「民間金融機関における「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績」および中小企業庁ウェブサイト「政府系金融機関における「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績」をもとに筆者が編集・加工して作成。民間金融機関と政府系金融機関との統計方法の違いにより一部の案件が重複計上の可能性あり。 ↩︎

  5. 2014年については、経営者保証ガイドラインの適用が開始された2014年2月からの数値を記載。 ↩︎

  6. 金融庁「「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績について」(令和3年6月30日) ↩︎

  7. 中小企業庁「政府系金融機関及び信用保証協会における「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績を公表します」(令和3年6月30日)」 ↩︎

  8. 経営者保証ガイドラインに基づく整理手続として特定調停を利用する場合、裁判所による17条決定(特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律20条・民事調停法17条)を得れば、一部債権者から同意がなくとも、積極的な反対がないこと(消極的同意)をもって、保証債務を整理できます。 ↩︎

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