業務委託契約でトラブルになりやすい代金請求権 - 裁判例と条項例を解説
取引・契約・債権回収業務委託契約を巡る裁判例では、業務委託の代金について、どのような争いが生じることが多いですか。また、裁判となった場合に備えて、どのようなことに注意して業務委託契約書を作成・レビューすべきかを教えてください。
業務委託契約では、委託業務が想定どおりに進行せずに終了した場合など、業務委託の代金を部分的に請求することができるのかが争われることが多いです。
業務委託契約書の作成・レビューにあたっては、個々の業務と委託料の対応関係を示すことができると、委託業務が中途で終了した場合などに代金請求権の発生についての争いを少なくできる可能性があります。
もっとも、裁判となった場合には、契約条項の解釈にあたってさまざまな事情が考慮に入れられますので、条項の文言がすべてではないということには注意が必要です。
解説
業務委託契約を巡る紛争とは
業務委託契約書とは、その名のとおり、委託者が何らかの業務を第三者(受託者)に委託(外注)することを内容とする契約書です。委託する業務の内容等によって、「清掃業務委託契約書」「ソフトウェア開発委託契約書」などさまざまな類型があります。
業務委託契約書作成上の一般的な注意点は、「業務委託契約書の作成・レビューにおける留意点」で説明したとおりです。
今回の記事では、取引が中断した場合の代金支払が争点となった裁判例を取り上げて、どのように契約解釈がなされたかを紹介します。さらに、それを踏まえて、契約書作成にあたって留意すべき事項を解説します。
業務委託契約に関して起きやすいトラブルの概要については、「業務委託契約で起きやすいトラブルとは? 5つのポイントを紹介」をご覧ください。
代金請求権の発生 - 業務の履行の有無
裁判例
外形的には委託業務が行われていたものの、委託者側が十分に納得していない事案では、受託者の代金請求との関係で、業務の履行が果たされていたかどうかが問題となることがあります。
たとえば、次のような裁判例があります。
東京地裁平成28年11月15日判決 1
- 事案の概要
旅館の改修工事のため、旅館を運営する注文者が、空間のデザイン設計等を事業とする受託者に建築デザインに関する業務を委託する契約を締結した。
受託者は注文者に対して、改装工事のための図面を提出したが、注文者は建築業者から相見積を取得した結果、受託者を外して工事を実施したため、受託者は注文者に対して、業務委託契約に基づく報酬の支払を求めた。 - 裁判所の判断
対象の業務委託契約は、本件旅館のデザイン業務を中心とした請負契約だったが、最終的な改装工事において受託者の図面が利用されなかったともいえないとして、一部の仕事については完成していたものと認定し、弁論の全趣旨から請求額の2割の金額の報酬を認めた。
この事案では、委託報酬について、工事着手時に50%を、引渡完了後に50%を支払うことが契約書において定められていたものの、提出された図面をもって仕事の完成と見ることができるかは契約書の内容から明確でなかったため、最終的には、諸事情を勘案して報酬額が認定されました。
別の事案として、次のような裁判例があります。
東京地裁平成29年11月21日判決 2
- 事案の概要
ミネラルウォーターの定期宅配サービス事業を営む委託者が、顧客勧誘等の業務を委託する業務委託契約を締結し、受託者が同契約に基づいてウォーターサーバーを設置した実績に基づき、未払の業務委託代金を請求した事案。 - 裁判所の判断
対象の業務委託契約では、ウォーターサーバーの設置完了をもって顧客獲得1件と扱うこと、および業務委託代金として顧客獲得1件当たりに対して単価を定めていたことから、ウォーターサーバーの設置完了をもって業務委託代金請求権が発生するものと判断した。
この事案では、業務と対価に関する条項から、業務の履行はウォーターサーバーの設置をもって完了すると解釈したということです。
そして、注文者は、顧客が受託者の帰責事由により半年以内にウォーターサーバーを解約した場合に業務委託代金を返還する旨の定めが存在したことを主張したものの、これは早期解約について代金支払の拒絶を認めたもの(代金請求権が発生することは変わらない)と解釈されています。
業務委託契約作成上の工夫
業務委託契約が途中で終了した場合、報酬発生を基礎づける程度に業務が履行されていたと見るかどうかは事実の評価によって左右されるため、争点となりやすいです。
もっとも、前述の2つの裁判例からすると、契約書上で、履行の完了時期について規定を置いておけば、そのような争いを未然に防止する効果を期待できるといえます。
業務委託によって成果物を生じる場合には、その引渡や検収に関する規定によって履行の完了時点が明らかになりやすいのに対し、成果物のないサービスが業務の中身の場合、履行の完了時期はより不明確となりがちです。
そこで、本来はそのような成果物のないサービスであるものの、成果物に代わるものを引き渡すこととする契約条項も見られます。たとえば、コンサルティング契約で、最終的に報告書を提出することとするのは、業務完了を明確にする意味を持ちます。
また、複数の過程を有する業務については、できるかぎり過程ごとに分けて記述することが望ましいと考えます。
請負契約では、仕事の完成をもって報酬請求権が発生しますが、仕事の完成とは予定されていた工程を終了することを指すという考え方が一般的に通用しています。そのため、業務の内容やそれに対する対価を、業務の過程ごとに記述すれば、予定されていた工程を終了したかどうかが曖昧となることをある程度防止できるでしょう。
以下は、その条項例です。
本件委託業務の内容およびその対価としての業務委託料は、本件委託業務の過程ごとに下記のとおりとする。
記
- 本件委託業務のうち、◯◯の過程
◯◯、◯◯等をその内容とし、業務委託料は◯◯円とする。 - 本件委託業務のうち、◯◯の過程
◯◯、◯◯等をその内容とし、業務委託料は◯◯円とする。 - 本件委託業務のうち、◯◯の過程
◯◯、◯◯等をその内容とし、業務委託料は◯◯円とする。
おわりに
本記事では、業務委託契約に関して、代金請求権が争点となった裁判例を取り上げ、契約解釈と、それを踏まえ契約書作成にあたって留意すべき事項や条項例について解説しました。
業務委託契約の内容を検討する際には、紛争となった場面や相手方当事者との関係のみならず、契約期間中のオペレーションや下請代金支払遅延等防止法ほかさまざまな規制との整合性も考慮する必要があります。
また、本記事では条項作成上の工夫を説明しましたが、実際の裁判では、契約書の文言に自動的に従って解釈が決まるわけではなく、取引の背景事情・目的や当事者の属性など、さまざまな事情が考慮されたうえで、判断がなされます。
契約書の条項が常に絶対的な判断基準となるということではありませんので、この点は誤解されないようにしてください。
本記事で示したように、契約交渉段階の行為規範としては、争いの対象となりやすい事項を把握したうえで条項作成に活かすとともに、取引の内容を精査して、実態に即した契約書を作成することが大切であるといえるでしょう。

隼あすか法律事務所
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