新型コロナウイルス問題が台湾企業との契約に与える影響について

取引・契約・債権回収
翁 乙仙 外国法事務弁護士(台湾弁護士) 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 齊藤 千尋 弁護士 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業

 A社は、B病院との間で台湾法を準拠法として、人工呼吸器を製造・供給する契約を締結していましたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で、以下のような問題が発生し、当初の約定どおりの履行が不可能となりました。この場合、A社はB病院に対し、契約上の責任を負うことなく、納期の延長や契約の解除、契約上の義務の軽減を申し出ることができるのでしょうか。

  1. 人工呼吸器製造に不可欠な外国人専門技術者が、政府の入国制限措置により、A社の工場で勤務することができなくなった。
  2. 人工呼吸器の部品が入手困難となった。

 台湾法上は、契約締結時点で新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が予測できなかったといえる場合であれば、A社のB病院に対する納期の延長や契約の解除が認められることがあります。A社の契約上の義務が軽減されるかについては事案によりますが、たとえば、契約書に記載された納期が新型コロナウイルス感染症の発生前であった場合や、外国人技術者が勤務できない理由がA社の責による場合、または、勤務できなくなった技術者や入手困難となった部品が他で容易に代替できる場合は、A社の請求は認められない可能性もあります。

解説

目次

  1. 契約上のリスクの発生と免責の論拠
  2. 台湾における判例の検討
    1. 不可抗力(Force Majeure)
    2. 事情変更(Change of Circumstances)
  3. 免責を求めるための確認事項と検討順
  4. おわりに

契約上のリスクの発生と免責の論拠

 今年に入り急速かつ広範囲に拡大した新型コロナウイルス感染症により、世界中の企業が、業務時間の短縮、従業員の削減、さらには事業の閉鎖を今も余儀なくされています。そして、企業にとってはやむを得ないこれらの措置は、多くの契約関係にリスクを引き起こすこととなりました。筆者らの元にも、「原材料の価格高騰を理由に、買い手に対して契約価格の変更を求めても、法的な問題は生じないか」「部品サプライヤーの事業が一時的に閉鎖されたため、納期を守ることができない。履行遅滞責任を負うことなく、納品を遅らせることは可能か」といった問い合わせが多数寄せられています。

 このような、やむを得ない事情で契約上の義務を履行できない場合に考えられるのが、不可抗力や事情変更の原則による免責です。

 しかしながら、当事者が「本件は不可抗力もしくは事情変更にあたる」と信じて行動を起こしても、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が不可抗力または事情変更の該当事由であると裁判所に認定されなかった場合は、相手方から、履行遅滞責任その他契約違反に起因する責任を追求されたり、あらかじめ契約で予定された額の賠償金を請求されたりすることにもなりかねません。

 そこで、本稿では台湾法に焦点を当て、台湾民法ではどのような場合に不可抗力や事情変更による免責が認められ、どのような場合に認められないのか、このような事態に直面した場合、当事者はどのように行動すべきかを、関連判例を交えて順に論じていきたいと思います。

台湾における判例の検討

 台湾民法上、新型コロナウイルス感染症から生じた諸問題の解決策を検討するにあたり参考になるのが、2013年以降に複数出された、重症急性呼吸器症候群(SARS)に関連する判例および裁判例です。台湾は、2013年にSARSの感染拡大に襲われ、経済活動に大きな打撃を受けました。そのため、当時の裁判所は、不可抗力または事情変更の原則を使って、SARSの影響を受けた契約の履行問題に対処したのです。今回のコロナ禍における台湾の状況は、SARSが流行していた当時と酷似しています。

不可抗力(Force Majeure)

(1)台湾における不可抗力の実務

 不可抗力は、一般的な契約条項の1つです。強行法規に抵触しない限り、当事者間の合意が尊重されるのは、台湾実務でも変わりません。したがって、契約当事者が免責を求める場合、まずは不可抗力について検討していくことになります。

 台湾民法には、不可抗力の明確な定義はなく、各契約に不可抗力免責が適用されるか否かについては、裁判所が、各契約の不可抗力条項に沿って個別に判断することになります。

 なお、台湾民法においても、日本法(日本民法419条3項)と同様、金銭債務については不可抗力による免責が認められない点には留意すべきです。したがって、金銭債務の免責を求める場合は、後述の事情変更の原則の適用を主張していくことになります。

(2)不可抗力免責の適用が認められた事例、認められなかった事例

 実際のケースを見ていきましょう。まず、売買契約書の納期が政府による感染拡大の発表よりも早い時期に設定されていた場合、売主の履行遅滞責任は不可抗力により軽減されないと述べた最高裁判例があります 1

 他方、別の裁判例では、台湾高等裁判所が事案の詳細を検討し、不可抗力の適用を認めています 2

 この、不可抗力を認めた高等裁判所の裁判例は、控訴人と被控訴人が、システムメンテナンス契約を締結していたという事案でした。契約上は、被控訴人が控訴人のために、一定期間内にメンテナンスサービスを実施することになっていましたが、SARS発生後、控訴人が、作業に従事する被控訴人従業員の感染防止のために十分な措置を講じなかったことから、被控訴人従業員がメンテナンスサービスの実施を拒否し、被控訴人は仕方なく、控訴人に対してサービスの延期を求めました。

 しかしながら、控訴人は、延期を拒絶したばかりか、サービス料金の支払いの際、契約書であらかじめ定められていた損害賠償の予定と同額を、対価から一方的に差し引いて支払ったのです。そこで、被控訴人が、本件メンテナンスサービスの延期は不可抗力によるものであり、控訴人は差し引いた金額を被控訴人に返還すべきであると主張して、訴訟を提起したという経緯です。

 台湾高等裁判所は、SARSの発生は被控訴人にとって突発的で予測不能なものであり、システムメンテナンス契約の不可抗力条項における「ペスト」とみなされるべきであると認定しました。その上で、控訴人が延期を拒絶したことは信義則に反するので、控訴人は、損害賠償分として差し引いた金額を返還すべきであると判示しました。

(3)2つの判決の違い

 この2つの判決の違いは、SARSが実際に契約に与えた影響の有無にあります。

 1つ目の最高裁判例の事案では、契約書に記載された納期はそもそも感染拡大よりも前だったので、納期を守れなかったのはSARSのせいだとは言えませんでした。

 これに対し、2つ目の事案において、被控訴人の従業員がサービスに従事することを拒否した理由は、SARSへの感染を恐れたためでした。したがって、SARSの感染拡大は、履行延期の直接的な原因と言えます。

 さらに、裁判所は、本件の契約締結時点ではSARSの発生を予期できなかったことも指摘し、不可抗力事由の適用を検討するには予測可能性も重要な判断要素であることを明らかにしました。

事情変更(Change of Circumstances)

(1)台湾民法の規定

 では、契約書に不可抗力条項の記載がない場合、または、裁判所が契約不履行の理由を不可抗力によると認めなかった場合、当事者はどのような主張を模索すべきでしょうか。

 この場合は、事情変更の原則の適用を検討することになります。なお、台湾法においても、日本法と同様、当事者の合意を後から生じた理由で覆す事情変更の原則は、容易に適用されるものではありません。しかしながら、以下に紹介するとおり、台湾の判例や裁判例の中には、実際に感染症による契約不履行を事情変更の原則で免責したケースが判例や裁判例が複数存在しています。

 まず、台湾民法227−2条は、「契約の成立後に、契約成立時には予測できなかった事情の変更があった場合、これによって生じた債務の履行が明らかに不公正になるときは、当事者は、裁判所に対し、その支払の増減またはその債務の変更を請求することができる。」と明確に述べています。この点は、事情変更の原則を明文で定めていない日本民法との違いです。

(2)SARSの発生が事情変更にあたるか

 では、条文上の要件を踏まえたうえで、SARSの発生が事情変更にあたるといえるか否かは、どのような事情を考慮して判断されるのでしょうか。

 この点について、裁判所は、「エピデミックが、目的を達成できない程契約に影響を及ぼすとまではいえない場合、SARSは事情の変更とはみなされない」と判示しました。また、「SARSが予測不可能で、感染拡大により当事者が本来の活動を行うことが困難になる場合には、事情変更の原則が適用される」とも述べています。これらの判断要素は、不可抗力の際に用いられた基準と大きく異なるものではありません。

 ここでは、事情変更が認められた判例と認められなかった判例を1件ずつ紹介します。

(3)事情変更が認められなかった事案

 1つ目の判例は、事情変更が認められなかった事案です。このケースでは、上告人は、被上告人が所有する駐車場を賃借して駐車場収入を得ると同時に、駐車場の管理運営を担う契約(以下、「本件役務提供契約」という)を締結しており、被上告人に対し、一定額の月額賃料を支払っていました 3

 しかしながら、SARSの影響により駐車場収入が大きく減少したため、上告人は、本件には事情変更の原則が適用されるとして、一方的に本件役務提供契約を解除したうえで、被上告人には損害賠償請求権がないと主張しました。

 これに対し、最高裁判所は、「駐車場の所在する都市はSARSの感染が拡大した地ではなかったうえ、SARSの感染が収まった後も、駐車場収入の劇的な上昇は起きなかった」ことを指摘し、SARSは本件役務提供契約の基盤を脅かすものではないと述べ、事情変更の原則は適用せず、被上告人による相当額の賠償金請求を認めました。

(4)事情変更が認められた事案

 他方、高等裁判所が事情変更を肯定したケースは、買主と売主が耳式体温計の供給契約を結んだ事案でしたが、SARSの感染拡大によって耳式体温計が品薄になり、売主は買主に商品を販売することができなくなったというものでした。裁判所は、両当事者が売買契約を締結した時点では、台湾がSARSの流行地域になるという事実を予測することはできず、売主に当初の義務を履行させることは不公正であると判断し、事情変更の原則を適用しました 4

(5)裁判所はどこに着目しているか

 以上のように、裁判所は、各契約の目的達成がSARSによって妨げられたか否かに着目していたことがわかります。1つ目のケースでは、裁判所は、駐車場のロケーションおよびSARS終息後の駐車場収入という2つの要素を用いて、駐車場収益の減少におけるSARSの寄与度は低いと判断しました。

 これに対し、2つ目のケースにおいては、裁判所は、予測できなかったSARSの急激な拡大により契約目的である耳式体温計が品薄になったことに注目し、事情変更の適用を認めています。

 したがって、コロナ禍において契約上の義務の履行が困難になった場合、当事者らは、その履行困難の原因が新型コロナの感染拡大にあると言えるかを検討し、その寄与度を示す事実と証拠を収集しておく必要があるといえます。

免責を求めるための確認事項と検討順

 以上の議論をまとめると、台湾法を準拠法とした契約上の義務の履行が新型コロナウイルスの影響で困難になった場合、当事者は、以下の順に対処法を検討していくべきということになります。

(1)契約書をチェックして、不可抗力条項があるかどうかを確認する。

(2)契約書に不可抗力条項がある場合

① 契約の履行を妨げている原因と契約書の記載を検討する

 現に契約の履行を妨げている原因を明確にし、それが「不可抗力に該当する事項」として契約書の記載に含まれているかどうかを検討します。

 契約書の中には、「疫病の流行」を不可抗力事由の例として記載しているものもあれば、「政府による命令」をあげているものもあるので、原因の特定は重要です。

 たとえば、「病気の感染」や「感染への恐怖」が履行を妨げる要因であれば、「疫病の流行」による債務不履行と言いやすいでしょうし、感染拡大を防止するために政府が行っている「ロックダウン」などの政策や規制変更の影響による場合は、「政府による命令」が原因であるとの主張が認められやすくなります。

 仮に、履行妨害原因と完全に一致する事由が契約書に列挙されていなかったとしても、記載された不可抗力の定義(例:「当事者の責に帰すことができない事由または当事者の合理的な支配を超えた事由により、義務の履行が停止、中断、遅延した場合」等)に原因事由が該当するとして、免責を主張することも考えられます。

② 手続的要件の確認

 次に、契約書の不可抗力条項を注意深く読み、免責を主張するために充足しておくべき手続的要件がないかを確認します。

 たとえば、不可抗力条項の中には、不可抗力該当事由が生じた後一定期間内に、影響を受けた当事者から他方当事者に通知することや、不可抗力事由が生じたことの証明を提出することを条件としているものがあります。また、影響を受けた当事者に対し、是正措置や、影響を緩和するための措置、代替措置を義務付けていることもあります。

 この場合、免責を主張したい当事者にとっては、通知期間を遵守し、新型コロナが契約にどう影響したかの証拠を収集しておくこと、緩和措置や代替措置等の可能性を検討しておくことが重要です。他方、免責を求められた側は、相手方が不可抗力条項の手続的要件に従っているかを確認していくことになります。

③ 権利の行使

 契約書に記載された要件をすべて満たしていると認められれば、影響を受けた側の当事者は、履行の延期や契約の終了など、契約で許可された権利を行使することができます。

(3)契約に不可抗力条項がない場合、または、不可抗力条項は存在するものの、感染症やそれに起因する事象が含まれていなかった場合

 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた当事者は、事情変更の原則に基づく主張を検討することができます。ただし、この場合は、台湾民法227−2条の要件に基づき、契約締結時に新型コロナウイルスに関連する影響が予測できなかったかどうかを最初に確認しなければなりません。

 そのうえで、契約上の義務を履行することは本当にできないのか、義務の履行は可能であっても、それが著しく不当または不公正といえるかについて、新型コロナウイルス感染症の寄与度を示す事実を元に検討していくことになります。

おわりに

 以上のように、台湾の裁判所は、不可抗力または事情変更のいずれを適用するかについては、事案に応じて個別に判断しています。したがって、新型コロナウイルス感染症の影響で契約の履行に支障が生じた場合、不可抗力や事情変更の原則が適用されるかを判断するにあたっては、最新の裁判所の事例判断を十分に検討する必要があります。
 これらの検討は、台湾法実務の専門家でなければ困難ですので、事前に台湾法の資格を持った弁護士に相談し、そのメリットとリスクを十分に把握した上で対応することが望ましいでしょう。

(執筆:翁 乙仙 外国法事務弁護士・台湾弁護士、企画・編集・翻訳:齊藤 千尋 弁護士)


  1. 臺灣高等法院97年重上更(一)字第148號民事判決upheld by 最高法院99年台上字第2434號民事裁定 ↩︎

  2. 臺灣高等法院93年上易字第419號民事判決 ↩︎

  3. 最高法院95年台上字第1938號民事判決 ↩︎

  4. 臺灣高等法院93年國貿上字第6號民事判決 ↩︎

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