業務委託契約でトラブルになりやすい両当事者の義務 - 裁判例と条項例を解説

取引・契約・債権回収

 業務委託契約を巡る裁判例では、両当事者の義務としてどのような内容を主張されることがありますか?また、裁判となった場合に備えて、どのようなことに注意して業務委託契約書を作成・レビューすべきかを教えてください。

 業務委託契約では、委託業務を実施することに加えて、一定の手順や方法で業務を実施することが受託者の義務であると主張されることや、委託業務の実施に委託者が協力することが委託者の義務であると主張されることがあります。
 業務委託契約書の作成・レビューにあたっては、当事者の義務については、一般的な注意義務を規定するにとどまらず、個々の取引の文脈・内容に応じて、各当事者が実施すべき内容を具体的に規定することを検討するとよいでしょう。
 もっとも、裁判となった場合には、契約条項の解釈にあたってさまざまな事情が考慮に入れられますので、条項の文言がすべてではないということには注意が必要です。

解説

目次

  1. 業務委託契約を巡る紛争とは
  2. 業務を実施するうえで払うべき注意
    1. 裁判例
    2. 業務委託契約作成上の工夫
  3. 委託者側の協力
    1. 裁判例
    2. 業務委託契約作成上の工夫
  4. おわりに

業務委託契約を巡る紛争とは

 業務委託契約書とは、その名のとおり、委託者が何らかの業務を第三者(受託者)に委託(外注)することを内容とする契約書です。委託する業務の内容等によって、「清掃業務委託契約書」「ソフトウェア開発委託契約書」などさまざまな類型があります。
 業務委託契約書作成上の一般的な注意点は、「業務委託契約書の作成・レビューにおける留意点」で説明したとおりです。

 今回の記事では、委託業務の実施について払うべき注意など、付随義務の有無や内容が争点となった裁判例を取り上げて、どのように契約解釈がなされたかを紹介します。さらに、それを踏まえて、契約書作成にあたって留意すべき事項を解説します。

 業務委託契約に関して起きやすいトラブルの概要については、「業務委託契約で起きやすいトラブルとは? 5つのポイントを紹介」をご覧ください。

業務を実施するうえで払うべき注意

裁判例

 業務委託の目的は、単に業務を実施するだけでは達成されず、その業務の実施の方法や内容が重要である場合もあります。

 そのような事例として、次のような裁判例があります。

東京地裁平成26年10月27日判決 1

  • 業務委託契約の内容
    鋼管杭の製造・販売等を行う会社が、その製造する鋼管杭の工法性能について各種試験・解析を実施し、国土交通大臣の認定を取得すること等の業務を委託する契約

  • 事案の経過
    受託者は、各種試験や解析を実施し、所定の審査機関への性能評価申請を行ったものの、委託者は、受託者が行った性能評価申請を取り下げ、その後、別の会社を通じて試験や解析を再実施し、大臣認定を取得した。

  • 裁判所の判断
    委託者が、解析結果と試験結果が整合しないことについて、審査機関の担当委員から全般的な見直し等のアドバイスを受けていたこと等を認定し、委託業務の履行がなされていなかったものと判断した。

 この事案では、裁判所は、大臣認定を受けられるように適切な試験および解析を行うことや、委託者に対して適切な助言を行うことが委託業務の内容とされていたと解釈しました。目的である大臣認定取得に役立つ適切な内容とすることまでを含めて受託者の義務としたわけです。

 これは委任契約であれば、委託された事務についての善管注意義務(民法644条)のあらわれといえるでしょう。業務委託契約が請負契約にあたる場合も、請負人の義務は、仕事を完成することに尽きるものではなく、その履行に付随する義務を認定されることも少なくありません。
 たとえば、次のような裁判例があります。

東京地裁平成22年3月8日判決・判タ1353号138頁

  • 事案の概要
    ごみ処理施設である溶融施設の設備工事に関する請負契約に基づいて、工事契約代金の請求がなされた。受託者が当該施設を完成させ、委託者に引き渡した後に火災事故が発生した。

  • 争点
    委託者は、受託者側から委託者側に対して施設内の機械等の操作について十分な情報提供がなされていなかったことにも原因があったと主張し、火災事故の発生に関して受託者側の損害賠償責任の有無が争点となった。

  • 裁判所の判断
    受託者側に対象の施設の機械の操作等について受託者側の教育指導義務違反を認定し、結論として、受託者側の工事契約代金から火災についての損害賠償責任相当額が減額された。

 裁判所は、設備工事の完成という本来的な仕事のみならず、それに付随して教育指導をすることを受託者側の契約上の義務として認めたわけですが、その理由として、対象契約の基となった発注書に次のような記載があったことを指摘しています。

「施設に配属される職員に対し、本件施設の円滑な操業に必要な機器の運転・管理・取扱いについて、『十分な教育指導』をしなければならない」

業務委託契約作成上の工夫

 業務委託契約書では、受託者側が一般的に善管注意義務を負うことを記載した条項はよく見られます。
 業務を実施するうえで特に注意を払うべき事項があるなど、一般的な内容を超えて、個別の要注意事項について義務を明確にしておきたい場合には、東京地裁平成22年3月8日判決の発注書の記載のように、その内容を説明する条項を、一般的な善管注意義務の条項とは別に設けるとよいでしょう(反対に受託者側からすると、引き受けられない事項があれば義務の範囲外であることを明記するといった対応が考えられます)。

 どのような事項に注意を払うべきかは、取引の文脈によりますが、同種類型の取引であれば、ある程度共通します。
 たとえば、建築関係に関する取引では適正な施工による工事の品質確保が要請され、ソフトウェア開発など当事者間に知識の差がある契約では委託者側の意向を適切に汲んだ案件管理が要請されるなどといったことです。

 ソフトウェア開発契約では、次のようにプロジェクトマネジメントに関する規定が設けられることがあります。

第◯条(プロジェクトマネジメント義務)
受託者は、本件ソフトウェアの開発を全体として管理する立場にあり、開発手順や作業工程の作成、連携する他のソフトウェアとの調整も含めた進捗状況の管理、開発を阻害する要因が発見された場合の対応を行う義務を負う。

 このように、取引実施上の注意事項について契約書で定めることを、すべての事項について行うのは現実的ではなく、仕様書や指示書などの他の文書に委ねるべき事項もあるでしょう。実際上は、優先順位をつけて検討することになるものと思います。

委託者側の協力

裁判例

 業務委託契約の適正な遂行のためには、委託者側の協力が大事になる場合があります。たとえば、次のような裁判例があります。

東京地裁平成20年9月11日判決・判タ1291号228頁
  • 業務委託契約の概要
    厚生年金基金の解散のため、委託者は、受託者との間で、解散認可申請用に最低積立基準額や残余財産分配額等を計算する事務などの業務を委託する契約を締結。

  • 事案の経過
    受託者は業務を実施し、計算データを提供したが、数理計算に用いられた解散月の再加入者の人数等に誤りがあったことが原因で、計算データには誤りがあった。そのため、当該厚生年金基金は、残余財産分配額が不足し、本来よりも過大な金額を支払うことを余儀なくされた。

  • 裁判所の判断
    当該契約は、加入員記録の作成・管理に関しては基金が行い、受託者は提供されたデータを利用して必要な数理計算を行うというものだったとした。そのうえで、受託者は、厚生年金基金側に対して、データ作成要領を交付しており説明に不足があったなどとは認められないから、善管注意義務違反はなかったとした。

 この事案では、受託者は客観的に正しい計算の結果を保証したものではなく、計算に用いる元となるデータとして適切な内容を提供するのはあくまで委託者側の役割であるとしたということです。
 このように、委託業務の履行の前提として、委託者に一定の行為が求められる場合があります。
 たとえば、監査業務の委託で経理書類の提供が前提となるように、よく見られるのは委託者による情報提供です。委託者においても適切な役割を果たすことが委託業務の遂行に必要な場合には、その内容に応じた規定を設けるとよいでしょう

業務委託契約作成上の工夫

 契約条項としては、次のような規定を置くことが考えられます。

第◯条(情報提供義務、協力義務)
委託者は、受託者の求めに応じて、委託業務の履行に必要な情報を速やかに提供するほか、受託者による委託業務の円滑かつ適正な処理のために、合理的に必要な協力を行うものとする。

おわりに

 本記事では、業務委託契約に関して、両当事者の義務が争点となった裁判例を取り上げ、契約解釈と、それを踏まえ契約書作成にあたって留意すべき事項や条項例について解説しました。

 業務委託契約の内容を検討する際には、紛争となった場面や相手方当事者との関係のみならず、契約期間中のオペレーションや下請代金支払遅延等防止法ほかさまざまな規制との整合性も考慮する必要があります。

 また、本記事では条項作成上の工夫を説明しましたが、実際の裁判では、契約書の文言に自動的に従って解釈が決まるわけではなく、取引の背景事情・目的や当事者の属性など、さまざまな事情が考慮されたうえで、判断がなされます。
 契約書の条項が常に絶対的な判断基準となるということではありませんので、この点は誤解されないようにしてください

 本記事で示したように、契約交渉段階の行為規範としては、争いの対象となりやすい事項を把握したうえで条項作成に活かすとともに、取引の内容を精査して、実態に即した契約書を作成することが大切であるといえるでしょう。


  1. 平23(ワ)38461号等、ウエストロー・ジャパン2014WLJPCA10278002 ↩︎

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