業務委託契約でトラブルになりやすい契約の法的性質(請負・委任) - 裁判例と条項例を解説

取引・契約・債権回収

 業務委託契約に関するトラブルのうち、契約の法的性質を巡る紛争としてはどのようなものがありますか。また、裁判となった場合に備えて、どのようなことに注意して業務委託契約書を作成・レビューすべきかを教えてください。

 契約の法的性質を巡って争われた事例としては、受託者側の義務履行が果たされていたかどうかとの関係で、前提としてその義務の内容を認定するために、請負契約と委任契約のいずれかが争われる場合や、いずれの契約に関する民法の規定を適用するかを巡って、法的性質が議論される場合があります。契約解釈上の争いを可能な限り排除するには、業務委託契約の法的性質を確認する条項を契約書中に設けておく方法が考えられます。
 以上と異なり、請負契約または委任契約のいずれであるかとは関係なく、問題となる契約の中身を精査される場合もあります。このような場合は、当事者の義務の内容や対価との関係などについて個別・具体的に記載しておくとよいでしょう。
 もっとも、裁判となった場合には、契約条項の解釈にあたってさまざまな事情が考慮に入れられますので、条項の文言がすべてではないということには注意が必要です。

解説

目次

  1. 業務委託契約を巡る紛争とは
  2. 契約の法的性質が争われる理由と裁判例
  3. 業務委託契約作成上の工夫
  4. 契約の性質決定についての注意点
  5. 委任契約または請負契約のいずれとも分類されない場合もあることに注意
  6. 契約書全体を通じて法的性質を意識する
  7. おわりに

業務委託契約を巡る紛争とは

 業務委託契約書とは、その名のとおり、委託者が何らかの業務を第三者(受託者)に委託(外注)することを内容とする契約書です。委託する業務の内容等によって、「清掃業務委託契約書」「ソフトウェア開発委託契約書」などさまざまな類型があります。
 業務委託契約書作成上の一般的な注意点は、「業務委託契約書の作成・レビューにおける留意点」で説明したとおりです。

 今回の記事では、業務委託契約を巡る実際の紛争において、契約の法的性質が争点となった裁判例を取り上げて、どのように契約解釈がなされたかを紹介します。さらに、それを踏まえて、契約書作成にあたって留意すべき事項を解説します。

 業務委託契約に関して起きやすいトラブルの概要については、「業務委託契約で起きやすいトラブルとは?5つのポイントを紹介」をご覧ください。

契約の法的性質が争われる理由と裁判例

 業務委託契約は、通常、民法上の典型契約としては請負契約または委任契約のいずれかに分類されます。請負契約では、受託者が「仕事の完成」を約束するのに対して、委任契約では、受託者は「法律行為を行うこと」を約束することになり(準委任契約の場合は「事実行為を行うこと」)、受託者側の義務の程度が異なります。

 受託者側の義務履行が果たされていたかどうかとの関係で、前提としてその義務の内容を認定するために、請負契約と委任契約のいずれかが争われることがあります。また、いずれの契約に関する民法の規定を適用するかを巡って、法的性質が議論されることもあります(たとえば、委託者側が委任契約に関する民法651条の適用に基づく契約の解除を主張する場合)。

 このような点が争われた裁判例として、たとえば次のような2つの裁判例があります。

東京地裁平成29年1月13日判決 1

  • 事案の概要
    委託者である宗教法人が、納骨堂の開苑のための経営許可申請の業務を委託するため、「工事請負書」という題名の契約を受託者と締結。結果的に経営許可を取得できなかったが、受託者から報酬残金の支払請求がなされた。

  • 当事者の主張
    委託者側は、同契約が請負契約であるから、経営許可の取得という仕事を完成しなければ報酬残金は発生していないと反論した。

  • 裁判所の判断
    経営許可が最終的に関係官庁の裁量で決定され、外部的要素によって許可が下りないこともあり得ること等を理由として、対象の契約の法的性質を準委任契約と判断した。

東京地裁平成22年3月30日判決 2

  • 事案の概要
    女性向けファッション誌の編集に関する業務委託契約について、委託者より契約解除を告げられた後の期間について、受託者が報酬支払を請求した。

  • 当事者の主張
    委託者は解除による契約終了を根拠づけるため、対象の契約に対して民法651条の適用を主張した。

  • 対象の契約の内容
    「委託者及びその関連会社の制作及び編集する雑誌に関して、その制作、編集に係る総合的な管理、提言等」を業務とし、業務の範囲には、委託者の「取締役編集局長に相当する業務」や「雑誌の編集長に相当する業務」が含まれていた。

  • 裁判所の判断
    対象契約は雑誌の制作、発行という結果のみを求めるものというよりは、信頼関係を基礎として委託者の編集部の構成員を指揮・管理して、雑誌の制作を遂行する過程に本質がある契約であるとして、当該契約を準委任契約と認定した。

業務委託契約作成上の工夫

 これらの裁判例を踏まえると、解釈上の争いを可能な限り排除できるよう、業務委託契約の法的性質を確認する条項を契約書中に設けておくことを検討してもよいでしょう。

 義務の程度の強弱のみに着目すれば、委託者側からは、「仕事の完成」についてまで責任を果たしてもらうために請負契約の選択を主張することが多くなり 3、反対に、受託者側からは、委任契約の選択を主張することが増えると考えられます。

 たとえば、準委任契約であることを確認する条項例は、次のとおりです。

第◯条(本契約の目的・性質)
委託者および受託者は、委託者の事務処理の補助・支援等を目的として、次条に記載する業務を委託するために、民法上の準委任契約として本契約を締結することを確認する。

契約の性質決定についての注意点

 ここで、契約の性質を確認する際には、対象契約が委任契約または請負契約のいずれかということを記載するだけでは、説得力として十分ではないということを留意すべきです。
 上記裁判例でも、契約書名と契約書の性質は直接に結び付いていません。そのため、コンサルティング契約やソフトウェア開発委託契約書などというように一般的には同じ名称の契約であっても、請負契約または委任契約のいずれと認定するかは、個別の事案ごとに変わってきます。

 たとえば、次の2つの裁判例では、一見類似のシステム開発に関する契約の法的性質に関して異なる判断をしています。

東京地裁令和2年9月24日判決 4

  • 業務委託契約の概要
    システム構築やプログラム等の業務委託契約

  • 対象のシステム
    イベントの企画・運営等を営む会社がクラウド上でのイベント管理に用いるシステム

  • 法的性質についての裁判所の判断
    準委任契約

東京地裁令和2年7月27日判決 5

  • 業務委託契約の概要
    システム開発作業の一部を外注するための契約(契約書上は、「準委任契約」という名称)

  • 対象のシステム
    ネイルサロン会社の業務用システム

  • 法的性質についての裁判所の判断
    請負契約

 前者の事案では、裁判所は、契約書中に準委任契約であり、成果物の完成についての義務を負わない旨の規定が設けられていたことに加え、契約締結に先立つ協議で、受託者側が請負契約ではなく準委任契約の形式での契約締結を要求したこと等を受けて、このような規定が設けられたこと等を考慮しています。
 これに対して、後者の事案では、裁判所は、開発代金の支払期日が、製作対象であったシステムの納品日が属する月の翌月末とされていたことを考慮しています。

 裁判所では、当事者の属性、作業の内容・性質、交渉や取引の経緯、代金の支払条件など、さまざまな事情を考慮して、当事者の合理的意思解釈として、取引の目的が「仕事の完成」と「法律行為(あるいは法律行為でない事務)の委託」のいずれにあると見るべきかを審査していると理解するべきでしょう。
 そのため、解釈の指針として説得性を持たせられるようにするためには、単純に契約の性質がいずれであるかを規定するのではなく、取引の目的と結び付けて具体的に記載をするように心がけることが望ましいと考えます。

委任契約または請負契約のいずれとも分類されない場合もあることに注意

 以上と異なり、裁判例の中には、業務委託契約の法的性質が請負契約または委任契約のいずれであるかとは関係なく、問題となる契約の中身を精査したものも見られます。

東京地裁平成29年1月31日判決 6

  • 事案の概要
    ゲームソフトの制作作業を行うことと、それに対する報酬支払を内容とする契約に基づいて作業が進められたが、ゲームソフトは予定日までに完成せず、途中で取引が終了した。

  • 争点
    未払報酬請求に関連して、契約の法的性質が準委任契約か請負契約かが争われた。

  • 裁判所の判断
    対象の契約について、ゲームソフトの完成までの間は、受託者が開発作業の一部を行うことに対して委託者は毎月の報酬を支払い、報酬の最後の支払は、ゲームソフトが完成した際に行うという内容だったと解釈した。このように作業と対応する対価を個別に定めていたことから、裁判所は、対象の契約が請負契約または準委任契約のいずれかという法的性質の決定によって、訴訟の結論が決せられるものとは考えづらいとして、契約の法的性質についての判断には深入りしなかった。

 業務委託契約であっても、紋切り型に請負契約または委任契約のいずれかに分類されるとは限らず、むしろいずれの契約にも該当しない無名契約のようなものも存在します。
 そのような場合には、法的性質論にとらわれず、当事者の義務の内容や対価との関係などについて個別・具体的に記載しておいたほうが、後で解釈が争われた際に役立つと考えられます。

契約書全体を通じて法的性質を意識する

 業務委託契約の法的性質は、直接的には受託者の義務の程度や民法上の規定の適用の有無を左右しますが、これらの問題に限らず、マクロ的に見ればその取引での当事者間の責任分担(リスク分配)の理解に関わります。

 そこで、契約書全体を通じて、対象の取引が委任契約または請負契約のいずれの性格に近いものかを意識しながら条項を作成することが望ましく、そうすることで、業務委託契約書の法的性質に関する考え方にも一貫性を持たせることができるでしょう。

おわりに

 本記事では、業務委託契約に関して、契約の法的性質が争点となった裁判例を取り上げ、契約解釈と、それを踏まえ契約書作成にあたって留意すべき事項や条項例について解説しました。

 業務委託契約の内容を検討する際には、紛争となった場面や相手方当事者との関係のみならず、契約期間中のオペレーションや下請代金支払遅延等防止法ほかさまざまな規制との整合性も考慮する必要があります。

 また、本記事では条項作成上の工夫を説明しましたが、実際の裁判では、契約書の文言に自動的に従って解釈が決まるわけではなく、取引の背景事情・目的や当事者の属性など、さまざまな事情が考慮されたうえで、判断がなされます。
 契約書の条項が常に絶対的な判断基準となるということではありませんので、この点は誤解されないようにしてください

 本記事で示したように、契約交渉段階の行為規範としては、争いの対象となりやすい事項を把握したうえで条項作成に活かすとともに、取引の内容を精査して、実態に即した契約書を作成することが大切であるといえるでしょう。


  1. 平27(ワ)6239号、ウエストロー・ジャパン2017WLJPCA01138003 ↩︎

  2. 平21(ワ)16895号、ウエストロー・ジャパン2010WLJPCA03308012 ↩︎

  3. もっとも、仕事の完成までが義務内容に含まれるかどうかというのは、一面的な観察にすぎず、実際はそれ以外の要素も考慮して契約の法的性質についての主張を選択することになると考えます。 ↩︎

  4. 平28(ワ)28934号、ウエストロー・ジャパン2020WLJPCA09248012 ↩︎

  5. 平29(ワ)23243号等、ウエストロー・ジャパン2020WLJPCA07278004 ↩︎

  6. 平27(ワ)4426号等、ウエストロー・ジャパン2017WLJPCA01318011 ↩︎

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