業務委託契約でトラブルになりやすい途中解約 - 裁判例と条項例を解説

取引・契約・債権回収

 業務委託契約を巡る裁判例では、途中解約について、どのような争いが生じることが多いですか。また、裁判となった場合に備えて、どのようなことに注意して業務委託契約書を作成・レビューすべきかを教えてください。

 途中解約については、委託者側の事情のみによる解除の可否が争点となりやすいといえます。
 業務委託契約書の作成・レビューにあたっては、受託者側の業務委託契約継続に対する期待を保護する必要性の有無に応じて、任意解除の排除を規定するとよいでしょう。
 もっとも、裁判となった場合には、契約条項の解釈にあたってさまざまな事情が考慮に入れられますので、条項の文言がすべてではないということには注意が必要です。

解説

目次

  1. 業務委託契約を巡る紛争とは
  2. 取引解消時の精算が争点となった裁判例
    1. 委託者側の任意解除が認められるかに関する最高裁判決
    2. 民法651条による任意解除が問題となった裁判例
  3. 業務委託契約作成上の工夫
  4. おわりに

業務委託契約を巡る紛争とは

 業務委託契約書とは、その名のとおり、委託者が何らかの業務を第三者(受託者)に委託(外注)することを内容とする契約書です。委託する業務の内容等によって、「清掃業務委託契約書」「ソフトウェア開発委託契約書」などさまざまな類型があります。
 業務委託契約書作成上の一般的な注意点は、「業務委託契約書の作成・レビューにおける留意点」で説明したとおりです。

 今回の記事では、委託業務を途中で終了せざるを得なくなり、契約の任意解除の可否が争点となった裁判例を取り上げて、どのように契約解釈がなされたかを紹介します。さらに、それを踏まえて、契約書作成にあたって留意すべき事項を解説します。

 業務委託契約に関して起きやすいトラブルの概要については、「業務委託契約で起きやすいトラブルとは? 5つのポイントを紹介」をご覧ください。

取引解消時の精算が争点となった裁判例

委託者側の任意解除が認められるかに関する最高裁判決

 業務委託契約の履行の過程で、委託者と受託者の間で食い違いが生じ、取引を途中で終了することとなり、その精算を巡って紛争化することがあります。
 このような紛争では、契約を途中で終了させることが適法かどうか、当事者が主張する契約解除が有効かどうかといった点が問題となります。
 特に、委任契約について定める民法651条は、特段の理由がなくても委任者に解除を認めていることから、同条に基づく解除の可否について争われることがよく見られます。
 民法651条に基づく解除については、判例(最高裁第二小法廷昭和56年1月19日判決・民集35巻1号1頁)の下、次のような解釈が実務上定着しています。

  • 委任契約が、委任者の利益のみならず、受任者の利益のためにもされた場合には、解除は制限される。
  • ただし、やむを得ない事由がある場合や、解除権を放棄していないとみるべき事情がある場合は、解除できる。

民法651条による任意解除が問題となった裁判例

 民法651条による任意解除の可否が争点となる紛争では、上記の判例の解釈に基づいて、受託者の利益のための契約であるか、解除権放棄があったかに関して、当事者双方から主張がなされます。

 たとえば、次のような2つの裁判例があります。

東京地裁平成13年7月25日判決 1 

  • 事案の概要
    委託者であるホテルのオーナーは、ホテルの管理・運営等を委託することを内容とする受委託契約に基づき、受託者に対して対象のホテルの運営・管理を委託していた。当該契約は、契約期間をホテルの営業開始後20年間と定め、契約期間中であっても相手方に契約違反等があった場合に解除することができること等を定めていた。
    委託者は、受託者によるホテルの運営・管理等について営業開始から5年ほど経過したころから不満を述べるようになり、最終的に、営業実績や衛生管理等に関する問題を指摘し、契約の解除およびホテルの明渡し等を求めた。

  • 裁判所の判断
    受託者によるホテルの運営・管理等ついて、委託者の主張するような事由は解除事由とならないとした。
    そのうえで、委任契約に関する民法651条による解約の主張については、受委託契約について委任契約に近い側面があることを肯定しつつも、契約期間が長期であることや受託者側においてホテルの営業収益の一部を受領するものとされていたことなどから、受託者側の独自の利益を目的とする契約になっているとして、651条の適用はなく、同条による契約解除はできないと判断した。

静岡地裁沼津支部平成26年4月16日判決・判時2308号75頁

  • 事案の概要
    多数のオーナーが存在する別荘分譲地について、各オーナーとの間で管理契約を締結し、当該分譲地の不動産管理(道路、排水路や公共施設の保守管理等)の委託を受けていた受託者が、一部オーナーに対して管理費等を請求した事案。
    一部オーナーは、水道、道路等のインフラは全て公営化されていることから、受託者による本件委託業務の提供は必要ないとして、管理契約の解除を主張した。

  • 裁判所の判断
    管理契約について、別荘地内の不動産管理を委託する準委任契約であると解釈しつつも、管理契約は多くのオーナーに対して別荘分譲地全体の管理を行うという受託者側の事業上の利益のための側面も有していたこと、管理契約では物件を第三者に譲渡する場合に譲受人に新たな管理契約を締結させなければならないとしていたこと、一部オーナーのみの解除を認めると、管理費を負担するオーナーとの間で不公平が生じること等を理由として、オーナー側の民法651条による解除の主張を認めなかった。

 以上の2つの事案では、裁判所は、対象の契約を継続することについて受託者側の利益を認め、解除を認めませんでした。これに対して、次の事案では、受託者側の利益を肯定しつつも、契約の解除を認めました。

東京地裁平成26年2月5日判決・判時 2229号26頁

  • 事案の概要
    委託者は、受託者に対し、その所有する高級車の貸出しについて、貸出窓口やレンタル料回収等の業務を委託する契約を締結した。委託者は、その後、受託者側の業務遂行について諸々の問題を指摘し、解除を主張したため、受託者は、委託者に対して、契約残存期間中の報酬相当額等の損害賠償を請求した。

  • 受託者の主張
    受託者は、元々、交通事故の被害車両の修理が済むまでの間、高級車をレンタルするレンタル事業を営んでおり、その事業拡大のため、出資者を募っていた。受託者の財務状況がよくないことから、出資を受ける形とはならなかったが、本件業務委託契約は、高級車両の貸出について業務委託を受けることで、受託者のレンタル事業を拡大することを図るという目的も有していた。そして、3年間の期間の定めのある契約であったことから、委託者側の解除権は放棄されていた。

  • 裁判所の判断
    委託者の指摘する受託者の業務遂行上の問題について、解除原因にはあたらないとした。そのうえで、民法651条に基づく任意解除に関しては、本件業務委託契約では、車両の貸出の稼働率が一定水準を下回った場合の解除を認めるなど、債務不履行以外の原因でも解除を認めていたこと等を理由として、委託者による解除権の放棄は認めなかった。結論として、民法651条による解除権の行使を認めた。ただし、委託者に対して、受託者が主張する報酬相当額の一部等を損害として支払うことを命じた。

業務委託契約作成上の工夫

 上記の東京地裁平成26年2月5日判決では、任意解除の可否や解除権の放棄に関する条項についての主張はなされておらず、いずれの契約でもそのような条項は設けられていなかったと思われます。そのような条項が設けられていれば、解釈上の争いを少なくすることができたかもしれません。
 たとえば、以下のような条項案が考えられます。

第◯条(目的)
本契約は、受託者をして◯◯を実施させ、◯◯を図ることを目的とするとともに、受託者にとっての◯◯を実現することを目的とする。

第◯条(任意解除)
委託者は、民法651条の規定にかかわらず、本契約が受託者の◯◯を目的とすることに鑑み、第◯条に定めるほかは、本契約を解除することができないものとする。

 ここでは、任意解除の可否や解除権放棄の有無のみを記載するのではなく、前述した民法651条に関する最高裁の判断枠組みに留意して、受任者の利益を目的とする契約であるかどうかを説明し、受任者の利益に関連づけて任意解約の可否を記述すると、解釈上もより説得性を持たせることができるでしょう。

 各裁判例で見られるように、実際は取引の背景事情を踏まえて、契約の目的や当事者の合理的意思が解釈されますので、このような条項が存在したとしても、直ちにその条項に沿った解釈が採用されるとは限らないことには留意が必要です。
 また、実務上は契約期間の定めを置くのみで、解除権放棄については何ら言及しない契約も広く用いられています。そのため、特段の必要がなければ、任意解除については具体的な条項は設けずにあえて解釈に委ねるという判断もあり得るでしょう。
 ここでの説明は、途中解約について明確にしておかなければならないような場合を想定しているとご理解ください

おわりに

 本記事では、業務委託契約書に関して、解除の可否が争点となった裁判例を取り上げ、契約解釈と、それを踏まえ契約書作成にあたって留意すべき事項や条項例について解説しました。

 業務委託契約書の内容を検討する際には、紛争となった場面や相手方当事者との関係ののみならず、契約期間中のオペレーションや下請代金支払遅延等防止法ほかさまざまな規制との整合性も考慮する必要があります。
 また、本記事では条項作成上の工夫や条項例を説明しましたが、実際の裁判では、契約書の文言に自動的に従って解釈が決まるわけではなく、取引の背景事情・目的や当事者の属性など、さまざまな事情が考慮されたうえで、判断がなされます。契約書の条項が常に絶対的な判断基準となるということではありませんので、この点は誤解されないようにしてください

 本記事で示したように、契約交渉段階の行為規範としては、争いの対象となりやすい事項を把握したうえで条項作成に活かすとともに、取引の内容を精査して、実態に即した契約書を作成することが大切であるといえるでしょう。


  1. 平12(ワ)12086号等、ウエストロー・ジャパン2001WLJPCA07250005 ↩︎

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