法務の英語メール 課題克服レッスン
第6回 英語メールで外国人弁護士と見積り額の減額交渉をする際の表現
国際取引・海外進出
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目次
XYZ社の法務部に所属する先輩社員の佐藤さんと後輩社員の山田さんのOJTを通じて、TPOに応じた程よい英文表現をご紹介する本連載も6回目です。
今回のテーマは、外国法律事務所から受領したリーガルフィーの見積金額につき減額交渉をしたいときに、メールを送る場合の心構えや書き方について、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業・シンガポールオフィス所属の前田敦利弁護士が解説します。
シンガポール子会社の現地人事マネジャー採用に関して、雇用契約の準備にかかるリーガルフィーの見積もりを現地法律事務所から受領した山田さん。想定していた金額より高額なため、減額交渉をするためのメールでの表現方法を、佐藤先輩に相談することにしました。
値段が高いことを端的に伝える表現
山田さん:
シンガポールの人事マネジャーの雇用契約の件について、リーガルフィーの見積もりがきたのですが、思っていたよりも高い金額が来てしまいました。もう少し下げてもらう必要があるのですが、どういう表現をすれば、失礼にならずこちらの希望をご理解いただけるかわかりません。相談に乗っていただけますか。
佐藤先輩:
もちろん結構ですよ。
山田さん:
昨晩届いたメールによれば、業務範囲と依頼目的の確認を踏まえて、これまでの弊社との関係に鑑みたディスカウント提案もいただいています。ただディスカウントの結果がUSD 8,000という金額です。
佐藤先輩:
内容をもう少し見ないと何とも言えませんが、今回の案件でUSD 8,000というのは想定よりも上に外れていますね。私も同感です。
山田さん:
どのような書き出しがよいのでしょうか。
佐藤先輩:
リーガルフィーを提案する前提としての業務範囲や、依頼目的の理解の確認などの説明をしてくださっているので、まずはご提案いただいた内容を理解している旨を明らかにした方が良いですね。
という文でまずは先方からのディスカウント提案についての謝辞を書くのが良いでしょう。
山田さん:
まずはお礼を伝えるということですね。Thank you以外の感謝の表現としてgratefulというのもあるのですね。
佐藤先輩:
中学以降の学校英語で見たことはあったものの使えた記憶はないのですが、感謝の表現として便利ですよね。そのほかWe appreciate your thoughtfulness in …という言い方もできます。
続いて値段が高いことを端的に示す表現として次はいかがでしょうか。ビジネスサイドからフィーのレベル感について示唆を受けている、という説明も付すパターンです。
山田さん:
そんなにはっきり言ってしまってもよいものでしょうか。
佐藤先輩:
ビジネス文化の違いもあるでしょうけど、金銭面の事柄についてメールのやり取りの中で「空気を読んでほしい」と期待するのはミスコミュニケーションの原因になります。一般的にはやめた方が良いですね。
山田さん:
exceeds such expectationsという表現は、かなり直接的ですけど・・・。
佐藤先輩:
はい、はっきりと示すことが大事だと思います。そのほか、
と返答して予算が限定的であることをお伝えする表現でも良いでしょう。
山田さん:
予算(budget)がtightという表現は日本語の「キツイ」といったニュアンスでしょうか。
佐藤先輩:
そう思います。また、見方を変えてみますと、今回の提案見積額が高かったのは、我々が想定している業務量よりも、大きなものをイメージして、それに対応するフィーとしてこの金額を提示しているのかもしれません。こちらの想定しているプロダクトや依頼内容をもう少し具体的に伝えてはどうでしょうか。
山田さん:
たしかにそうですね。雇用条件のタームシートはもう手元にありますし、採用候補者の方とのやり取りについて逐一アドバイスを求めることを想定しておらず、候補者に提示するための第一ドラフトまでの作業ということを明確にしてみようと思います。
佐藤先輩:
そのような説明をした後で、フィー提案を再考していただけないでしょうかと聞いてみましょう。
Based on the above, are you able to reconsider your fee position?
山田さん:
この表現を日本語に直訳して言葉のニュアンスを考えてしまうと、門前払いしているかのような印象を受けます。先方に失礼にあたらないでしょうか。
佐藤先輩:
私もそのように感じるところもありますが、今回のやり取りは、業務範囲を縮小方向に明確化するという中での再考依頼ですので、合理的なリクエストでしょう。そうである限り、この表現が先方に失礼に映ることはないように思いますよ。
謝意を示すことは常に大切。Thank youのみならず、be grateful for、appreciateという表現も。
ポイント②
ミスコミュニケーションを防止し、双方の期待値を揃えるために、明確に表現する。業務範囲を明確にする。
便利なhigh-level reviewという表現
山田さん:
今日は契約書ドラフトのお願いのケースですが、たとえば何らか幅広く、でも薄く尋ねたいだけという場面でも同じようにフィー見積もりが想定よりも高いときはあると思います。
佐藤先輩:
特に海外法務に関して我々に土地勘がなくて、でも詳細なものはまだ不要で、ざっくりした論点の有無を俯瞰するようなアドバイスが欲しいときはありますよね。そういう場面での便利な表現として「high-level review」とか「high-level comment」というものがあります。
山田さん:
その言葉だけでも便利そうですね。
佐藤先輩:
たとえば次のような表現はどうでしょうか。
山田さん:
high-level reviewに加えて、signpostsという表現も面白いですね。
佐藤先輩:
直訳すれば「道しるべ」ですが、この場面では詳細な検討が必要そうな個所を指摘してください、というニュアンスですね。
山田さん:
feasibility studyという言葉も最近覚えたところでした。
佐藤先輩:
日系企業からの依頼は「微に入り細に入った質問がされがち」という評判があるようです。このような業務範囲の説明をした以上は、もっといろいろと質問をしたくなったとしても、踏み越えすぎないようにしたほうがよいですよ。
山田さん:
おっしゃるとおりです。違う案件ですが、薄く広くという前提で法律調査をお願いした案件で、ついつい気になって細かいことを聞き始めてしまって、先方の外国法弁護士も初めは答えてくださっていたのですが、途中から「業務範囲の前提が違いますので追加フィーを…」と言われました。
詳細な説明を求めるのではなく、論点の所在を示してもらう程度の分析・検討を依頼する際のhigh-level review/ commentという便利な表現がある。
値段の高さに驚いたと伝えつつ、双方納得するポイントを探る表現
山田さん:
今回はちょっと高めだなぁと思ったくらいなのですが、以前のM&A案件で他の事務所からもらった見積もり金額に驚いたことがあります。こちらの想定とあまりに違ったので、その事務所に何と返してよいかわからずにうやむやなままとなり、結局違う事務所にその案件をお願いしたことがありました。
佐藤先輩:
そういうことはありますよね。ただ、こちらからフィーの見積もりをお願いした以上、理想的にはうやむやにせずに、お断りするならはっきりとお伝えしたほうが良いです。もちろんこちらはクライアントなので対応は自由ですが、法律事務所は我々にとってビジネスパートナーという側面もありますし、もしかしたら別の案件でお願いすることもあるかもしれません。
山田さん:
私もそうかなという気持ちはあったのですが、何となく先延ばしにしてしまって・・・。
佐藤先輩:
値段が高すぎて驚いたときはこれもまたはっきりとそう伝えた方が良いと思います。これは結構強いトーンになるので、本当に金額のレベル感がずれている時だけにしたほうが良いと思います。また当方の金額のレベル感を率直に伝えてご理解いただくことで、今後のコミュニケーションもスムーズになることを期待したいです。
山田さん:
surprised by the amountというのも直接的な表現ですね。
佐藤先輩:
金額だけを見て驚くことはあるでしょうが、やはり詳細を見ていく必要はありますね。見積もり提案の細目を見て、ここの項目の要否を考える必要があるでしょうし、その背景を聞くことも大事でしょう。そういう時は次のように聞いてみることができます。
教えてください、ということを伝える表現としてplease explainの一辺倒にならずに、help me/ us understand… というのも便利ですよ。我々はいろいろな業種のプロフェッショナルの方々と案件をご一緒しますが、どんな状況でも使える表現だと思います。
山田さん:
日本語の直訳はしにくいですが、「説明してください」を丁寧にへりくだってお願いするようなニュアンスでしょうか。
佐藤先輩:
はい、そう思います。
山田さん:
また、find a way to…. とか、that results in ….いうのも何か他人事のような表現にも思えますが、Feeというまさに我々クライアントと弁護士の利害が対立する場面で、「間を探しましょう」と伝えることによって、こちらからのメッセージがマイルドになるような気がしますね。compromiseといった金額面で双方妥協することを直訳するよりスマートな感じに思えました。
驚きは表現しつつも、対立しがちな事項については主語を人ではなくモノ・コトにすることでビジネスパートナーたる外部弁護士と対立構造を作らないようにする工夫も有用。双方納得するポイントを探りやすい表現を目指す。
金額の提案をする表現
山田さん:
弁護士とリーガルフィーについて、内容の範囲の相互理解を詰めたり、あるいは業務範囲を限定するなどのやり取りをしたりしてもなかなか合意に達しない場合があります。そういう時はどのような対応をしたらよいでしょうか。
佐藤先輩:
答えは決して1つではなく、状況や相手方によりますが、こちらから金額を提示してしまうという方法が有効な場面もあると思いますよ。たとえば次はどうでしょうか。
山田さん:
line-by-line explanation of the provisionsという表現も、文字通りの意味なのでしょうが、なかなか自分の頭からは出てこないですね。
佐藤先輩:
そうですね。また、この中のprovisionsというのも「各条項」という意味ですが、具体的な条項というより契約書一般における条項という意味ですね。
山田さん:
それから、なるほどと思ったのが最後のwould it be possible for us to agreeでfor you to agreeと言わずにfor us to agreeとして、先方と弊社の双方をまとめてus という言葉でくくっているところです。弁護士フィーの話なので、対立関係ではあるものの、us にすると、ワンチームのようにお互い感じられそうです。「うん」と言わせるためのテクニックというか、姿勢ですよね。
佐藤先輩:
はい、まさにそのような意図です。先ほども申し上げた通り、ビジネスパートナーゆえに、できる限り対立しているかの表現を回避するべきです。一緒に進めていくための前さばきのフェーズに過ぎないと感じていただくことが、我々としてもよいアドバイスをいただける土壌になると考えています。
山田さん:
当社に経験がなく、詳細な説明を求めている前提でしたらUSD 8,000という金額も納得できる気もします。でも、こちらは違うビジネスラインでのシンガポール法準拠の雇用契約はいくつか経験がありますからね。そのようなことを伝えたうえで、USD 5,500という金額は、こちらとしても合意できるレベルであり、かつ、先方の弁護士にとっても合理的と思っていただけそうですね。
ビジネスパートナーとしてよいアドバイスを受け取るためにも、usという表現を用いてワンチームで取り組む姿勢を示す。
トランザクション案件での業務範囲についての様々な表現
山田さん:
M&Aであったりジョイントベンチャー案件などいわゆるトランザクション案件で外国法律事務所に見積もりをお願いすることもあるのですが、知っておくと便利な表現はありますか?
佐藤先輩:
表現そのものではありませんが、まずトランザクション案件ではフェーズを分けて提案してもらうのが良いと思います。たとえば、ストラクチャリング、DD、契約交渉&ドキュメンテーション、競争法対応、外資投資規制対応、クロージング準備、クロージングに関連する労働関係の別途の手続き対応、上記以外のクロージングなどに、段階ごとに切り分けることが有用だと思います。
( i ) Legal due diligence on the target company and the provision of a “red-flags” report on the same. Scope of the due diligence includes xxx, yyy, and zzz.
( ii ) Drafting of the share purchase agreement, shareholders’ agreement, and corporate approvals (resolutions and waivers)necessary to effect the proposed transaction.
( iii ) Advice in relation to competition/ anti-trust law matters in connection with the proposed transaction, and assistance in corresponding with the regulators.
( iv ) …
山田さん:
このようにフェーズで区切っていただければ、トランザクションの途中でフィー金額の報告を受けたり協議したりするのに便利ですね。
佐藤先輩:
また、契約交渉に立ち会ってもらいたいときはそれを明確に伝えて、それを見積の前提にしてもらう必要がありますよね。
山田さん:
立ち会うという意味のpresenceは学校英語で習っているのですがなかなか自分では使えないですね。それから英語的な表現だなと思ったのがas they ariseの部分です。「必要な助言をください」を直訳してしまいそうですが、こちらのほうがすっきりします。
佐藤先輩:
契約交渉の場合は、その交渉が何ラウンドの回数があるかわからないことの方が多いのですが、弁護士の立場からすると稼働時間を想定するために何らかの前提を置いておきたいと思います。むしろ先方に提案していただくというアプローチもあります。
山田さん:
弁護士は国を問わずアワリーレイト × 稼働時間を弁護士報酬計算の基礎とするのがやはり主流ですから、それは理解できますね。
佐藤先輩:
契約交渉フェーズでは、コロナ禍にあっては大人数で集まって長時間会議することは少なくなったかもしれません。逆にオンラインビデオ会議方式で、契約書ドラフトを画面共有しながら契約文言を細かく確認しながら交渉するという新しい業務文化も広がってきましたよ。
山田さん:
契約交渉の後半の詰めのフェーズで、おっしゃるような方法の会議もたしかにありますね。
佐藤先輩:
契約交渉はビデオ会議にするので、移動時間はチャージしないでください、と明示することもありますね。
山田さん:
ここでもalign our understandingとourという表現で先ほどのようなワンチーム感を出そうとしているのですね。Envisage(想定する)という言葉も自分では使ったことはないですが、外国法弁護士とのやり取りでは出てきますのでビジネス英語っぽくなりますね。
佐藤先輩:
あと最後に、案件が途中で何らかの理由で中止しまうこともあると思います。そういう時に、割引をお願いすることもあります。
May I ask you to consider giving an abort discount in the event the deal does not go through?
山田さん:
弁護士などアドバイザーの事情ではないのに、そういう割引もできるのですか?
佐藤先輩:
いつもお願いするわけではないですが、たとえば数年にわたりいろいろな案件をお願いしている近しい事務所に対してであれば、こちらのコストコントロールへの協力という意味合いです。
山田さん:
なるほど、特別な関係があってこそのお願いということですね。次の案件もお願いするのでご理解ください、という趣旨でしょうか?
佐藤先輩:
次の案件のお願いを約束するというまでは言わないことが多いですが、we look forward to working with you again for the next opportunity くらいは伝えて、こちらの気持ちを表現することが多いと思います。
トランザクション案件は一定期間にわたるもので、その期間を複数のフェーズで分ける工夫がしやすい。案件の進捗・交渉スタイルなどリーガルフィーの多寡に影響する様々な要素があり、不確定要素も多いので、業務範囲や前提事実を比較的詳しく事前合意しておくことが有用。
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