法務の英語メール 課題克服レッスン
第2回 外国人弁護士に案件依頼の頭出し コツは「事実が伝わる文章」を書くこと
国際取引・海外進出
シリーズ一覧全4件
目次
架空の会社であるXYZ社の法務部に所属する先輩社員の佐藤さんと後輩社員の山田さんのOJTを通じて、TPOに応じた程よい英文表現をご紹介していく本連載。
第1回に続き、今回は「案件依頼の頭出し」について、先輩社員の佐藤さんと後輩社員の山田さんのやり取りを見ながら、英文メールの勘所を押さえていきましょう。
山田さんが佐藤さんにアドバイスをもらいにいきました。
弁護士が利益相反の有無を確認できる内容を伝える
山田さん:
先輩、おはようございます!
早速ですが、昨日の続きで「案件依頼の頭出し」の書き方をお願いします。
佐藤先輩:
はりきってますね。では、早速始めましょうか。
まずは、昨日の話を思い出しながら、書いてみてください。
山田さん:
はい、先輩の「シンプルに」というアドバイスに従って、こんな風に書いてみました。
佐藤先輩:
随分とシンプルですね。なぜ”a certain Indonesian distributor”と書いたのですか?
山田さん:
まだ正式に頼むと決まった訳ではないので、ぼやかした方が良いかと思いまして…。
佐藤先輩:
なるほど。しかし、弁護士の立場としては、そもそもこちらが相談している案件の相手方が、万一、その弁護士や事務所が既に受任している案件の相談者と同じである場合、利益相反(conflict of interest)により受任できない可能性があります。
ですから、弁護士が利益相反の有無を確認(conflict check)できるように、相手方の名称、所在地等の正確な情報をあらかじめ伝えた方がその後のやり取りがスムーズ(ポイント①)かと思いますよ。
山田さん:
なるほど、こちらからメールしたあとで、弁護士から「相手方は誰か」と問い合わせがくるかもしれないなら、最初に伝えておいた方がメールの往復が減りますね。
案件の頭出しでは弁護士が利益相反の有無を確認できるように、相手方の名称、所在地等の正確な情報を送る。
「事実が伝わる文章」を書く
山田さん:
このほか、注意した方がよいことがあれば教えてください。
佐藤先輩:
そうですね。弁護士は、正式な受任に至らない場合であっても、通常、守秘義務を負いますので、弁護士によっては最初の段階では必要以上の詳細情報は欲しくないという人もいます。
しかし、山田さんが書いたように、単に「トラブルになっている」というのでは、トラブルの内容がサッパリわからず、弁護士としても自分の知見で対応できる案件かどうかの判断すらできないように思います。ですので、もう少し具体的に何が問題なのかをわかるように書いてみるのが良いと思います。
山田さん:
では、こんな感じでいかがでしょうか?
1. We have been happy to do business with ABC for a long time.
2. But in the last few years we have been disappointed in their sales performance.
3. So we decided to do business with a company that we thought we could trust more.
4. However, ABC was not happy about it and complained to us.
5. We don't want to do business with ABC anymore.
佐藤先輩:
なかなか「気持ちの伝わる文章」ですね。
山田さん:
ありがとうございます!上手く書けたってことですね。
佐藤先輩:
…。いえ、残念ですが、だいぶ改善の余地があります。
先ほど、「気持ちの伝わる文章」と言いましたが、伝えるべきなのは、気持ちではなくて、事実(facts)です。「事実が伝わる文章」を書きましょう(ポイント②)。
先ほどの1~5に関係する事実関係を私なりに説明してみると以下のとおりになります。
2. Every quarter, we meet with ABC to set sales targets for the following quarter. In the last two years they have never met the targets.
3. Under such circumstances, we appointed another distributor two months ago.
4. Soon after, they emailed us, saying that they were a de facto exclusive distributor and that our appointing another distributor would violate their exclusivity. We then had several discussions with them to try to resolve the issue, but to no avail.
5. Since the situation is no longer improving, we have decided not to continue doing business with them.
山田さん:
確かに佐藤先輩の説明だと、トラブルの具体的な争点がわかりやすく、弁護士としても相場観が持ちやすいですね。なんだか自分が恥ずかしくなってきました・・・。
佐藤先輩:
まだ2日目ですから、焦らずにポイントを押さえていきましょう。
「事実」を伝えるといっても、何でもかんでも伝えれば良いというわけではありません。案件の頭出しに相応しい要点に絞るようにしましょう。
具体的には、今回のような取引紛争型であれば、①当事者関係、②トラブルの内容、③トラブルの原因、この3つに関する「事実」を時系列にそって説明するとわかりやすいと思います。
先ほど私が書き直した事実関係の説明に当てはめると、項目1の部分は①に、項目2と3は③に、項目4と5は②にそれぞれ該当します。
また、項目1の後段に記載の通り、契約における仲裁条項の存在や準拠法がシンガポール法である事実も付け加えることで、国際仲裁の専門家で、シンガポール弁護士であるスミス先生に依頼した理由がわかるようにしています。その点を伝えないと、きっとスミス先生としてはなぜ自分に相談が来ているか測りかねると思いますので。
案件の頭出しをする際に重要なのは気持ちではなく「事実が伝わる文章」を書くこと。
弁護士にアドバイスを求めるための定型表現
佐藤先輩:
弁護士に何のアドバイスを求めたいのか明確にするため、次のような文章を最後に付け加えることもおすすめです。
この表現は、“how”以下の部分を変更すれば、アドバイスを求める場面では、色々と使え回せますので便利です。たとえば、次のような感じです。
“We would appreciate it, if you could kindly advise us what action we should take. “
“We would appreciate it, if you could kindly advise us when we should take legal action against the company. “
山田さん:
ありがとうございます、便利な表現ですね!
一般的な質問は質問票(Questionnaire)を活用する
山田さん:
ところで、今回は具体的なトラブルについての相談になりますが、もし、今は問題ないけれども将来的に問題になるかもしれないことを想定して、取引解消する場合の一般的な質問をしたいときはどうすればよいでしょうか?
佐藤先輩:
そういった場合には、質問票(Questionnaire)を活用するのが良いと思います。
山田さん:
質問票(Questionnaire)ですか? あまり聞いたことがありませんが、具体的にはどのようなものでしょうか。
佐藤先輩:
たとえば、今回のような代理店紛争を想定した場合、質問票(Questionnaire)では次のような質問の仕方をするのが良いと思います。
2. If yes, please briefly explain them.
3. What actions do we need to take to legitimately terminate a business relationship with an agent or a distributor?
山田さん:
なるほど。まずは一般的な法律や規制を確認したうえで、説明をお願いしてどのような行動を取るべきか確認するのですね。これも別の案件に応用できそうです。
佐藤先輩:
はい、言葉を適宜言い換えれば使えますよ。あと、質問票(Questionnaire)の良いところは、たとえば、複数の国で特定の分野の法律調査をしたいときに、一旦質問票のテンプレートを作ってしまえば、あとは各国の弁護士にそれを配布すれば済むというところでしょう。
最初の返信で弁護士の直感、暫定的な意見を聞きたい
山田さん:
弁護士からの最初の返信で、相談した案件に対しての感覚や、暫定的な意見を出来れば聞きたいと思っています。メールにはどう書けば良いでしょうか?
佐藤先輩:
頭出しした情報量だけで弁護士が答えられるかどうかという問題はありますが、もし聞くとしたら、こんな感じですかね。
”initial"のところは、”provisional”、”tentative”あるいは“high-level”に置き換えても良いと思います。
山田さん:
“high-level”という言い方に違和感があるのですが。
佐藤先輩:
カタカナ英語で「ハイレベル」というと「高度な」という意味が思い浮かぶかもしれません。もちろん、そういう意味もあるのですが、使われる場面によっては「高いところから見渡した」「俯瞰した」という意味合いになります。言い換えると、細部は横に置いておいて大雑把に、という感じですかね。
たとえば、こんな言い方をしばしば聞くことがありますね。
「ざっくりとそれを説明してくれませんか」という意味になります。
山田さん:
カタカナ英語の「ハイレベル」とはだいぶニュアンスが違いますね。
海外の弁護士に料金を聞きたい
山田さん:
海外の弁護士の料金設定に馴染みがないので、そこも事前に確認しておきたいです。どう聞けば良いでしょうか?
佐藤先輩:
次のような聞き方で良いと思います。
私の経験上、海外の渉外弁護士の報酬タイプで多いのは、時間報酬(Hourly Fee)です。時間報酬といっても、計算上は、大抵6分(0.1時間)単位で精算し、その単位はunitと表記したりします。
時間報酬のヴァリエーションとして、基本的には時間報酬としつつ、上限(Cap)をつけてもらうこともあります。
それ以外に固定報酬(Fixed Fee、Flat Fee)の場合もありますが、時間報酬ほど多くは見かけないと思います。
また、いわゆる成功報酬(contingent fee)というパターンもありますが、これは集団訴訟(class action)、人身傷害(personal injury)、医療過誤(medical malpractice)等、特殊なケースで使われるので、必ずしも一般的な報酬体系ではありません。
山田さん:
ありがとうございます!これでスミス弁護士にメールを出せそうです。
いかがだったでしょうか?
前回と今回で、皆さんも海外の弁護士にメールするのに、少しは自信をもってもらえたものと思います。あとは実践あるのみです。
Looking forward to your reply !
最後にこの一言を加えて、皆さんと一緒にスミス弁護士からの良い返事を待つことにしましょう。

株式会社コロプラ