英文契約書の読み方・直し方 専門家による類型別の条項解説

第7回 英文株主間契約(Shareholders Agreement)のポイント 条項サンプル付き

取引・契約・債権回収

目次

  1. 株主間契約とは
  2. 株主間契約の全体像
    1. 株主間契約と法令・定款
    2. 株主間契約の一般的な構造
  3. 株主間契約の主要条項とポイント
    1. 発行会社の運営・ガバナンスに関する事項
    2. 発行会社の株式に関する事項
    3. デッド・ロックに関する事項
  4. 実務上の留意事項
前回はM&A取引の基本類型ともいえる株式譲渡契約を取り上げました。本稿では、特にジョイント・ベンチャーやマイノリティ出資のケースで頻出の契約類型である株主間契約を題材に、英文契約書の読み方・直し方のポイントをご紹介しようと思います。

株主間契約とは

 会社のガバナンスや株主の権利・義務について、多くの法域では(日本の会社法に相当する)法律で定められているのが通常ですが、会社とその事業の運営や株主の権利・義務といった事項について、株主間で契約上の合意がされることがあります(いわゆる「株主間契約」)。
 たとえば、ジョイント・ベンチャー(合弁)のように少数の株主が新規事業や共同研究開発等の目的で会社を立ち上げるような場合や、スタートアップのようにオーナー株主と多数の投資家が会社に関与するような場合、資本業務提携のようにある企業が他の企業との事業提携等のビジネス上のリレーション作りのために出資を行うような場合などが、株主間契約の登場する典型的な場面といえます。

 「第6回 株式譲渡契約(Share Purchase Agreement)のポイント 条項サンプル付き」でもご説明したとおり、M&A取引の目的は買収や支配権取得、マイノリティ出資などさまざまですが、株式・持分の一部取得のようなケースでは、既存株主との間の利害調整についてときに多角的かつ複雑な検討が必要となります
 そこで、本稿では、株主間契約(Shareholders Agreement, “SHA”)について、ジョイント・ベンチャー(合弁)やマイノリティ投資を中心とした観点から、特に英文契約書やクロスボーダー取引の特徴も踏まえつつ、実務上の留意点と検討のポイントをご紹介します。

株主間契約の全体像

株主間契約と法令・定款

 株主間契約の目的は、ある会社(=発行会社)の特定の株主(および場合によっては発行会社)の間で、これらの株主が発行会社の株主である間において、当該発行会社とその事業の運営やこれらの株主が保有する発行会社の株式の取扱い、株主間契約の当事者である各株主が発行会社からエグジットするときの手続などについて規律することにあります(このため、原則として、出資のための条件は株式譲渡契約や株式引受契約などで定められ(「第6回 株式譲渡契約(Share Purchase Agreement)のポイント 条項サンプル付き」参照)、株主間契約は当該出資後におけるルールを定める契約となります)。
 すなわち、株主間契約は発行会社の株主間(および場合によっては発行会社)での利害調整を目的とするものですので、発行会社の性質(ごく少数の株主で構成されるジョイント・ベンチャーか、オーナー株主と多数の少数株主で構成されるスタートアップか、など)や契約当事者の発行会社に対する出資の目的などによって、その内容は千差万別です。

 この点、ほとんどの法域では、通常、株式会社の運営やその株式の取扱いは法律や定款などで基本的な仕組みが定められています(株主総会や取締役会等の意思決定機関とその運営、株式の譲渡制限、株主の権利など)1。この点、株主間契約と法律や定款といった法定のルールとの主たる違いは、株主間契約はあくまで契約当事者の権利義務を合意した契約(私的な合意)であるという点にあります。すなわち、たとえば、会社法の手続に従わずに行われた取締役の選任は法的な瑕疵がある(無効または取消しの対象となり得る)一方、株主間契約上のある株主の取締役選任権が無視されたまま取締役が選任されたとしても、(株主間契約の違反を理由とする損害賠償請求等は可能であるものの)会社法上の手続が履践されている限りは、法律上当該取締役の選任は有効となります。

株主間契約の一般的な構造

 株主間契約では、上述のように発行会社に適用される会社法(またはこれに相当する外国法令)や定款等の内容には留意する必要があるものの、発行会社とその株式に関する規律として、たとえば、以下のような事項を、当事者間の協議・交渉により比較的柔軟に合意することが可能です。当然ながら、発行会社に適用される会社法や定款等に違反するないし矛盾するような内容を合意しても、株主間契約の当事者はかかる合意を履行できず、原始的に株主間契約の違反リスクが生じることになりますので、法務アドバイザーとも連携しつつ、発行会社の設立準拠法に照らした検討がポイントとなります。

株主間契約における合意事項の例
  • 発行会社の運営・ガバナンスに関する事項
    取締役の選任権、株主総会決議事項・取締役会決議事項の指定、重要事項の決定方法(株主の事前承諾事項(Veto Right))など
  • 発行会社の株式に関する事項
    譲渡制限、先買権(Pre-emptive Right)、共同売却請求権(Tag-along Right)など
  • エグジットに関する事項
    一括売却請求権(Drag-along Right)、エグジット後の競業避止義務や勧誘禁止義務など
  • デッド・ロックに関する事項(特にジョイント・ベンチャーの場合)

 株主間契約は、原則として契約当事者が発行会社の株主である間は有効に適用されますので、たとえば、既存の発行会社に対するマイノリティ投資の場合には、当該投資の実行まで(または株式引受契約や株式譲渡契約の締結と同時)に締結されます。一方、ジョイント・ベンチャーや資本業務提携の場合には、合弁契約や資本業務提携契約として、または別契約であるものの同タイミングでの締結がされるのが一般的です。

株主間契約の主要条項とポイント

 上述したように、株主間契約の内容は、ジョイント・ベンチャーからスタートアップまで、発行会社の特徴や出資の目的によって非常に多様です。そこで、本稿では、さまざまな類型の株主間契約に共通し、特に頻出かつ検討のポイントとなる契約条項を中心に、英文契約書の場合の留意点にも触れつつご説明します。
 なお、株主間契約は出資に関する契約とも密接な関係があり、誓約事項や表明保証などの株式譲渡契約や株式引受契約でも典型的な契約条項が規定されることもありますが、これらの契約条項の詳細は「第6回 株式譲渡契約(Share Purchase Agreement)のポイント 条項サンプル付き」をご参照ください。

発行会社の運営・ガバナンスに関する事項

(1)取締役の選任権

 日本の会社法では、株主総会において議決権の過半数を保有する株主は取締役を株主総会で選任することができるため、株主総会と取締役会の意思決定を通じて、会社に対する支配権を行使することが可能です。多くの法域でも、このような資本多数決の原則に従った取締役の選任方法が法律で定められています。

 株主間契約において、①取締役の総数と②各株主が選任できる取締役の数を合意することにより、資本多数決の原則の例外として、少数株主が自ら指名する者を取締役に選任し、取締役会での議論や決議を通じて会社の運営に関与することが可能となります 2。もっとも、上述のとおり、仮に多数株主がこの取締役選任権を無視してすべての取締役を株主総会で自ら選任したとしても、株主間契約違反の責任を問われるに留まる(取締役の選任自体は法律上有効となり得る)点に注意が必要です。

条項例①:取締役選任権

Board Composition
5.1 The Company will have a maximum of [X] Directors.

5.2. Each Investor shall have the right to appoint a Director by giving written notice to the Company signed by each Investor and may remove or replace any person so appointed by giving written notice in the same manner.

5.3 For so long as each Investor holds not less than [X] per cent of the Shares in issue, it shall have the right to nominate a person from time to time who will have the right to attend all meetings and proceedings of the Board as an observer and to receive all papers provided to the Board.

(2)株主総会決議事項・取締役会決議事項の指定と事前承諾事項

 少数株主としては、自らが指名する者を取締役に選任できたとしても、依然として、株主総会や取締役会の過半数を占める多数株主によって、少数株主の意向に沿わない事業上の重要な意思決定がされるリスクがあります。したがって、株主間契約においては、少数株主が発行会社の特に重要なアクションに関して、拒否権(Veto Right)を行使できるようなメカニズムが定められることがあります。

 たとえば、①発行会社に適用される会社法(またはこれに相当する外国法令)上、株主総会で過半数よりも厳しい可決の要件が定められている事項(行使された議決権の3分の2超の賛成など。日本の会社法でいう特殊決議事項や特別決議事項)を株主間契約で増やす、②(発行会社の新株発行やM&A、解散といった重要事項について)特定の株主による事前の書面による承諾を必要とする(条項例②)、といった内容が考えられます。

条項例②:事前承諾事項

Investor Consent matters
 The prior written consent of each Investor that owns at least [X] per cent of the Shares shall be required for the Company to approve and authorize any of the following with respect to the Company:
 (a) vary the rights attaching to the Shares.
 (b) create, issue, allot or redeem any Securities. 3
 (c) amend the articles of association.
 (d) make any significant change in the nature of the Company’s business.

 一方、多数株主としては、事前承諾事項が増えれば増えるほど、自らの裁量による発行会社の機動的な運営ができなくなり、発行会社とその事業の運営(ひいては発行会社の成長)が円滑に達成できなくなるという懸念が生じるため、事前承諾事項は可能な限り限定したいと考えるのが通常です。このように、事前承諾事項は多数株主と少数株主の利害関係が相反する論点ですが、事前承諾事項の一部を事前協議事項や事前通知事項とすることで、(最終的な意思決定権限は多数株主にあるとしても)多数株主と少数株主が協議をして共通理解を醸成する意思決定の仕組みにできないか、というアプローチも実務上は重要です。また、取締役会決議事項や事前承諾事項は制限しつつも、取締役会の下位機関として経営会議等の重要な意思決定に携わる会議体を設置したり、定期的な株主間の連絡協議会を設けたりするなど、多数株主と少数株主との間で協議とコミュニケーションを図るというガバナンスの設計もひとつのアプローチといえます。

 このような発行会社の意思決定手続については、事業運営と意思決定のプロセスを慎重にシミュレーションし、特に欧米の株主間契約書では疑義のないよう具体的かつ明確に手続を定めておくことがポイントとなります。

(3)情報閲覧請求権

 一定数の株式や議決権を有する株主には、発行会社に対する情報閲覧請求権が法令上認められている場合がありますが、株主間契約において、より広い範囲の情報閲覧請求権が株主に付与されることもあります。この点、日本企業が海外の企業に出資をする場合、自社の決算準備や規制当局への定期報告等との関係で、出資先の財務情報等が必要となる場合がありますが、これらの情報に関する情報閲覧請求権が株主間契約で具体的かつ明確に定められておらず(かつ、発行会社に適用される法令上も株主である日本企業に情報閲覧請求権がなく)、発行会社から情報の開示をしぶられて苦労をするケースも実務上あります。株主間契約の検討をする際には、年次財務諸表や予算、事業計画といった発行会社から取得する必要がある情報や資料の確認には注意が必要です。

条項例③:情報閲覧請求権

Information and Inspection Rights
 The Company shall furnish to each Investor that owns at least [X] per cent of the Shares in issuing such information regarding the business, affairs, prospects and financial condition of the Company as such Investor may reasonably request and shall permit such Investor or any of its designated representatives to examine the books and records of the Company and to inspect their respective facilities.

発行会社の株式に関する事項

(1)譲渡制限と先買権

 株主間契約の当事者としては、他の契約当事者である株主が発行会社の株式を売却することにより、株主間契約の当事者全体で保有する議決権割合が減少したり、一部の契約当事者だけがエグジットして当初想定していなかった新株主が発行会社の株主となったりしてしまうと、出資の目的や将来のエグジット・プラン等に影響が及ぶリスクがあります。特に、ジョイント・ベンチャーのパートナーやスタートアップの創業者株主が勝手にエグジットしてしまうと、発行会社の企業価値や事業計画に甚大なインパクトが生じ得ます。

 このため、株主間契約では、契約当事者である株主が保有する発行会社株式の譲渡を契約上禁止または制限することがあります。また、仮に発行会社株式の譲渡を認めるとしても、好ましくない者が譲受人とならないよう、第三者(=譲受人)より優先的に(株主間契約の当事者である)株主が売却対象の株式を買い取ることができる権利(先買権(Pre-emptive Right))が定められることも一般的といえます。

 先買権には、実務上、①第三者とすでに合意した条件での買取りができる権利(Right of First Refusal。条項例④ 参照)、②第三者への条件提示前に売却を希望する株主と交渉ができる権利(Right of First Offer)の大きく2種類があります。
 いずれが採用されるかはケース・バイ・ケースですが、Right of First Refusalの場合には、第三者としては売却を希望する株主との交渉が無駄になる(=株主間契約の当事者である他の株主に買われてしまう)リスクがあるため、売却によるエグジットを考える株主にとっては抵抗感があるとも考えられます。もっとも、Right of First Offerでも、売却を希望する株主が第三者と交渉をした結果、株主間契約の他の当事者の提案に優越した提案がされた際には、株主間契約の当事者に再交渉の機会が提供される場合(Matching Right)、事実上、(特に、Matching Rightに回数の制限がない “Last Look” 条項の場合)最終的にはRight of First Refusalと同じようなシチュエーションに帰着する可能性もあります

 株主間契約をレビューする際には、発行会社株式の第三者への売却を希望する株主が出てきた場合に、株主間契約のどの当事者がどのような主張ができ、それらの主張がどのような手続で処理されていくかが具体的かつ明確になっているかがポイントとなります。

条項例④:先買権

Right of First Refusal
 If a Shareholder desires to sell, transfer or otherwise dispose of all or any part of their interest in the Company, such Shareholder (the “Selling Shareholder”) shall first offer to sell and convey such interest to the other Shareholders before selling, transferring or otherwise disposing of such interest to any other person. Such offer shall be in writing, shall be given to every other Shareholder, and shall set forth the interest to be sold, the purchase price to be paid, the date on which the closing is to take place, the location at which the closing is to take place, and all other material terms and conditions of the sale, transfer or other disposition. Within [X] Business Days after the delivery of said notice the other Shareholders shall deliver to the Selling Shareholder a written notice either accepting or rejecting the offer. Failure to deliver said notice within said [X] Business Days conclusively shall be deemed a rejection of the offer.

(2)共同売却請求権(Tag-along Right)

 株主間契約の当事者が第三者に発行会社株式を売却しようとしたとき、他の契約当事者である発行会社の株主としては、自ら譲渡対象の株式を買い取るのではなく、自らが保有する株式も一緒に売却したいと考えることもあります。

 共同売却請求権は、ある株主が第三者にその保有する発行会社株式を売却しようとする場合に、他の株主も自己の株式を当該第三者に売却することを請求できる権利です。共同売却請求権には、①譲受人である第三者に対して、共同売却請求権を行使した株主が保有する全部の株式を売却できる場合と、②第三者が譲り受ける予定だった株式数のうち一部が共同売却請求権を行使した株主の保有株式の売却に割り当てられる場合(条項例⑤ 参照)とがあります。いずれの場合でも、売却を希望する株主にとっては、売却対象の株式数について第三者と再交渉をするか、または自分が売却したい株式数の一部しか売れないこととなり、「売り逃げ」が阻害されることになります。

 この点、英文契約書の「明確性」の観点からは、先買権と共同売却請求権のいずれが先に行使されるか、先買権を行使した株主は共同売却請求権を行使できるか否か、といった関係の整理が重要であるものの、この整理が具体的かつ明確でない場合も実務上散見されますので、丹念にメカニズムを読み解くことが重要です。

条項例⑤:共同売却請求権の条項例

Tag-along
 If a bona fide third party offers to purchase Shares in the Company, such Shareholders shall not be entitled to sell their Shares to such third party unless an offer to acquire a proportionate number of the Shares is simultaneously made on identical terms by such third party to every other Shareholder of the Company to whom such offer was not made, but who has indicated in writing its willingness to dispose of its Shares in the Company on the same terms and conditions as offered by the third party.

(3)一括売却請求権(Drag-along Right)

 一括売却請求権は、株主が第三者にその保有する発行会社株式を売却しようとする場合に、他の株主らが保有する発行会社の株式も強制的に当該第三者に売却するよう当該他の株主らに請求できる権利です
 一般論として、買主は対象会社の発行済み株式のすべてを取得する「完全買収」をターゲットとすることが多い一方、個々の少数株主と個別に交渉するのは煩雑であり、また、少数株主が何らかの理由で買収に反対した場合には完全買収の実現に支障が生じ得るため、多数株主は買収によるエグジットの機会を逸してしまうことにもなりかねません(少数株主のホールド・アップ問題)。

 そこで、発行会社に対して魅力的な買収(M&A)の提案がされたような場合に、多数株主は一括売却請求権を行使することで、他の少数株主が保有する株式も買主に譲渡させ、買主による発行会社の完全買収を実現することができます

条項例⑥:一括売却請求権

Drag-along
 If a bona fide third party (the “Drag-Along Purchaser”) offers to purchase all the Shares in the Company (the “Drag-Along Sale”) to a Shareholder with the majority of the Company (the “Drag-Along Seller”), prior to the consummation of a proposed Drag-Along Sale, the Drag-Along Seller may, at their option, require each other Shareholders to sell its Shares (the “Drag-Along Shares”) to the Drag-Along Purchaser by giving written notice (the “Notice”) to each other Shareholders not later than [X] Business Days prior to the consummation of the Drag-Along Sale (the “Drag-Along Right”). The Notice shall contain written notice of the exercise of the Drag-Along Right, setting forth the consideration to be paid by the Drag-Along Purchaser and the other material terms and conditions of the Drag-Along Sale.

デッド・ロックに関する事項

(1)デッド・ロックとは

 株主間契約において、発行会社のガバナンスや意思決定のメカニズムに関する合意がされていても、株主間契約の当事者間で発行会社やその事業の運営について意見が合わないシチュエーションも当然に生じます。特に、対等またはこれに近いジョイント・ベンチャーの場合には、発行会社の株主総会や取締役会における議決権が拮抗していたり、事前承諾事項(=拒否権(Veto Right))の範囲が広かったりすることに起因して、当該株主間の意見が対立し、発行会社の事業運営が停滞し、場合によっては事実上停止してしまうおそれがあります(いわゆる「デッド・ロック」(“Deadlock”)
 したがって、株主間契約の当事者としては、デッド・ロックが生じ得ることについて認識したうえで、実際にデッド・ロックが生じた場合に解決する手続・メカニズムを、事前に、明確かつ具体的に合意しておくことが肝要といえます。

 デッド・ロックの解決方法としては、事案ごとにさまざまなバリエーションがあり得ますが、たとえば、「デッド・ロック事由」(Deadlock Event)が発生した場合には、各株主間で意見調整のための協議を一定期間行った後、当該期間内に解決ができない場合には各株主のよりハイレベルな者(場合によっては代表者や経営陣)の間で協議を行うといったアプローチがあります。

(2)プット・オプションとコール・オプション

 デッド・ロック事由が生じた際に、株主間で解決のための協議が行われたものの、なおも意見の相違が解消されない場合、究極的には、株式の買取請求(プット・オプション)または株式の売却請求(コール・オプション)により、一方の株主が発行会社からエグジットすることで解決するというケースもあります。いずれのケースについても、オプションが行使された場合の株式の買取価格はどのように決めるかといった手続を明確にしておくことが、不測の争いを回避するためのポイントです。
 また、典型的には、プット・オプションは少数株主が多数株主に保有株式を売却し発行会社の経営を委ねてエグジットする場合、逆にコール・オプションは多数株主が少数株主に対して保有株式の売却を請求して少数株主をエグジットさせる場合に用いられると思われますが、デッド・ロック状態を最終的に解決するイニシアチブを誰が取るかという点で違いがあります。このため、2つのオプションが両方とも株主間契約で規定される場合には、オプションが行使可能となるトリガー事由は何か、仮に各オプションのトリガー事由が同時に発生した場合にはいずれのオプションが優先するかといった、両オプションの関係性も明確にしておく必要があります

条項例⑦:プット・オプション

Put Option
 In the event that a Put Option Event shall occur during the Term, the Shareholder shall have the right, but not the obligation (the “Put Option”) to require the other Shareholder to repurchase from the Shareholder the Assigned Interests at the Put Price. In the event the Shareholder elects to exercise its Put Option, the Shareholder shall deliver written notice to the other Shareholder specifying the closing date which date shall be [X] Business Days from such notice date (the “Put Option Closing Date”), which notice must be given within [Y] Business Days of the Shareholder’s receipt of written notice from the other Shareholder of a Put Option Event. Failure to provide notice by such times will be deemed an irrevocable waiver of the right to exercise the Put Option.
 On the Put Option Closing Date, the other Shareholder shall repurchase from the Shareholder the Assigned Interests at the Put Price in cash, the payment of which shall be made by wire transfer of immediately available funds to the account designated by the Shareholder. Notwithstanding anything to the contrary contained herein, the Shareholder shall be deemed to have automatically and simultaneously elected to have the other Shareholder repurchase from the Shareholder the Assigned Interests for the Put Price in cash and the Put Price shall be immediately due and payable without any further action or notice by any party.

 実務上、特に英文の株主間契約では、このほかにもデッド・ロックの解決のためのさまざまなメカニズムがあり得ます。たとえば、「ロシアン・ルーレット」(Russian Roulette)と呼ばれるメカニズムでは、①株主Aがもう一方の株主Bに対して、指定した価格で、株主Bが保有する全株式を売り渡すか(コール・オプション)、または株主Aが保有する全株式を買い取るように請求し(プット・オプション)、②株主Bはこれらの提案のいずれかを選択することができます。ロシアン・ルーレットでは、株主Aは自らが株主Bの保有する株式を買い取らされるかもしれないため、一方的に株主Bに買取りを請求する場合に比べて、適正な価格を指定して権利行使することが期待されます。

実務上の留意事項

 企業が出資を行う場合には、企業価値が向上した後のキャピタル・ゲインの獲得や出資先との事業シナジーの実現、ジョイント・ベンチャーによる新たな事業や技術の創出など、さまざまな目的があり得ます。株主間契約においては、出資先の円滑な運営と成長に資するよう、会社とその事業の運営に関するメカニズムを整理し、将来のさまざまなトラブルに対処する手続を明確化することにより、事前に株主間で異なる(特に、異なる文化圏をまたぐクロスボーダー取引では顕著な)利害関係のギャップを調整することが肝要です。

 株主間契約の条項には、先買権と共同売却請求権、一括売却請求権、デッド・ロックなどのメカニズムや概念が複雑でわかりにくいものもありますが、本稿でご紹介したポイントも踏まえていただきつつ、個々の事案に応じて、出資先の運営の中で将来発生する可能性がある問題点をシミュレーションし、英文契約書のポイントである「明確性」「網羅性」「手続」も念頭に置きながら、丁寧なレビューと検討を心がけるのが、望ましいアプローチといえるでしょう。


  1. このように、株主間契約は発行会社に適用される法制度と密接な関係があるため、その準拠法は発行会社の設立準拠法となることが多いと思われます。 ↩︎

  2. 特にスタートアップにおいては、取締役選任権を有さない少数株主に対し、株主間契約において、取締役会に出席して傍聴する者(オブザーバー)を指名する権利を付与されることもあります。 ↩︎

  3. 新株の発行は株主間契約の当事者が保有する議決権を希薄化(dilute)させる可能性があるため、事前承諾条項のほか、新株が発行される場合には既存株主が持株比率・議決権比率を維持できるように、新株の一部を優先的に引き受けることができる権利(Anti-dilution Right)が株主間契約で合意されることもあります。 ↩︎

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