英文契約書の読み方・直し方 専門家による類型別の条項解説

第5回 英文ライセンス契約のポイント 条項サンプル付き

取引・契約・債権回収

目次

  1. ライセンス契約とは
  2. ライセンス契約の全体像
    1. ライセンス契約のレビューの視点
    2. ライセンス契約の一般的な構造
  3. ライセンス契約の主要条項とポイント
    1. ライセンスの範囲
    2. ロイヤルティに関する事項
    3. 派生技術・改良技術
    4. 保証
  4. 実務上の留意事項
英文契約書の読み方・直し方のポイントをご紹介する本連載では、英文契約書の基本的な考え方をご説明したうえで、企業間取引で頻出の契約類型についてレビューのポイントを解説しています。
秘密保持契約(NDA)、売買基本契約と販売店契約に続き、今回は、企業の知的財産戦略との関係でも重要なライセンス契約をご紹介しようと思います。

ライセンス契約とは

 一般に、ライセンス契約とは、知的財産権の保有者が、第三者に対し、一定の対価(ロイヤルティ)の支払いと引き換えに、保有する当該知的財産権の使用を許諾する契約をいいます。
 今日では、知的財産権は企業の事業活動にとって欠かせない重要な資産であり、自社の事業活動に必要な知的財産権を他社が保有している場合には、当該知的財産権を使用するためのライセンス(使用許諾)を受ける必要があります。このため、ライセンス契約は企業の事業活動と知的財産戦略において重要な契約類型といえます。

 日本企業にとって英文のライセンス契約が登場する場面としては、①日本企業が外国企業に対してライセンスを行う場合(日本企業=ライセンサー)と、②日本企業が外国企業からライセンスを受ける場合(日本企業=ライセンシー)とが考えられます。
 ライセンサーとライセンシーのいずれの立場にあるかによって、ライセンス契約の検討の視点が異なってきますが、本稿では、日本企業がライセンサーとなり外国企業とライセンス契約を締結するケース(上記①)を想定してご説明したいと思います。

 具体的に想定されるケースとしては、たとえば、外国企業が日本へ進出する際に日本企業と業務提携を行い、日本企業が提携事業に必要な自社の知的財産権をライセンスする場合や、日本企業の海外進出時に現地企業と業務提携やジョイント・ベンチャーの設立等を行い、当該現地企業またはジョイント・ベンチャーにライセンスを行う場合、日本企業が外国企業からのロイヤルティ収入を目的としてライセンスを行う場合などがあります。

ライセンス契約の全体像

ライセンス契約のレビューの視点

 ライセンス契約は、クロスボーダー取引で用いられる英文契約であっても、一般的に規定される内容は日本国内で実務上用いられているライセンス契約と通常は多くの点で重なっており、レビューをする際の「視点」も共通する点が多いといえます。

 具体的には、ライセンス契約に基づく使用許諾により、本来であれば保有者が独占的に使用できる知的財産権が第三者に開放されることとなりますので、ライセンサーである知的財産権の保有者としては、ライセンス対象の知的財産権に関して第三者に与える権利(=使用許諾)の範囲がどこまでであるか、付与した権利に見合った対価を得られるか、重要な技術やデータに関する守秘義務が第三者(=ライセンシー)に課されているかなど、ライセンシーの権利と責任を明確に定めるという観点が重要です。
 また、ライセンシーが第三者なのか、それとも子会社・関連会社や合弁会社なのかという点もポイントとなる視点といえます。

 さらに、クロスボーダー取引で用いられる英文契約書の作成・レビューの際に、自分の「常識」を前提にしてしまうと落とし穴にはまってしまうという注意点があります 1。特に、ライセンス契約においては、ライセンシーの権利と責任が重要な要素であるところ、「ライセンシーは善人である」という常識や思い込みが、ライセンサーにとって思わぬ不利益・不都合につながりかねませんので、注意が必要です。

ライセンス契約の一般的な構造

 上記のとおり、ライセンス契約の内容は英文契約書でも日本国内で一般的に用いられるライセンス契約でも概ね共通しています。ライセンス契約の一般的な構造は以下のとおりです。

ライセンス契約の一般的な構造
  • ライセンスの範囲
  • 技術と技術データ
  • ロイヤルティに関する事項
  • 記録と検査
  • 派生技術・改良技術
  • 守秘義務
  • 契約期間および解除
  • 保証に関する事項
  • 一般条項

 なお、日本企業が海外(特に新興国)に進出する際に自社の知的財産権を提供するような場合、現地の合弁パートナーやライセンシーとなる現地の提携先が、商品の製造やアフターサービス等、現地での事業運営に必要な技術やノウハウを備えていないことも少なくありません。
 このため、ライセンサーである日本企業としては、知的財産権をライセンスにより提供するだけではなく、ライセンスをした知的財産権を実効的に使用した事業の立上げや運営、継続的な成長を実現するため、現地の合弁会社や提携先に必要な技術やノウハウも伝達し、指導する等のフォローアップをすることも必要となります

 このような場合、契約類型としては「技術供与契約」や「技術提携契約」が用いられる場合もありますが、これらの契約類型においては、上記のライセンス契約の一般的な項目に加えて、日本人駐在員による現地での技術指導や派遣される指導者の要件、技術指導に要する費用の負担等が、個別具体的なケースに応じて手当てされるのが通常です。

ライセンス契約の主要条項とポイント

ライセンスの範囲

 知的財産権のライセンス(使用許諾)により、ライセンサーは独占的に使用できる知的財産権を第三者に開放することになるため、裏を返せば、ライセンサーとしてはライセンスを行うことにより自らの権利行使が制限され得ることとなります。このため、ライセンサーの立場からは、ライセンスの範囲は慎重に定義する必要があり、その際には、主に以下の3つの観点から、ライセンスの範囲についての定めが明確になっているかを検討する必要があります。

  • ライセンスの対象となる知的財産権の範囲
  • ライセンスされた知的財産権の利用目的
  • ライセンスの地理的な範囲

 それぞれの要素について、以下の条項例①をサンプルとして、具体的に見ていこうと思います。

条項例①:ライセンスの範囲についての規定

Article 2 (License Grant)

LICENSOR hereby grants to LICENSEE a non-sublicensable sole license (the “License”), under the Patent Rights, to make, offer for sale and sell the Product in the Territory during the Term of this Agreement.

(1)ライセンスの対象となる知的財産権の範囲

 ライセンスの対象となる知的財産権の範囲は、特許や商標といった公的な登録がされている知的財産権の場合は、登録がされている該当国の法制度に従った方法(たとえば、所定の登録番号等)などによって特定することも可能です(条項例①の “Patent Rights”(特許)についてはこのような定義が可能といえます)。

 一方で、このような登録制度がない知的財産権については、ライセンスがされる知的財産権の範囲をライセンス契約において具体的に定義することも必要となります(場合によっては、ライセンス対象となる知的財産権の定義が契約書上明確で疑義のない記載となっているかについて、当該知的財産権を担当している技術者等と入念に確認することが求められるケースもあるでしょう)。

 そのほか、当然に知的財産権として取り扱われるであろうと思われていることも少なくない、企業秘密である技術(Technology)ノウハウ(Know-how)などについては、実は法的な「知的財産権」(特許・商標・意匠権・著作権など)とは認められていない場合もあります。
 仮にこのような技術やノウハウをライセンスの対象にするとしても、たとえば、企業秘密が具体的に記載されている文書・資料などでライセンサーが権利行使を制限される範囲を特定するといった、契約上・実務上の工夫を検討する必要もあります。

(2)ライセンスされた知的財産権の利用目的

 次に、ライセンスされた知的財産権の利用目的がライセンス契約において明示されているかも確認が必要です。

 たとえば、日本企業が国外市場において製造拠点を有する現地企業と提携して当該国外市場に進出するに際して、自社の商品を現地で製造する現地企業(=事業パートナー)に、当該商品の製造に関する知的財産権をライセンスするとします。ライセンサーである日本企業がすでに他の商品を当該国外市場で販売しているようなときは、ライセンサーとしては、事業パートナーがライセンス対象の知的財産権を利用して製造した商品が、当該国で自社がすでに展開している他の商品と競合するような事態は避けなければなりません。

 このような懸念に対応するためには、ライセンス契約において、ライセンシーがライセンス対象の知的財産権を使用可能な範囲を利用目的で制限することで、ライセンサーである日本企業がすでに当該国外市場で展開している商品との競業のリスクを低減することが考えられます。

 条項例①では、ライセンサーがライセンス契約に基づいてライセンシーに使用権を提供した特許(Patent Rights)は別途具体的に定義される「本商品(the Product)」の製造および販売(販売の提案を含む)に限って使用できることが明示されています。

 なお、このような国外市場における商品の製造販売を目的とする事業提携について、商品の製造販売に必要な知的財産権のライセンス契約に加えて、当該事業提携の目的・内容等を具体的に定める業務提携契約を締結し、当該業務提携契約において、提携の目的と現地企業の役割を明確化したうえで、ライセンサーである日本企業がすでに当該国外市場で販売している他の商品との競合禁止義務を設けるといった対応策も、一案として考えられます。

(3)ライセンスの地理的な範囲

 さらに、ライセンスされた知的財産権のライセンシーによる使用が認められる地理的範囲を、ライセンス契約において明示的に特定しておくことも非常に重要です。

 上記(2)で例示したような、ライセンサーである日本企業がライセンシーの所在する国外市場ですでに自社の商品を展開しているような場合には、ライセンスされた知的財産権の利用目的や業務提携契約における競合禁止義務により、ライセンサーの商品との競合が生じないような手当てをすることが可能です。また、特にライセンサーである日本企業がグローバルに商品を展開している場合には、ライセンサーの商品とライセンシーの商品が競合関係に立つか否かは、当該商品が販売される地理的な範囲と密接不可分の関係にあります

 このため、自社の商品を効果的、効率的かつ戦略的に展開することを目指すライセンサーとしては、ライセンス契約におけるライセンスの対象地域についても、ライセンスをする目的に応じて具体的に特定することも検討に値するといえます(たとえば、特定の国や「EEA(欧州経済領域)」といった一定範囲の地域など、さまざまなパターンがあります)。
 この点、条項例①では、ライセンスの地理的範囲が(別途定義される)一定の地域(“the Territory”)に限定されていますが、当該地域の範囲は契約書において定義することが重要といえます(なお、「疑義を避けるために(For the avoidance of doubt)」として、当該対象地域の外では、ライセンサーがライセンス対象となる知的財産権を用いた商品を製造販売できることを念のため確認することもあります)。

(4)使用許諾の性質

 上記(1)から(3)のライセンスの範囲と関連して、使用許諾(ライセンス)の性質も忘れてはならないポイントです。すなわち、ライセンシーに知的財産権をライセンスした後であっても、ライセンサー自身が引き続き当該知的財産権を使用したり、第三者にライセンスしたりすることを企図するような場合には、ライセンサーによるこれらの行為を可能にするため、ライセンシーには非独占的(non-exclusive)な使用許諾権が付与されることが一般的です。

 もっとも、たとえば、上記(2)のように日本企業が現地企業に特定の商品の製造販売をさせることで国外市場に自社の商品を展開するようなケースでは、ライセンシーである現地企業から、ライセンス対象となる知的財産権を当該国において独占的に使用できるようにしてほしいという要望を受けることもあり得ます。このような場合、独占的(exclusive)な使用許諾(ライセンス)をすると、ライセンサーである日本企業自身はライセンス対象の知的財産権を当該国で使用できなくなり得るため、条項例①のようなsole licenseを行うことも検討に値するといえるでしょう(sole licenseの場合には、ライセンス対象となる知的財産権のライセンサー自身による使用権は留保されています)。

 このように、ライセンサーとしては、自社の海外進出戦略や知財戦略の足かせにならないように、使用許諾の性質については慎重に検討することが望ましいといえます(なお、参考として、条項例①では、ライセンシーによるライセンス対象の知的財産権の再許諾は不可(non-sublicensable license)となっています)。

ロイヤルティに関する事項

(1)算定方法

 ライセンサーとしては、本来独占的に使用できる知的財産権の行使をライセンス契約によって制限され得ることとなるので、ライセンスの対価であるロイヤルティはライセンス契約における重要な要素と考えるのは自然でしょう。この点、ロイヤルティの金額・料率その他の算定方法は、原則として、ライセンス契約の当事者が自由に定めることができます

 ロイヤルティの算定方法としては、一般的には、(A)固定額とする方法と、(B)ライセンシーの売上高に連動させる方法(ライセンス対象の知的財産権を利用してライセンシーが商品の製造販売等の営利活動を行う場合など)とがあります。
 たとえば、条項例②では、上記(B)の方法を採用し、ライセンシーによる「本商品」(ライセンス対象の知的財産権を利用してライセンシーが製造販売する商品)の売上高(Sales)にターゲットを設定し、ターゲットとなる売上高の達成率に応じた複数の料率をあらかじめ決めておくことで、ライセンシーにより販売された「本商品」の売上高に応じてロイヤルティの金額が変動する設計としています。

 固定額によらずに、売上高や業績に連動したロイヤルティの算定方法を設定する場合には、条項例②よりもさらに複雑な連動のメカニズムが設定される場合もありますので、ロイヤルティの算定方法が一義的に明確になっており、ロイヤルティの算定について後日契約当事者間で争いが生じないように設計されているか(たとえば、売上高から費用は控除するかといった売上高の計算方法について契約当事者間で共通の理解ができているか)、丹念に文言を確認する必要があります。

条項例②:売上高に応じた変動ロイヤルティを定める場合

Article 5 (Payment)

5.1 LICENSEE shall pay the following consideration (hereinafter referred to as “Royalty”) for the License, starting as from the Effective Date until the expiration of the Term and any extensions thereto.

5.2 The Royalty shall be calculated as the net sales of the Products sold to LICENSEE multiplied by the Applicable Royalty Rate, which shall be calculated in the following manner in every fiscal year:
Achievement Rate of the Target Sales Applicable Royalty Rate
60% and less Royalty rate= [X]%
60% - 100% Royalty rate = [X]% - [Y]%
100% and more Royalty rate = [Y]%

(2)支払いに関連する手続

 また、ロイヤルティの金額が一義的に算定できるメカニズムがライセンス契約で定められていたとしても、ロイヤルティの支払いを実際に受けられなければ、ライセンサーの利益保護としては十分ではありません。すなわち、算定方法だけでなく、ロイヤルティの支払いに関連する「手続」がきちんと定められているかという観点も忘れてはなりません。

 具体的には、ロイヤルティの金額が確定された後の、ロイヤルティのライセンサーに対する支払時期や方法(銀行振込の場合、送金先の口座や手数料の負担等)、支払いをする際の通貨をどうするかや適用為替レートの考え方、支払いが遅延した場合のペナルティなど、具体的に算定されたロイヤルティの支払いに関する手続が明確に規定されているかのチェックが必要です。

条項例③:ロイヤルティの支払いの手続

5.3 Unless otherwise prescribed herein, any Royalty shall be made in Japanese yen by wire transfer into the bank account designated by LICENSOR and all the related remittance shall be incurred to LICENSEE. The applicable foreign exchange rate shall be the TTM rate as published by [BANK] on the day when a remittance is made from LICENSEE to LICENSOR.

5.4 In the event that any Royalty payment is delayed, LICENSEE shall pay LICENSOR a past-due interest at [Z]% per annum (the “Past-due Interest”) for the period of time from the day after the due date until the actual payment date.

(3)検証

 ロイヤルティが固定額でなく売上高や業績に連動して決定されるような場合、ロイヤルティの算定方法が契約書上明確になっていたとしても、実際に計算式を適用する売上高等の数字に誤りがあっては、せっかく入念に設計したロイヤルティの算定方法も「絵に描いた餅」になってしまうリスクがあります。まさに、「ライセンシーは善人」という思い込みがリスクを生みかねない場面といえます。
 このため、適正なロイヤルティを受け取りたいライセンサーとしては、ロイヤルティの算定がきちんと行われているかを検証するための規定を置くこともポイントとなります。

 具体的には、条項例④のように、ロイヤルティの算定に必要な情報(たとえば、会計帳簿やロイヤルティの対象期間における売上高をトラックした記録)についてはライセンシーに資料・記録の作成と保管義務を負わせたうえで、ライセンサーが必要に応じてこれらの資料・記録を確認し、質問をしたり、資料・記録の基礎となっている情報にアクセスしたりするなどして、ロイヤルティの算定に使用される数字を検証する権利を規定することが考えられます(さらには、ロイヤルティの算定に誤りがあった場合の補償に関する条項を設ける場合もあります)。

条項例④:ライセンサーによる検証

Article 7 (Records & Inspection)

7.1 LICENSEE shall maintain complete and accurate books and records to verify Sales and all of the fees, and other payments due or paid under this Agreement, as well as the computations of Royalty.

7.2 Upon reasonable prior written notice to LICENSEE, LICENSEE shall provide LICENSOR and independent accountants retained by LICENSOR with identical copies of the books and records required by Section 7.1 so that LICENSOR may conduct an audit on the amount due and payable to LICENSOR under this Agreement. If the audit finds an underpayment by LICENSEE, LICENSEE shall pay the underpaid amount and accrued interest.

(4)その他の検討ポイント

 ライセンス契約におけるロイヤルティに関しては、ライセンス契約に適用される法制度や商慣習にも留意が必要です。あまりに高額または低額なロイヤルティは移転価格税制の観点からの検討も必要ですが、国によっては、ロイヤルティに関する実質的な制限が存在する場合があります。
 たとえば中国では、中国企業に対する技術ライセンスを商務部門に登録する必要があり、登録手続の際に、現地の技術輸入管理条例等に照らして管轄部門から審査段階で修正の指導等を受ける可能性があります。
 ほかにも、アジア地域では、韓国、ベトナム、フィリピン、インドネシア、マレーシアなどでもライセンス契約の登録制度が存在しますので、個別具体的な事案において、(必要に応じて法務アドバイザーにも相談しつつ)ロイヤルティに関する制限がないかの確認をするのが望ましいでしょう。

 なお、税制との関係では、ライセンス契約のロイヤルティが国をまたいで支払われる場合には、税金の取扱いについて合意しておくことも検討に値します。一般論としては、ライセンサーに対して対価として支払われるのは、ロイヤルティからライセンシーの所在国の源泉徴収税を差し引いた金額とすることが通常と思われますが、ライセンサーの所在国とライセンシーの所在国との間で二国間租税条約がある場合にはその内容も踏まえて整理をする必要があるため、法務・税務アドバイザーにも確認するのが望ましいといえます。

派生技術・改良技術

 ライセンスの目的には、ライセンスの対象となる知的財産権を利用した商品の製造販売やサービスの提供のほか、新商品・新技術の研究開発などさまざまなものがあり得ます。これらの企業活動が実際に行われるプロセスにおいては、ライセンスされた知的財産権から派生してまたは技術的な問題点が改善されるなどして、新たな知的財産権が生まれることもあり得ます(いわゆる「派生技術(Secondary Work)」や「改良技術(Improvement Technology)」)。
 このような派生技術や改良技術は、ライセンスされた知的財産権がなければ生まれなかったと考えられる一方、ライセンシーによる事業活動を通じて(場合によっては、ライセンシーが独自に保有する技術やノウハウと組み合わせて)生み出されたものという側面もあることから、実際に派生技術や改良技術が生まれたときに、ライセンサーとライセンシーとで協議してこれらの技術の権利者を決めようとしても、お互いの寄与度の観点などから見解が対立してしまうことも少なくありません。

 このため、このような派生技術や改良技術を誰に帰属させるかについて、事前にライセンス契約の中で合意しておくことが、将来のトラブルを未然に防ぐためには望ましいといえます。
 たとえば、ライセンサーの立場からすれば、派生技術・改良技術については、ライセンサー側に帰属させつつ、ライセンス契約の目的を達成する範囲において派生技術・改良技術についてもライセンシーに対する使用許諾(ライセンス)の範囲に含める、または(条項例⑤のようにより限定的に)ライセンサーの承諾があった場合に限りライセンシーによる派生技術・改良技術の使用を認めるといった、ライセンサーに有利なアプローチを希望すると思われます 2
 なお、条項例⑤では、このような派生技術や改良技術が生じた場合における相手方への通知義務も規定しています。

条項例⑤:派生技術・改良技術についての規定

Article 8 (Improvement Technology and Secondary Work)

8.1 In the event that any Party discovers, develops or acquires any improvement technology or secondary work related to the Products during the period of this Agreement, such Party shall immediately disclose to the other Party the details of the improvement technology or secondary work.

8.2 In the event that any Party has invented any improvement technology or secondary work in using the Intellectual Property, including but not limited to copyrights, patent and industrial design rights, related to the Products during the period hereof, any rights related to this improvement or development shall be attributable to LICENSOR and LICENSEE may produce the Products based on the said improvement only in the case of receiving a prior written consent of LICENSOR.

保証

 ライセンス契約に基づく使用許諾により、ライセンサーはライセンス対象の知的財産権につき一定の制約を受ける可能性があり(たとえば、ライセンシーによるライセンス対象となる知的財産権の使用につきクレームを行わない等)、その裏返しとして、ライセンシーはライセンサーと合意した範囲においてライセンス対象の知的財産権の使用が認められることとなります。
 このため、ライセンサーとしては、条項例⑥のように、ライセンス対象の知的財産権の保有や自己の権利に対する制約を超えて、ライセンス対象となる知的財産権の内容に関する保証をすることには非常にネガティブなのが一般的です 3

条項例⑥:不保証の確認の規定

Article 10 (Representation and Disclaimer)

10.1 LICENSOR represents to the best of its current knowledge to LICENSEE that the Patent Rights are validly and solely owned by LICENSOR and that LICENSOR has free and unencumbered rights to grant the License and enter into this Agreement with respect to the Patent Rights.

10.2 EXCEPT AS EXPLICITLY REPRESENTED IN SECTION 10.1, THE PATENT RIGHTS, LICENSED PRODUCTS AND ANY OTHER TECHNOLOGY LICENSED UNDER THIS AGREEMENT ARE PROVIDED ON AN “AS IS” BASIS, AND LICENSOR MAKES NO REPRESENTATIONS OR WARRANTIES, EXPRESS OR IMPLIED, INCLUDING BUT NOT LIMITED TO ANY WARRANTY OF ACCURACY, COMPLETENESS, PERFORMANCE, MERCHANTABILITY, FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE, COMMERCIAL UTILITY, NON INFRINGEMENT OR TITLE.

 他方で、特定の技術を基礎とした商品の製造販売に関する提携を目的とする技術供与契約・技術提携契約といった契約類型においては、技術供与を受ける側(Recipient)から技術供与を行う側(Provider)に対して、提供される技術や技術データの正確性や完全性の保証が求められることもあります。
 技術供与を行う側(Provider)としては、対象となる技術・技術データやノウハウが実際に利用される国におけるインフラ等の整備状況が、自国のものと同水準であるという保証はありません(むしろ異なることが通常です)。そのため、条項例⑦のように、対象となる技術・技術データ等が相手国では想定通りに機能しないといった場合も想定して、技術供与を受ける側(Recipient)が供与された技術・技術データ等を用いて製造した商品の品質(Quality)や性能(Performance)までは保証しないことが多いと思われます 4

条項例⑦:保証の規定

Article 11 (Warranties and Limitations on Liability)

11.1 PROVIDER shall ensure the accuracy and completeness of the Technology and the Technical Data provided to RECIPIENT. PROVIDER shall correct any error in the said Technical Data and Technology when discovered and shall provide RECIPIENT with the corrected Technical Data and Technology without compensation. Except for any obligation to correct the said Technical Data, PROVIDER shall assume no responsibility for the quality and performance of the Products produced or assembled by RECIPIENT, and such responsibility shall be assumed by RECIPIENT.

実務上の留意事項

 英文のライセンス契約を検討する際には、契約当事者間の「常識」が共通していないといったクロスボーダー取引の特性も踏まえつつ、また、「ライセンシーは善人」といった思い込みに陥らないように留意しつつ、ライセンスの対象となる知的財産の内容や許諾の範囲・制限について契約当事者間で理解の齟齬がないかなど、「明確性」や「網羅性」を特に意識したレビューをすることが重要です。場合によっては、正確な理解のために、ライセンス対象の知的財産に関係する事業担当者や技術担当者とも密にコミュニケーションをとって、多角的な視点から検討を行うことが望ましいと思われます。

 また、クロスボーダー取引における重要な観点である、関係国の法規制や商慣習も忘れてはなりません。今日、ライセンスビジネスを取り巻く環境は日々刻々と変化していますが、そのような環境下にあるからこそ、社内の関係者や外部アドバイザーが緊密に連携して、ライセンスの目的も踏まえた最適解を模索する姿勢が重要と考えられます。


  1. 詳細は「第1回 英文契約書の基本的な考え方とレビューのポイント」を参照。 ↩︎

  2. 日本の独占禁止法上は、ライセンシーがライセンス対象の知的財産権を用いて改良技術を発明した場合において、ライセンシーに対して相応の対価を支払うことなく当該改良技術の権利をライセンサーに帰属させる義務を課すことは、「不公正な取引方法」(独占禁止法2条9項)に抵触する可能性がある点には留意が必要です(公正取引委員会「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成19年9月28日、平成28年1月21日改正)24頁参照)。このため、ライセンス契約の作成・レビューにおいては、このような競争法上の論点があることにも注意し、法務アドバイザーと分析をすることは有益といえます。 ↩︎

  3. なお、業界標準規格で規定された機能などを実現するために必ず使用する特許(いわゆる「標準必須特許(SEP:Standard-Essential Patent)」)の取扱いも、特許のライセンスの際には留意が必要です。 ↩︎

  4. 技術供与契約・技術提携契約では、技術供与を受ける側(Recipient)が技術供与を行う側(Provider)に対して、提供される技術・技術データ等が第三者の知的財産権を侵害していないことについても保証を求める場合もありますが、技術供与を行う側(Provider)にとっては、「知り得る限り」といった限定(Knowledge Qualifier)をかける必要がないかなども含めて、このような保証ができるかを慎重に検討すべきといえるでしょう。 ↩︎

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