法務が知っておくべき経済安全保障の最新動向と実務

第3回 ウイグル人権問題に関する米中および各国の法令の動向と日本企業への影響

国際取引・海外進出

目次

  1. 人権問題をめぐる世界的潮流
  2. ウイグル問題をめぐる米中の動向
  3. 米国法
    1. ウイグル強制労働防止法
    2. カリフォルニア州サプライチェーン法
    3. その他の規制
  4. 中国法
    1. 反外国制裁法
    2. 信頼できないエンティティリスト規定
    3. 外国の法律および措置の不当域外適用阻止弁法(中国ブロッキング弁法)
  5. 実務対応のポイント

人権問題をめぐる世界的潮流

 世界的潮流として、人権問題は、SDGsの観点、投資家からの評価・企業内部その他のステークホルダーからの評価等の観点から、積極的に取り組み、発信していくべき課題となっています。人権問題について先端的取組みを行うことは、総じて、一流企業が目指すべき姿勢と思われます。

 国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」1 には、人権デューディリジェンスの必要性が明記されています。同指導原則に準拠した人権方針を策定している企業も多く見られます。
 同指導原則がソフトロー(法的拘束力のない規範)であるのに対して、各国では法的拘束力のあるハードローが制定され、または今後公布・施行されていく流れにあります。米国のウイグル強制労働防止法はその代表的な例です。

各法域における法令の動向 2

法令 成立・施行時期
EU 企業持続可能性デューディリジェンス指令案 3 2022年2月23日公表
英国 現代奴隷法(2015) 2015年成立、施行済み
フランス 親会社および発注企業の注意義務に関する法律(注意義務法) 2017年成立、施行済み
ドイツ サプライチェーン・デューディリジェンス法 2021年成立、2023年1月施行予定
オランダ 責任ある持続可能な国際ビジネス行動法案 4(法案段階) 2021年 3月に提出された同法案をベースとした政府案が今後提出される見込み
スペイン 非財務情報開示義務 2018年施行済み
豪州 現代奴隷法(2018) 2019年施行済み

 EUは、2021年3月22日に、EUグローバル人権制裁レジーム(EU Global Human Rights Sanctions Regime)により、新疆ウイグル自治区を含むさまざまな地域における人権侵害に関して、個人および関係機関を対象にした制裁措置を発令しました 5

 日本政府も、2020年10月に「ビジネスと人権」に関する行動計画を策定し 6、上記の国連の指導原則を踏まえ、企業が人権デューディリジェンスのプロセスを導入することへの期待を示しています。また、2022年3月から、経済産業省「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」において、同年夏のガイドライン案取りまとめに向けた検討が進められています 7

ウイグル問題をめぐる米中の動向

 ロシアによるウクライナ侵攻等を受け、中国の国際的な立ち位置が注目されていますが、欧米各国による中国に対する人権問題での制裁や各種対応は今後も長期間にわたり続くと思われます。

 人権問題が企業の活動に直接影響を与える時代であるところ、特に注目されるのは、2022年6月21日に実質的な効果が発生した米国のウイグル強制労働防止法(下記3−1参照)です。同法に関しては、米国税関国境保護局(Customs and Border Protection:CBP)が同年6月13日付けで輸入者向けの運用ガイドラインを公表し 8、また、米国国土安全保障省(Department of Homeland Security:DHS)が同年6月17日付けで戦略レポート 9 を公表しました。
 同法への対応のポイントは次のとおりです。

  • 2022年6月21日以降、中国の新疆ウイグル自治区を原産地とする素材等や、ウイグル強制労働防止法が対象とする事業者が関与している事業者の製品を少しでも使用した製品である場合、米国での輸入は制約される
  • 上記の製品が使用されている場合には、代替素材を確保する等の対応が必要となる
  • 米国への輸出のためには、サプライチェーンの中で自社の製品に新疆ウイグル自治区を原産地とする素材等が含まれていないこと等について証拠化する必要がある

 外国の経済制裁に対するカウンター・サンクションは、ロシアが各国の経済制裁に対して急ピッチで導入し実施しているところですが、中国はそれ以前から各種の法令を制定してきました。
 たとえば、中国では反外国制裁法(下記4−1参照)に基づく報復の各種のカウンター・サンクションの手段を取りそろえています。欧米の立法や措置に従った対応を行う日本企業がこれらの中国の法令の適用対象となり、たとえばウイグル問題で商流を変更する等した日本企業が中国政府からペナルティを科されたり、中国の取引先から賠償請求を受けたりする可能性を懸念せざるを得ません。

 本稿では、米国法等西欧諸国の法と中国法が真っ向から対立するウイグル問題について、法令の動向の観点から解説します。次回は、米国の対中制裁や中国の対抗措置、さらに企業における具体的施策等について、実務的観点から解説しますので、そちらも参考にしてください。

米国法

 ウイグル問題に関する米国の法令としては、ウイグル強制労働防止法が代表的ですが、広く人権問題に関わるものとしては、カリフォルニア州サプライチェーン法やその他の規制などがあります。以下、それぞれの法令について解説します。

ウイグル強制労働防止法

法令のポイント
  • 2022年6月21日より、新疆ウイグル自治区産の製品および米国強制労働執行タスクフォース(Forced Labor Enforcement Task Force)が指定する中国の事業者が製造・販売等する製品やそれを材料として含まれる製品は、強制労働によるものと推定され、米国への輸入が原則として禁止されます
  • 強制労働によって製造されたものではないこと、デューディリジェンスやサプライチェーンのトレースや管理システムが構築されていること等の反証が、明確で説得力のある証拠によってできる場合には、推定は覆り輸入は可能となりますが、実際上困難であることが予想されます

 米国のウイグル強制労働防止法(Uyghur Forced Labor Prevention Act)は2021年12月23日に成立しました。そして、2022年6月21日より、米国税関国境保護局(Customs and Border Protection:CBP)は、新疆ウイグル自治区産の輸入品(品目を問わない)、および同法に基づきリストされた事業者に関連するすべての製品について、強制労働によって製造されたものであると推定し、米国への輸入を禁止しました。以下、概略を説明します。

(1)強制労働によって製造等されたものであるとの推定(立証責任の転換)・原則的輸入禁止

 米国の1930年関税法(Tariff Act of 1930)307条は、外国において全部または一部を強制労働によって採掘(mine)、生産(produce)または製造(manufacture)(以下「製造等」といいます)された製品の米国への輸入を禁止しています。
 CBPは、強制労働によって完全にまたは部分的に製造等された製品の輸入を禁止するため、税関での貨物の引渡しを保留することを内容とする違反商品保留命令(Withhold Release Order:WRO)を発令する権限があります 10
 ウイグル問題に関連して、CBPは、たとえば下記の件でWROを発令してきました(中国に関しては1991年から2022年6月現在までに合計44件のWROが発令されています)。

  • 綿花の生産団体である新疆生産建設兵団(XPCC)等の中国企業からの輸入(2020年11月30日)11
  • 新疆ウイグル自治区産の綿製品、トマト製品(2021年1月13日)12
    これ以前にも同自治区に所在する個別の企業や拠点に対するWROはあったが、特定製品に対する包括的なWROとしては初めてのケース。
  • 新疆ウイグル自治区産のシリカ製品(2021年6月23日)13

 2022年6月21日からは、ウイグル強制労働防止法により、新疆ウイグル自治区に関連する製品(範囲は下記(2)参照)は、CBPによるWROの発令なく、強制労働により製造されたものと推定され(立証責任の転換)、原則として、米国への輸入が禁止されました 14

(2)対象製品、対象事業者

 対象製品は、新疆ウイグル自治区において製造された製品であり、製品の品目を問いません。これは従前CBPが、綿製品、トマト製品、シリカ製品等の特定の製品のみを対象として輸入を制限してきたことと対照的です。

 上記以外に、以下の類型に該当するものとして、強制労働執行タスクフォースが指定する事業者が製造または販売する製品も対象です 15

(ⅰ) 新疆ウイグル自治区において強制労働により全部または一部の製造等を行う事業者

(ⅱ)同自治区政府と協力のうえで、ウイグル、カザフ、キルギス、その他同自治区以外の迫害されている集団を募集、移送、収容や受け入れを行っている事業者

(ⅲ)上記(ⅰ)または(ⅱ)の事業者により全部または一部が製造等された製品

(ⅳ)上記(iii)の製品を中国から米国に輸出する企業

(ⅴ)新疆ウイグル自治区の貧困緩和プログラム、ペアリング補助プログラム等のスキームのために、同自治区や新疆生産建設兵団(XPCC)から材料を調達する事業者

 上記の(i)、(ii)および(v)の事業者は、強制労働執行タスクフォースが2022年6月17日付けで公表した戦略レポートに記載されています。これらのリストは初期的なものであり、今後追加されていくことが想定されています。

(3)強制労働の推定に対する「反証」

 ウイグル強制労働防止法は、上記(1)の「強制労働による」製造等であるとする推定に対する「反証」を認めています。この推定を覆すためには、次の要件を満たす必要があります。

  1. デューディリジェンス要件
    強制労働執行タスクフォースが定める「デューディリジェンス、効果的なサプライチェーンのトレース、サプライチェーンの管理システム16 および証拠のガイドラインを遵守しており、また、CBPの質問にほぼ完全に答えること

  2. 証拠要件
    新疆ウイグル自治区産の輸入品や上記(2)の事業者に関連する輸入品が「全部または一部が強制労働によって製造等された製品ではない」ことについて、輸入者が「明確で説得力のある証拠」(clear and convincing evidence)を示すこと 17

 ①および②の要件に関しては、DHSの2022年6月17日付け戦略レポートの「VI. Guidance to Importers」において概略的な考え方が示されており、また、CBPの同年6月13日の輸出者用の運用ガイドラインの「IV. Type and Nature of Information that May Be Required by CBP」においてこれらの要件の充足性を検討するために申請者に対して提出を求めることのある文書がリストされており、参考になります。

 ただし、かかる「反証」は容易に認められるとは思えません。そもそも中国におけるセンシティブなイシューについてのデューディリジェンス(特に実地調査)には実際問題として困難が伴います
 中国の反外国制裁法(下記4−1参照)等に基づけば、米国の措置に協力する者は中国政府による制裁の対象となり得ます。まともな調査会社や調査対象企業がかかるリスクを受容するハードルは高く、国外事業者がなし得ることは限定的であると思われます。
 一方、CBPは、例外があると認めた場合には、米国議会に詳細を報告する義務があります。それゆえCBPは議会の検証に耐え得る審査を行う必要があるため、反証のハードルは高いと思われます。

(4)輸入製品の保留(detention)、輸入禁止(exclusion)、異議(protest)、没収(forfeiture)の手続

 ウイグル強制労働防止法に基づく輸入製品の保留等の手続は次のとおりです。

  1. CBPに対して輸入通関のための審査請求がなされた場合、CBPは5営業日以内に保留(detain)するか否か決定する。5営業日以内に解放(release)されなかった製品は保留されたものとみなされる。その期間およびその期間後、CBPは製品の輸入可否について評価を行う。
  2. 輸入者は、保留決定に対して、反証のための証拠を提出して解放されることを求めることができる(たとえば、新疆ウイグル自治区で製造されたものではないこと、戦略レポートにリストされた事業者と何らの関係性もないこと等の反証)。CBPは、例外として輸入を認めた場合、議会に報告を行い、また例外を認めるに至った証拠評価等を開示しなければならない。
  3. CBPは、製品について輸入禁止(exclude)とすることができる。審査請求後30日以内に輸入禁止とするか否かの決定が行われない場合、輸入禁止とされたものとみなされる。
  4. 輸入者は、輸入禁止決定に対して異議申立て(protest)ができる。この異議申立てにおいても、②と同様の反証を行うこととなる。
  5. CBPは、場合によっては、没収(forfeiture)を行うこともできる。

(5)ウイグル強制労働防止法に関連するリスク(効果)

 ウイグル強制労働防止法に基づき、米国にて輸入する製品が税関において保留され得ます。たとえば、サプライチェーンの上流に位置する原材料が新疆ウイグル自治区産である場合や、今後指定される事業者に関連する製品である場合には、米国において輸入する製品になるまでの間に、加工業者が何層入っていたとしても、保留の対象となり得ます

 また、CBPは違反事業者に対する罰金を科す権限を有します。たとえば、強制労働による製品の輸入を行ったとして、Pure Circle U.S.Aに対して罰金を科した事例があります 18

カリフォルニア州サプライチェーン法

 カリフォルニア州サプライチェーン法(The California Transparency in Supply Chains Act of 2010)19 は、2010年に成立し、2012年1月1日から施行されている法令です。

 同州で事業を行い、全世界での年間総受取額(annual worldwide gross receipts)が1億ドル以上の大規模小売業者および製造業者を対象として、自社のサプライチェーンから奴隷労働や人身売買を根絶するための取組みに関する情報を公衆に開示することを義務づけています(取組みの開示が義務づけられているのみであって、取り組むことを義務づける法律ではありません)。
 違反に対する金銭的な罰則制度はありませんが、裁判所は強制履行命令を発令することができます。

その他の規制

 米国の人権問題に関する措置は、上記3−1の輸入規制に限られません。このほかにも以下のようなものがあり、ウイグル問題に関連する措置も出ています。

  1. 米国原産品や米国関連製品の輸出や再輸出規制
    米国輸出管理規制(Export Administration Regulations:EAR)に基づく
  2. 米国政府が人権侵害者とみなした者の資産凍結や入国禁止措置等
    マグニツキー法(Russia and Moldova Jackson-Vanik Repeal and Sergei Magnitsky Rule of Law Accountability Act of 2012)に基づく

中国法

 中国政府はウイグル問題に関して、「新疆の問題は全く人権問題ではなく、反テロ及び反分裂の問題である。」「新疆の事務は純粋に中国の内政問題である。」という立場で一貫しています 20
 中国では、外国の対中制裁措置への対抗措置を根拠づける法がこの数年で相次いで整備されました。反外国制裁法(下記4−1参照)が代表的ですが、このほかにも、信頼できないエンティティリスト規定(下記4−2参照)、外国の法律および措置の不当域外適用阻止弁法(下記4−3参照)も存在します。

反外国制裁法

法令のポイント
  • 外国政府の中国に対する「差別的な制限措置」(要件はきわめて曖昧)への対抗措置として用いられます。
  • 外国政府の中国に対する「差別的な制限措置」の実施に関与した組織・個人、たとえば米国の対中経済制裁に従った企業も、「反制裁リスト」に掲載され、制裁を受け得ます。
  • 同法の公布・施行直後の2021年7月以降、同法を根拠とした制裁が数件出ています(欧米の要人・団体の幹部個人に対する制裁)。
  • なお、ウイグル問題関連の米国の制裁に対しては、同法施行以前から対米対抗措置がとられています。

 反外国制裁法(主席令2021年第90号)は、2021年6月10日、全国人民代表大会(全人代)常務委員会により公布され、即日施行されました。この法令は、近年欧米諸国がウイグル、香港、台湾等に関連して中国に対して相次いで制裁措置を行ったことを背景として、中国が外国政府による制裁等に対抗するためのツールとして制定されたものです

 同法は、外国政府が、「国際法と国際関係の基本準則に違反」し、「中国に対して抑制と圧迫を行い」、中国の組織・個人に対して「差別的な制限措置」をとり、中国の内政に干渉した場合に、中国が相応の「反制裁措置」を講じることができると規定しています(3条2項)。同条の基準はきわめて不明瞭であり、中国政府は広大な裁量をもって「差別的な制限措置」の該当性を決定することができます

 そして中国政府は、かかる「差別的な制限措置」の制定、決定、実施に関与した組織・個人を「反制裁リスト」に掲載することができるとされています(同法4条)。また、当該リスト掲載の組織・個人のほか、①当該個人の配偶者・直系親族、②当該個人が高級管理職 21 を務める組織、③当該組織の高級管理職や実質的支配者、④当該組織・個人が支配等する組織についても広く「反制裁措置」を講じることができるものとされています(同法5条)。

 「反制裁措置」の内容としては、①査証の発給拒否、入国禁止、国外追放、②中国国内の資産の差押え・封印・凍結、③中国国内の組織・個人との取引、協力等の活動の禁止または制限等が想定されています(同法6条)。反制裁措置は最終的な決定であり、司法審査や行政不服審査には服さないとされています(同法7条)。

 中国国内の組織・個人は反制裁措置を実行する義務を負い(同法10条)、また外国の「差別的な制限措置」の実行行為や協力行為を行うことも禁止されるため(同法11条)、外国企業の中国現地法人やその従業員は、反制裁措置が出た際に、これに従わない場合には法的リスクが生じます。

 さらに、企業の国籍を問わず、外国政府による「差別的な制限措置」を実行した場合または実行に協力した場合には、権利を侵害された中国の組織・個人から、中国国内で人民法院において訴訟を提起され、損害賠償の請求を受けることがあり得ます(同法12条)。かかる規定は(明確な根拠はありませんが、法の趣旨からすると)強行規定と解され、中国企業との取引において免責を規定したとしてもおそらく無効となると思われます。

信頼できないエンティティリスト規定

法令のポイント
  • 反外国制裁法と並び、外国政府による対中制裁への中国政府(商務部)による対抗措置として用いられることがあり得ます。
  • 外国の「不当な」措置に従って中国企業との取引を中断した外国企業・中国企業等に適用され得ます。
  • 商務部は制裁金(算定基準不明)を科すことができます。
  • 同規定による中国政府の措置は、(筆者の知る限り)まだ出ていません。

 「信頼できないエンティティリスト規定」(商務部令2020年第4号)は、2020年9月19日に、中国商務部により公布され、即日施行されました。信頼できないエンティティリスト規定は、反外国制裁法が2021年6月10日に公布される前に公布された法令であり、対外貿易法および国家安全法を根拠法としています。

 同規定2条では、「外国エンティティ」22 による、①中国の国家主権、安全、利益の発展に危害を及ぼす行為、②正常な市場取引原則に違反し、中国企業その他の組織・個人との正常な取引を中断し、またはこれらに対する差別的措置をとり、これらの合法的な権利に深刻な損害を与える行為について、相応の措置をとることとされています。

 執行機関は、諸要素を考慮のうえで、「信頼できないエンティティリスト」へ外国エンティティを掲載するとされています(同規定7条)。
 当該リスト掲載の外国エンティティに対しては、以下の措置を講じるものとされています(同規定10条)。

  1. 輸出入活動の制限・禁止
  2. 投資活動の制限・禁止
  3. 関係人員の入国の制限・禁止
  4. 関係人員の就業許可、滞在または居留資格に対する制限・取消し
  5. 「相応金額」の制裁金
  6. その他の必要な措置

外国の法律および措置の不当域外適用阻止弁法(中国ブロッキング弁法)

法令のポイント
  • 中国の執行機関は、外国の法令や措置についての不承認・不執行・不遵守を命じる「禁止令」を出すことができます。
  • 禁止令の対象たる外国の法令や措置を、中国企業(日系現地法人)は遵守してはならない義務を負います。
  • 禁止令に違反した企業は、中国の裁判所にて訴えられ、損害賠償を求められることがあり得ます。また、制裁金(金額基準不明)を科されることがあり得ます。

 「外国の法律および措置の不当域外適用阻止弁法」(商務部令2021年第1号)は、2021年1月9日に商務部により制定され、即日施行されました。
 同法は、欧州の同種法令 23 をモデルとした法令です。国家安全法を根拠法令としており、外国の法律および措置の域外適用が国際法および国際関係の基本準則に違反し、中国の法人や個人による第三国の法人や個人との正常な経済・貿易および関連活動が「不当に」禁止または制限される状況に適用されるとされていますが(同法2条)、その外縁は非常に不明瞭です。

 中国の組織・個人は、外国の法律および措置により第三国の法人や個人との正常な経済・貿易および関連活動が禁止・制限される状況に遭遇した場合には、30日以内に商務部に報告する義務を負うものとされています(同法5条)。

 同法の執行機関は、外国の法律および措置につき不当な域外適用の状況が存在することを確認した場合には、当該外国の法律および措置を「承認してはならず、執行してはならず、遵守してはならない」旨の禁止令を公布することができます
 「当事者」(中国法人と限定されていません)が、禁止令の対象とされた外国の法律および措置を遵守して中国の法人や個人の権益を侵害した場合、中国の組織・個人は中国の人民法院(裁判所)に訴訟を提起して、当該当事者に対して損害賠償を請求することができます(同法9条1項)。また、中国の組織・個人が、禁止令の対象とされた外国の法律に基づきなされた判決や決定により損害を被った場合、人民法院に訴訟を提起し、当該判決や決定により利益を得た当事者に対して、損害賠償を請求することができます(同条2項)。

 同法の執行機関は、中国の組織・個人が報告義務を怠りまたは禁止令を遵守しない場合には、警告を与え、期限を指定して是正を命じ、かつ情状の軽重に基づき制裁金を科すことができます(同法13条)。ただし、この制裁金の金額についての規定はなく、商務部の広範な裁量に委ねられます。

実務対応のポイント

 ウイグル問題に関しては、中国と国際社会の見解が対立し容易に溝が埋まることは見込めず、また、米国バイデン政権や欧州各国の動向からしても、今後ますます西欧諸国と中国の対立関係が顕著になるポイントであると予想されます。企業としては、企業の利益の最大化という観点から、中国ビジネスに対するインパクトの可能性を考慮して対応することが必要であると思われます。
 第4回では、ウイグル問題に関連する中国および米国における事件、制裁情報を紹介したうえで、日本企業としてとるべき実務対応について解説します。


  1. UN Guiding Principles on Business and Human Rights ↩︎

  2. JETRO「「サプライチェーンと人権」に関する政策と企業の適用・対応事例」(2022年5月)の整理がわかりやすい。 ↩︎

  3. European Commission, DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on Corporate Sustainability Due Diligence and amending Directive (EU) 2019/1937)(February 23, 2022). ↩︎

  4. The Responsible and Sustainable International Business Conduct Act ↩︎

  5. Council of the EU, EU imposes further sanctions over serious violations of human rights around the world (March 22, 2021). ↩︎

  6. 外務省「「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020−2025)の策定について」(2020年10月16日) ↩︎

  7. 経済産業省「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会の設置について」(2022年3月) ↩︎

  8. U.S. Customs and Border Protection, Operational Guidance for Importers (June 13, 2022). ↩︎

  9. Department of Homeland Security, Office of Strategy, Policy, and Plans, Strategy to Prevent the Importation of Goods Mined, Produced, or Manufactured with Forced Labor in the People’s Republic of China (June 17, 2022). ↩︎

  10. WROについては、JETRO「人権侵害に対する施策が日系企業にも影響(米国)」(2021年6月25日)にわかりやすい概略が日本語で記載されています。また、過去のWROのリストは、CBPのウェブサイトに掲載されています(Withhold Release Orders and Findings List)。 ↩︎

  11. U.S. Customs and Border Protection, CBP Issues Detention Order on Cotton Products Made by Xinjiang Production and Construction Corps Using Prison Labor (December 2, 2020). ↩︎

  12. U.S. Customs and Border Protection, CBP Issues Region-Wide Withhold Release Order on Products Made by Slave Labor in Xinjiang (January 13, 2021). ↩︎

  13. U.S. Customs and Border Protection, The Department of Homeland Security Issues Withhold Release Order on Silica-Based Products Made by Forced Labor in Xinjiang (June 24, 2021). ↩︎

  14. Uyghur Forced Labor Prevention Act Section 3 (a) : (略)apply a presumption that, with respect to any goods, wares, articles and merchandise mined, produced, or manufactured wholly or in part in the Xinjian Uyghur Autonomous Region(略) ↩︎

  15. Uyghur Forced Labor Prevention Act Section 2 (d) (2) (B) (i) ~ (v) ↩︎

  16. Uyghur Forced Labor Prevention Act Section 2 (b) (6) (A) : due diligence, effective supply chain tracing, and supply chain management measures to ensure that such importers do not import any goods mined, produced, or manufactured wholly or in part with forced labor from the People’s Republic of China, especially from the Xinjiang Uyghur Autonomous Region. ↩︎

  17. Pub. L. 117-78 § 3 (b) (2021). ↩︎

  18. U.S. Customs and Border Protection, CBP Collects $575,000 from Pure Circle U.S.A. for Stevia Imports Made with Forced Labor (August 13, 2020). ↩︎

  19. JETRO「カリフォルニア州サプライチェーン透明法の概要」(2021年8月)参照。 ↩︎

  20. たとえば、中国外交部スポークスマンの2021年12月24日(ウイグル強制労働防止法の成立の翌日)のコメント参照。 ↩︎

  21. 高級管理職とは、総経理、副総経理、財務責任者、上場会社の董事会秘書および会社定款に定めるその他の者を指します(中国会社法216条1号)。 ↩︎

  22. 「外国エンティティ」には、外国企業、その他の組織または個人が含まれるとされています(同規定2条2項)。 ↩︎

  23. EU理事会規則No. 2271/96 (COUNCIL REGULATION (EC) No 2271/96, protecting against the effects of the extra-territorial application of legislation adopted by a third country, and actions based thereon or resulting therefrom) ↩︎

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