法務が知っておくべき経済安全保障の最新動向と実務

第2回 米国の経済制裁の基礎知識と実務対応のポイント

国際取引・海外進出

目次

  1. 米国の経済制裁の影響力と重要性
  2. 米国の経済制裁の概要
    1. 根拠法令
    2. 関連当局
  3. 米国の経済制裁の区分
    1. 包括的制裁プログラム・選択的制裁プログラムの区分
    2. 金融関連制裁・貿易関連制裁の区分
    3. 一次制裁・二次制裁の区分
  4. 実務上理解しておくべき頻出用語
    1. SDNリスト
    2. CAPTAリスト
    3. 一般許可・個別許可
  5. 実務対応のポイント
    1. 経済制裁デュー・ディリジェンスの実施
    2. コンプライアンス体制の点検

米国の経済制裁の影響力と重要性

 2022年2月、ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部にあるドネツク人民共和国(DNR)およびルハンスク人民共和国(LNR)と呼ばれる地域を「国家承認」した旨を公表してから、米国は、現在に至るまで、ロシアに対する経済制裁を矢継ぎ早に導入しています。
 このような米国の経済制裁は、概して非常に複雑である上に多岐にわたり、かつ、国際情勢の変化に応じてアップデートが大幅かつ頻繁に行われることから、正確な理解が容易ではありません。

 しかし、後述のとおり、米国の経済制裁は、米国外で行われる取引にも適用され得る広範な内容であり、かつ、その規制内容は厳しく、実際に制裁が科された場合における事業への影響は甚大です。また、米国は、経済制裁を外交手段として今後も積極的に活用することが予測されています。

 そのため、グローバルな事業を展開する企業(その中でも、海外事業部門の担当者や法務・コンプライアンス担当者)にとって、米国の経済制裁に関する正確な知識は必要不可欠といえます。本稿では、米国の経済制裁に関する基礎的な知識を中心に、その概要をご紹介します。

米国の経済制裁の概要

根拠法令

 米国による経済制裁には、連邦レベルの経済制裁と州レベルの経済制裁があります。

 連邦レベルの経済制裁は、連邦法 1 に基づき、迅速・柔軟な発令が可能な大統領令により制裁プログラムの制定等が行われることが多いです。かかる連邦法には、特定の国等を対象としないもの(たとえば、国際緊急事態経済権限法 2)と、特定の国等を対象とするもの(たとえば、イラン制裁法)があります。
 州レベルの経済制裁は、州政府独自の判断で導入されるものであり 3、連邦レベルの経済制裁とは別途適用されます。そのため、米国の経済制裁を検討する場合、連邦レベルの経済制裁だけでなく、州レベルの経済制裁がないかについても確認が必要となる場合があります。

関連当局

 経済制裁に関連する主な連邦政府機関として、財務省の外国資産管理室(Office of Foreign Assets Control、以下「OFAC」)と、商務省産業安全保障局(Bureau of Industry and Security、以下「BIS」)があります。それぞれの所管は以下のとおりです。

OFAC
資産凍結等の金融制裁、輸入管理、後述するSDNリストやCAPTAリストの作成および管理

BIS
武器に転用可能な民生品(デュアル・ユース品)等についての輸出管理規制

米国の経済制裁の区分

包括的制裁プログラム・選択的制裁プログラムの区分

 米国の経済制裁は、制裁対象国・地域との貿易・資金移動等を包括的に禁止する「包括的制裁プログラム」と、特定の個人・団体の資産凍結やこれらの者との取引停止を求める「選択的制裁プログラムに区分されることがあります。

 包括的制裁の例として、キューバ、イラン、シリアに対する制裁があり、限定的制裁プログラムの例として、ミャンマー、北朝鮮、南スーダンに対する制裁があります。
 ロシアのウクライナ侵攻に関する経済制裁に関していえば、ウクライナ対象地域に対する新規投資および輸出入の禁止等は「包括的制裁」であり、ロシアに対する制裁は「選択的制裁」であるといえます。

金融関連制裁・貿易関連制裁の区分

 また、米国の経済制裁は、金融関連制裁貿易関連制裁に区分することもできます。

 主な金融関連制裁として、後述のSDNリスト掲載を通じた資産凍結措置、コルレス口座 4 の開設・維持禁止措置、債券や株式取引の禁止があります。
 主な貿易関連制裁としては、一定の部門における新規投資の禁止、製品等の輸出入禁止、輸出入管理規制の強化、最恵国待遇の停止・高関税賦課があります。

一次制裁・二次制裁の区分

 また、米国の経済制裁は、一次制裁(Primary Sanction)および二次制裁(Secondary Sanction)に区分されることがあります。当該区分は、制裁リスクを分析する際の判断枠組みとして実務上有用です。

(1)一次制裁

 一次制裁とは、多くの経済制裁プログラムにおいて米国が用いてきた手法であり、米国との接点(U.S. Nexus)を有する取引であって、制裁対象者または包括的制裁の対象となっている国・地域に係るものにつき資産凍結や取引禁止等を求めるものです。
 米国との接点(U.S. Nexus)を有する場合とは、典型的には、米国人(「U.S. person」5)もしくは米国産品が関与し、または、米国内で行われる取引をいいます。米ドル建て取引も、米ドルは米国金融機関内のコルレス口座を経由して行われるのが通常であるため、米国との接点を生じさせるおそれがあります。また、米国籍の役職員が取引に関与する場合も、米国との接点を生じさせることになりますので、留意が必要です。
 一次制裁は、基本的には米国人に適用されるものですが、米国との接点は上記のとおり広く解釈されているため、非米国人も留意が必要です
 一次制裁に違反した場合は、民事罰・刑事罰の対象となり得ます。

(2)二次制裁

 二次制裁は、基本的に、非米国人と制裁対象者との直接または間接の取引であって、米国との接点を有しないものを対象とするものであり、近時、当局により多く用いられている制裁手法です。

 非米国人が、制裁対象者と直接的または間接的に取引を行う場合であっても、米国との接点を有しない限りは、米国の管轄が及ばず、米国による制裁(民事罰・刑事罰)の対象とはならないはずです。この点、二次制裁は、非米国人に対し、当該取引を行った場合に制裁対象者と同様の不利益を受けるリスクを示すことで、かかる取引を事実上抑止しようとするものです。

 たとえば、なんらの米国との接点を有しない取引であっても、後述のSDNリストと呼ばれる制裁対象者リストに掲載された者と直接的または間接的に取引を行った場合、SDNリスト掲載者に対する重要な支援等を行ったとして、当該取引に関与した者自身がSDNリストに掲載されたり、米国市場へのアクセスを禁止されたりするおそれがあります。特に、SDNリストに掲載される不利益はきわめて大きく、米国内の資産凍結等を受けるだけでなく、米ドル決済が事実上できなくなるため、米国での事業およびグローバルな事業を行うことがきわめて困難となります

 ロシア制裁における二次制裁の代表的な根拠法令として、UFSA(Ukraine Freedom Support Act of 2014)5条 (b)、および、SSIDES(Support for the Sovereignty, Integrity, Democracy, and Economic Stability of Ukraine Act of 2014)10条 (a) があり 6、また、関連する大統領令においても二次制裁に関する規定が存在します。 

実務上理解しておくべき頻出用語

 その他、米国の経済制裁に関連してよく用いられる用語として、たとえば以下のものがあります。

SDNリスト

 SDNリスト(Special Designated Nationals and Blocked Persons List)とは、米国の安全保障を脅かすこと等を理由にOFACにより規制対象として指定された個人・団体(および財産)を掲載したリストです。
 SDNリストに掲載された者が米国内に保有しまたは米国人により所有もしくは管理されるこれらの者の資産および権益は、OFACの承認がない限り、米国人によって凍結され、また、米国人は、SDNリスト掲載者に対する資金・サービスの提供および受領等、事実上全ての取引を禁止されます。SDNリストは頻繁に更新されており、OFACのウェブサイト 7 において確認することができます。
 上記のとおり、非米国人であっても、SDNリスト掲載者に対して重要な支援を行った場合 8 等は、自らがSDNリストに掲載されるといった、二次制裁違反による不利益を被る可能性があります。

 SDN リストによる制裁については、「50%ルール」が採用され、SDNリストに掲載されていない者であっても、SDN リスト掲載者により50%以上の持分を保有 9 される場合は、制裁の対象となります
 持分の「保有」とは、直接的に保有する場合に限らず、間接的に保有する場合も含まれ、また、複数のSDNリスト掲載者が存在する場合、それぞれの持分が合算される点につき留意が必要です。

CAPTAリスト

 CAPTAリスト(List of Foreign Financial Institutions Subject to Correspondent Account or Payable-Through Account Sanctions)とは、コルレス口座またはペイヤブル・スルー口座 10 制裁の対象となる非米国金融機関を掲載した、OFACによって作成・管理されるリストであり、Non-SDN List 11(資産凍結措置以外の経済措置に係る制裁対象者リストの総称)の一つです。
 CAPTAリストに掲載された場合、米国におけるコルレス口座またはペイヤブル・スルー口座を開設・維持すること等が禁止されます。米ドルは、通常、米国金融機関内のコルレス口座を経由して行われるため、当該リストに掲載された場合、米ドル決済が困難となります。
 なお、CAPTAリストへの掲載は、SDNリスト掲載のような資産凍結措置は伴いません

一般許可・個別許可

 米国当局は、制裁対象となる行為であっても、特定の要件を満たす取引や活動につき、個別の事前許可を得ることなく可能としたり(「一般許可」と呼ばれます)、個別審査を経たうえで制裁対象から除外したりすることがあります(「個別許可」と呼ばれます)。
 なお、一般許可は、一定の条件 12 や期限を付しているもの、他の制裁との関係について言及しているもの(たとえば、ある者に対して複数の制裁が行われている場合において、当該一般許可は他の制裁に係る取引を許可するものではない旨を明記するもの)があるため、詳細を確認する必要があります。

実務対応のポイント

経済制裁デュー・ディリジェンスの実施

 上記のとおり、米国の経済制裁は、広範かつ強力な内容であるため、グローバルな事業を展開する企業の海外事業担当者や法務・コンプライアンス担当者は、米国の経済制裁の概要を理解するだけでなく、最新の動向等について情報を入手する必要があります。そのうえで、既存取引か新規取引かを問わず、自社または自社のグループ会社の関与する取引が制裁対象とならないように確認する必要があります(そのために行われる調査は、「経済制裁デュー・ディリジェンス」と呼ばれます)。

 より具体的には、①一次制裁との関係では、ドル決済や米国人の関与の有無等について、②二次制裁との関係では、サプライチェーンに制裁対象者や制裁対象国が含まれないか等について、それぞれ調査・検討したうえで、リスクが認められる場合には、リスク低減策 13 を検討することになります。

 このうち、上記②(二次制裁リスクの検討)については、リスクを可及的に低減するという観点からは、すべての取引について、すべての間接的な取引関係者およびその実質的支配者をも対象として慎重かつ頻繁に調査することが望ましいといえます。しかし、実質的支配者を確認するための資料で公的に入手可能なものが限定されることが多いという事情もあり、すべての取引についてこのような調査を行うことは現実的ではないと考えられます。

 そのため、実務上は、リスクの程度に応じて具体的な調査範囲・調査方法を決定するアプローチをとることが一般的です(かかるアプローチを「リスクベース・アプローチ」といいます)。リスク・アプローチにおける考慮要素としては、たとえば以下のものが考えられます。

  • 取引が行われる地域
  • 取引関係者の属性
  • 情報の入手可能性
  • 他社の動向

コンプライアンス体制の点検

 また、自社および自社グループ内において、経済制裁リスクの検知および評価が適時かつ適切に行われる体制となっているか 14、リスクが顕在化した場合の危機管理体制が構築されているかといった、コンプライアンス体制の整備状況を平時から点検しておくことも重要です 15


  1. 国際緊急事態経済授権法(後述)、対敵対者制裁措置法(Countering America’s Adversaries Through Sanctions Act、「CAATSA」)等。 ↩︎

  2. 国際緊急事態経済授権法(International Emergency Economic Powers Act、「IEEPA」)とは、米国の安全保障、外国政策または経済に対する異例かつ重大な脅威があり、大統領が国家緊急事態宣言を行った場合、大統領は、外為取引、金融機関の関与する取引、通貨・有価証券の輸出入、資産取引等について禁止または制限する権限を行使できるとするものです。米国政府による経済制裁の多くがIEEPAに基づく措置です。 ↩︎

  3. たとえば、ロシアに対する制裁として、州組織等に対してロシアで事業を行う事業体との新規契約または既存契約の更新を控えるよう命じる2022年3月17日付けニューヨーク州知事令(Executive Order No.16)があります。 ↩︎

  4. コルレス口座とは、金融機関が海外送金を行う際に中継地点となる銀行(Correspondent Bank。略称:コルレス銀行)に保有する口座のことをいいます。海外送金はコルレス銀行を介して行われるため、コルレス口座がなければ海外送金できないことになります。 ↩︎

  5. 「U.S. person」とは、米国の経済制裁プログラムにおいて用いられる用語であり、米国人(個人)および米国企業の双方を指す概念です。より具体的には、米国籍の個人および米国永住権を有する個人(いずれも所在地を問わない)、米国内の個人、団体、その他の組織(国籍を問わない)、ならびに、米国の法令に従って設立された法人(その外国の支店、事務所等を含む)をいいます。また、「U.S. person」ではない者という意味で、「non-U.S. person」という用語も一般に用いられます。以下では、特に断りのない限り、「米国人」は「U.S. person」を、「非米国人」は「non-U.S. person」をそれぞれ意味するものとします。 ↩︎

  6. 各規定は、CAATSA 226条および228条によって追加されています。 ↩︎

  7. Specially Designated Nationals And Blocked Persons List (SDN) Human Readable Lists ↩︎

  8. たとえば、CAATSA228条では、「知りながら(knowingly)」、SDNリスト掲載者のために「重大な取引(significant transaction)」を「促進(facilitation)」すること等が二次制裁の対象となり得ることが明らかにされています。なお、一般許可により許容される行為は「重大な」ものではないと扱われます。 ↩︎

  9. OFACは、SDNリスト制裁の対象を判断するにあたっては、SDNリスト掲載者の「支配」の有無ではなく、50%の持分の「保有」の有無によって判断するとされています。もっとも、資産凍結措置対象者に「保有又は支配」される者(owned or controlled)を資産凍結対象とする旨を定めた大統領令も存在するため、留意が必要です。 ↩︎

  10. ペイヤブル・スルー口座とは、金融機関が外国金融機関のために維持するコルレス口座であって、外国金融機関の顧客等の第三者が自らのために直接使用することができるものをいいます。 ↩︎

  11. Consolidated Sanctions List(統合制裁リスト)として公表されています。 ↩︎

  12. 代表的なものとして、SDNリスト掲載者との取引を解消するために通常付随し必要な取引について一般許可を与えるものがあります。 ↩︎

  13. 典型的には取引解消が考えられますが、それに限られません。 ↩︎

  14. 現場が判断に迷ったときの照会先の整備を含みます。 ↩︎

  15. 2019年5月にOFACが公表したガイダンス(「A Framework for OFAC Compliance Commitments」)では、経済制裁コンプライアンスプログラムの本質的要素として、①経営陣のコミットメント、②リスク評価、③内部統制、④検査および監査、⑤研修という5要素が挙げられています。米国の経済制裁を念頭に置いたコンプライアンス体制の構築にあたっては、当該ガイダンスを参照する必要があります。 ↩︎

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