コーポレートガバナンスや電子帳簿保存法への対応状況は? 読者アンケートに見る2022年の重要トピック(3)

法務部

目次

  1. 2022年に取り組むべき課題の概観
  2. 会社法・コーポレートガバナンス
    1. 改訂CGコードへの対応
    2. バーチャル(オンリー)株主総会
    3. 改正会社法対応
  3. 電子契約、電子帳簿保存法
    1. 電子契約の導入
    2. 電子帳簿保存法
  4. 公益通報者保護法

 2022年、各社の法務部門はどのような課題に取り組もうとしているのでしょうか。
 BUSINESS LAWYERSでは2021年11月から12月にかけてアンケートを実施し、法務部門で働く方々のリアルな声を募集しました。
 個人情報保護法について取り上げた前回に続き、今回は、会社法・コーポレートガバナンス、電子契約、電子帳簿保存法、および公益通報者保護法について、アンケートに寄せられたコメントとともに各社の対応状況を紹介します。

調査内容:2021年企業法務に関するアンケート
実施時期:2021年11月12日〜12月7日
調査対象:BUSINESS LAWYERSの登録会員ほか(有効回答者数149名)
調査手法:記述/インターネットによるアンケート調査

2022年に取り組むべき課題の概観

 2022年に各社の法務部門が取り組もうとしている課題としてダントツに多かった回答は、「個人情報保護法改正」への対応です。これについては前回の記事で紹介しました。
 この記事では、次いで多数の票を集めた以下のトピックについて、コメントとともに紹介します。

  • 会社法・コーポレートガバナンス:「CGコード改訂(ESG/SDGs、サステナビリティ経営)」「バーチャル株主総会への対応」
  • DX対応関連:「電子帳簿保存法改正」「電子署名法を踏まえた契約対応」
  • 「公益通報者保護法改正・内部通報制度」

2022年に取り組むべき法的課題のうち優先順位の高いもの3つ

会社法・コーポレートガバナンス

 会社法・コーポレートガバナンスに関して2022年に予定されている法制度上の変更点としては、① バーチャルオンリー株主総会の解禁、② 株主総会資料の電子提供制度の開始、③ 東証の新市場区分への移行があげられます。また、昨年から引き続き対応が必要な事項としては、④ 2021年に改訂されたCGコードへの対応、⑤2021年に施行された令和元年改正会社法への対応があります。
 これらの課題について、各社ではどのように取り組んでいるのでしょうか。以下では上記④、①、②、⑤のトピックを取り上げます。

改訂CGコードへの対応

(1)ESG/SDGs、サステナビリティという新しいトピックの登場

 改訂CGコードへの対応については、同コードの要請を自社にどう当てはめればよいかという点に迷いを感じている企業が多いようです。
 特に問題意識が高いのは、ESG/SDGs、サステナビリティに関わる取組み。新しい論点であるため、具体的な情報や他社事例が乏しいのが現状です。「CG報告書にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)対応をどこまで記載すべきか。定量化と数値化、目標と実施状況の開示が課題〔上場/小売業〕」というコメントもあるように、開示も含め手探りで対応している様子がうかがわれます。

 まず課題としてあげられるのは、社内全体を巻き込んだ取組みの必要性。法務部門だけでは対応しきれないと感じているというコメントが見られました。

  • ESG/SDGs、サステナビリティに関しては、自部門だけでは社内へ展開することができず、改訂議論の前段階の共通認識を作るのに苦労した。とりあえず今は形だけ定めたような格好になっている。〔上場/運輸業〕

  • サステナビリティに関しては単一部署のみでの対応が不可能であり、課題へのアプローチが従来とは異なるステージに入ったことを感じさせる。〔上場/製造業〕

 また、ESG/SDGs、サステナビリティを自社の事業の中にどう組み込むかというところで立ち止まってしまう状況もあるようです。

  • 2022年はエクスプレイン項目への対応に取り組む必要があるが、取締役会の国際性やジェンダー等、業種上、喫緊の課題とはいえないものについて対応を進めるのが困難。〔上場/不動産〕

  • システム開発を事業とする当社が提供できる・考えるべきサステナビリティとは何か?どうやって社会貢献し、投資家を納得させればよいか。紙の削減や電気などに触れるのは時代遅れ…ではどうすればよいのか?〔上場/情報システム〕

 環境や人権に対する取組みが比較的わかりやすいと思われるメーカーにおいても、「サプライチェーン全体にわたるデューデリジェンス(DD)の永続的な実施にどう取り組めばよいか。DDのやり方自体については法に規定がなく、手探りの段階〔上場/製造業〕」という悩みが見られました。

(2)コンプライ・オア・エクスプレインの難しさ

 CGコードが策定されてから6年以上が経ちましたが、実務の現場では今も「コンプライ・オア・エクスプレイン」への取り組み方に戸惑いが見られます。エクスプレインとしている項目をコンプライにすることの要否などについて検討・判断するのは、簡単ではないようです。

  • CGコード改訂については、どこまでやればコンプライとなるのか、細かいところで基準がわからない。いくつかの補充原則において、コンプライとできるかどうか悩ましい点がある。〔上場/製造業〕

  • コンプライといえるためにはどの程度まで実施している必要があるのか、モノサシがない。〔上場/製造業〕

  • 当社ではエクスプレインを避けてフルコンプライを目指そうとする傾向がある。もちろんあるべき理想としてはそれでよいと思うが、それはCGコードの目指すところではないのではないか。…と言いつつも無理やりフルコンプライを目指さざるを得ない。〔上場/コンサルティング〕

 この点については、外部専門家の力を借りることが有効なケースもあります。

  • SDGs含めたCGコード対応、新市場区分対応は、外部専門家、証券代行機関の意見なども参考にして、取りまとめが進んだ。〔上場/小売業〕

  • 当社はマザーズのためCGコードへの対応は5原則でよいが、83項目の策定に取り組んだ。外部コンサルに依頼して、どの程度まで求められているのか、どの項目はエクスプレインでよいかなど、エクスプレインとするかコンプライできるかを一つひとつ判断し、スムーズにガバナンス報告書を策定することができた。〔上場/不動産〕

 また、「実態の伴わないガバナンス報告書の“作文”に多大な労力を割かれているのではないか〔上場/製造業〕」という懸念も見受けられました。「書けば書くほどボロが出るが、短くするとどうもまとめすぎになる〔上場/製造業〕」「ついつい頑張りすぎになるが、あまり突出した対応にならないようにしたい〔上場/小売業〕」といったコメントもあるように、取組みや開示のさじ加減には各社とも苦労しているようです。

 そんななかで参考になりそうな視点として、こちらのコメントを紹介します。

  • CGコードに “対応” しようとすると苦労するのだと思う。CGコードはあくまでもリトマス試験紙のようなもの。提示された基準・モデル・参考事例などを踏まえて自社はどうすべきなのかを愚直に考察するだけだと考えている。〔上場/小売業〕

(3)経営陣の意欲に課題

 CGコード対応を進める過程での悩みとして、経営陣を中心とした社内の認識の低さもあげられています。
 経営陣のコーポレートガバナンスへの意欲・関心度合いを尋ねた項目では、「あまりない・まったくない」との回答が上場会社であっても2割あり、非上場会社も合わせると4割弱という結果でした。

  • 社内の理解が不足。管理部門以外の役員には、重要だとも何とも思われていない。〔上場/運輸業〕

  • 経営陣に主体性や当事者意識がない。〔上場/製造業〕

  • 社会的な圧力が高まっていることがメディア等で報道されているにもかかわらず、経営層も含めて意識が低い。2021年は、全社的な意識を高めることができず、表面的な対応に終始してしまった。コーポレートガバナンス対応の必要性を説き、会社方針を決定していただくことに苦労している。〔上場/コンサルティング〕

  • 古い体質のオーナー会社であり、現代社会の課題に即した柔軟な経営方針の変更が難しい。時間をかけて取り組む必要がある。〔上場/外食業〕

経営陣のコーポレートガバナンスへの意欲・関心は高いですか

バーチャル(オンリー)株主総会

 2021年に成立した「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」および「場所の定めのない株主総会」の開催を可能とする会社法の特例により、上場会社においてはバーチャルオンリー株主総会を開催できることとなりました。

 2022年の株主総会実務では、この点についてどう対応するかが大きなトピックの1つとなりますが、全体としては他社動向をうがいつつ様子見、という段階のようです。

  • バーチャル株主総会についてきちんと調べたが、他社事例が少なく、また上場の有無、社内株主の人数によっても異なるため、参考となる情報がなかった。尾崎安央=三菱UFJ信託銀行法人コンサルティング部編『バーチャル株主総会の実施事例』(別冊商事法務457号)は、複数の事例を掲載していて多少役に立った。〔非上場/サービス(インターネット)〕

  • バーチャル株主総会については2021年、ライブ配信にいち早く取り組み大きな問題なく終了した。バーチャルオンリーを開催することとなった場合にどうオペレーションしていくかは課題。〔上場/不動産〕

  • アドバネクス事件や関西スーパーの事案を受けて、バーチャル総会を運営するうえで(特に出席型を採用する場合)、リアル出席者のあり方(出席か傍聴か)を整理し、確実な運用を行う必要があると思われる。〔上場/製造業〕

  • バーチャル総会の他社動向がわからない。当社では、バーチャルオンリーには踏み切らないものの、どこまで対応すべきか、そもそも定款変更すべきかを迷う。また、予備的なバーチャル総会のための定款変更でも大臣確認が必要であることを失念しており、2022年3月総会に向けて早々の方針決定を求められている。〔上場/情報システム〕

  • 2021年は、バーチャル株主総会を参加型で行い、視聴者からの質問は受け付けない予定だったが、社長の強い意向により急遽視聴者からの質問を受け付けることになった。証券代行会社とも調整のうえ、招集通知の案内も当日の配信もつつがなく終えることができたが、視聴者からの質問は1件も出なかった。
    バーチャルオンリー株主総会については、社長が大変意欲的であり、ESG銘柄として機関投資家にアピールしたいという背景もあるので、経営企画室主導で全社的に取り組み、経産省・法務省の確認手続を進めている(が、書類が全然通らない)。〔上場/サービス(インターネット)〕

改正会社法対応

 会社法実務における2022年の変更点として、2022年9月から株主総会資料の電子提供制度が施行されることがあげられます。上場会社では対応必須となるため、各社にて3月・6月総会へ向けた定款変更等の検討に取り組んでいるものと思われます。
 この点については、こちらの関連記事をご参照ください。

 令和元年改正会社法のうち2021年に施行された改正項目について見ると、取締役の個人別報酬の決定方針を取締役会で決定することが義務づけられた会社においては2021年、同方針の決定に取り組み、無事に対応完了したようです。
 ただ、「顧問弁護士と社内の見解に相違がありなかなか前に進まなかった〔上場/製造業〕」というコメントもありました。このコメントにどのような背景があったのかはわからないものの、顧問弁護士以外にも頼れる外部専門家を開拓しておくのもよいかもしれません。
 また、2022年に取り組むべき課題として、「業績連動報酬の導入〔非上場/製造業〕」をあげるコメントがあったように、役員報酬制度の設計は今年も引き続き重要なトピックとなりそうです。

電子契約、電子帳簿保存法

電子契約の導入

 2020年以降、コロナ禍を契機として普及し始めた電子契約については、導入によって全社的な業務の合理化に貢献できたというコメントが多く見られました。導入済み企業においては2022年、導入対象の拡大や効果検証を進めることが課題となりそうです。
 ただ、既存の業務フローとの整合性をとるのに苦慮するなど、導入プロセスがスムーズに進まないという状況も見受けられます。これから検討する企業においては、まず課題の整理から取り組む必要がありそうです。

順調
  • テレワークが増える中で、紙ベースの契約書の製本や印紙といった準備、捺印、発送がスムーズに行えなくなったため、電子契約サービスを利用することになった。まだグループ全社での導入はできていないが、年間契約件数が多く、かつ定型ひな形での締結が多い子会社で実験的に導入を行った。取引先も協力的なところが多く、契約書の取り交わしにかかる時間や手間、費用が大幅に削減できた。〔外食業〕

  • コロナ禍での契約調印対応のため、電子契約サービスの社内導入を完了。契約調印や正本管理、送付等の関連業務の合理化、印紙税削減等、複数の課題解決に向けた第一歩となった。〔製造業〕

  • 電子署名の社内ルールを策定し、特に受発注に関わる部門の工数削減に貢献できた。〔情報システム〕

  • 苦戦
  • 電子署名については、全社的なDXの流れもあり、導入を進めること自体の障害はなかったが、実務的なオペレーションの克服が大変だった。〔小売業〕

  • 電子署名は簡単なようで運用が難しく、相手方の署名者の職位が違ったり、エンベロープの送付先住所が違ったりと、事務的なことでやり取りが面倒になることが多かった。〔サービス(インターネット)〕

  • 電子署名による契約のリクエストが増えてきているが、電子署名のシステム上、権限のない者が署名できてしまう状態のため、社内の業務フロー全体の整流化や意識付けから取り組む必要がある。〔製造業〕

  • 業務効率化を図る目的で、各種サービスに関し広く情報収集・検討したが、当社内での課題の検討ができていなかったため、導入の必要性・メリットが適切に検討できず、導入に至らなかった。〔不動産〕

 また電子署名サービスは、契約書のみならず取締役会運営にも変化をもたらし始めています。各社のDX化の流れのなかで、どこまで広がるか注目したいところです。

  • 取締役会議事録について電子署名サービスを導入したことで、紙での製本作業や捺印のための役員への回覧、金庫への保管といった作業がなくなり、業務自体が大幅に効率化されたのは非常に成果が大きかった。〔製造業〕

電子帳簿保存法

 改正電子帳簿保存法が2022年1月に施行されました。2021年11月末のアンケート実施時点では、多くの企業が、この施行期日を前提として準備に追われていました。

 しかし2021年12月になって、請求書・領収書・契約書・見積書などに関する電子データを送付・受領した場合に、その電子データを一定の要件を満たした形で保存する義務については、2年の猶予期間が設けられることとなりました。2023年12月31日までに行う電子取引については、保存すべき電子データをプリントアウトして保存し、税務調査等の際に提示・提出できるようにしていればよいとされています(事前申請等は不要)。

 各社においては、この猶予期間のうちに対応を完了できるよう、社内の関連書類の洗い出しや業務フローの見直しなどに取り組むことになるでしょう。以下で紹介するコメントは2021年11月末時点のものですが、そもそも法務がどのように関与して進めるべきなのかというところで課題があるようです。

  • 経理部門での対応が後手に回ってしまった。主管部門を総務・経理・法務のどこにするかでもめている。〔情報システム〕

  • 経理の問題だと考えており、契約までからむとは思っていなかった。時間が足りず、勉強不足。〔製造業〕

  • 取引関連の電子文書の保存をどのように行うかが決まっていない。〔情報システム〕

  • 業務効率化に資するとはいえ、EDI(電子データ交換)対応の請求書が少なく、デートスタンプ等クリアすべき課題が多く悩み中。〔不動産〕

公益通報者保護法

 公益通報者保護法が2021年に改正され、2022年6月1日に施行されます。主な改正項目は以下のとおりです。

  • 内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(窓口設定、調査、是正措置等)を義務付け(従業員数300人以下の中小事業者は努力義務)
  • 内部調査等の従事者に守秘義務
  • 行政機関等、報道機関等への通報の保護要件緩和
  • 通報者・通報対象事実・保護内容の拡大

 内部通報に関しては、CGコード(原則2−5、補充原則2−5①)と投資家と企業の対話ガイドライン(3−12)でも言及があり、上場会社においてはひととおりの体制整備や見直しが済んでいると思われます。
 一方、非上場会社や、上場会社であっても比較的規模の小さい企業にとっては、課題としては認識しているものの、実際にはなかなかやりきれていないケースもあるようです。

  • 法改正を機に、グループ全社の内部通報制度を再度見直すこととした。具体的には、これまではグループ共通の内部通報制度と事業会社固有の同制度とが併存する事業会社もいくつかあったが、これを機会に整理統合し、グループ全体で制度の統一を図った。〔上場/小売業/5,000−9,999人規模〕

  • 改正によって、中小企業にとってはかなり負担が重くなった。〔上場/外食業/300−499人規模〕

  • これまでは内部通報制度がなく、改正を機に規程や社外通報窓口を整備することができた。〔非上場/製造業/100−299人規模〕

  • ホールディングスおよびグループ全体で内部通報制度の整備に取り組もうとしたが、適任者がいなかった。〔非上場/運輸業/300−499人規模〕

  • 公益通報者保護法対応の必要性について社内の理解を得ることが難しかった。〔非上場/製造業/500−999人規模〕

 ここまで、2022年の法務課題について紹介してきました。BUSIENESS LAWYERSでは、2022年も読者の皆様の課題解決に役立つ記事を提供していきます。どうぞご期待ください。

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