令和3年改正電子帳簿保存法のポイントと実務対応 インボイス制度も見据えて
税務
目次
はじめに
電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(以下「電子帳簿保存法」または「法」といいます)が令和3年に改正され(以下「令和3年改正」といいます)、経理の電子化による生産性の向上、記帳水準の向上等を図るための法整備が行われました。
改正法は令和4年1月1日以降、順次施行されていますが、電子取引の電磁的記録(電子データ)による保存の義務化については、中小企業等から、対応が間に合わないとの意見が提出されていたことを踏まえ、令和5年12月31日までの宥恕期間が設けられることとなりました。
以下では、電子帳簿保存法の基本と改正対応のポイントをわかりやすく解説します。
電子帳簿保存法とは何か
法令の概要
所得税法、法人税法などの税ごとの法律は、帳簿書類の保存について、原則として紙での保存を義務づけています。電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類(法2条2号)1 について、一定の要件を満たした場合に、電磁的記録(電子データ)による保存を可能とすることと、電子的に授受した取引情報の保存義務等を定めています 2。
電子帳簿保存法が規律する内容
電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類の電子保存等について、下表のとおり3つの類型に分けて保存手法を定めています。なお、手書きで作成された国税関係帳簿については、電磁的記録等による保存等は認められません。
電子帳簿保存法上の区分
事業者が電子帳簿保存法に沿った保存を怠った場合には、青色申告の承認取消し(所得税法150条等)の対象となりうるほか、重加算税の賦課といった不利益処分の対象となる可能性があります。
電子保存の3つの類型と要件
類型 | 要件 | 対象となる書類の例 |
---|---|---|
電子帳簿等保存 (法4条1項および2項) |
自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成しているものについては、一定の要件の下、データのままで保存 |
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スキャナ保存 (法4条3項) |
その書類を保存する代わりとして、一定の要件の下でスマホやスキャナで読み取ったデータで保存 |
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電子取引 3 データ保存 (法7条) |
電子的に授受した取引情報をデータで保存 | 電子で完結した以下のような取引情報
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「真実性」「可視性」の確保とは何か
スキャナ保存および電子取引データ保存については、紙で受領した資料を電子化するものや、取引先からさまざまな形式で受領した電子データが含まれるため、実際にその帳票の内容が確認できるよう、真実性、可視性の確保が求められています。
必要となる機能は以下のとおりです。
電子化文書の故意または過失による虚偽入力、書換え、消去および混同を未然に防止し、かつ、改ざん等の事実の有無が検証できるようにする
可視性を確保するための機能
電子化文書の内容を、必要に応じて電子計算機その他の機器を用いて検索し、画面または書面に直ちに出力できるようにする
令和3年改正の背景・概要と具体的な内容
令和3年改正の背景
電子帳簿保存法は、近年の電子化推進の文脈のなかで度々改正されてきました。平成27年、平成28年には電子スキャナ保存に関する改正がなされ、さらに令和元年には、スキャナ保存要件に加えて広範な運用の見直しに関する改正がなされています 4。
しかし、それでも事業者による電子帳簿の利用は十分に進みませんでした。
内閣府規制改革推進会議の第1回成長戦略WG(令和2年10月12日)では、税務等に関する電子化の推進のための議論が行われ、電子帳簿保存法の改正や民法の電子的な領収証書の交付 5 などが議論されました。事業者団体からの同WGでの提案資料 6 では、スキャナ保存制度(法4条3項)が複雑であり、「累次の改正で改善されるも、いまだ普及していない現状」や、紙と電子データを同等の扱いとするべく「紙では規定されていない、データ保存特有の税務署長の事前承認、形式要件及び相互牽制要件を廃止」することなどが提案されていました。
令和3年改正は、コロナ対応も背景として、よりいっそう経理業務の電子化を推し進めるために行われたものです。
令和3年改正の概要
令和3年改正においては、社会全体として、経理の電子化による生産性の向上、記帳水準の向上等を図るための法整備が行われ、全事業者の帳簿の整備に影響します。
改正法は令和4年1月から施行されていますが、5-1で後述するとおり、電子取引データ保存についてのみ、令和5年末まで対応が猶予されています。
概要としては、紙の帳簿等よりも電子帳簿等に求める要件が厳しかった部分について、電子化を推進する方向で要件を緩和しており、スキャナ保存についてはさらに大幅な要件緩和がされています 7。そして、電子帳簿等保存については、「優良な電子帳簿」に対して過少申告加算税を軽減することで、適切な電子帳簿等を整備する事業者にメリットを付与しています。
具体的には、電子帳簿等保存、スキャナ保存について、基本的に要件を緩和する内容となっています。この2つの保存方法を採用する場合には、従前の保存方式を利用し続けることもできますし、一方で、令和4年1月以降は、緩和された要件に基づいて保存を行うこともできます 8。すなわち、事業者としては令和3年改正による要件緩和メリットを享受するかどうかを選択できるものであり、特段のリスクはないものといえます。
一方で、電磁的記録に対する不正を行う場合や、電子取引に関する情報をあえて出力して紙保存を行う場合については規制強化がされており、電子化にあたり正確性を失わせるおそれがある行為についてはディスインセンティブを付与する設計を行っています。
具体的には、電子取引データ保存を行う場合について、電磁的記録の出力による紙での保存が制限されます。
この点については、システム整備等の対応が必要になる事業者も存在し、システム整備コストという負担が生じると捉える事業者も少なくありません。具体的には、会計ソフトウェア側の対応で導入が進む場合もありますが、事業者によっては、重要書類、一般書類について経理部門だけで完結できず、システムや業務フローの見直しが多岐にわたることや、基幹システムへの影響が生じることなどが、対応コストとして捉えられる場合があります。
しかし、要件の一部が緩和されているため、電子取引データの保存に積極的に取り組みたいと考えていた事業者にとってはメリットになります。
保存手法ごとの要件はどう変わったか
令和3年改正後の保存手法ごとの主な要件は下表のとおりです。
令和3年改正後の主な要件
類型 | 要件 | 改正内容の概要 | |
---|---|---|---|
真実性の確保 | 可視性の確保 | ||
電子帳簿等保存 | 真実性、可視性の確保に共通する最低限の要件は以下のとおり(なお〔 〕内は優良な電子帳簿の要件)
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スキャナ保存 |
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電子取引データ保存 | タイムスタンプ等(訂正削除防止に関する事務処理規程等でも可) |
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実務対応のポイント
電子帳簿保存法は、近年非常に改正が多いため、実務対応において文献や資料等を参照する際には、最新の情報に基づくものであるか、常に確認を行うことが重要です。
実務対応にあたっては、国税庁が公表している資料を十分に確認することが必要です。電子帳簿保存法、同法施行令、同法施行規則のほかに、以下のような資料の確認が重要になります。
各種規程については、特にタイムスタンプ要件が関わる保存方法との関係等で、改正に合わせた内容としておくことが重要ですので、上記の国税庁のサンプル等も参考にして整備を行うことが求められます。なお、電子帳簿保存法対応の文書整備としては、説明書等の備付けも要件に関わりますので、自社が利用する会計ソフトウェア等が同法対応に関連して作成している文書も収集して準備を進めることが有益です 11。
以下では、実務担当者から質問が多い事項について留意点を紹介します。
電子帳簿等保存
A:申告所得税・法人税に関する帳簿のうち電子保存が可能なものは、正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)に従って作成されている帳簿のみに限定されます(法4条1項、施行規則2条1項)。
A:税務職員が求めたすべての電⼦データの提出に応じる必要があり、そのデータにおいて通常出⼒可能な範囲で、求めに応じた方法(たとえば出⼒形式の指定)で提出することが必要です(取扱通達4-14)。なお、ダウンロードの求めの対応は他の保存方法との関係でも同様に解釈されます。
A:軽減措置の適用を受けるためには、作成すべき帳簿すべてについて優良な電子帳簿の要件を満たすことが必要となります(法8条4項、施行規則5条)。
スキャナ保存
A:以下を通じて、データ⼊⼒・保存が法令上の期限内に⾏われたことを客観的に担保できる仕組みが求められます(取扱通達4-28)。なお、取扱通達では「他者が提供するSaaS型クラウドサービス」が例⽰されています。
✓ 時刻データはNTPサーバ(ネットワーク上で現在時刻を配信するサーバ)と同期して取得
✓ スキャンデータが保存された時刻記録や、その時刻が変更されていないことが確認できる
電子取引データ保存
A:電子取引データと書面の内容が同一で、書面を正本として取り扱うことを取り決めている場合には、当該書面の保存のみを行うことが許容されます。ただし、電子取引データに書面で受領した取引情報を補完するような取引情報が含まれている場合等には、いずれも保存が必要になります。
データをいったん紙に出⼒した後にスキャナ保存を⾏って保存することは認められません。他者から受領した電子データとの同一性が⼗分に確保できないことを考慮して、真実性確保のための要件(改ざん防止要件)が課されていない出⼒書面等による保存措置が廃止されたためです 12。
このほか、国税庁の「お問合せの多いご質問(令和3年11月)」での回答集などでも、多く質問されている事項が紹介されており参考になります。
令和4年以降の電子帳簿保存法対応について
電子取引に関する電磁的記録での保存等の適用延期
電子取引の電磁的記録による保存の義務化については、中小企業等から対応が間に合わないとの意見が提出されていたことを踏まえ、令和5年12月31日までの宥恕期間が設けられることとなりました。
令和3年12月27日の取扱通達の一部改正 13 では、宥恕措置が適用される「やむを得ない」場合について、取扱通達7-10に以下のとおり定められています。
また、同取扱通達7-11では、以下のとおり、「やむを得ない事情」があることに加え、電子データで作成または受領したものを印刷して提示または提出できることが求められています 14。
電子化対応が求められる令和5年のインボイス制度導入
一方で、令和5年10月1日からは、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式として適格請求書等保存方式(インボイス制度)が導入されます 15。
制度導入後は、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行業者」が交付する適格請求書(インボイス)の保存が、消費税の仕入税額控除の要件になります。適格請求書発行事業者は、適格請求書を交付することが困難な一定の場合を除き、取引の相手方(課税事業者に限ります。)の求めに応じて、適格請求書を交付する義務および交付した適格請求書の写しを保存する義務が課されます。一方で、受領者側でも適格請求書などの請求書等の交付を受けることが困難な一定の場合を除き、一定の事項を記載した帳簿および請求書等の保存が仕入税額控除の要件となります。
ここでの保存が必要となる請求書等には、以下のものが含まれます。
- 適格請求書または適格簡易請求書
- 仕入明細書等(適格請求書の記載事項が記載されており、相手方の確認を受けたもの)
- 卸売市場において委託を受けて卸売の業務として行われる生鮮食料品等の譲渡および農業協同組合等が委託を受けて行う農林水産物の譲渡について、受託者から交付を受ける一定の書類
- ①から③の書類に係る電磁的記録
インボイス制度については、取引先との関係でも対応が求められるため、多くの事業者において、令和3年改正電子帳簿保存法にも増して電子化対応が求められることになります。このような状況を踏まえると、電子取引に係る宥恕措置の適用を受ける場合でも、令和3年改正電子帳簿保存法と、インボイス制度への対応を並行して、計画的に電子化を進めていくことが必要になると考えられます。
おわりに
以上のような対応は、主に令和3年改正電子帳簿保存法の内容を中心として、同法そのものへの対応として解説してきましたが、近時のDXによる生産性の向上、感染症等も踏まえた事業継続可能性の確保を考えた場合には、そもそも全体の業務プロセスの一貫した電子化を見据えて対応を進めることも重要と考えられます。
電子データと紙が混在する状況では、業務プロセスが複線化し、直ちに業務効率性を確保することが難しくなることもあります。一貫した電子化に向けて業務設計を行うことが合理的である場合が多いといえます。
このような業務設計を行うにあたっては、DXによる業務改善を考慮して、会計ソフト、コンサルティング会社等とも連携し、特に詳細な検討を要する論点については、税理士や弁護士に問い合わせつつ、さらに税務署への相談も行って、要件に該当することを明確にしつつ、システムの整備、経理業務の構築を行うことが有益と考えられます。
なお、電子取引データ保存については猶予期間が設けられましたが、当該期間における事業者の対応状況によっては、さらに追加して対応を推進するための措置の検討も期待されるところです。
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地方のたばこ税および軽油引取税に係る事業者等において保存が求められる地方税関係帳簿(地方税法748条)は、地方税法において保存方法等が定められています。本稿では、地方税法における電子帳簿対応の詳細な紹介は省略しますが、財務省令和3年度税制改正の解説「地方税法等の改正」「十一 納税環境整備」(1088-1090頁部分)において、押印義務の廃止、都道府県知事の承認制度の廃止、地方税関係書類の電磁的記録による保存制度の創設などを内容とする令和3年地方税法改正等を中心に、地方税における電子帳簿保存制度の紹介がされています。 ↩︎
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電子帳簿保存法の内容や解釈については、法令、政省令に加えて、取扱通達ほか、国税庁が作成している文書を丁寧に見ていくことが必要になりますが、詳細は後記4で改めて述べます。なお、同法では、電磁的記録による保存のほかに、電子計算機出力マイクロフィルム(COM)による保存手法の規定もありますが、令和3年改正を説明するという本稿の目的を踏まえ、同手法への言及は省略します。 ↩︎
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取引情報(取引に関して受領し、または交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう)の授受を電磁的方式により行う取引をいいます(法2条5号)。 ↩︎
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令和元年以前の各改正の概要については、国税庁のホームページ「過去の電子帳簿保存法の改正」参照。 ↩︎
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「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和3年法律第37号)により新設された民法486条2項の内容については、法務省「電子的な受取証書(新設された民法第486条第2項関係)についてのQ&A」参照。 ↩︎
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新経済連盟の提出資料「DX推進のためのアナログ原則撤廃に向けて~電子帳簿保存法と領収書の電子化に関する要望を中心に~」参照。 ↩︎
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なお、スキャナ保存については、令和3年改正法施行前に所轄税務署長の承認を得て行っていた場合には、改正前の要件でスキャナ保存を行わなければならず、改正法での要件緩和の適用を受けるためには、承認の取りやめの届出書の提出等の一定の手続が必要になることに留意が必要です。 ↩︎
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ただし、令和4年1月1日よりも前に税務署長の承認を受けた場合には、承認の効力自体は取りやめの届出書の提出(または税務当局からの取消処分)がない限り有効ですので、承認を受けた事業者が令和3年改正法に基づく保存方法を採用する場合には、取りやめの届出書を提出することが必要になります。 ↩︎
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優良な電子帳簿の要件を満たして対象帳簿の備付けおよび保存を行い、届出書の提出がある場合には、所得税の青色申告特別控除(65万円)が適用できます。 ↩︎
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なお、国税庁ホームページには、令和3年までの改正前に開始した方のためのQ&Aも公表されています(「電子帳簿保存法Q&A(一問一答)~令和3年12月31日までの保存等に関するもの~」)。 ↩︎
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電子帳簿保存法対応に際して、会計ソフトウェアの選定自体が難しい事業者にとっては、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)による要件適合性の確認(「認証」)を受けた事業者のリスト(JIIMA認証情報リスト)を参考にすることも考えられます。令和3年度税制改正において事前承認制度が廃止され、同認証を利用した場合の優遇措置は廃止されていますが、国税庁では「保存義務者の予見可能性を確保する観点や優良な電子帳簿の普及促進の観点から、引き続き認証を受けた市販のソフトウェア等について、以下のリンクに掲載しております」との紹介を行っています。 ↩︎
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国税庁「お問合せの多いご質問(令和3年11月)」Ⅲ【電子取引関係】追1 ↩︎
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「電子帳簿保存法Q&A(一問一答)~令和4年1月1日以後に保存等を開始する方~」の一部である「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」のQ41-2からQ41-5までにも宥恕措置の詳細な追加説明が紹介されています。 ↩︎
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インボイス制度の概要については、国税庁の説明資料「適格請求書等保存方式の概要−インボイス制度の理解のために−」参照。 ↩︎

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