改正公益通報者保護法のポイントと実務対応

危機管理・内部統制
柳田 忍弁護士 牛島総合法律事務所

目次

  1. はじめに
  2. 改正法の概要と従前の内部通報制度の問題点
    1. 事業者等の義務の導入
    2. 外部通報の保護要件の緩和
    3. 保護対象の拡大
  3. 企業としての対応のポイント
    1. 内部通報制度の啓発活動
    2. 内部通報制度認証の利用
    3. 外国人労働者や海外拠点での対応
    4. 「公益通報対応業務従事者」に関する実務上のポイント
  4. さいごに~全社のリスクマネジメントにおいて公益通報が果たす役割とその実現のために必要なこと

はじめに

 2020年6月8日、公益通報者保護法の一部を改正する法律(以下「改正法」といい、現行の公益通報者保護法を「現行法」といいます)が成立し、同月12日に公布されました。また、2020年10月から、消費者庁において公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会(以下「検討会」といいます)が開催され、2021年1月に、公益通報者保護法に基づく指針の現時点における方向性が公表されました。

 公益通報者保護法については、現行法は、事業者が公益通報を行った労働者に不利益を及ぼすことを禁じるなど、基本的に事業者の行為を制約する規定を中心に構成されていますが、改正法では、事業者の措置義務を定めるなど事業者の積極的な関与が求められ、違反に対する行政処分、刑事罰(罰金)、行政罰(過料)などが定められるなど、企業実務に大きな影響を与える内容となっています。

 本稿では、改正法の概要を説明するとともに、筆者らの実務上の経験を踏まえて企業における対応のポイント等を解説します。
 なお、文中意見にわたる部分は筆者らの個人的見解であり、筆者らの所属する法律事務所の見解ではない点をご了承下さい。

改正法の概要と従前の内部通報制度の問題点

改正法の概要

消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)」

消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)」抜粋

事業者等の義務の導入

(1)事業者の体制整備等措置義務等

 現行法の施行後、内部通報制度を具備する事業者の割合が増加するなど、一定の効果は見られるものの、各事業者の内部通報制度の内容を見ると、十分な体制が整備されているとは言い難い状況でした。
 そこで、改正法は、事業者に対して、以下の義務を課すこととしています(ただし、労働者300人以下の企業は努力義務)(改正法11条)。

  • 公益通報対応業務従事者の設置義務
  • 公益通報に適切に対応する体制を整備する義務(体制整備等措置義務)

 もっとも、改正法は、事業者が取るべき措置の具体的な内容を指針(以下「指針」といいます)に委ねています(改正法11条4項)。本稿執筆時点で当該指針は公表されていませんが、2020年12月23日に開催された検討会を経て公表された「これまでの検討を踏まえて現時点において考えられる方向性」(以下「方向性」といいます)の概要は以下のとおりです。(●は検討会において比較的多くの委員から同趣旨の意見が示された項目です。また、下線箇所は平成28年12月9日付の消費者庁の「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(以下「ガイドライン」といいます)にはない新しい取り組みといえると思われます。なお、ガイドラインは、通報を事業者内において適切に取り扱うための指針を示したものであり、公益通報者保護法と相互補完関係にあると考えられています。)

  1. 公益通報への対応体制
    (1)公益通報受付窓口の設置

    ● 通報を部門横断的に受け付ける窓口の設置ならびに調査、是正および再発防止策をとる部署および責任者の選定

    ● 窓口における役職員からの質問・相談対応(不利益な取扱いに関する質問・相談への対応を含む

    ● 組織の長その他幹部から独立性を有する仕組みの整備

    (2)公益通報に対する受付、調査および是正措置の実施、再発防止策の策定

    ● 通報の受付および調査の実施(正当な理由がある場合を除く)

    ● 是正措置および再発防止策の策定ならびにこれらが適切に機能しているかを確認する措置の実施

    ● 通報者に対する是正措置等の通知

    (3)通報対応における利益相反の排除

    ● 受付、調査、是正措置、再発防止策策定の担当者に関する利益相反の排除


  2. その他公益通報対応を機能させる体制について
    (1)不利益な取扱いを防止する体制

    ● 不利益取扱いの防止、不利益取扱いからの救済・回復および不利益取扱いの有無を把握できる措置の実施

    ● 不利益取扱いを行った者に対する懲戒処分その他適切な措置の実施

    (2)以上の公益通報対応の仕組みを適切に機能させるための措置

    ● 通報を活用して法令遵守を実現するための体制および公益通報者を保護する体制につき内部規程の策定・運用

    ● 公益通報者保護法および公益通報対応体制に関する役職員および退職者への教育・周知

    ● 公益通報対応業務従事者の教育・訓練

    ● 通報に関する運用実績概要の開示、通報の対応に関する記録の作成・保管、公益通報対応体制の評価・点検および改善の実施


  3. 公益通報対応業務従事者・秘密漏えいを防止する体制について
    (1)公益通報対応業務従事者として定めなければならない者の範囲
    (2)従事者を定める方法

    従事者であることが従事者自身に明らかとなる方法による従事者の指定

    (3)秘密漏えいを防止する体制

    ● 通報者を特定させる事項について必要最小限の範囲を超えて情報共有することを防ぐための措置および秘密漏えいに関する救済・回復措置の実施

    ● 通報者の探索を行わせない措置の実施

    ● 秘密漏えいを行った者に対する懲戒処分その他適切な措置の実施

 なお、指針については、とるべき行動をすべて盛り込むことは不可能であり、検討会においても、指針に従えば必ず措置義務違反を免れることができるかどうかは疑問である旨の発言がなされていることから、措置義務の遵守に際しては、弁護士等の専門家の意見を交えて、企業の実態に合わせた実効性のある体制を構築することが重要と思われます。

 また、行政機関は、上記事業者の義務の履行に関して報告徴求、助言、指導、勧告のほか、勧告を受けた事業者がこれに従わないときは、その旨の公表といった行政措置をとることができることとされました(改正法15条、16条)。さらに、行政機関へ虚偽報告を行った場合の過料処分も定められました(改正法22条)。したがって、事業者は、体制整備等の措置が不十分とならないよう、また報告が虚偽とならないように十分注意する必要があります。

 なお、検討会においては、上記の事業者の義務は、会社法上の取締役の内部統制システムの構築義務の内容にもなると解されていますのでその点についても注意が必要です。

(2)公益通報対応業務従事者の守秘義務

 現行法においては、通報対応担当者において通報者の秘密を保持すべき義務の定めはなく、通報者に関する情報等が漏洩してトラブルに発展したり、通報制度への信頼性が害されたりするといった事態が少なからず見受けられました。
 そこで、改正法は、公益通報対応業務従事者または公益通報対応業務従事者であった者に対し、公益通報対応業務に関して知り得た公益通報者を特定させる情報を、正当な理由なく漏らしてはならないとの守秘義務を課したうえで、これに違反した者への刑事罰を定めました(改正法12条、21条)。ここでいう「正当な理由」とは、以下の場合などが考えられます。

  • 通報者から同意を得られている場合
  • 法令に基づく場合
  • 通報者を特定可能な情報の共有を必要最小限の範囲にとどめる運用が徹底された部署内・部署間において情報を共有する場合

 事業者においては、通報を受けた案件の事務処理上の都合等から通報者の情報等を複数の部署等で共有するニーズがあるためか、通報者の匿名性の保護について、比較的軽く考えがちであるように思われます。実際、筆者らが担当した案件において、通報者が特定の部署への通報を希望しない旨を伝えていたにもかかわらず、事業者の担当者がまさにその特定の部署に通報者の情報や通報内容等を共有してしまったという件がありました。改正法の下では、公益通報対応業務従事者がそのような行為を行った場合、刑事罰の対象になりうることに留意する必要があります。

 なお、通報窓口担当者であっても、公益通報対応業務従事者として定められていない者は公益通報者保護法上の守秘義務を負いませんが、このような者を公益通報対応業務従事者として定めない場合や、公益通報対応業務従事者ではない者が通報者を特定できる情報を漏洩した場合には、事業者の改正法11条違反になりうる点にも注意が必要です。

外部通報の保護要件の緩和

(1)行政機関への通報

 現行法においては、行政機関への通報にかかる不利益取扱い等から通報者が保護されるためには、「通報対象事実があると信じることについて相当の理由がある場合」でなければならないとされていますが、法律知識のない労働者には、当該要件該当性の判断が困難であるとの問題がありました。
 そこで、改正法は、概要以下のとおり保護される場合を追加しています(改正法3条2号)。

現行法 改正法
通報対象事実があると信じることについて相当の理由がある場合 「通報対象事実があると思料し、かつ、通報者の氏名
 や通報対象事実があると思う理由等を記載した文書
 (電子メールを含む)を提出
する場合」の追加

(2)マスコミ等への通報

 マスコミ等への通報の保護要件については、上記「通報対象事実があると信じることについて相当の理由がある場合」の要件に加え、法所定の特別の事情(特定事由)のいずれかに該当することが必要ですが、改正法では、特定事由として以下の2つの事由を追加しています。

  • 重大な財産被害の危険がある場合(改正法3条3号ヘ)
  • 通報者を特定させる情報が漏れる可能性が高い場合(改正法3条3号ハ)

 なお、筆者らの経験上、労働者がいきなり外部に通報を行うことは不当であると考えている事業者が少なからずいます。しかし、上記のとおり、外部通報に際して内部通報を前置することは要件ではないため、事業者において、内部通報を経ずに(または内部調査の結果を待たずに)外部通報を行った労働者を非難したり、不利益に取り扱ったりすることがないように注意が必要です。

保護対象の拡大

(1)通報者の範囲の拡大

 現行法においては、退職者や取締役、執行役その他の役員は保護の対象外とされていましたが、実際にこれらの者が通報を行った後に事業者から退職金を不支給とされたり損害賠償を請求されたりするなどの事例が生じたこと、これらの者が事業者の不祥事を知りうる立場にあり、これらの者による通報を促進する必要があることなどから、改正法はこれらの者も保護の対象としています(改正法2条1項)。

現行法 改正法
労働者 退職者(退職後1年以内)および役員の追加

(2)通報対象事実の拡大

 現行法は公益通報者保護法の別表に定める法律において刑事罰の対象となる行為のみを通報対象事実として同法の適用対象としていますが、通報対象事実を拡大して通報者の保護を図るべきニーズが高まったことから、改正法は、行政罰(過料)の対象になる行為も通報対象事実に含むこととしています(改正法2条3項1号)。

現行法 改正法
刑事罰の対象となる行為 行政罰の対象となる行為の追加

(3)保護内容の拡大

 現行法の下においては、労働者が事業者から損害賠償責任の追及を受けることを恐れて通報をためらうケースが見られました。そこで、改正法は事業者が通報者に対して通報により損害を被ったことを理由とした損害賠償請求を禁止することとしています(改正法7条)。

現行法 改正法
通報を理由とする解雇の無効・不利益取扱いの禁止 損害賠償責任の免除の追加

企業としての対応のポイント

内部通報制度の啓発活動

 前述のとおり、本稿執筆時点では指針は策定されていませんが、リスクマネジメントの観点からは、形ばかり相談窓口を設置したり規程を整備したりするだけではなく、実効性のある内部通報体制を構築することが重要です。検討会によれば、一般の従業員において公益通報を知らないという回答もみられ、前述のとおり、方向性においても、検討会において多数の委員が公益通報者保護法および内部公益通報対応体制について役職員および退職者に教育・周知がなされるべきであると考えていることが示されています。事業者としては、内部通報窓口を設置するに留まらず、弁護士等の専門家による社内研修やイントラネット、社内報等による啓発活動を行っていくべきと考えます。

内部通報制度認証の利用

 内部通報制度認証とは、事業者が自らの内部通報制度がガイドラインに適合していると評価した場合、当該事業者の申請に基づいて、指定登録機関がその内容の確認および結果の登録を行い、所定のWCMS(Whistleblowing Compliance Management System)マークの使用を許諾する制度です。同制度は、2019年2月から受付が開始されましたが、2021年1月8日現在、登録事業者数は94社に上っています。

 上記のとおり、本制度は現在、ガイドラインを認証の基準としていますが、今後、改正法を踏まえて認証の基準が改訂または変更されることが予想されます。事業者としては、改正法に対応し法律上の義務を履行していることを対外的に示すために同制度を利用することが有益と思われます。

外国人労働者や海外拠点での対応

 外国人労働者も公益通報者保護法の保護の対象である「労働者」等に含まれますので、事業者は、このような外国人労働者からの公益通報に適切に対応できる体制を整備する必要があると思われます。
 次に、事業者が海外子会社において雇用する日本人の労働者や現地で採用した外国人労働者を、通報を理由に解雇した場合に、当該海外子会社における労働者について公益通報者保護法が適用されるか否かが問題となります。この場合は、労使間において日本法を準拠法と定めた場合は格別、日本の公益通報者保護法の効力は及びません。もっとも、この場合でも、当該子会社の現地法など、適用される法律の規定を確認しておく必要があります。

「公益通報対応業務従事者」に関する実務上のポイント

 上記のとおり、公益通報対応業務従事者は、罰則適用のリスクにさらされることになるため、その選任に際しては慎重な検討が必要となり、また、同義務者として指定された者が就任に抵抗を示す可能性もあります。よって、事業者においては、従業員をかかるリスクから守るため、外部の第三者(弁護士等)を公益通報対応業務従事者として指定することも考えられます。

 また、上記のとおり、通報者から同意を得たうえで通報者を特定しうる情報を共有する場合には「正当な理由」が認められると考えられることから、通報者を特定しうる情報を共有するに際しては通報者から同意を取得することが重要となります。通報者が報復などを恐れて情報の共有に同意しないといった事態はしばしば生じますが、公益通報対応業務従事者においては、通報者に対し、情報の共有ができない場合、十分な調査を行うことができずに事案解明に支障が生じる可能性があることや、会社は通報を理由とした報復を厳に禁じており、報復を行った者は厳正に処罰されることなどをていねいに説明し、同意を得られるように努めるべきと考えます。また、通報者の同意は書面や電子メール等により取得すべきと思われます。

さいごに~全社のリスクマネジメントにおいて公益通報が果たす役割とその実現のために必要なこと

 事業者のなかには、内部通報を企業にとっての不利益と捉えて通報を抑制したり通報者を冷遇したりする方がいます。しかし、労働者が内部の調査や処理に不満を抱いて外部(特に報道機関)への通報を行った場合に事業者が被るダメージは計り知れません。事業者においては内部通報制度を魅力的で信頼のおけるものになるよう整備し、労働者からの通報を内部通報制度に誘導することが重要となります。

 また、内部通報への対応に際しては、弁護士等の外部の専門家の意見を取得し、通報者に対し是正措置の要否や内容を通知する際には、当該専門家の意見も伝えることが上記のリスクを軽減するのに有益であると考えます。改正法により、事業者外部への通報のハードルが下がったことに照らすと、ますますこれらの要請は高まったといえると思われます。

BUSINESS LAWYERS COMPLIANCEのご案内

BUSINESS LAWYERS COMPLIANCEは、わかりやすく面白いドラマ形式のオンライン研修動画でコンプライアンス研修の実効性向上をサポートするサービスです。パワハラやセクハラ、下請法違反など、企業が陥りがちな違反ケースをそろえた動画コンテンツは、すべて弁護士が監修。従業員の受講状況や確認テスト結果などの一元管理も可能です。

詳しくはこちら

この特集を見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する