業務効率化やリーガルテック導入への取組状況は? 読者アンケートに見る2022年重要トピック(1)
法務部
目次
リモートワークを中心とした多様な働き方が定着し、業務へのテクノロジー導入の流れも盛んになった2021年。法務部門ではどのような課題に注力し、またどんなトピックに注目が集まったのでしょうか。
BUSINESS LAWYERSでは2021年11月から12月にかけてアンケートを実施し、法務部門で働く方々のリアルな声を募集しました。今回はアンケート結果にもとづき、全3回にわたり、各社の法務部門における現状と、2022年への展望について考察します。
本稿では、法務の組織運営やテクノロジー利用の状況、2021年の注目ニュースについて見ていきます。
実施時期:2021年11月12日〜12月7日
調査対象:BUSINESS LAWYERSの登録会員ほか(有効回答者数149名)
調査手法:記述/インターネットによるアンケート調査
法務部門の組織運営に関する課題
2021年に注力して取り組んだ組織運営上の課題
法務担当者が2021年に注力して取り組んだ組織運営上の課題は、「業務効率化」(87票)が最も多く、「リモートワークへの対応」(60票)が続きました。「法務のDX(デジタル化)、リーガルテックの活用」も多く寄せられています(43票)。
各社の具体的な取り組みについては、以下のとおりです(リーガルテックの活用状況については2「リーガルテックに関する現状と課題」でも紹介します)。
- コロナ対策としてテレワークでの業務となったので、半ば強制的に業務効率化せざるを得なかった。リーガルテックの活用も検討したが費用面で導入を断念。既存の社内システムや無料のものを活用し、社内連絡や部内のナレッジ共有を進めることができた。[製造業]
- 事業拡大に伴う業務量の増大に対して、部門内のナレッジ共有を図りつつ日常のタスク管理の効率化を図る必要があった。社内コミュニケーションツールとタスク管理ツールを組み合わせることにより解決。[サービス業(インターネット)]
- グループ企業全社のガバナンス見直しの一環で、契約書は必ず法務のチェックを経るように捺印フローを見直したところ、一気に法務の業務量が増えてしまった(なんと契約書チェックの件数が2倍になった)。そのため、急遽、業務効率化や法務の役割・業務範囲見直しを行い、契約書チェックの時間削減と、そもそものチェック件数の削減ができた。[外食業]
- リモートワークは導入できた。法務はリモート向きなのでコロナ禍が収束していっても会社の制度として定着させていきたい。[医療・福祉・介護業]
また2021年に取り組んだ課題のうち、上手くいかなかったことをたずねた設問では、リモートワークへ移行したことに起因する悩みが多く寄せられました。
- 軽いコミュニケーションの機会は作れたが、エンゲージメント維持のための継続的な仕組みを考える必要があると思う。[サービス業]
- リモートワークの環境では、個々人の業務実態が把握しにくく効率化が難しい。[金融業]
- リモート勤務者の成果評価が困難。[業種その他]
2022年に取り組むべき組織運営上の課題
2022年に取り組むべき組織運営上の課題についても、一番回答が集まったのは「業務効率化」でした(77票)。次いで「人材育成」が続きます(74票)。
- オフィスもフリーアドレスとなり、業務内容が固定化できなくなってきた。これまで以上に業務を効率化させ、流動的な人材配置ができるようにしなければならない。[運輸・郵便業]
- 完全なリモートワークだけでなく、オフィスでの対面会議なども組み合わせたハイブリッドな働き方を検討中。[サービス業]
- 業務量や求められる役割は増える一方で、人員の増員が追い付いていない現状がある。さらなる人員獲得とリーガルテック活用等による合理化の推進が必要。[製造業]
- 事業の拡大に伴い、一定の増員を図りつつ、人材育成や業務効率化をいっそう進めることにより、法務部門への期待を超える成果を提供することが必要。[サービス業(インターネット)]
また、寄せられた回答からは、「働き方の変化」「法務のDX(デジタル化)」などを発端として、「法務の役割・業務範囲の見直し」「人材育成・増員」の動きへとつながっている様子も読み取れました。2022年における中途採用での増員の見込みを聞いた設問では、「増員が決まっている、または採用枠がある」「増員したいが採用枠がない」とする回答がそれぞれ4割弱を占めています。
増員が決まっている、または考えているとする回答が全体の約4分の3を占めています。
リーガルテックに関する現状と課題
導入しているリーガルテックサービス
リーガルテックは実務での活用が進み、提供企業も増えてきています。アンケートでは現在導入中のリーガルテックのサービスとして、「電子契約締結」サービスが最も多くあげられたほか(64票)、「書籍サブスクリプション」「契約書レビュー」(各42票)、「契約書・文書管理」(38票)などの導入が進んだことがわかりました。
「電子契約締結」サービスについてはリモートワークの浸透や、2020年に電子署名法を所管する各省庁により相次いで見解が公表されたことなどの影響もあり、活用が進む実態が読み取れました。
導入済みのリーガルテックサービスの満足度、感想として寄せられた回答は次のとおりです。
-
「電子契約締結」サービス
- 電子契約では、印紙税が大幅に節約できた。[製造業]
- 契約書レビューでは業務効率が30-40%アップした。[製造業]
- AI契約書レビューは、ほぼ想定したイメージ通り。文書比較機能、欠落条文、条文修正案の表示機能が便利。文例検索時間の短縮につながっており満足。今後利便性や判断結果のフィット感などはますます向上していくことを期待している。[サービス業]
- 書籍の掲載数・種類も豊富で、横断的に検索できる。必要な情報が十分に収集できるだけでなく、関連する論点についても確認ができるため、リスク検討の漏れが少なくなった。[不動産業]
- 海外在住の取締役を日本の会場につなぐことができている。実際にバーチャルで行ってもよい程度までは仕組みは構築できた。実体のある総会をやめて、バーチャルに変更する場合は、ネット回線の物理的な向上や安定性の確保といったITの話と、総会当日の議決権のカウント、質問などの運営の方法が課題であるが、特に大きな障害があるとも思えない。バーチャルのみの総会にも対応ができるところまで来ていると思います。[旅行・ホテル・レジャー業]
「契約書レビュー」サービス
「書籍サブスクリプション」サービス
その他 - 「株主総会運営支援」サービス
導入を見送ったリーガルテックサービス
一方で、 2021年に導入を検討したものの見送ったサービスについては、以下の結果となりました。なお、回答数が多いことは一概にネガティブな結果というわけではなく、そのサービスの導入を検討した企業数が多いほど回答数が多くなることを念頭に置く必要があります。
導入を見送った具体的な理由としては、導入にかかる作業負担や予算面などに関する回答が多く集まりました。
- 検討する時間が確保できなかった。[製造業]
- 課題の検討が十分にできておらず、コストパフォーマンスの検証ができていない。[不動産業]
- 導入にかける労力を割けなかった。[製造業]
- 費用対効果および導入時の一時的な業務負荷がネックとなる。[製造業]
- 実務運用上のメリットは感じているが、コスト面で見送りとなった。[サービス業]
- 業績が厳しいなかで契約書レビューサービスを導入してもらったので、他のサービスについては予算の壁が気になって上司に提案できなかった。[製造業]
- AIでの契約書レビューサービスを導入するより、人件費のほうが安いと判断した(AIでレビューをしても、最終的には法務が読まざるを得ないため、思ったより人件費の削減はできなかった。AIの言っていることが正しいかどうかを結局人が判断しなければならない)。[サービス業(インターネット)]
- 当社では非定型契約が多いので、原則として定型契約しかレビューできないサービスはまだ導入段階ではない。[情報通信業]
予算・コスト面に関する回答
社内の現状に関する回答
2021年の法務関連注目ニュース
2021年に報道・公表された法務関連のニュース・出来事のうち、最も関心が寄せられたものとしては、「関西スーパーの臨時株主総会」関連をあげる回答が最多となりました(13票)。そのほか特定企業に関するものとしては、「東芝の株主総会」関連(8票)、「LINEの海外におけるデータ管理」関連(6票)、「日本製鉄によるトヨタ自動車に対する特許訴訟」(5票)などがあげられました。
また法改正については、「個人情報保護法改正」が最も注目されており(10票)、「電子帳簿保存法」(4票)、「公益通報者保護法改正」(4票)と続きます。またバーチャルオンリー株主総会にも一定の関心が寄せられました(4票)。
これらの法的トピックに関する回答結果については、別記事にて詳しく紹介する予定です。
そのほか、SDGsや人権デューデリジェンスに関する回答も見られ(3票)、法務担当者による注目度の高さが伺えました。
関西スーパーの臨時株主総会
- なかなか珍しい事例で、当事者の法務担当や弁護士の苦労もよくわかる。[情報通信業]
- 株主総会を運営する立場としては、出席株主の行動を拘束することができないため、非常に悩ましいと感じている。[製造業]
- CG上も会社法上も興味深い。[金融業]
- デジタルフォレンジックに光が当たった。[業種その他]
- 当社の経営会議でも早い段階から注目され、ビジネス運用戦略の一部見直しに発展するなどインパクトが大きかった。[サービス業]
- 日本のビッグ・メーカー間の問題が、話し合いでなく巨額の訴訟の提起に至った。[製造業]
- 我が国における知財慣行が変化していくかもしれないと感じた。[製造業]
- ゼネコン大手4社に対する排除命令が出された後、そのうち2社については否認のうえ訴訟で争っており、その帰趨につき興味がある。[製造業]
- 管理職でない法務も懲戒されており、身につまされた。[製造業]
- これまで当社では性善説に立っていたため、退職者と守秘義務契約などは結んでいなかった。他社事例を踏まえ、退職者との何らかの取り決めが必要ではないかというところから議論していかなければならない。[運輸・郵便業]
- 欧州主導のSDGsが急速に広まり、企業に対して環境、人権等でこれまでとは次元が違う新たな要求が次々と打ち出され、標準化されようとしている。[製造業]
- 当社では多層下請を伴うサプライチェーン全体の状況は把握できておらず、リスクが高いと感じる。[製造業]
東芝の株主総会
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次稿では、2021年に各社が注力した法的課題や、2022年に向けた問題意識などについて、アンケート結果から紐解きます。