独占禁止法における排除行為の該当性判断と実務上の留意点 令和を展望する独禁法の道標5 第14回
競争法・独占禁止法
目次
監修:東京大学教授 白石忠志
編者:籔内俊輔 弁護士/池田毅 弁護士/秋葉健志 弁護士
本稿は、実務競争法研究会における執筆者の報告内容を基にしています。記事の最後に白石忠志教授のコメントを掲載しています。
同研究会の概要、参加申込についてはホームページをご覧ください。
私的独占の2類型
独禁法は、事業者が「私的独占」をしてはならないと定めている(3条前段)。
私的独占(2条5項)のうち、他の事業者の事業活動を排除することによるものは「排除型私的独占」、他の事業者の事業活動を支配することによるものは「支配型私的独占」と分類される。
私的独占とは
この法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
本稿では、排除型私的独占の手段としての「排除行為」(他の事業者の事業活動を排除すること)に焦点を当てて、従来の処分事案を概観しつつ、以下の仮想事例をもとに実務上の留意点を検討してみたい。
仮想事例
機器Aには消耗部材Bが用いられているところ、X社は消耗部材Bを自社またはグループ会社で製造している。現在、納入されているX社製の機器Aのほぼすべてについて、X社製の消耗部材Bが用いられている。消耗部材Bは、おおむね1~2年程度で交換する必要がある。通常は機器Aの定期的な保守・メンテナンスの際に、保守・メンテナンスを行う業者(以下「保守業者」という。)が消耗部材Bの交換を行うが、顧客が自ら交換することも可能である。
近年、X社以外の複数の事業者が消耗部材Bの製造販売に乗り出しており、一部の事業者は、海外の工場において安価に委託製造を行い、X社製の消耗部材Bよりもかなり安い価格で顧客に販売している。
X社は、消耗部材Bの価格競争が激しくなっていることから、他社製の消耗部材Bを市場から締め出そうと考え、新バージョンの機器Aにおいて、他社製の消耗部材Bが組み込まれた際には、警告音とともに「消耗部材Bが純正品ではないため、使用にあたり支障が生じる可能性があります。使用を続けますか?」との表示を出し、これに対し顧客が「はい」を選択した場合にのみ、そのまま機器Aの使用が継続できる設定とした(以下「本件設定変更」という。)。
また、X社は、自社のグループ会社または委託先である保守業者に対し、「他社製の消耗部材Bを使用すると、機器Aの故障の原因となりやすいので、なるべくX社製の消耗部材B(純正品)を使用するように顧客に情報提供してください。」と指導した(以下この情報提供を「本件情報提供」という。)。
しかし、実際には、他社製の消耗部材BがX社製の機器Aの使用に支障を生じさせたり、故障の原因となったりするという点を裏付けるデータはなかった。
X社は、本件情報提供用の配布資料を作成して、保守業者に提供し、これを顧客に配布させた。加えて、X社は、保守業者に対し、本件情報提供の実施状況を定期的に報告させ、顧客への本件情報提供を徹底するように働きかけた。
本件設定変更および本件情報提供により、顧客の多くは他社製の消耗部材Bを敬遠するようになり、約70%であったX社の消耗部材Bに関する全国シェアは、80%近くに増加した。
どのような行為が排除行為に該当するか
排除行為とは、他の事業者の事業活動の継続を困難にさせたり、新規参入者の事業開始を困難にさせたりする行為であって、一定の取引分野における競争を実質的に制限することにつながるさまざまな行為をいう。つまり、排除行為について定まった行為類型があるわけではなく、排除効果(他の事業者の事業活動の継続を困難にさせたり、新規参入者の事業開始を困難にさせたりする効果)につながるあらゆる行為が排除行為と評価され得る。
企業の事業活動は、常に自社シェアの維持や拡大(裏を返すと他社の排除)を企図しているのが通常であるから、そうするとあらゆる行為が排除行為に該当するようにも思える。
しかし、事業者が自らの効率性の向上等の企業努力により低価格で良質な商品を提供したことによって、競争者の非効率的な事業活動の継続が困難になったとしても、これは独禁法が目的とする公正かつ自由な競争の結果であり、このような行為が排除行為に該当することはない。
他方で、「何が独禁法の目的とする公正かつ自由な競争の結果で、何がそうでないのか」という点については、具体的に考えてみるとその峻別は容易ではないことも多く、独禁法における永遠のテーマの1つである。
この点に関し、NTT東日本事件の最高裁判決(最高裁平成22年12月17日判決・民集64巻8号2067頁)では、「自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性」という概念を持ち出しており、このような人為的な反競争的行為をもって排除行為と捉える見解が多いようである。
なお、排除行為の認定において、公取委は、排除の意図などの主観的要素は必要ではないが、①排除行為を推認させる重要な事実となる場合があり、②同一の意図の下の複数の行為を一連の排除行為として認定できる場合もあると整理している 1。
昭和・平成・令和の事件
処分の傾向
排除行為と不公正な取引方法に該当する行為は大きく重なり合っているが、純然たる行為のみに着目すれば(つまり、弊害要件を考慮しない場合には)、あらゆる行為を取り込める排除行為のほうが広い概念であると考えられている。
過去には、たとえば取引拒絶や取引妨害など、不公正な取引方法に該当する行為に着目して排除行為が認定された事件もあれば(ぱちんこ機製造特許プール事件 2、マイナミ空港サービス事件 3 など)、不公正な取引方法では捕捉しきれないような行為が問題視された事件(JASRAC事件 4 など)や、支配行為との混合行為が問題視された事件(東洋製罐事件 5 など)もある。
1950年代以降の昭和・平成・令和における排除型私的独占の処分事例について、年代ごとにその件数を整理してみると、下図のとおりである。下図において紺色で示しているのが、同一事案で支配行為の存在も認定されているケース(以下「支配混合型」という。)の処分件数であり、黄土色で示しているのが、支配行為が認定されていない純然たる排除行為のケース(以下「純粋排除型」という。)の処分件数である。
処分件数の推移
昭和の時代(1950年代~1980年代頃)においては、そもそも絶対的な処分件数が少ないが、割合としては支配混合型が多かった。
これに対し、平成の時代(1990年代~2010年代頃)に入ると、純粋排除型で処分される件数が増加した。特に平成中期の2000年代は、「吠えない番犬」から「戦う公取委」への変貌の時期であり、単独行為である純粋排除型の私的独占についても積極的な独禁法適用が行われた(インテル事件 6、NTT東日本事件 7 など)。
排除型私的独占については、平成21年の独禁法改正(平成21年法律第51号)により、課徴金納付命令の対象となった。しかし、平成21年法改正後、排除型私的独占を理由とする処分はぱったりと止んでしまった。
令和の時代になり、約10年ぶりの排除型私的独占に関する処分事案が登場した。処分は2件あり、1つは日本メジフィジックス事件 8 であり、もう1つは前出のマイナミ空港サービス事件である。
令和の事件
日本メジフィジックス事件では、日本メジフィジックスによる以下の行為について、独禁法3条(私的独占)および19条(不公正な取引方法14項〔取引妨害〕)の規定に違反する疑いがあるとして、公取委による審査が行われていた。
- 従来自社が独占的に供給していた放射性医薬品(FDG)について、新規参入者から地域別価格で供給を受けた場合には自社品を供給停止する旨を取引先(卸売業者)に伝達し、
- 新規参入者が製造したFDGの自動投与装置の導入を検討する医療機関に対し、明確な根拠なく自社製FDGが使用できないと説明し、
- 新規参入者が製造販売するFDGを購入している医療機関から自社が製造販売するFDGの当日中の配送依頼を受けた際にはこれを拒否していた
最終的に確約計画の認定により事件は終結しており、この件で排除型私的独占に係る違反行為があったと正式に認定されたわけではないが、取引妨害型の排除行為が疑われた事案として参考になる。
マイナミ空港サービス事件では、八尾空港における機上渡し給油による航空燃料の販売市場において約8割のシェアを占めていたマイナミ空港サービスが、航空燃料の需要者である取引先に対し、新規参入者の燃料との混合による安全性について懸念を示し、新規参入者から機上渡し給油による航空燃料の販売を受けた場合には、自社または提携先からの航空燃料の販売を継続は困難である旨の通知を送るなどした行為について、排除行為が認定された。マイナミ空港サービス事件については、排除型私的独占について初となる課徴金納付命令も発出されている 9。
なお、マイナミ空港サービス事件の排除措置命令において、マイナミ空港サービスの排除行為に係る意図や目的等の主観的要素について、明示的な認定はされていない。ただし、同命令においては、マイナミ空港サービスが、自社との間で過当競争を引き起こすこととなるため、新規参入に反対である旨の意見を外部に表明していたとの事実が認定されており(同命令書第1の2(1))、排除行為に関するマイナミ空港サービスの意図や目的等をうかがわせる記載となっている。
実務における考え方
人為的な反競争行為に該当する否かの判断ポイント
前記2のとおり、他の要件はさておき、あくまで行為の面に着目してみれば、企業の行うあらゆる事業活動のうち、排除効果につながる人為的な反競争行為と目されるものについては、排除行為に該当するということになる。
ある行為が人為的な反競争行為に該当するのか否か、これが一見して明らかでないことが問題なのであるが、私見としては、以下のような行為について排除行為と認定されるリスクが高いと理解すればよいのではないかと考えている。
- 能率競争(事業者が自らの効率性の向上等の企業努力により低価格で良質な商品を提供するという競争)という原理の中で正当化し得ないような行為 であって、
- 排除効果につながる行為
仮想事例の検討
さて、そのような整理を前提に、冒頭の仮想事例について、排除行為の成否を検討してみたい。冒頭の仮想事例は、直近の令和2年に公取委に処分された案件(日本メジフィジックス事件、マイナミ空港サービス事件)が取引妨害型とみられるため、その類型の排除行為を想定して設定したものである。
X社は、他社製の消耗部材BがX社製の機器Aの使用に支障を生じさせたり、故障の原因となったりするという点を裏付けるデータがないにもかかわらず、本件設定変更を行い、保守業者に本件情報提供をさせている。
排除行為の成否の観点から、まず前記①(能率競争という原理の中で正当化し得ないような行為)の点について、検討する。
X社の本件設定変更および本件情報提供に係る行為は、虚偽の情報により他社の消耗部材Bに対する信用や評価を貶めるものである。これにより、X社製の機器Aの安全性や利便性が向上したり、より安価な消耗部材Bが入手しやすくなったりするなどのメリットは認められない。むしろ、X社製の機器Aのユーザーである顧客にとっては、警告表示に対し、「はい」を選択するひと手間が増えるのであるから(慎重なユーザーであれば、消耗部材Bを純正品に交換してから使用するかもしれない。)、機器Aの利便性は損なわれているとすらいえる。
そうすると、X社の本件設定変更および本件情報提供に係る行為については、自らの効率性の向上等の企業努力により低価格で良質な商品を提供するという能率競争の原理からは正当化し得ないと考えられる。
次に、前記②(排除効果につながる行為)の点について検討する。
X社の本件設定変更および本件情報提供により、X社製の機器Aのユーザーである顧客は純正品以外の消耗部材Bを敬遠するようになり、消耗部材Bの製造販売市場において、X社以外の事業者らの市場シェアは減少し、X社の市場シェアが約70%から約80%に増大している。このことからすれば、X社の本件設定変更および本件情報提供に係る行為は、排除効果につながる行為であったといえる。
以上より、X社の本件設定変更および本件情報提供に係る行為は、①②を満たすので、排除行為に該当すると考えられる。
ちなみに、X社の主観的要素(意図や目的等)についてみると、X社は、消耗部材Bの激しい価格競争を背景に、他社製の消耗部材Bを市場から締め出そうと考えていた。このことは、X社による本件設定変更および本件情報提供に係る行為が、能率競争という原理の中で正当化し得ないような行為であったこと(①)を推認させる事情に当たるのかもしれない。
検討のための手がかり
総括すると、実務上、排除行為の該当性を検討するにあたっては、排除効果につながるか否かという観点から市場に与える影響を検討するとともに、その行為が人為的な反競争行為と目されるか否か、すなわち能率競争という原理の中で正当化し得ないような行為であるか否かという観点から、独禁法違反リスクを見極めるのがよいと考えられる。
とはいえ、種々の状況において、具体的な行為が能率競争によらない他者の排除であるか否かを検討するのは、容易でない場合も多い。排除行為の検討に際しては、不公正な取引方法に列挙される具体的な行為類型が、大きな手がかりの1つとなるだろう。
- 公正取引委員会「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針」(令和2年12月25日改正)
- 菅久修一編著『独占禁止法〔第3版〕』(商事法務、2018)
- 白石忠志『独占禁止法〔第3版〕』(有斐閣、2016)
- 金井貴嗣・川濵昇・泉水文雄編著『独占禁止法〔第6版〕』(弘文堂、2018)
白石忠志教授のCommentary
私的独占の要件における「排除行為」の位置付け
独禁法2条5項のうち排除型私的独占の違反要件の主要部を抜き出すと、次のようになる。「事業者が、……他の事業者の事業活動を排除……することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」。「他の事業者の事業活動を排除……する」が、「排除行為」と呼ばれることがある。
「排除行為」は、人為性と排除効果とに分かれる、とされる。NTT東日本最高裁判決では、両者が一体の概念であるかのように書かれていた(最高裁平成22年12月17日判決・平成21年(行ヒ)第348号・民集64巻8号2067頁)。その後のJASRAC事件の手続の進行過程において、排除効果のみについて成立を否定する判断の当否が最高裁まで上がってきたために、人為性と排除効果は別々の要件であるかのように扱われることとなった(最高裁平成27年4月28日判決・平成26年(行ヒ)第75号・民集69巻3号518頁)。
独禁法においては、正当化理由がないことも違反要件となる。これを条文のどの文言に読み込むかは、頭の整理の問題であるから、唯一の正解があるわけではない。
人為性の要件の中に正当化理由の要素も盛り込む、つまり、正当化理由があれば人為性がなく排除行為がない、という整理の仕方も、あり得る。
しかし、独禁法では、私的独占だけでなく、たとえば、共同行為(2条6項)や合併(15条)においても、行為により競争の実質的制限がもたらされることに着目した違反要件となっている。
そして、正当化理由があれば共同行為に該当しない、とか、正当化理由があれば合併に該当しない、というと、少し奇異な感じがするのではないだろうか。
これは、正当化理由の成否というものが、行為の外形とは一応は別の問題として議論し得るものであるからだと思われる。
たとえば、特定の消耗部材を用いたならば機器の動作に異常をもたらすという状況が現に存在するならば、当該特定の消耗部材に関して機器メーカーが注意喚起をすることには正当化理由があると考えられる。注意喚起が行為に該当したりしなかったりするというより、「注意喚起は行為に該当するが正当化理由を満たさなかったり満たしたりする」というほうが、私個人としては落ち着いているように思われるし、共同行為や合併とも共通した体系を立てやすくなって独禁法全体を理解しやすくなるように思われる。
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公正取引委員会「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針」(令和2年12月25日改正) ↩︎
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公取委勧告審決平成9年8月6日・平成9年(勧)第5号、審決集44巻238頁 ↩︎
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公取委排除措置命令令和2年7月7日・令和2年(措)第9号、審決集67巻373頁 ↩︎
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公取委排除措置命令平成21年2月27日・平成21年(措)第2号、審決集55巻712頁 ↩︎
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公取委勧告審決昭和47年9月18日・昭和47年(勧)第11号、審決集19巻87頁 ↩︎
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公取委勧告審決平成17年4月13日・平成17年(勧)第1号、審決集52巻341頁 ↩︎
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公取委審判審決平成19年3月26日・平成16年(判)第2号、審決集53巻776頁 ↩︎
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公正取引委員会「日本メジフィジックス株式会社から申請があった確約計画の認定について」(令和2年3月12日) ↩︎
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公取委課徴金納付命令令和3年2月19日・令和3年(納)第1号 ↩︎

阿部・井窪・片山法律事務所